自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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第五章 第二話「心視のお留守番について」
世論に関する考え


「それじゃあ心視、留守番よろしく」

 

「お土産、期待して待ってろよー」

 

 そう言って、同室の住人であり同僚である日比野 比乃と白間 志度は出かけていった。無言でひらひら手を振って、それを見送った浅野 心視は、リモコンを手にとってテレビの電源を入れる。それから、もたれかかる様に椅子に座って、ワイドショーを見始めた。

 

 今日は日曜日。特にすることがなかった三人だったが、家事担当である比乃の「今晩用の食材がもう無い」という発言を皮切りに、誰が買い物に行くかをじゃんけんで決めることになった。

 ちなみに、比乃が居ないと何を買っていいか解らないので、決めたのは志度と心視、どちらが比乃についていくかである。

 

 そのじゃんけんに負けた心視は、遺憾ながらも、こうして我が家の留守の番を任されることになった。

 

 けれどもすることがないので、しばらくワイドショーをボケーっと眺める。アイドルの電撃結婚。政治家のスキャンダル。どこか遠くの県で起きた火事。有名なレストランの取材。

 

 自分の知らないことを取り入れる手段として、心視はテレビをよく見る。安久や宇佐美が「自分たち自衛隊が、客観的にどう見られているかを知る良い媒体だ」と言って、沖縄の基地にいた時からよく見せられていた。

 

 テレビでは自衛隊の話もよく出た。数年前はそうでもなかったらしいが、今では一日に一度は、自衛隊が何をしたかどうかと言った内容のニュースが流れるようになった。

 

 その内容は、決して良いものではない。大体が、自衛隊の活動によって何人の被害者が出ただとか、施設が損害を受けただとか、そういうネガティブな内容ばっかりだ。

 

 しかし、昔、沖縄の食堂のテレビで一度だけ見たことがあった一般市民へのインタビューでは、テロ事件を解決した自衛隊を褒める意見が多かった。それ以来、市民に自衛隊に関する取材を行うテレビ局は目に見えて減ったが、

 

 そのインタビューを見ていた他の自衛官達は、何か込み上げる物があったのか、誰もが目頭を熱くしていた。当時の心視はその意味がよくわかっていなかったが、今ならその意味が解る。人に感謝されるということの意味も、何故マスコミが自衛隊を目の敵にしているのかも。

 

「……むぅ」

 

 ちょうど今し方、自衛隊が周辺地域に被害を出したという報道が流れ、心視はチャンネルを変えた。

 ニュースキャスターの嫌味ったらしい、税金泥棒という発言が耳にこびり付いた気がして、それを振り払う様に頭を振る。

 

 以前、部隊長に「何故、自分達は真っ当に仕事をこなしているだけなのに、こうも非難されるのか」ということを聞いたことがあった。部隊長は、まだ幼い少女の質問に、少し困った様な顔をしてから、こう答えた。

 

「自衛隊がいると困る人がいるからだ」

 

「……どうして、困るの?」

 

「さぁな、それは俺にもよく解らん。だがな、昔、ある一人の自衛官が言った言葉がある。そう言う人を守るのも自衛隊です。とな、当時まだ若かった俺は、その言葉に感銘を受けたよ」

 

 その言葉の意味と真意は、今の心視なら解るが、それでもなお思ってしまうことがある――何故、あのような“敵”まで守らないといけないのだろう。

 

 この浅野 心視という少女にとって、守るべきだと考える対象は、あまり多くない。第三師団の皆、学校の皆、そして比乃……おまけに志度。これさえ守れれば、極論は他はどうでも良い。特に比乃に関しては、世界を敵に回しても構わないとすら考えている。志度は……守る必要なんてないだろう、あれはそういう生き物だ。自分と同じ、守られる側の生物ではない。

 

 そう考える心視からすれば、自分達の活動を非難するマスコミは少なくとも味方ではない。昔、比乃に部隊長にしたのと同じ質問をしたことがあったが、彼は「それがあの人達の仕事なんだよ」とだけしか言ってくれなかった。

 

 比乃は、それほどマスコミに対して悪感情を抱いていないらしい。それが何故なのかは、心視にはまだわからなかった。

 

 それからしばらく、また別のニュース番組を眺めていると、きゅるると腹が小さく鳴った。時計を見れば、もう昼の十二時になる所だった。心視は椅子から立ち上がると、冷蔵庫を開けて、ラップされた料理を見つけた。

 

「……ご飯」

 

 今日の昼飯は比乃が作り置きしてくれていた。心視がする事と言えば、電子レンジに入れて温めるだけだ。

 あの家事スキルの十分の一でも自分にあれば、比乃に美味しいご飯を作ってあげられるのに……そう考える心視の家事スキルは、最近ようやく、炒め物を焦がさないようになったくらいである。

 

 今し方、電子レンジに入れた、立派な料理と呼べる物を一人で作るれるようになるのは、まだ当分先だろう。

 

 料理と言えば、お隣のメアリとアイヴィーは、やろうと思えば自炊出来なくもないレベルまで料理ができるようになったらしい。教えたのはあのジャックとか言う護衛の男、彼は軍人ながらも料理も得意らしい。

 

 いっそ、自分も彼に教えてもらおうか、と考えて、心視はかぶりを振った。それをしたら負けな気がしたのだ。何故かは解らないが、自分の本能的な部分がそう発している。

 

「むぅ……」

 

 心視は呻きながら、電子レンジの中でぐるぐる回る料理を眺める。やはり、習うなら比乃にだろうか、一緒に台所に立って料理をする。それはなんとも理想的な光景に思えた。寄り添いながら、一緒に何かをする。そういうことに、幸せを感じられる気がした。

 

「帰ってきたら……」

 

 お願いしてみよう。心視がそう決心したのと同時に、電子レンジが小気味の良い音を立てて止まった。取り出して、机に乗せてラップを取り除くと、空腹を刺激する良い匂いがした。

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