自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

141 / 344
貢献のための考え

 作り置きの料理を全て平らげた心視は、比乃の言い付け通りに皿を水に漬けて、台所に干してある台拭きを手に取る。それで机の上を拭って、水で濯いで手を洗う。

 そこまでやってから、心視は椅子に座り直した。文字通り、手持ち無沙汰になった両手をぷらぷら、ついでに両足もぷらんぷらんさせながら、物思いに耽る。

 

 仕事のこと、学校のこと、昔のこと……比乃のこと。心視はふと、もし自分に、女子力という物があったとしたら、どのように比乃に尽くす事ができるだろうかと考え始めた。

 射撃だとか狙撃だとか、そういう物でなら、いくらでも比乃の助けになれるだろうし、なるつもりだ。けれど、炊事洗濯掃除などと言った、日常生活はからっきしで、比乃に頼りっぱなしである。

 

 つまりは、これまでとは別方向から、比乃の力になるにはどうすればいいのか、どういう風に力になれるかどうかを、考えるているのである。

 無意識の内に腕組みをして、首を傾げて考える。一秒、二秒……十秒経ったが、良い考えは浮かばない。

 

「…………」

 

 こういうときは、リラックスできる姿勢で考えた方が良い。心視は個人的な考え事をするときに最適なフォームを取ることにした。

 

 そのために、まず窓のカーテンを締め、万が一、誰かが入ってこないようにとドアを施錠する。そうしてから、心視は部屋の入り口にある、一見するとちょっと頑丈そうな普通のロッカー。実は中に銃火器が収められているハードロッカーを開いた。

 

 そして、中から愛銃、と呼べるかはわからないが、いつも使っている狙撃銃と、これからすることに必要な小道具をいくつか取り出す。

 愛銃、と言っても、特別な一品物だとか、心視専用の銃というわけではない。やろうと思えばアメリカで購入できる。極一般的な狙撃銃だ。

 

 それらを廊下に持っていくと、あらかじめ敷いておいた新聞紙の上に横たえて、その横に座り、自然な動きで銃を取り、分解し始めた。心視が手を動かす毎に、狙撃銃の部品ががこっと外れる。それを丁寧に並べて、用意したオイルと布切れで部品を丹念に磨いていく。

 

 これが心視の考え事をする時のお決まりの行動であった。手を動かしながら、自分の道具をきっちりと整備する。愛銃の分解組立など、目を瞑っていてもできたし、これが考え事をする上で最適の状態であった。

 

 そうしている間に、どんどん頭の中が静かになり、考え事に打って付けの状態になった。そこで改めて考える。女子力を発揮して比乃の役に立つにはどうしたら良い?

 

 まず一つ目、炊事だろう。比乃が作るご飯は勿論美味しいが、自分で作ったご飯――イメージ上では、自分の好物がごちゃ混ぜになった何か――を食べてもらって「美味しいよ」と言って貰えたら、それはどれだけ嬉しい事だろうか。まだ経験が足りない心視には、その度合いがちょっと想像が付かなかった。

 

 二つ目、その他の家事、例えば掃除だ。掃除や整理整頓は自衛隊の基本として出来ているが、ここは沖縄の寮ではない。少し勝手が違った。その違う所も、比乃は難なくこなしてみせている。

 

 もしかして、比乃は女子力おばけなのではないだろうか、男なのに……心視は少し自信を無くしそうになったが、すぐ立ち直って考え直す。

 

 比乃がどんなに凄くても、腕は二本しかないのだ。であれば、比乃の手が回らない所を探し出して、それをやれば良いのではないだろうか。それで褒めて貰えれば、それはとても喜ばしいことだろう。

 

 三つ目、プレゼント。自分の能力で奉仕することとは少し違う気もするが、比乃に喜んでもらう手段としては有効な手段だろう。

 比乃はあまり着飾ったりするタイプではない。身につける物も実用性重視の、言ってしまえば目立たない、地味目な物が多い。結構なことだ、目立たないという点は、狙撃手として高評価に値する。

 

 しかし、昨今の女子高生達、クラスメイトから聞いた話では、男というのは一丁前のブランド品を着こなし、クールでストイックでチャラくて煌びやかでないといけないらしい。

 

 心視には、彼女らが言っていることの半分も意味が理解できなかったが、比乃がそれをして格好よくなるというのならば、喜んでそう言った品をプレゼントしようと思う。

 幸いなことに、自分の預金口座には、ほぼ手付かずの給料が数年分溜まっている。それを使えば、それなりに良い物を買ってあげられるだろう。

 

 心視は想像する。自分が買ったカッコ良い服を着た比乃が、なんだか雰囲気もいけてる系になって、クラスメイトの女子達にわーきゃー言われるのを、そして空想上の比乃が、全く似合わないキザったらしい台詞を吐いて、女子の一人の顎に手をやって、恭しく――

 

「…………はっ」

 

 そこまで妄想が膨らんで、心視は正気を取り戻した。

 

 いつの間にか、銃の組み立ては終わっており、胡座の格好で愛銃を手に持って、がちゃこんと実弾を装填していた。

 無意識の内に、己の勝手な想像上の憎き泥棒猫達を討伐する準備を整えていたらしい。ここで想像上の比乃に対して一切怒りが湧かない辺り、心視らしい。

 すぐ側にはいつ取り出したのか、粉末の火薬を乗せた天秤が、人一人の顔面を綺麗に吹き飛ばすのに必要最低限な量を示して止まっていた。

 

 側から見ると恋する乙女でもなんでもなく、ただの危ないヒットマンであった。

 

「いけない……いけない……」

 

 一先ず、銃の整備ならともかく、実弾を用意したなんてことが比乃にバレたら怒られてしまう。手早くそれらをハードロッカーの中に片付ける。整備したての新品同然になった愛銃もしまって、心視はリビングに移動した。

 

 ここまで考えて、心視が判ったことは、いくら理想を思い浮かべても、自分の知識と経験だけでは比乃の役に立てないということだった。それと、プレゼントの品は普通の実用品にした方が良さそうだということは絶対だ。でないと、まだ見ぬ泥棒猫の頭を、得意の狙撃で吹き飛ばさなければならなくなる。

 

(どうすれば……)

 

 自分一人では解決できない問題に直面した時どうするか……まだ幼き頃、当時から三人のリーダー的立ち位置であった比乃から心視に授けられた一つの方法。それはチームワークの大切さ、つまり「困ったら人に聞け」という他力本願であった。

 

 教えに従って、心視は買い与えられたプライベート用の携帯端末を取り出し、ぽぱぴぷぺと操作する。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。