自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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お留守番の成果

 調理を終えると「それでは後はごゆっくり!」そう告げて、森羅が黒服を引き連れて部屋を出て行った。それから十数分後、入れ替わるようにして比乃と志度が帰ってきた。

 

「ただいまー」

 

「心視、土産あるぞ土産!」

 

「……おかえり」

 

 手にどっさりと食材やら何やらが入った袋をぶら下げて帰って来た二人を、心視は玄関で出迎えた。

 

 何がそんなに嬉しいのか「カステラだぞカステラ!」とはしゃいでいる志度をスルーして、比乃が持っている袋を「ん」と受け取ると、さっさと台所へと運び、冷蔵庫にしまい始める。こう言うことも、献身の一つだ。

 

「ありがと心視、助かるよ」

 

 比乃に礼を言われて、心視は満足げな表情を浮かべる(表面上はほとんど変化はないが)。玄関で器用に行儀悪く足だけで靴を脱いだ志度も、関心したような顔をする。

 

「おー、心視気が利くなぁ」

 

「ほんと、心視にも志度にも手伝って貰ってばっかりだよ。凄い助かる」

 

「よせやい照れるぜ」

 

 そんなことを話しながら、荷物を預けて身軽になった比乃と、大荷物の重さを感じさせない足取りの志度がリビングに入ると、揃って「うん?」と鼻をひくつかせた。

 

「なんだろこの臭い。心視、何か出前でも取ったの?」

 

「あー、ずるいぞ心視。何食べたんだよ」

 

「僕らもお昼は外で食べたけどね」

 

 まさか心視が料理をしたとは知らず、二人して出前かデリバリーかを頼んだのだと思っているらしい。心視はそれが少し面白く、ふっと笑うと、台所のオーブンの中から作った料理。ミートソース味のドリアを取り出した。

 

 初めて作るにしてはオーブンを使った本格的な料理だったが、そこは森羅がお嬢様の女子力とやらを大いに発揮した。心視にレシピ通り作ることの大切さと、迂闊なアレンジの危険性をよく説き、失敗しそうになれば即座にフォローし、その結果、立派な料理が出来上がった。

 

 大皿に盛られて程よく焼けたそれは、とても美味しそうだ。

 

「どうしたのそれ? もしかして」

 

「そう……私が、作った」

 

「心視が?!」

 

 目を丸くして驚く比乃と志度に見せつけるように、机の上に大皿を置いて、どやっと無表情で胸を張る心視。二人はただただ感心した様子で、その作った料理を繁々と見た。昨日まで炒め物も出来るか怪しかった彼女が、どうやってこんなものを……?

 

「で、誰に手伝って貰ったの、メアリとアイヴィー? もしかして、ジャック?」

 

 しかし、比乃には誰かに教えてもらって作った物だということはお見通しのようだった。心視は正直に「森羅に……手伝ってもらった」と答えた。

 

「森羅に手伝ってもらったんだ。料理のためだけに態々呼んだの?」

 

「……それは、内緒」

 

 流石に、本当の呼んだ理由を本人に言う訳にはいかないのでそう言うと、比乃はあっさり「まぁ、女子同士で何か話すこともあるか」と納得して、それ以上追求しなかった。比乃は、同じ家に住んでいるとは言え、プライベートは遵守すべきであると考えているからだ。

 

 深く聞かれなかったことにホッとして、心視は胸を撫で下ろす。しかし、そうは考えていないもう片方の同居人が、冷蔵庫に物を放り込みながら、

 

「どうせあれだろ、比乃の役に立ちたいとかそういうの相談してたんだろ。心視、比乃のことほんと好きだよなー」

 

 無神経に、それも答えを言ってしまった。言われた方も反応しなければ良い物を、あまりにも鋭く図星を突かれてしまい、思わず「うっ」と呻いてしまう。

 

 心視がちらりと比乃の方を見る。どうしよう、別に隠しているつもりも無かったが、面と向かって言うこともしなかった気持ちが、バレてしまったかもしれない。心臓の鼓動が早くなる。ドキドキする。生まれて初めての感覚に戸惑う。

 

 がしかし、当の思い人は、

 

「あー、なるほど家事について聞いてたんだ。それならまぁ、メアリ達よりも森羅の方が適任だったかな。いや、そうでもないか……?」

 

 なんて言っていた。事の真意には全く気がついていない。好きという部分にも無反応であった。

 

 心視はなんとも言えない気持ちになって、がっくりと首を垂れた。バレなくてよかったような、全く伝わっていないのも良くないような、そんな複雑な気分である。

 

「……比乃なら伝わるって言ってたのに……嘘つき」

 

 恨めしそうな心視の呟きにも気付かない。周囲が思っていたより鈍感だった少年は、なんでこいつは突然いじけてるんだろう。とか思いながら、食器棚から小皿を取り出し始めた。

 

 先日のラブレター騒ぎの時もそうだったが、比乃はこういう事には案外鈍いのではないか、森羅の言うことも当てにならないと、心視は内心で更にがっくりする。

 

「ちょっと夕飯には早いけど、冷めると勿体ないから食べちゃおうか。志度、片付けが終わったらこっちおいで……カステラは夕飯の後! 心視も志度睨んでないで、机拭いてくれる?」

 

「はーい……」

 

 いつもと変わらない様子の比乃に、もうそこら辺は諦めることにした心視は返事をして、台拭きを用意して机を拭き始めた。

 

 まぁ、今みたいなことで自分の想いが伝わるのは、何か違う気がするし、これはこれで良かったのだろう、きっと。それにしても志度め、相変わらず余計なことを言ってくれる。いつかとっちめてやる。

 

「にしても料理して家事力アップかぁ、ずりぃなぁ心視。俺だってそういうのやりたいぜ」

 

 台を拭きながら、そんなことを言いながら、比乃と肩を並べて食器を取り出している志度を睨む。ずるいのはそっちだ。今日ずっと比乃を独占してたのに。

 

 ふつふつと、心視の中で同僚に対する怒りが湧いて来た。近いうちに、この想いは物理的にぶつけてやろうと決心して、心視は台拭きを片付ける。その机の上に、食器が並べられ、三人が席に着いた。

 

「それじゃあ、作ってくれた心視と森羅に感謝して、いただきます」

 

「いただきまーす!」「いただきます……」

 

 しかし、先程、志度に対して抱いたほの暗い決心は、料理を食べた比乃の「美味しい」という言葉と笑顔を前に、すぐさま掻き消えて、機会があったらまた料理をしようという、別の決心に変わっていた。

 

 後日、今度は一人で料理をしようとして心視が小さな騒動を起こすのだが、それはまた別の話――

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