自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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第六章 第三話「動き出す闇と新型の優劣について」
正体露見


 比乃が機体を格納庫に収めて降車しようとしたとき、楠木博士から通信が入った。それから要件を聞いた比乃と心視は、特に事情などを深く聞くこともせずに了承し、機体を再び起動させた。格納庫の奥から、シートを取っ払って、歩み出てきた機体があった。話に聞いた、もう一機の試作機だ。

 

「あれが、Tkー10か」

 

「……悪役っぽい」

 

 自機の目の前を横切っていく機体を見て、二人はそう漏らした。そのシルエットは、全体的に丸みを帯びているTkー11とは真逆のシルエットをしていた。どちらかと言えば、これまでのTkシリーズと似通った角張ったデザインだ。色も、純白のこちらとは違い、全体的に黒みを帯びた、漆黒とも言えるカラーリング。

 

 均等の取れたシルエットは、鋼鉄達磨と比喩される程に大柄だったTkー9をシェイプアップしたような印象を受ける。何より気になったのは、Tkー11と同様に背中に付いている一対の“羽根”であった。もしや、あれにもフォトンウィングが搭載されているのか、と思っていると、楠木博士から通信が入った。

 

『あれはネメスィの紛い物、紛い物だ。ただのサブマニピュレータに過ぎん……後追いで継ぎ足しただけの凡物だ』

 

二人の思考を先読みしていたかのような説明、比乃は更に質問する。

 

「フォトンウィングのような技術は搭載されていないと」

 

『ない。強いて、強いて言えば、武装だけは、ほぼ同等の物だ。スペック、スペックは確かに第四世代AMWとしては高い方だが、所詮は、所詮はそれだけの機体だ』

 

 Tkー10がよほど気に召さないらしく、博士の口調には棘があった。

 

「とりあえず、気の抜けない相手だということはわかりました。乗っているのはPMCの班長さんなんですよね?」

 

『そう、そうだ。女性だが中々、自分の腕に余程の自信があるように、あるように見えたぞ。機体はともかく、気を引き締めて行きたまえ』

 

「そうします。通信終わり」

 

 通信を終えて、比乃はHMDを被り直し、機体を格納庫から移動させる。先に出ていたTkー10の跳躍する姿が見えた。速度と高度から、その運動性能の高さが伺えた。それと入れ違いに、全身をピンク色に染めたペーチル三機が戻ってきていた。

 

「今度は……ちゃんとした模擬戦になると……いいけど」

 

「全くだね」

 

 演習場所は先程と同じ、この施設から離れた廃墟群だ。機体を屈ませて、跳躍の姿勢に入る。

 

「それじゃあ行こうか、射撃の方は頼りにしてるよ。心視」

 

「……任せて」

 

 地面を蹴立てて、白い機体が跳躍した。

 

 

 

 Tkー11とTkー10が飛び立ったのを見送ったスタッフの中の一人が、妙なことに気付いた。戻ってきたペーチル三機が、いつ取り出したのか、自衛隊側が用意したライフル。ペイント弾を装填したそれとは、別の銃器を手に取っているのである。東側で多用されている、アサルトライフルだ。

 

「装備を変えて追加の模擬戦……そんな予定あったか?」

 

 そのスタッフが、側にいた同僚に声をかけるが「そんなん聞いてないぞ」と返ってきた。尚更、ペーチルの行動が不審に見えた。スタッフが通信機を取り出して、警備に当たっているTkー7に警告を入れようとしたその時。

 

 全身をピンク色に染めた、一見すると間抜けな様相のペーチルが、その手にとった銃器を格納庫の奥へ向けた。見ていたスタッフ全員が呆然とする中、その銃口が輝き、続いて盛大な銃撃音が鳴り響いた。格納庫の奥にあった機材から火の手が上がり、爆発。

 

 その段階になって、ようやく、スタッフと警備に立っていたTkー7の機士は、何が起こったのかを理解した。

 

「──テロリストだ!」

 

 誰が叫んだのかも定かではない中、その声を引き金に現場のスタッフ達はパニックに陥った。右往左往する者、急いで建物に走って避難しようとする者、立ち尽くす者。そんな彼らを嘲笑うかのように、ペーチルがその銃口を足元、逃げ惑う生身の人間たちに向けた。

 

 その銃口から大口径弾が飛び出す直前、横合いから飛んだワイヤーアンカーが、それを弾き飛ばした。警備に当たっていたTkー7。その一機が「貴様らぁ!」と怒気を放ち、もう二機が高振動ナイフを振り抜いて飛び出した。それに対して、銃器を失ったペーチルがナイフを引き抜き、更に二機がライフルを構えて応戦しようとする。

 

 研究施設の真ん前、足元にまだスタッフが何人か取り残されている中、PMCと自衛隊が戦闘を開始した。

 

 

 それを輸送機のすぐ側から遠巻きに眺めていた人物がいた。先程まで着けていた伊達眼鏡と帽子を取り外した長駆の男。アレースだった。彼はPMCの一味に変装して……というよりも、PMC自体が彼の組織の息がかかった企業であり、ペーチルもTkー10の件も、最初から仕込み済みの事だった。

 

 その最後の仕込み、研究施設の破壊と、雀の涙程度の戦力である警備隊の排除、並びに増援が来た時の対処を任されたアレースは、帽子と眼鏡をそこら辺に放り捨てた。

 

「おーおー、おっ始めたか……さて」

 

 アレースは口笛を吹きながら、輸送機の奥、シートが被せられたままの機体に歩いて行く。どこの国の正規品でもない。彼専用の、第四世代AMWに乗り込むべく。

 

「暇つぶし程度になるといいんだが……お前を出したらそうも言ってられんか……“アンタレス”」

 

 そう呟く彼は、嗜虐的な、獰猛な笑みを浮かべていた。これから自身が起こすであろう虐殺が、楽しみで堪らない様に、端正な顔を大きく歪めて笑っていた。

 

 

 

 一方で、格納庫の中、火が上がっている格納庫の中を走る、白髪赤目の少年の姿があった。大急ぎでパイロットスーツに着替えた志度は、幸運なことに、テスト間近ですでに新しい装備への換装を終えていたTkー7改二の元へと駆け寄った。奇跡的に損傷を間逃れていた。その装甲の上を駆け上がる。

 

「何が何だかわからねーが、警備隊の助太刀しねぇとな!」

 

 コクピットハッチが空気の噴射音を立てて開き、そこに志度が滑り込む。機士を飲み込んだ機体が、駆動音を上げて立ち上がった。

 

 格納庫から飛び出したのとほぼ同時に、駐機されていた輸送機からも、見た事のない大型の赤いAMWが出てきていたのが見えた。その両手には大型の槍を携え、複眼のカメラアイがこちらを見て、笑った気がした。

 

 赤い機体は槍を持った手で、器用に志度に向かって手招きすると、廃墟群の中へと跳躍して行った。明らかに誘われている。志度はちらりと戦闘中の警備隊のTkー7の方を見る。

 

 相手のPMCはTkー11との模擬戦の時とは見違えた動きを見せているが、第八師団のTkー7も負けていない。しばらくは任せても大丈夫そうだに見えた。それに、あの赤い機体がTkー11の方へ向かったら、比乃と心視が危ない。

 

「……その誘い、乗ったぁ!」

 

 志度はその赤い機体、アンタレスを追う様に駆け出した。

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