自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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両軍の折り合い

 場面を戻して、アメリカの海軍基地。昼食のハンバーガーを食べ終えた比乃とリアの二人は、またぼうっと海の方を眺め始めた。装備類を次々と飲み込んでいく巨大な空母の姿に目を奪われながら、比乃は独り言のように呟いた。

 

「それにしても、基地の人達みんな殺気立ってたよなぁ」

 

 そのぼそりとした呟きに、リアが「うん?」と反応した。

 

「しょうがないよ。だってこれまで五回も攻撃して、一度も成功してないんだもん、戦力的な余裕も、もうそんなにないって、少佐も言ってたし」

 

「正真正銘、ラストチャンスってことか……そりゃあ殺気立ちもするか」

 

 相変わらず空母を眺めながら、比乃は先日の出来事を思い返していた。

 

 ***

 

 先日、サンディエゴエアポートに輸送機でやってきた比乃ら、志度と心視に安久と宇佐美、そして整備員数名を加えた自衛隊の団体を待っていたのは、歓待などではなかった。どこか殺伐とした、ピリピリした雰囲気で出迎えられた。

 

 余所者に向けられている視線の中を突っ切って出て来たのは、リアとメイヴィスだった。久し振りに見た二人は以前と変わりなく、アーミーブルーの制服姿で、笑顔で団体を迎えた。それに合わせて、団体の代表である安久が一歩前に出た。

 

「ようこそサンディエゴへ、貴方が日野部大佐が言っていた安久大尉ね」

 

「はっ、安久 剛一等陸尉です」

 

 安久が生真面目に敬礼すると、それに続けて比乃達も敬礼する。微笑むメイヴィスもそれに返礼してから、自分の後ろに控える米兵たちを見渡して、困ったように眉を曲げる。

 

「ごめんなさいね、皆、緊張してるだけなのよ」

 

 彼女の部下を見る比乃たちを取り囲むように見ている米軍の兵士、階級も着ている制服も違う彼らは、比乃や志度、心視を見て、明らかな嘲笑を浮かべた。

 

「おいおい、いつから自衛隊はボーイスカウトの真似事を始めたんだ?」

 

「期待の援軍って言うから見に来たのに、来たのはガキじゃねぇか」

 

 などと、はっきりと聞こえるような声量で言い始めた。メイヴィスはそれに対し「コールター少尉、マドック曹長」と名指しで発言を諌めてから、微笑みを崩さずに、自分の部下を挑発するように言った。

 

「そこの三人の操縦技術は、貴方たち二人よりもよっぽど高いわよ。センスも段違い、見かけだけで人を判断するのは、あまり良くないわね」

 

 言われた二人は「ご冗談を」と言わんばかりに肩を竦めて、顔を見合わせて笑っていたが、メイヴィスがそれにつけ加える。

 

「なんなら、手合わせしてもらったらどう? 貴方たち二人なら、そこの日比野軍曹一人と、なんとか互角に戦えるかもしれないわよ?」

 

 その言葉に反応して、顔から笑みが消え、二人のパイロットは真顔になった。周囲にいた他の米兵もざわつき始め、話に出された比乃も「あのー、少佐?」と発言したが、無視された。突然始まった口論に、他の自衛官も戸惑いを隠せない。

 

 ただ、メイヴィスの隣にいるリアだけは、面白そうに場の成り行きを見守っている。コールター少尉と呼ばれた、金髪を短く刈り上げた大男が、先程まで浮かべていた軽薄な笑みを完全に消した。この場にいる米兵を代表するかのように一歩前に出る。

 

「少佐殿、我々もそれなりに長く軍にいて、それこそ少佐殿に鍛え上げられたパイロットであります。その我々が、そこのボーイスカウトに劣ると、本気で仰るのですか?」

 

「そうね。貴方がこの前の模擬戦で、リアに負けたのと同じ結果になると思うわ。それくらい強いのよ、彼」

 

「俄かには信じられません。それに、先日のリア伍長との模擬戦の結果は、新型の慣らしだったからです」

 

「あら、それじゃあシュワルツコフだったらリアのM6に勝てたの? 結果は同じだったと思うけど……そのM6と、旧式の改造機で互角に渡り合ったのが、そこの彼よ。ここまで言っても、まだ彼らの技量が疑わしい?」

 

 あくまで笑みを浮かべたまま話すメイヴィスに、しかし少尉はかぶりを振る。

 

「正直に申し上げると、彼らが今回の作戦に耐えうるとは考えられませんし、彼らの力が必要だとはとても思えません。我々だけでも作戦の遂行は十分に可能であると考えます」

 

 頑なに比乃を、というよりも自衛隊を認めようとしない少尉に、メイヴィスはやれやれと溜息を吐いて「じゃあ、こうしましょう」と提案した。

 

「機体の調整も兼ねて、これから彼と模擬戦してみたらどうかしら、許可は私が出してあげるから。場所は空いてる滑走路でいいわね、真っ向からの正面対決」

 

「……了解しました。少佐殿がそこまで仰るのなら」

 

「えっ」

 

 少し考えてから了承した少尉に対して、戸惑いの声をあげたのは比乃だったが、いつのまにか後ろに来ていた宇佐美が面白そうに目を細めて笑っている。

 

「良いじゃないの日比野ちゃん、売られた喧嘩は買うのが筋ってもんよ」

 

「ここは乗っておけ比乃。少佐殿は、我々に力を示すチャンスを与えようとしてくれているらしい。どうも、この基地の連中、こちらの実力を疑っているらしいからな」

 

 安久にまでそんなことを言われて、比乃は救いを求めて志度と心視の方を振り返る。二人は比乃の目を真っ直ぐ見つめて、気持ちは解ってると言わんばかりに頷く。

 

「頑張れ、応援してるぜ!」

 

「頑張ろうね……比乃」

 

 片方は声援を送り、もう片方、共にTkー11に乗り込む相方はやる気満々の旨を伝えた。比乃はもう諦めたように肩を落とした。

 

「ごめんなさいね日比野軍曹。長旅で疲れてると思うのだけれど……うちの連中、物分かりが悪いから」

 

「いえ、大丈夫です。最善を尽くします……」

 

 申し訳なさそうにするメイヴィスにそう言ってから、準備をするために輸送機の方へと歩いて行った。こうして、比乃はTkー11で米軍の最新鋭機、M6と模擬戦をする羽目になったのだった。

 

 ***

 

「いやーあれは凄かったよね、先輩、曲芸機動に磨きが掛かってたし、射撃は超正確だったし。コールター少尉、終わってから凄い悔しそうにしてたよ。機体性能の差だとか言い訳はしなかったけど」

 

「そりゃあ、自分の国の最新鋭機が、他国の最新鋭機に性能で劣るなんて、口が裂けても言えないだろうさ」

 

 結果として、模擬戦は比乃と心視の乗ったTkー11の圧勝で終わった。

 

 そもそも、非発見状態からの戦闘で優位を発揮するためのステルス機能とセンサーを持つM6と、発見されていようがいまいが、機動力で捩じ伏せるTkー11が、障害物も何もない所で真っ向勝負などしたら、Tkー11が勝つに決まっているのだが。

 

 それに、コールター少尉も確かに腕は悪くなかった。だが、いかんせん、数ヶ月前から未知の強敵と戦ってばかりの比乃からして見れば、拍子抜けも良い所の相手であった。その双方の理由が相まって、勝負はほぼ一方的に終わってしまったのだった。

 

「でもそれで、先輩達を馬鹿にしてた奴も気が変わったでしょ、心強い味方だって」

 

「いやぁ、なんか敵意剥き出しな人が増えた気がしたけど……」

 

「気のせいだって、先輩ったら心配性だなぁ。それよりあのTkー11だっけ、二人乗りなんでしょ? 今度乗せてよ、すっごい気になる!」

 

「機密に触れるから駄目」

 

「えー、先輩のケチ! あんまりケチケチしてると女の子にモテないよ!」

 

 拗ねたように頰を膨らませた彼女を見て、比乃は、ようやく疲れた顔を笑顔に変えたのだった。

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