自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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一年越しのリベンジ

 以前、自分に重傷を負わせた、忌々しい形態へと変貌した白い西洋鎧が、眼前に迫る。

 

(今度は機能不全なんて起こしてくれるなよ……!)

 

 比乃の脳裏に浮かんだ一抹の不安を否定するかのように、HMDに映し出される計器は、一切異常を示さなかった。相手が放出するフォトン粒子の影響下にあっても、武装と機体の出力は安定している。これがTkー9の失敗を活かして、一年以上かけて造られた、フォトンバッテリーとその関連技術の成果であった。

 

 お互いの距離が一瞬で縮まり、激突。相手の振り上げた銃剣を、二本のカッターで受け止める。だが、先程までとは違い、受け止めた腕がじりじりと押され初めた。比乃の頰を冷や汗が垂れる。

 

「やっぱりパワーアップしてるよな……!」

 

 ある意味、期待を裏切らない。見た目通りの強化だった。相手は銃剣を握った両手を、強引に前に押し出して来る。Tkー11の超電磁モータが軋む音を立てて、それを押し返す。機体の出力任せの力比べ。しかし、今は相手の方が出力が上らしく、一歩、押し負けたTkー11が後ろへと下がる。

 

 ゲームで言うなれば第二形態か、どこまでもファンタジーな奴……! そう内心毒付きながら、比乃は「心視!」と後部座席に収まっている相棒の名を呼ぶ。呼ばれた方は、分かっていると言わんばかりに沈黙で返しながら念じる。すると、背中の羽根が起き上がり、形を変えた。

 

 実を言えば、もう滑腔砲の弾丸は残っていないのだ。であれば、このサブマニピュレータの使い道は一つ。起き上がった羽根が、真ん中で肘関節のように折れ曲り、その先端から光り輝くカッターを迫り出させた。

 

 阿修羅像のように新たな腕を生やしたTkー11が、上の左右から鋭い突きを放つ。白い西洋鎧は堪らず後ろへと飛び下がった。二本の斬撃は、相手の肩装甲を抉るに留まった。

 

「……惜しい」

 

「ここから巻き返すよ、援護よろしく」

 

「了解……」

 

 下がった西洋鎧が銃剣を真っ直ぐに構え直す。すると、その切っ先に光が集まり、それが次第に塊となって、薄緑色に輝く刀身を形成した。銃剣……いや、長剣となったそれを武士のように構え、向かってくる。

 

「ほんっとにファンタジーな相手だな……!」

 

 自分の知る物理法則が通用する相手とは思えない。しかし、こちらの装備する光分子カッターという矛は、そちら側へと一歩踏み込んだ武器。それを持ってして、同じ土俵に立った今ならば、技量で勝る自分たちが負けるはずがない。

 

 比乃は自分にそう言い聞かせて、長剣を構えている相手に突撃した。相手もそれに合わせて、長剣を大きく振るう。一瞬、避けるか受け止めるかを逡巡する。比乃が取ったのは回避だった。

 

 Tkー11の脚部を蹴立たせて、その斬撃の通り筋から逃れる。横方向の急激なGに息を詰まらせながら、直角に移動。反撃、合計四本のカッターが西洋鎧へ目掛けて殺到する。

 相手はそれを、長剣を振り下ろした姿勢から上へ突き上げて、半円を描くように動かして弾き飛ばした。

 

「なんとっ!」

 

 まさか防がれるとは思わず、たたらを踏むTkー11に向けて、雷光の如き突きを放って来た。その一撃を、比乃は今取れる精一杯の最低限の動き、上半身を横に反らすことで避けて見せた。屈んだまま、全身を回転させる足払いを仕掛けると、相手はふわりとした動きで飛んでそれを避けた。が、そこに回転の勢いを殺さず、繰り出された二撃目の蹴りが入った。西洋鎧は後ろへと吹っ飛んだ。仕切り直すことには成功する。

 

「今の動き……」

 

「宇佐美に……似てた」

 

 先ほどの鋭い一撃、比乃は一瞬ひやりとしたが、距離を取り直したことで冷静になって、相手を再評価する。

 

 相手は第二形態になる前とは見違える動きをしている。機体もそうだが、乗っているパイロットも本気になったということか。それとも、銃剣ではなく、長剣を使うのが本来のスタイルだと言うのだろうか。

 

 吹っ飛んで地面を一回転した西洋鎧が、素早く身を起こして長剣を構え直す。その姿勢も、素人の構えではない。

 宇佐美という、自衛官でありながら剣豪でもある人物を、常日頃から見ていた比乃と心視だからこそわかる。あの動きは、何らかの流派に沿っている物だ。我流の物とは思えない。

 

 しかもその構えは、それこそ見慣れた宇佐美の構えに酷似しているのだ。綺麗な型に嵌った、しかし、それでいて硬直は感じさせない。さっきこちらの斬撃を打ち払った動きや、反撃の突きなど、決まった法則性を持った動き。

 

 それは、素人がそう易々と身につけられる物ではない。優れた師を持ち、鍛錬を積み重ねて覚える物だ。そこまで考えて、比乃は一つの考えに行き着く。

 

「もしかして、宇佐美さんの関係者が指導している?」

 

 宇佐美の関係者、それこそ同門生辺りが相手の師であり、その教えに沿った動きをしているとすれば、目の前の相手が見覚えのある剣術を習得していてもおかしくは無い。この業界は広いようで狭い。偶然だとしても、あり得なくはないことだった。

 

「世界は狭いね」

 

「偶然って……怖い」

 

「けど、この相手くらいなら」

 

「……そんなに、怖くない」

 

 言って、Tkー11も両手と副腕を半身で構えた。摺り足で相手との間合いを測り直す。

 

 そう、確かに、今の動きを見せられては、相手を素人だと侮れなくはなった。それでも“あの”宇佐美に比べれば、月とスッポン、雲泥の差がある。そして、その剣豪と自分たちは、幾度となく模擬戦を繰り返して戦っているのだ。

 

「仕掛ける!」

 

 次の瞬間、白い機体は突風となった。生身の人間に例えるならば、それこそ忍者のような駆け足で、相手の眼前へ跳ぶ。極限の集中でスローモーションになる世界、比乃と心視の視界に相手が身構えるのが見えた。迎え撃つつもりらしい。上等だった。

 

 一撃目、突き出したTkー11の右のカッターを、西洋鎧が長剣の腹で横に捌いた。飛び散る緑色の火花。だが、攻撃はそれだけでは終わらない。続く二撃目、左からの斬撃、これも逆方向に長剣を振ることで弾いた。

 

 左右外側に両腕を弾き出されて、がら空きになるTkー11の真正面。そこへ西洋鎧が踏み込んで来る。絶好の攻撃のチャンス、絶体絶命のピンチ。だが、比乃は踏み込んで来た相手を見てにやりと笑った。

 

 まんまと自分達の間合いに踏み込んで来た西洋鎧の真上から、もう二本の腕が襲い掛かる。それに寸での所で気付いた西洋鎧が、身を屈めながら長剣の進路を変化させた。同時に降りかかった斬撃を受け止める。そこに、目の前で足を止めた西洋鎧を抱き締めるように、両腕のカッターを繰り出された。

 

 Tkー11の光分子カッターが相手のコクピットを引き裂くよりも早く、相手は後ろへ転がって間合いを取った。カッターが空を切る。比乃と心視が同時に舌打ちをして、転がって逃れた相手を追撃する。

 

 四連続の突きを転がって逃げ切った西洋鎧が、その勢いのまま立ち上がる。前方から接近してきたTkー11に向けて長剣を振るった。リーチを活かした、横からの斬り払い。

 

 それを強引に受け止めたTkー11のカッターが、ばきんっと音を上げて折れた。稼働限界。驚愕する比乃。衝撃を吸収し切れずに機体の体勢が崩れる。そこに、西洋鎧が驚異的な速度で縦に二回、長剣を振るった。Tkー11の両肩が切断されて地面に落ちる。

 

「……ッ!」

 

 相手がとどめと振り上げた長剣が、白い胴体を両断する前に、背中の副腕が素早く動いた。今度こそ長剣を受け止める。しかし、それでもぴしりと嫌な音を立てる。パワー負けする腕が、限界を迎える前に、比乃は機体を横に振った。滑るように横へと軌道を変える長剣。

 

 横に振った勢いで、機体をそのまま横回転させる。今度は相手の姿勢が崩れた。そこに、二連続の回転斬りが入った。強引な姿勢で放った斬撃は、相手の胴体ではなく腕を捉えた。一瞬の抵抗の後に、それを断ち切った。その直後、限界を迎えた最後の二振りのカッターが刀身半ばで砕ける。長剣を握ったままの両手が、くるくると回転して地面に落ちた。

 

 お互い、両腕と武器を失った白と白が睨み合う。そこに、通信が入った。

 

『白鴎さん、味方は隊長と貴方を残して撤退しました、白鴎さんも早く!』

 

『比乃! 緑の奴に逃げられたけどこっちはまだ動ける、今からそっちに行くから待ってろ!』

 

 片方は撤退を促し、もう片方は救援に向かうことを告げていた。白いOFM、ターコイズは、白いAMW、Tkー11を警戒するように見ながら、ふわりと宙に浮くと、そのまま全速力で後退して行った。

 

 もはや何も出来ない機体の中でそれを見送りながら、比乃は呟く。

 

「……僕と心視の二人掛かりで倒せないなんて」

 

 なんとか飛べる物の、戦闘能力を完全に喪失した自機の中で、白鴎は呟く。

 

「先生に教わった剣術が通用しないなんて……」

 

 そして、二人は偶然にも、同時に同じ言葉を続けた。

 

「「いったい、何者なんだ?」」

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