自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~ 作:ハの字
一方その頃、陸上自衛隊機士科第三師団所属の自衛官、日比野 比乃三等陸曹はと言うと、自分の教室の席に座り、黒板に書かれた文字を見て、辟易としていた。
「だーかーらー、なんでこういう変な企画ばっかり出すんだよ、お前らは?」
教壇に立って呆れた様子でそう言う“文化祭実行委員”である有明 晃が、黒板に並んだ各々の意見を見やる。
〈コスプレ喫茶〉
〈ヌード喫茶〉
〈セミヌード喫茶〉
〈トップレス喫茶〉
〈お触り喫茶〉
〈ヌード居酒屋〉
〈セミヌード居酒屋〉
〈トップレス居酒屋〉
〈お触り居酒屋〉
〈ヌードホストクラブ〉
〈セミヌードホストクラブ〉
〈トップレスホストクラブ〉
〈お触りホストクラブ〉
以上。これが、このクラス二年A組で出された全ての意見であった。
晃は頭を抱えた。
「実質コスプレ喫茶しかないじゃねーか、というか女子ぃ! ホストクラブを何だと思ってるんだお前らはぁ! いくらうちの校則が緩いからって、限度ってもんがあんだろ! お前ら全員自重しろ!」
「そうだぞ女子! 如何わしいのはいけないことなんだぞ!」
「「そーだそーだ!」」
「そう言う男子こそ、嫌らしい案ばっかり出して、しょーもないとは思わないの!」
「「そーよそーよ!」」
「お前ら五十歩百歩だろーが!! どうすんだよ、今日中に決めないといけないんだぞ……」
アホなクラスメイトを糾弾する晃。そう、企画提出の期限は今日の放課後までという決まりになっている、時間がない。そういうわけで、この纏まりがないクラスメイト達は担任が担当する授業の時間を一つ借り切って、あーでもないこーでもないと話し合いをしているのだ。
しかし、その結果がこれである。晃でなくても頭を抱えたくなる。
そんな彼を見て、実行委員にならなくて正解だったなと、一人ごちる比乃。自分たちがいない間に委員決めをされていたらアウトだった。だが、今回はなんとか欠席を逃れたので、頑張ってあそこで苦悩している少年に押し付けたのである。
ふっと悪役っぽくほくそ笑む比乃。悪いな晃、今回は面倒毎に巻き込まれる気は無いぞ。と……しかし、このクラスに所属している時点で、厄介毎か面倒毎に巻き込まれることがほぼ確定しているという現実に、この少年はまだ気付いていない。気付きたく無いのかもしれない。
そんな中、いつもと変わらずにこにことその流れを見守っていたメアリがすっと挙手した。
「どうした、メアリ」
「いえ、コスプレ喫茶ではいけないのですか? コスプレ……というのが何なのか、よくわかりませんけど」
まだ日本文化に疎いのか、コスプレの意味を知らない彼女が最もな事を言うが、晃はしかしがくりと肩を落としたまま答える。
「被るんだ、他のクラスと……もう同じようなコンセプトの、仮装喫茶だとか、そういうのが二クラスから出てるんだ……」
「あら……それは」
メアリも察した様子で、口元に手をやって困った物だと言わんばかりに困り顔になる。
それにしたって、二クラスが同じネタをやるなど、どれだけネタ不足なんだ。と比乃は思ったが、口には出さなかった。このクラスも、三クラス目として名乗りを挙げなければならないかもしれないのだ。
「うう……だけど、このままだと間違いなく没になる案しか残らねぇ……」
「じゃあ普通に居酒屋とかやればよくね、如何わしくなければいいんだろ?」
「飲酒は厳禁。俺達の職業が何なのか、よーく思い返してみろ」
「じゃあいっそのこと、全部混ぜてみましょうよ! セミヌードお触りコスプレホスト居酒屋!」
「どう考えてもアウトじゃねぇか! というかマイナスとマイナスを掛けてプラスになるのは数学だけだからな!」
「そうだそうだ! それに晃のヌードを見ていいのは私だけだと決まっている!」
「決まってねぇ! 議論に水差すな紫蘭!」
「そもそも、議論になってなくない……?」
アイヴィーの容赦ない指摘を皮切りに、わーぎゃーと好き勝手に話し出すクラスメイトたち。まったく進まない、纏まらない話し合いに「あーもー!」と、髪を掻き毟る勢いで苦悶する晃。そろそろ助け舟を出した方が良いだろうか、と心視、志度の二人にアイコンタクトで比乃が確認を取り始めた、その時。
「なぜ、二番煎じが悪いのだ?」
そう、紫蘭が言った。「えっ?!」と振り向くクラス一同。その視線を受けて、紫蘭はもう一度言ってのけた。
「だから、二番煎じで何がいけないと言っているんだ」
「いや、でも他と被るのは良く無いだろ……なぁ?」
晃の言葉にうんうんと頷くクラス一同。
「他と被るってことはシェアを取り合うってことになるしなぁ」
「客の取り合いになっちゃったら困るし……」
「それの何が困るというのだ!」
しかし、紫蘭は止まらない。椅子の上に立った彼女は、ばっと手を振り上げ、熱く語り始める。
「シェアと客の取り合いは嫌? 甘い、甘いぞお前達。客という資産は有限なのだ。それを取り合うのが商売の常なのだ。だからこそ、あえて、あえて我々は一部の資産を狙って一発逆転で狙うのではなく、他の店とぶつかり合って客という名の資源を、資産を、奪い尽くさねばならないのだ! 我々はこの高く振り上げられた拳である! 今こそ、脆弱なあるあるのネタを出した他クラスに叩きつけんとする拳である! 我々は思い知らさなければならない! 古典的な良くある企画を出すということが、どのような結果に繋がるのかということを! 我々がトップに立つことで、知らしめなければならないのだ!」
「お、おおー!」
「流石森羅グループの令嬢! 言うことがちょっと違うぜ!」
「よっ、日本一!」
「それに、他のクラスと売り上げを競争するのってなんだか楽しそうなのだ! やらない手はないのだ!」
「本質はそこかよ!」
晃が突っ込むが、乗せられたクラスメイトは止まらない。「競い合ってこその商売だよな!」「今時二番煎じ三番煎じくらいよくあることだしな、Web小説とか!」と、好き勝手なことを言って紫蘭の話に賛同していた。
そうして、いい加減、議論が面倒くさくなったこともあって、二年A組の出し物は賛成多数でコスプレ喫茶に決まったのだった。
「それに、秘策もあるしな……」
そう呟いて、比乃の方に向けた紫蘭の目が、きらりと光ったのは、比乃の錯覚だっただろうか。嫌な予感がして背筋に悪寒が走ったのは、間違いないのだが。