自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~ 作:ハの字
それは危険な戦いだった。戦闘に危険は付き物だが、普段のそれと比べて、遥かにその度合いが高い。
安久ら四機のAMWは、こちらを仕留めようと迫ってくる、ソーラーディエディ――太陽神と名乗った黄色い敵機を相手に、遅滞戦闘を展開していた。
戦闘開始からすでに十分程経過している。市街地はもう崩壊した建造物だらけで、元の景観を残してはいない。どれもこれも、相手の異常な攻撃力によるものだった。
『teacher1、そっちに行ったわよ!』
宇佐美機が安久機に警告。それとほぼ同時に、市街の雑居ビルの影から、黄色い機体が飛び出してきた。
「わかっている!」
敵機の隠れようとする気の全くない動作は、こちらのレーダーで丸見えで、待ち伏せも容易だった。それでも、相手の攻撃を避けるのは至難の技だ。
『隠れんぼにも飽きてきましたねぇ、大人しくやられてはくれませんか?』
スピーカー越しのふざけた男の声と共に、黄色い機影が凄まじい加速力で肉薄してきた。安久はビルを背にして、短筒を発砲する。だが、通常のAMWなら一撃で貫徹する大型徹甲弾は砕け散り、でたらめな方向へと跳弾し、周囲の建材を破壊するにしか至らない。
安久は舌打ちをして、機体を大きく跳躍させる。その真下を、突っ込んできた敵機が小振りの高振動ナイフで突き抜けて行った。背後にあったビルに大きな亀裂が入り、粉々に吹き飛んだ。
AMWで受けたら、文字通りばらばらにされてしまうだろう。なんという破壊力。絶対に当たるわけにはいかない。安久は気を引き締め直して、立ち込めた粉塵に紛れるように着地、空中で構えていた投擲ナイフを、敵機のいるであろう方向目掛けて放り込む。
炸薬を内蔵したそれが、敵機の胴体に直撃した。不意打ちに障壁も展開されていなかった。しかし、
『やれやれ、隠れんぼ……いや、鬼ごっこは継続ですか? このままだと夜明けになってしまいますよ』
爆風で晴れた煙の中、黄色い機体は全くの無傷だった。傷跡すら付いていない。嫌になる防御力。ミッドウェイやハワイでもそうだったが、相転移装甲を持った相手というのは、これ程までに厄介なものか、安久は再度舌打ちして、短筒を構える。
一方その頃、アイヴィーと心視の二人は、突然動きを変えた敵機に戸惑いながらも、迎撃を行なっていた。だが、相手の動きは尋常ではなかった。的確な回避運動は、心視の狙撃を正確に回避し、重装甲を持って、アイヴィーの双剣による一撃を凌ぎ封じる。
『こいつら……強い』
「ほんと、余程の手練れが乗ってるんだね」
二人は相手が有人機で、かなりの熟練兵が操縦していると思い込んでいるが、実際には違う。無人機統合制御システム、ネーレーイスによって遠隔制御された機体は、蓄積された経験値、そして模写された操縦兵の動きを再現しているに過ぎない。
そして、その模写しているモデルというのは、オーケアノスだった。ドーリスとステュクスの師であり、安久や宇佐美にも迫る技量を持つ、その古参兵の動きを、判断力を、直感を、このシステムは正確にトレースしているのだ。
所詮はコピーとは言え、それでも二人、特にアイヴィーでは手が余る相手であった。
『……剛たちが相手してる敵も、結構やばそう、支援したいけど……』
呟くように言った側から、正確無慈悲な射撃が心視を襲う。これを横に転がることで、なんとか射線から外れる。すでに心視を発見した相手は、狙撃させない事を優先しているらしい。射撃ポジションに着こうにも、邪魔をされてどうにもできない。
心視が装備している大筒用の弾薬、腰のウェポンラックに装着されたマガジンの一つは、フォトンバレットと呼ばれる特殊弾頭が装填されていた。
これはフォトン粒子を弾頭に纏わせることで貫通力、破壊力を増した弾薬だった。これを使えば、相転移装甲を持つ相手だろうが、問答無用で撃ち抜くことができる。しかし、射撃位置に付けないのでは、宝の持ち腐れだった。
そして、もう一機のペーチルは、アイヴィーへと襲い掛かっていた。両手に装備した高振動ナイフを振るい、カーテナの双剣と打ち合い、弾き、時には搦め捕ろうと動き、隙を見せれば刺突を繰り出してくる。
その相手に、アイヴィーはなんとかついて行ってはいたが、それでも限界が見えてきていた。銀色の装甲には、捌き切れなかった斬撃を受けて切り傷が入っている。動作にも不具合が出てきていた。長くは動けそうにない。
それでも、彼女は気合で食いつく、こんなところで死ぬわけにはいかない。
「はぁっ!」
声をあげて、銀色のカーテナが地面を蹴立てて駆ける。地表を舐めるように突貫したカーテナが、そのままの勢いで高振動ブレードをペーチルS目掛けて叩きつける。対して、相手は激突の寸前、機体を後ろに転がした。空を切るブレード、そこに後転から起き上がったペーチルSが、鈍重な見た目からは想像できない程の素早さで突っ込んできた。
「くっ……」
放たれる斬撃を、もう一本のブレードで弾き、再度距離を取り直す。真正面からの戦闘はこちらが不利。ならば、奇策を使うしかない。
これで決める――決意したアイヴィーは、右腕に保持していたブレードを、敵機へ目掛けて投擲した。投げられても、しばらくの間、刀身は起動したままである。切れ味を持ったままのブレードが、敵に目掛けて飛ぶ。
それをペーチルは命中するより一瞬早く跳躍することで、その切っ先から逃れた。そのまま、こちらの背後に向けて着地しようとしてくる。
(半分は狙い通り……!)
重量級の機体の跳躍力で、こちらの背後を取ろうとしてくることは想定外だったが、ジャンプして攻撃を躱すことまでは、想定の範囲内だった。素早いステップで機体を急旋回させ、相手の着地地点に向けて飛び込む。
着地直後、人型であるが故に無防備になる瞬間を狙うことが、彼女の狙いだった。左腕のブレードを素早く突き入れる。数瞬早くこちらを振り向いたペーチルSを切っ尖が捉えた――だが、その穂先は、敵に致命傷を与えるには至らなかった。何故ならば、
「う、嘘でしょ」
相手がこちらに真っ直ぐ向けた右腕を、こちらのブレードが真っ直ぐに刺し貫いていたからだ。その先端は、敵の胴体部分にまで至っていない。
次の瞬間、敵機はその右腕をパージした。切り離された敵の右腕という鞘を強引につけられたブレードをどうするか、アイヴィーは一瞬迷ってしまった。
それを見逃す程、相手は甘くなかった。残った左腕に保持された高振動ナイフを腰だめに構えて、こちらに突っ込んで来る。回避は間に合うか、防御すべきか、それにすら迷い、致命的に判断が遅れた銀色のカーテナ目掛けてナイフが突き刺さるかと思えた。その直前。
『アイヴィー嬢、良くぞ保たせてくれた!』
金色の機影が両者の間に割って入り、斬撃を繰り出した。左腕と胴体を切り開かれたペーチルが、その勢いのままうつ伏せに倒れる。
突然の乱入者に固まったアイヴィーの前に現れたのは、市街地で戦っていたはずの、ジャックの金色のカーテナだった。黄色いAMWに対して有効な装備を持っていない為、通常機が相手のこちらまで、急いで駆けつけたのだ。
『二人とも待たせて申し訳ない。ここからは私がなんとかする』
その声の主、ジャックは双剣、機体名と同じ名前が与えられ、聖剣の名を頂いた双剣“カーテナ”を構え、ライフルをこちらに向けた最後の一機へ目掛けて突撃した。