自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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臨死体験

 物理的な指導と、紳士的な話し合いの結果、武道同好会の出し物を「十人抜き組手」から「誰でもわかる護身術講座」に変更させた比乃は、汗一つかかずにその教室を後にした。

 

 それからも、廊下を進んでいると、すぐ側の教室から、

 

「俺が、俺こそが爆弾だぁぁぁ!」

「爆発こそ芸術っすよね先輩! 火薬の準備は万端っす!」

「押すぞ、起爆スイッチを押すぞぉぉぉ!」

 

 という危ない会話が聞こえてきて、突入。黒い球体の着ぐるみを着て、怪しげなスイッチを片手に興奮していた生徒たちを鎮圧して説教を垂れる羽目になったり、また別の教室からは、

 

「だ、駄目ですよ先輩、こんな所で脱いだら……お客さんだっているのに……!」

「うるせぇ! 今こそ俺の肉体美をご来場の皆様にお見せする時なんだよ! 邪魔すんなよ!」

「誰ですか先輩の飲み物にアルコール混ぜたの?! お客さんもコールしないでください!」

 

 という色々とアウトなやり取りが聞こえてきた。駆け足で該当教室に向かい、半裸の男子生徒を取り押さえ、一緒にいた他生徒と共に簀巻きにし、未成年飲酒をするなと怒鳴ることになった。またまた別の教室では、

 

「さぁ蘇るのだ! この電撃で!」

「やめろぉー! 離せぇー! ぶっ飛ばすぞー!」

「神にでも悪魔にでも好きな方に祈りなサーイ!」

 

 という、改造人間でも作っているかのような声が化学室から聞こえて、ダッシュで突入。したは良いが、実際には化学部が作った電気マッサージのテストをしていただけだった。生徒たちに紛らわしい会話をしてるんじゃないと、やや理不尽なことを言うことになったりした。

 

 そんなこんなで、その他にも五、六の教室に突入したり、鎮圧したり、説教したりして、一通りのルートを周り終えた比乃は、ややぐったりしながら、二年A組の教室まで戻って来た。

 

 何故、普通のクラスの模擬店や出し物は、こんなにも平和なのに、部活や同好会の物はあんなにも過激だったり、色々アウトだったりしたのだろう。もしかしたら、各クラスでは管理仕切れない人材が、隔離された結果なのかもしれない。そんなことを考えながら、比乃は教室の扉を開けた。

 

「お、比乃、お帰りー」

 

「その様子だと大変だったようだなひびのん。お冷でも持ってこよう」

 

 相変わらず、パイロットスーツ姿にエプロンという、業界人としてはシュール極まり無い格好の晃と紫蘭に出迎えられ、比乃は礼もそこそこに、手近な空いていた席に腰かけた。

 

 教室の中は、お昼のピークタイムを過ぎたからか、客の姿は疎らだった。クラスメイトたちも、他クラスの模擬店に顔を出しに行ったりしているようで、店員の人数も少なかった。

 

「ほれお冷。慌てずゆっくり飲むが良い」

 

 紫蘭が差し出した、水滴の滴る水入りのコップを受け取ると、中の冷えた水を、喉を鳴らして飲み干す。ぷはぁと息を吐いて、比乃はようやく落ち着いた。

 

「いやぁ、ちょっとこの学校の部活動と同好会を舐めてたよ。このクラスを見てれば、全てが平和に行くわけなんてないってわかるはずだったのに、油断してたかな」

 

「そうだなぁ、この学校の課外活動関係は予算も潤沢で校則も緩いせいか、やりたい放題な節があるからな。だからこそ、風紀委員が取り締まりを行なったり、監視したりしているわけだが、ボランティア活動などを行なって一定の評価を得ていればそう言った監査も緩くなるから、大した抑止力になっていないのが現実なのだがな」

 

「紫蘭は本当にそこら辺詳しいなぁ……勉強になるよ」

 

「……言っておくけど、うちの学校が特殊なだけで、他校はそこまではっちゃけてないからな? 誤解するなよ」

 

 晃の言葉に「え、そうなの?」と比乃が訝しがる。そこに、

 

「お、比乃戻ってきたのか!」

 

「……お疲れ」

 

 料理を運び終えた志度と心視がやってきた。その手には、グラタンのような料理が盛られた皿を持っている。

 

「二人もお疲れ様。で、その手に持ってるのは何?」

 

「へへ、比乃が腹空かせて戻ってくると思ってよ。紫蘭に教えて貰いながら俺が作ったんだ!」

 

 どうだ凄いだろう。と胸を張る志度に、比乃は目を丸くして驚いた。

 

「あ、あのお米を洗剤で洗おうとしてた志度が料理を……あ、ちょっと感激して涙が出てきた……」

 

 おろろと、薄っすら涙を浮かべる比乃に「そ、そこまでか」と若干引く晃と紫蘭だったが「心視もこの前料理作ってくれたし、これでうちも献立当番のローテーションが組めるよ」と感激している比乃は気付かない。

 

「ま、まぁ私も接客があって付きっ切りとはいかなかったがな、一応レシピを見せながら作らせたから、食べられる物にはなっているはずだ」

 

「なんだよその言い方、俺が比乃への思いを込めて作った、スペシャルグラタンだぜ。美味しくないわけがない!」

 

「……志度、その言い方、誤解を生むから……」

 

「一部の女子生徒が喜んじゃうから気をつけろよ、志度」

 

 心視と晃の突っ込みの意味がよくわかっていない志度は「それより、冷める前に食ってみてくれ!」と、比乃の前にそのグラタンを置いた。見た目は確かに立派な物で、白いホワイトソースの表面には綺麗な焼き目が付いている。匂いも、甘みと香ばしさを感じさせて、食欲を唆る物があった。

 

「それじゃあ、頂こうかな」

 

 比乃が渡されたスプーンでグラタンを一口分を掬い、口元に運ぶ。

 

「いただきまーす」

 

 それを口に入れた次の瞬間、比乃の意識は暗転した。

 

 

 

「…………はっ」

 

 比乃が気付くと、そこは何もない真っ白な空間だった。距離感が狂うような、白の平原が、前後左右ずっと続いている。いや、一つ、いいや一人。比乃の目の前に、白以外の存在があった。

 

 真っ黒なローブを着た、おかっぱ頭の女性であった。彼女は状況が飲み込めていない比乃に、向けて、全くの無感情といった表情で言い放った。

 

「おお、日比野 比乃よ、死んでしまうとは情けない」

 

「えっ、死んだんですか僕?! あれで?!」

 

 自分はいったい何を食わされたんだ。と驚愕する比乃に、目の前の女性は無表情のまま、

 

「というのは冗談だけどねぇ」

 

 どうやら悪ふざけだったらしい。なんだ冗談か、と胸を撫で下ろした比乃は、目の前の何者かに聞く。

 

「それで、貴方は誰なんですか? 死神?」

 

「いやだねぇ、あたしゃ神様だよ」

 

「え、いや死神も神の一つじゃ……」

 

「細かいことはいいのよ、細かいことは、で、神託があるんだけどねぇ……何がいいかしらねぇ……兵隊さんに向けたのだと、同僚は海老を獲れとかマイクを取れとか言ってるみたいだけどねぇ」

 

「神様にも同僚とかあるんですね……」

 

「そりゃあるさ、日本だけで何人神様がいると思ってるんだい。よし、じゃあ、あんたは蟹を獲りなさいよ。蟹。汝、武器を捨てて蟹を獲れ」

 

「うわ、パクりというかなんというか……もう少し捻りません? せめて海産物から離れるとか」

 

「いいじゃないの蟹、美味しいよ? ほら、神託もやったし帰った帰った」

 

 んな適当な、と比乃が呆れた時、意識がまた遠退いてきた。ぼんやりする意識の中、比乃が最後に聞いたのは「兵隊さんはいつ死ぬか判らないから面倒くさいのよねぇ」という、神様のぼやきであった。

 

 

 

「……ーい、おーい比乃。どうしたんだぼうっとして」

 

「……はっ」

 

 比乃が気付くと、そこは見慣れた教室であった。周囲には晃や紫蘭、志度と心視、メアリとアイヴィーが、輪になって心配そうに比乃を見ていた。比乃はとりあえず口の中に残っていた何かをごくりと飲み込み。

 

「神様にあった」

 

「は?」

 

「汝、武器を捨てて蟹を獲れって……」

 

「大丈夫かお前」

 

 率直な晃の言葉に、比乃は妙に薄らぼんやりする頭を振り絞って考える。

 先程のアレはなんだったのだろうか、というか自分は何を食わされたのだろうか、遅れてくるタイプのヤバい物とかじゃないだろうな。さっきのは自分の夢だったから、妙に変な状況を素直に受け入れられたのか、白昼夢って奴かな、と比乃は分析していた。

 

「あんまり大丈夫そうじゃなさそうだぞ……おい志度、お前、ちゃんとレシピ通り作ったのか?」

 

 紫蘭に問われた志度は首を傾げる。

 

「おっかしいなぁ、大筋はレシピ通りに作って、ちょっと刺激が足りないかと思って色々足したくらいなんだけど」

 

「それだよそれ、何足したんだよ」

 

「え? 色々」

 

 晃と紫蘭に志度が問い詰められている横で、心視がスプーンでグラタン(?)を少しだけ掬って、口に入れた。直後、ばたんとうつ伏せに倒れた。慌てたメアリとアイヴィーが介抱すると、すぐに息を吹き返して、呟いた。

 

「……神にあった」

 

「えっ」

 

「汝、隣人を愛しなさいって……良い神だった……」

 

「ちょっと本当に何入ってるのこれ?!」

 

「処分、処分しましょう!」

 

 珍しく狼狽えた様子のメアリが、素早い動きでグラタンらしき何かを容器ごと、ビニール袋に入れてきつく縛り、ゴミ箱にシュートした。こうして、神に会える料理は封印されたのだった。

 

「とりあえず、志度は台所に立つの禁止だな」

 

「「「異議なし」」」

 

「えー?」

 

 その場に居合わせた全員が、晃の言葉に賛同する。一人だけ納得のいかなさそうな志度が、不満気に頬を膨らませていた。

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