自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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第八章 第四話「ロシア軍人との交流について」
感想戦


 模擬戦終了後。比乃は筋肉コンビと整備士に散々いびられていから、今回の模擬戦に参加したメンバーと、整備士を交えてデブリーフィングを行うとアバルキンに呼び出された。これ幸いと森を引っ張るようにしてプレハブ小屋へ向かう。

 

 そこで行われた、所謂模擬戦の反省会は、特に波風立つこともなかった。お互いの健闘を讃えるアバルキンと、面白かったと楽しげに話すカラシン、自衛隊側を妙に持ち上げるグレコフらによって、終始和やかな、比乃たちにとっては少しむず痒いムードであった。

 

 森も、スラッシャーの運用データこそ取れなかった物の、正規軍を相手にした貴重なデータが手に入ったとして、グレコフの持ち上げもあって、機嫌が良くなっていた。だが、その場にいた中で、エリツィナだけが、最初から最後まで顔を俯かせて、模擬戦の結果に対する不満を隠さない表情のままであった。

 

 その後、反省会が終わるのを見計らったかのように、今朝方に乗って来たのと同じ車両が複数台やってきた。なんだろうと思案顔の比乃達に説明しようと、アバルキンが口を開く。

 

「この周辺に宿泊可能な施設がないからな、街に戻ってホテルで一晩過ごして貰う。それなりの場所を用意したので、ゆっくりくつろいでほしい」

 

「こちらの機体の事もありますし、てっきりここで野宿でもさせられるのかと思ってましたが」

 

 比乃がそう言うと、アバルキンは「まさか」と苦笑する。

 

「この時期にそれは流石に酷過ぎる。そちらの機体は我が軍が責任を持って管理させてもらう」

 

 そう言うと、それに合わせた様に車両から小銃を持った兵士が続々と降りてきて、プレハブ小屋の前に整列する。彼らが揃ってこちらに向けて敬礼した。

 

「私の自慢の部下達だ。信用に値すると思ってほしいが」

 

 どうやら、この兵士達が機体と機材を警備してくれるらしい。それでも、機密とか大丈夫なのかと比乃が森に聞く。

 

「機体と機材入れたコンテナは厳重にロックかけてあるから大丈夫じゃないかな、無理に抉じ開けでもされない限りは……自分達もこんな寒空の下で野宿は御免被るから、向こうの好意に甘えるべきだと思うけどね」

 

 とのことだったので、比乃らはアバルキンとその部下を信用することにした。車に乗り込む時、大関と大貫にその旨を伝えると、二人は意外なことに「それもそうか」「まぁ大丈夫だろ」とすんなり納得していた。

 

 車の扉に手をかけたところで、見送りにきていたアバルキンに頭を下げる。

 

「それでは、機体の管理はお任せします。アバルキン少佐」

 

「ああ、任せてくれ。良いホテルを取っておいたので、明日に備えてゆっくり休んでくれたまえ」

 

「はい、お言葉に甘えさせていただきます」

 

 そうして、比乃達を乗せた車両群は、その場を後にして街中へと向かった。

 

 

 

 また数時間、車に揺られて街に入り、到着したのはそこそこに立派なホテルだった。十階建てとそれなりに大きく、壁色も真新しさを感じさせる、小綺麗な中級ホテルだ。

 

 車から降りた志度と心視が「おお〜」と感嘆してホテルを見上げていると、先に降りていた黒服が「早く来い」とせっついてきた。比乃が「すいません」と一言謝ってから、二人を押す様にしてホテルの中に入る。

 

 黒服に先導されて入ったフロントは、そこもそれなりに豪華な造りであった。なるほど確かに、良い所だと比乃は感じた。日本でこのレベルの宿に泊まろうとしたら、一晩で数万円取られそうである。

 

 事前に口裏は合わせてあるのか、従業員らは緑の制服姿の比乃達を見ても特に不審がることもなかった。エレベータで上階に上がり、一団はそれぞれの部屋へと案内される。途中の階で整備班らが降ろされ、比乃たちは更に上の階へと移動する。各自の部屋は同じフロアに固められていた。その意図は明白だった。

 

(階段に二人、エレベータホールに三人か)

 

 比乃がこっそりと、階の出入り口である階段を観察すると、目立たない服装の、しかし目付きが明らかに堅気ではない男たちがいることを確認した。こちらを一箇所に集めて、護衛と監視を効率よく行うつもりらしい。

 

(なんとも合理的なことで……)

 

 そして、着いてきていた従業員に促されて、宛がわれた部屋に入ろうとした。その時、

 

「ちょっと待った!」

「ちょっと、待った」

 

 同時に叫んでそれを止める者がいた。先程まで、物珍しそうに周囲をきょろきょろ見回していた志度と心視である。

 

「どうしたのいったい」

 

「さっき聞いた話だと、この部屋はツインルームって言う二人用の部屋らしいじゃんか」

 

「それで、私達に振り分けられたのは……二部屋」

 

「……それで?」

 

 比乃が至極どうでもよさそうに半目になって聞くと、ふたりはバッと身構えた。

 

「どっちが比乃と同じ部屋で寝るか、じゃんけんだ!」

 

「……負けない」

 

「あ、僕が一人で寝るって選択肢はないんだ」

 

 別に比乃自身は一人でも構わないのだが、そんな彼の思いを無視して、二人が「最初はグー!」と対決の火蓋を切った。

 

 微笑ましく見守る従業員の前で、見た目中学生二人の争いは続き、十回に及ぶあいこの末、勝利したのは――

 

 

 

「勝負は……勝負だから、しかたないけど……変なことしたら……殺す」

 

「変なことってなんだよ?」

 

「何言ってるの心視は」

 

 それじゃあおやすみと、敗者である心視は無表情のまま、若干、無念そうに肩を落として、すごすごと隣の部屋へ入って行った。

 

 それを見送ってから、比乃と志度も自分達の部屋に入る。中はそこそこ広く、清潔にされていた。日本のホテルと変わりない部屋に荷物を置き、習慣として部屋の中を簡単に調べる。盗聴器の類は見つからなかった。

 

 何かあるかと思っていた二人だが、少し拍子抜けした。今度は備え付けのテレビを着けてみる。当然のことながら番組は全てロシア語で、内容はさっぱりわからなかった。ベッドの脇の本棚に差し込まれている新聞も同様であった。

 

 それきりする事が無くなった比乃が「それにしても」と、話し始める。先ほど同期二人がしていた勝負についてだ。

 

「心視、そんなに一人部屋が嫌だったのかな……そろそろいい年なのに、寂しがりだなぁ」

 

「……心視、不憫な奴」

 

 相変わらずの比乃の言動に、志度が同僚を憐れむように呟く。更に言えば、後で二人きりで説教をすると言っていたのを、比乃はすっかり忘れているのだが……それを一人、部屋のベッドの上で心待ちにしている心視は、本当に不憫極まりなかった。

 

「窓開けられるんだ。ここは外国らしいね」

 

 そんな彼女のことなど頭から抜けている比乃は、手に抱えていた戦闘外衣を羽織り、ベランダに出て「お、昼は曇ってたけど夜空が綺麗だ」とか言っている。

 

「そういえば志度、カラシン中尉にやられちゃったみたいだけど、そんなに強かったの?」

 

 比乃と同じように外衣を羽織ってベランダに出てきた志度に聞く。デブリーフィテングでは、事務的な損害状況や戦況の推移に関する話ばかりで、あまり具体的に聞けなかった話題だった。志度は「あー」と頰をぽりぽり気不味そうにかいて、

 

「強いというか、手強いというか、何て言えばいいのかなぁ。こっちが粘り負けしたって感じだった」

 

「志度が粘り負けるなんて相当だね」

 

「それと、向こうさんの方が戦いを楽しんでたっぽいし、その辺りで優劣が出たかもなぁ」

 

「あー、宇佐美さんと同じタイプか、それはまた」

 

 強かっただろうなあ、と比乃は呟いた。あの手の、俗に言う戦闘狂というのは、戦闘を、つまりは自分が楽しむために鍛錬と訓練を積んで行く。

 

 楽しむことばかりを優先して、実戦で生き残れないとなると意味がないのだが、それでも死なずに生き残って戦い続けると、彼らのような人種は研ぎ澄まされた刃物のようにどんどん強くなっていくのである。

 楽しむということは、それだけ重要なのだ……それが仇となる場合も、勿論ある。

 

「そっちこそどうだったんだよ。エリツィナ中尉だっけ、だいぶ苦戦したみたいじゃんか」

 

 志度に聞き返されて、比乃も「あー」と同じような声を漏らして、夜空を見上げながら、模擬戦の内容を思い返す。

 

「そうだね……あの人は強かった。今回が模擬戦で良かったと心から思うよ。実戦だったら殺されてたね、間違いなく」

 

 咄嗟の判断力と思い切りの良さ、そして、極め付けはあの格闘技能の素晴らしさ。美しい戦い方とは呼べないだろうが、戦いの為の技術として鮮麗されたものがあった。自分には足りていない技術だ。いつか手に入れなければならない。

 

「フォトンスラスターが無かったら、負けてただろうしなぁ。お見事としか言いようがないね。ナイフ捌きとか、あそこまで攻撃的なのは初めて見たし、初めて体験したよ」

 

 実際、スラスターの有無という機体性能の差がなかったら、比乃は呆気なく負けていただろう。そう断言できるほど、エリツィナ中尉の技術は高かった。その境地に至るまで、どれだけの修羅場を潜ってきたのだろうか、未だ十八の身では、想像することしかできない。

 

 話を聞いていた志度は「ふーん、比乃の相手も強かったか」とぼやく。

 

「スペツナズは伊達じゃないってことを思い知らされたよなぁ、お互い」

 

「まったくだね。僕も中尉を見習って、もっと経験積まないと」

 

「ま、次やったら負けないけどな」

 

 そう言い切ってみせる同僚に、比乃は苦笑で返した。それから、食事をルームサービスで取ったり備え付けのシャワーを浴びたりして、就寝しようとベッドに入った所で、志度が指摘した。

 

「ところで比乃、なんか心視に話があるって言ってなかったっけ?」

 

「…………あっ」

 

 隣のベッドに収まっている志度にそう言われ、比乃はようやく、心視に説教をするという先約を思い出した。慌ててベッドから飛び起きて、隣室の前へと向かい、扉をノックする。

 

 部屋の中から「……どうぞ」という、心視の不機嫌そうな声がして、比乃は背中に冷たい物を走らせながらも、扉を開けて中に入った。

 

 自分の部屋とレイアウトが全く変わらない部屋のベッドの上、寝間着姿で髪を解き、女の子座りで待っていた心視が、今さっき察した通りの、明らかな不機嫌顔で比乃を出迎えた。

 

「比乃……遅すぎ、忘れられたかと、思った」

 

「ごめん、正直言うと忘れてた」

 

 枕が飛んできて、比乃の顔面にぼふっと直撃した。そこからは、心視に説教するはずが比乃の必死の謝罪と弁明から始まり、とても彼女を叱るような雰囲気ではなくなってしまった。結果、先程志度としていたのと同じように、ベッドの上で模擬戦の振り返りをすることになり、睡眠時間が削れることになったのだった。

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