自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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胎内の猛毒

 生徒達が窓際でざわついている間に、廊下から多数の物々しい足音が聞こえて来たかと思うと、扉がばんっと開け放たれた。

 

 窓に張り付いていた生徒達が一斉に振り返る。そこに居たのは、黒い目出し帽に黒いジャケットと言う、全身黒尽くめの服装をした男達であった。それだけであれば、この学校の生徒達もそこまで慌てなかっただろうが、その手には散弾銃やライフルが握られている。

 

 これには流石に、二年A組の生徒と言えど動揺せずには居られない。輪にかけて騒つく生徒達に向けて、銃を構えた男達の内一人が、代表するかのように告げた。

 

「我々は特殊特別特権を守る会である! 当高校は堕落仕切った日本人の象徴とも言えるべき学び舎であると判断された為、我々が占拠する、抵抗は無駄である!」

 

(堕落仕切ったというか)

 

(変な人が多いだけと言うか)

 

 メアリとアイヴィーがヒソヒソとそのようなことを話していると、紫蘭が「ぐぬぬ……」と悔しげに呻いた。そして一歩踏み出すと、ばっと腕を振って、

 

「貴様達の狙いはいったいなんだ! 学校を占領することだけが目的ではあるまい!」

 

 そう声を張り上げた紫蘭に、銃口が一斉に向く。周囲のクラスメイトが、小さく悲鳴をあげて離れたりするが、当の本人はそんなことなどお構い無しに、向けられた銃口を睨み返している。その恐れ知らずな態度に、男達は目出し帽越しに不敵な笑みを浮かべる。

 

「中々気丈なお嬢さんだ……いや待て、その顔、見たことがあるぞ……」

 

「小隊長、此奴はあの森羅財閥の令嬢ではないかと思われます」

 

「なにっ、あの我が祖国の企業をいくつも潰し、我が者顔で商売をしているというあの大財閥の?!」

 

 小隊長と呼ばれた男が、部下からの話を聞いてぎょっとして彼女を見た。会話と言葉の訛り、それと団体名で、相手がどこの国の人間か察した紫蘭は、呆れた様子で訂正する。

 

「いや、あれはそっちの国が企業巻き込んで自爆しただけだし、むしろ我が父が救いの手を差し伸べて救済までしたのだが」

 

「ええい黙れ黙れ! しかし、貴様のような人質に最適な人間が居たとは、何たる行幸」

 

 言って、くっくっくっと一人で笑っている男に、生徒達は「こいつら下調べとかしてこなかったのかよ」紫蘭と同様の呆れた目線を向けたが、テロリスト達は気付かない。

 

 逆に、今の言葉で紫蘭とメアリは、互いに気付いたことがあった。彼らの当初の目的は、自分達の拉致などではない。むしろ、突発的な作戦の上で、この学校占領騒ぎが行われているのではないのだろうか。となれば、以前に自分達を拉致しようとした連中の残党と言う線は消えたと見るべきだろう。

 

「ともかく、貴様らにはしばらく、この教室で大人しくしていて貰おうか。全員、席につけぇ!」

 

 教師のようなことを言いながら、見せびらかすように銃を振り回す男達に、生徒達は一先ず従うことにした。相手は四人程度だが、全員が手に銃を持っているのである。抵抗のしようがなかった。

 

 そうして、全員が自分の席に着いた所で、テロリストの男が「んん?」と怪訝そうな声をあげた。

 

「おい、そこの三席。空いてるのは何でだ」

 

 男はその空席を指差して「説明しろ」と銃を向けて近くに居た男子生徒に銃口を突きつけた。怯えた男子生徒と、他の生徒達がそちらを見る。

 そこは比乃、志度、心視の席であった。先程まで居たはずなのだが、気付けば何処にも居ないのである。それに気付いた生徒達も怪訝そうに顔を見合わせる。そこで、再び紫蘭が声をあげた。

 

「そこの三人は流行り風邪にかかって欠席している。そうだな、メアリ」

 

「……ええ、そうなんです。そこの三人は昨日から学校に来ておりません」

 

 そう言って、二人は周囲に目配せする。すると察しが良い彼ら彼女らは口を揃えて、

 

「そうそう、比乃達は酷い風邪ひいたから休みだって先生が言ってたよな」

「三人揃って同じ時期に病気になるなんて、本当に仲良いわよねぇ」

「ああ……そういう少し弱い所も、あいつの魅力の一つだぜ」

 

 と、二人の説明を肯定するように言った。男はそれらを聞いて少し思案したが、

 

「まぁ、そういうことなら問題ないか。確かにこの時期の風邪は恐ろしいからな」

 

 特に深く考えずに納得してしまう。紫蘭は見えないように机の下でぐっと小さくガッツポーズをした。あの三人のことだ。テロリストが学内に侵入してくる直前に、教室を脱出して隠れたのだろう。となれば、その内反撃に出るはずだ。だが、

 

(相手は銃器を持っている上に、このマンモス校を占拠できるだけの大人数……どうする、比乃)

 

 姿を消して虎視眈々と機を伺い、何かしでかそうとしているであろう自分の護衛を案じるように、紫蘭は内心で呟いた。

 

 その直後、校内放送用のスピーカーから、聞き慣れない男の声が響いた。

 

 ***

 

『――よって、まずは我が同士らの釈放。それから組織運営費用として一億五千万円。そして逃走用の足を用意させるつもりである。要求が通るまで学内の学徒諸君には忍耐強く堪えてもらうことになる』

 

「……と、意味不明な供述をしておりってかな?」

 

 二年A組の教室から少し離れた所にある男子トイレ。その一番奥にある個室の一室で、比乃、志度、心視の自衛官三人組は、スピーカーから流れたテロリストの要求をBGM代わりに、作戦会議をしていた。

 会議内容はずばり「咄嗟に隠れたけど、この後どうする?」と言った内容だった。

 

 比乃の機転で、クラスメイト達が窓際に集まっている間にこっそりと教室を出て、トイレの中に隠れたまでは良かったが、その後、具体的にどうするかは決めていなかったのである。

 

「ゲリラ戦を仕掛けて相手を撹乱するとか?」

 

「……一人ずつ始末して、ひっそりと、テロリストを殲滅する……とか」

 

「どうして二人揃って好戦的なの……あっちには大勢の人質がいるんだよ? それにちらっと見たけど、銃火器で武装してる上に大人数。素手で挑むには状況的にも戦力的にもちょっときついかな」

 

「それじゃあ、見す見す奴らの蛮行を見逃せっていうのかよ」

 

「それは……ちょっと……」

 

「二人の言いたいこともわかるんだけどね、実際問題、情報不足もいい所だし……」

 

 ともかく、情報を集めなければ反撃に出るにしても、このまま待機しているにしても判断がつけられない。

 そう比乃が言って、二人がうーんと腕組みをして首を捻ったその時、トイレの入り口が開いた音が聞こえた。

 

 三人は一斉に気配を隠す。足音は一人だけ、そして「なんで俺だけトイレ探索担当なんだよ……ったく」とブツブツ文句を言いいながら、入り口側から個室を一つ一つ開けて行っているのが、音から察知できた。どうやら、相手は単独のようである。

 

 志度と心視がハンドサインで「やるか?」と提案し、比乃が指で「OK」のサインを出した。

 

 そして扉が開け放たれ、中肉中背の黒尽くめの男の姿が見えた次の瞬間、志度と心視が開け放たれた獣のようにその男に飛び掛った。

 

 男が拳と蹴りを食らって昏倒するのを見届けた比乃は「向こうから情報源を寄越してくれるなんて、親切だなぁ」と皮肉げな笑みを浮かべた。

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