自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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恐るべき高校生たち

 先程までと変わらず、下手に突入するわけにも行かず、学校外を包囲していた警官隊。

 その現場指揮を任せられている警部は、自身の腕時計を見て、相変わらずの不機嫌さを隠さずにぼやく。

 

「あの連絡からもう三十分は経つが……動きなどないではないか」

 

 警部の脳裏では、いっそのこと、少数精鋭で突入をかけてしまった方が良い気がしてきていた。持久戦に持ち込んでしまおうかとも考えたが、それでは人質になっている生徒達がどうなるかわからないし、自棄になったテロリストが何をしでかすかわからない。

 

 しかし、潜入させるにしても、相手の戦力がはっきりしない。下手をすれば返り討ちに合う可能性も有り得る。

 

 刑事の頭の中で、潜入と持久戦が乗った天秤が揺れている。そして、近くに居た部下に相談を持ちかけようとしたその時。

 学校外に設置されている外部スピーカーからノイズ音が鳴ったかと思うと、男の声が響いた。

 

『わ、わかった! 言う! 言うからやめてくれ! ……そ、それは本物を揃える資金が用意できなくて、仕方なく用意した偽物だ。モデルガンだよモデルガン! ……言う、言うよ! 本物は一丁もない! ……リーダー……放送室を占拠してる!』

 

 途切れ途切れながらも、しっかりと大音量で流されたそれは、警官隊全員の耳に届き、その意味を察するには十分な内容であった。無論、警部にも。

 

「これが、通信にあった解決の糸筋か……」

 

「警部、突入の準備は完了しております!」

 

 部下が意気込んで告げる。警部は通信機を受け取ると、学校を包囲している突入部隊全員に告げた。

 

「各部隊、突入!」

 

 ***

 

 その頃、二年A組の教室では、

 

「おい、今流れた放送って……」

「マジかよ。あれ、偽物か?」

「確かに、よく見たらちょっと玩具っぽいような……」

 

 校内にも流された放送を聞いた生徒達が口々に、自分達を拘束していたテロリストへと注目した。

 その視線に、テロリスト達は思わず狼狽え、後ずさる。それがいけなかった。生徒達の顔には、もはや恐怖ではなく、怒りが浮かんでいた。

 

「てめぇら、偽物の銃で俺達を脅かしてたのかよ!」

「さいてー!」

「それより森羅たんとメアリたんをどこにやったんだよ!」

 

「そうだ、あの二人はどうしたんだよ!」

 

「メアリに何かあったら、貴方達許さないからね!」

 

 次々と席を蹴立てて立ち上がる生徒達、そして詰め寄ってきた晃とアイヴィーを前に、テロリスト達はそれでもモデルガンの銃口を向けて、

 

「だ、黙れ黙れ! 今の放送が真実だと思ってるのか?! 大人しくしないとこの銃が火を噴くぞ!」

 

「「「うるせー!」」」

 

「二人を返せ、この野郎!」

 

 晃が忿怒の表情でテロリストの男の顔面に殴りかかり、続いてアイヴィーが側にあった椅子で隣にいた別の男の頭部をぶっ叩いた。

 それを皮切りに、他の生徒達もわっとテロリスト三人に殺到する。テロリスト達は哀れ、銃を取り上げられて、ボコボコにされる。

 

「吊るし上げだ吊るし上げ! ひん剥いてやれ!」

「本当に玩具じゃないのよこれ! よくも私達に舐め腐った真似してくれたわね!」

「二年A組舐めんなごらぁ!」

 

「や、やめ……ご、ごめんなさい! 許してください!」

「やめて! ズボンを脱がさないで!」

「た、隊長、至急救援を、救援をー!」

 

 テロリストの一人がボコられながらも通信機に向けて悲鳴をあげるが、無情にも、返答は返ってこなかった。

 

 ***

 

 放送室では、テロリストの通信機から流れてくる悲鳴を聴きながら、比乃が満足気に手にしている携帯端末を弄んでいた。

 

 比乃の立てた作戦とは至極単純。録音しておいた、尋問したテロリストが漏らした情報を、学校の外部と内部の放送で、警察と生徒達に知らせることだった。

 警察に知らせるのはともかく、生徒達に知らせる意味はあったのかと思われるが、ここは生憎にも普通の高等学校ではない。歓天喜地高校である。

 

『だ、誰か助けてくれ、触手が、触手がー?!』

『はっはっは、改良を重ねるに重ねた人工筋肉触手から逃れられると思うなよ!』

 

『筋肉が、筋肉が押し寄せてく……うわあああああ』

『ふん、偽りの武力を持たねば力を示せぬ弱者が』

『我々の持つ真の力、それ即ち筋肉の前に』

『恐れひれ伏すがいい!』

 

『や、やめろ! それをこっちに近づけ……火をつけるんじゃない!』

『なんだおめぇ邪魔すんな! 芸術は爆発だぞ!』

『流石っす先輩! 導火線の準備は万端っすよ!』

 

『た、助けください! こいつら、何故か胴上げしてきて、天井にぶつかへぶっ』

『『『わーしょっい! わーしょっい!』』』

 

『な、なんだそのメスと怪しげな道具は……やめろ、近づくなぁ!』

『貴様は我々によって最強の存在に生まれ変わるのだ!』

『神にでも悪魔にでも好きな方に祈りなサーイ!』

『さぁ蘇るのだ! この電撃で!』

 

『な、なんだこのヤンキー?! 動きが見えなごふぇっ』

『あ゛あ゛、よくもうちの学校に手ェだしてくれやがったな? 覚悟しろよてめぇら』

 

 とまぁ、通信機からは各クラスで起きている阿鼻叫喚の様子が流れて来ていた。それを聞いていた紫蘭とメアリ、心視は「うわぁ……」という顔をして、

 

「日比野さん、この学校の事よくわかってらっしゃるのですね……」

 

「いや、あいつらならやりかねないとは思っていたが」

 

「……予想、以上……というか、志度、ほっといて、よかったの?」

 

 学校内での騒ぎを引き起こした張本人である比乃に、少女三人の無言の抗議の視線が突き刺さる。

 作戦とは言え、想定以上に生徒達が大暴れしているのも確かであった。比乃は気不味そうに目線を逸らしながら、携帯端末を机に置くと、空いた両手をパンッと合わせて、

 

「ま、まぁ作戦が上手く行ってよかった! 警官隊も突入を開始したみたいだし、みんなの暴走騒ぎもいずれ落ち着くよ。それに、志度だって追いかけっこしながらテロリスト倒してるよ。多分、きっと、メイビー……」

 

 無理やり綺麗に纏めようとしている比乃に、三人は冷ややかな表情のまま、

 

「生徒暴走の主犯が何か言ってますね」

 

「生徒達の騒ぎはお前の仕業だろうが」

 

「というか、比乃の作戦……結構、行き当たりばったり?」

 

「うぐっ……」

 

 三者三様の言葉が突き刺さり、比乃はがっくり項垂れる。

 

「まぁ、日比野さんが無茶をするのはいつもの事ですから、それは置いておきましょう。まずは教室に戻らないと」

 

「うむ、警察が来た時、我々がここに居ると、後々面倒なことになりそうだからな。特にひびのんと心視は」

 

「はい……撤収」

 

 三人は項垂れる比乃を置いて、さっさと放送室から出て行ってしまった。

 一人取り残された比乃は、携帯端末を手にとって、八つ当たり気味に、床に転がっているテロリストのリーダーに蹴りを入れると、自身も足早にそこから去って行った。

 

 比乃が立ち去った放送室。そこで気絶させられずに縛り上げられて床に転がされていたテロリスト二人が、ぼそぼそと話した。

 

「……俺達、どこで間違えたんだろうな」

 

「……この学校を占拠した辺りじゃないか」

 

 それから数分後。放送室に重武装の警官隊が突入してきて、部屋に残されていたテロリストら一味は無事確保された。

 

 ***

 

 事の顛末。

 当然と言えば当然であるが、テロリストをボッコボコにしていた生徒全員が、現場に来ていた警部からお説教を食らうはめになった。しかし、くどくどと長ったらしく説教をする警部を前にしても、彼ら彼女らの表情は、どこか清々しい物があったという。

 

 また、一部のテロリストが「金髪と白髪と黒髪のチビにやられた」と供述したが、殆ど相手にされなかった。真実味が薄いというのもあったし、ある人物の根回しが良く効いていたこともあった。

 

 結果として、警官隊に比乃達がやったこともバレずに済み、廊下やトイレで拘束されていたのは、間抜けなテロリストが学校の生徒に逆襲されたということで片がついた。

 

 メディアの報道も、今世紀最大の人数が人質となった大事件のはずなのだが、間抜けなテロリストが大騒ぎを起こした程度と、かなり控えめに報道されたのみであった。一時はワイドショーを賑わせたが、一週間もすると報道もなくなり、人々の記憶から忘れさられていった。

 

 そういう訳で、歓天喜地高校に突如として訪れた非日常は、次第にいつもの大騒ぎの一つに数えられるようになったのだった。

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