自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~ 作:ハの字
比乃から連絡を受けた部隊長は、夜というのにも関わらず、夜勤担当以外にも集められるだけの人員をかき集めた。
電話口で怒声と共に起こされた士官が、まだ少し眠そうに会議室へと入り、席に着く。一部は寝足りないとばかりに船を漕ぎ始めたが、
「うちの最年少組が未曾有の危機だ」
席が埋まったことを確認した部隊長の一言で、全員が意識を覚醒させた。自分達の子供同然の隊員の危機と聞いて、それでも気だる気になっているような者はここには居ない。
ピタリと、その場に集まった全員の視線が、自分に向いたのを見て、部隊長はもう一度、先程より詳細に語る。
「簡潔に説明しよう。いつもの三人組と観光客、修学旅行の学生一同に我が国のVIP、国賓が宿泊しているホテルに爆弾が仕掛けられ、剰え脅迫を受けている。つまり命の危機が迫っている。のべ百は越える民間人を救えるのは、我々しかいない」
「……警察隊は?」
前席に座っていた佐官が、小さく挙手しながら問う。本来ならば、この手の、AMWが絡まない事件は自衛隊よりも警察が対処すべき事案である。が、部隊長は首を振り、
「すでに俺から直接連絡を入れた。しかし、敵の規模と装備がはっきりしない上、今から御用提灯を光らせながら駆け付けるのは悪手と判断された。そして、隠密行動が行える者は、この沖縄には少なすぎるそうだ」
部隊長の言葉を理解した士官達から「また東京に持ってかれたのか」「地方軽視も嘆かわしいな」という愚痴が漏れる。すると、また別の佐官が質問した。
「それで、相手の要求は」
「日比野三等陸曹の身柄だそうだ。応じなければホテルを爆破する、とのことだ」
それから、部隊長は比乃から知らされた情報と、彼からの推測を自分なりに解釈した説明を行う。
士官達が「またあいつか」「どんだけヒロイン体質なんだ」と口々に感想を漏らす。
「今現在の沖縄周辺の情勢と、こちらが集めている情報から、今回の敵が数ヶ月前の日比野拉致犯と同一とは考え難い。当時の相手の目的も不明だったが、あえて予想するならば、我々への挑戦と言えるだろう」
「挑戦……ですか?」
「挑発と言ってもいい。どこから情報を掴んだのかは知らないが、あいつがこの駐屯地の自衛官であり、そして俺の身内であることを知っての脅迫だろう。それ以外に、あいつ個人を狙う理由がない。もし、これがただの身代金目当てのテロならば、もっと狙うのに的確な目標がいる」
ほぼ十割予想と言える内容であったが、状況からはそうとしか考えられないためか、士官達の大多数は「なるほど」と納得した。だが、それを聞いてなお、まだ納得できかねない。というよりも、どうしようもないという諦めに近い表情を浮かべた者が、挙手して意見を述べた。
「そこで自分達の出番と……しかし、我々とて忍者ではないのです。今回のような隠密任務や、爆弾処理を行える技能を持った隊員がいません。それどころか、専門の訓練を受けた者だっていないのです。それでどうしろと」
この、第三師団に一番新しく配属された佐官が悔しげに言う。彼の言う通り、第三師団は本来対テロにおいては裏からスマートに攻めるのではなく、正面から行ってストレートでぶん殴ることを専門とした部隊の集まりなのである。
今回のような隠密性と、爆弾処理などと言った専門性を必要とする作戦には向いていないのだ。
けれども、部隊長は「なんだ、そんなことか」と事も無げに返すと、集まった一同をもう一度見渡して、
「専門の訓練は受けてないが、個人的に鍛錬を積んだ者はいるだろう。忍び足と隠れんぼが得意な隊員に心当たりがある奴、手を挙げろ。夜勤シフト中なら尚良しだ」
すると、集まった士官の内の三分の一程が手を挙げた。
「一佐、うちの若いのに、サバイバルで誰にも見つからなかった隠れんぼの達人がいます。五分で呼べます」
「我が隊にも、小柄で影が薄くて足音がしない、生きてるのか怪しい隊員がおります。夜勤なので、存在していれば来るはずです」
「うちにも、目を離したらすぐ居なくなる。サボりのプロがおりますな……近いうちに性根を鍛え直してやろうと思っておりましたが、こんな所で役に立つ時が来るとは」
「私の班にも――」
などなど、あっという間に、部隊長が雑に数えただけで十数名の推薦が上がった。
部隊長は満足気に「流石は俺の部下だ。変人ばっかだな」と頷く。
「しかし、問題の爆弾はどうしますか。流石に資料も何もない状況で解体するのは……」
「この前のように、設置場所が割れたらTkー7で掴んでぽいというのはどうだ?」
「起爆装置を相手が握っている状況下で、AMWで接近は流石に困難でしょう。あれは爆弾が時限式かつ稚拙だったからできたことですし」
「ならどうする」
と、勝手に爆弾の処理に関することを話し始め、勝手に紛糾し始めた士官達に、部隊長が大声で告げた。
「それなら心配ない!」
その言葉に、その場にいた全員が「え?」という顔になって一斉に部隊長の方を向いた。そして、その意味を理解した士官らが「まさか」と口を揃える。
「いるだろうが! ここに爆弾のプロが!」
「いえ、それは流石に……」
「うるせぇ! 俺が行く!!」
それから部隊長を説得しようとする者、代案をなんとか絞り出そうとする者、実力行使に出ようとして部隊長に一蹴される者と、会議室は大騒ぎになった。
「致し方ないとは言え、前代未聞過ぎですが、今回は日野部一佐が現場指揮と取り、爆弾処理も行うということで……ただしストッパー役は付けさせていただきますからね。一人でハリウッド映画みたいなことしないでくださいね。絶対ですよ? 振りじゃないですよ? わかってますね?」
乱闘に巻き込まれて眼鏡のフレームを歪ませた、生真面目そうな風貌の二佐が、話をまとめた。
部隊長は歳に似合わない、ニカッとした笑みを浮かべて言った。
「おう、任せておけ!」
つまり、そういうことになった。
こうして、これまで自衛隊史上例を見ないであろう、師団長自らが敵地に潜入するという、ファンタジー過ぎる作戦がスタートしたのである。