自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~ 作:ハの字
「迂闊だったか……各機、損傷報告」
島の山岳地帯で地下基地入り口をこじ開けたスペツナズの二個小隊は、窮地に立たされようとしていた。
煙の向こうから撃ち放たれた弾丸の雨から機体を逃がしたアバルキンが、部下たちの状態を確認する。
『Gonchaya2、被弾しましたが問題ありません。まだ動けます』
『同じくGonchaya4被弾。右腕部がもげました。ですが戦闘続行は可能です』
報告を受けて、そちらを見る。第二小隊であるGonchaya、猟犬を意味する名前を与えられた小隊の、二番機と四番機が被弾していた。どちらも中破と言える損傷だ。パイロットは強がっているが、戦闘に耐えられるようには見えない。
「駄目だ。Gunchaya隊は損傷機をカバーしつつ後退、戦闘は我々で引き継ぐ」
『しかし!』
食い下がる部下に、少佐は諭すような口調で告げる。
「外から見ればわかる。そのダメージでは戦闘は無理だ。敵機が出てくる前に、お前たちは連合軍のいるポイントまで後退しろ、こんな南の島でお前たちを殺すわけにはいかん。いいな」
『……了解、申し訳ありません』
「謝るな、早く行け。Gunchaya1、部下を死なせるなよ」
『わかってますよ。ご武運を』
被弾していなかった機体が損傷機に肩を貸すと、素早く身を翻してその場から離れる。その背中を守るように、アバルキンたち第一小隊、Okhotnik――猟師の名を持つ彼らが展開し、土煙の中に銃口を向ける。
『さてさて、出てくるのはどんな化け物ですかね』
『何が相手だろうが、粉砕するまでだ』
『データにあった指揮官機の類でしょうか、用心は必要ですね』
カラシンは軽口を言い、エリツィナが強気を隠さず、グレコフが用心深く呟く。
土煙が晴れ、そこから現れた敵機に、アバルキンは呻いた。
「これは、まずいかもしれんな」
破壊された鉄扉から現れたのは、大柄な人型だった。ペーチルよりも重装甲に見える角張ったシルエット。緑を基調とした緑黄迷彩。その両手で、大型のガトリング砲を携えている。その機体の頭部、複眼のカメラが、アバルキンたちを捉えた。
『へぇ、お相手はスペツナズさんかいな。そら一撃で全滅させられんはずやわ』
かなり訛りの強い英語の、飄々とした男の声。小隊各機がライフルを向けるのと同時に、相手もガトリング砲を構え直した。
『ほな、楽しませてもらおうかいな』
円状に束ねた砲身がモータで高速回転し、爆発的な連射速度で砲弾を放ってきた。横薙ぎのように小隊全体を攻撃するそれに、各機は堪らず跳躍して回避運動を取る。四機が同時に応射し、正確な射撃が四角い機体の装甲を叩くが、貫徹しない。
「特殊装甲持ちか!」
テロ組織の幹部機が、そのような装備を持っているという情報は上から得ていたが、実際に目にすると理不尽極まりない。しかも、敵はその上で大火力の面制圧火器を装備しているのだ。遮蔽物がないこの地形では、回避し続けるのも限界がある。
それでも、AMWが携行できるガトリング砲なら、弾数はそれほど多くないはずだ。リロードの隙を着くか、あるいは、
「いくら弾幕が張れようが砲門は一つだ! Okhotnik2、3は側面へ回れ、Okhotnik4、狙い所はわかっているな!」
アバルキンが即座に指示を飛ばす。各機から『了解』と返事が来て、少佐の思考をトレースしたかのように、指示通りの的確な立ち回りを見せる。
『おーおー、流石はスペツナズ、良い動きをするやないの』
言いながら、敵機はアバルキンに狙いを絞ってきた。指揮官を真っ先に潰すのは戦闘のセオリーだ。相手も馬鹿ではない。だが、
「なめるな……!」
これが鈍足な輸出仕様のペーチルであれば、回避など叶わずにぼろ雑巾のようにされていただろう。しかし、本国仕様、装甲という分厚い贅肉を持ったモンキーモデルを、そのままマッシュアップしたかのような、鍛え上げられた戦士の如き、その黒い機体は違った。
疾風のように右へ左へ、弾幕を潜り抜けて敵機目掛けて駆け抜ける。牽制代わりに効かないライフルを連射して、自身へ注意を引きつける。
『よく動くやんけほんとに……!』
敵が苛立ったように、ガトリングを執拗にアバルキン機に撃ち続ける。その間に、両サイドへ回ったOkhotnik2、3。カラシンとエリツィナが、同時にグレネードを発射した。目の前に集中していた敵機は、もろに直撃を受ける。だが、それで撃破できないことなど百も承知。
またも爆煙が上がり、敵機が見えなくなる。目眩ましを食らった相手は射撃を中断した。これでもこちらも狙えない。しかし、そこにグレコフ機が放った狙撃は、的確に敵機のウィークポイントを撃ち貫いた。
それはすなわち、ガトリング砲の弾倉である。機体の装甲を相転移化していても、銃火器にまでその防護は及んでいないと考えたのだ。そして、それは正解だった。
砲弾を受けた弾倉の内部、満載していた炸薬が引火し、起爆。砲弾が凶悪な破壊力を持った破片として、熱と衝撃と共にぶち撒かれ、グレネードの爆発と同程度かそれ以上の破壊力を生じさせた。
『これでやられてくれれば楽なんですがね』
「そんなわけがあるか」
どこまでも楽観的な部下の軽口に返して、全機が油断なく銃口を煙の中心に向ける。次の瞬間。コクピットに照準警報が鳴った。
「っ!」
反射的に機体を右へ跳躍させる。横倒しになったアバルキンの機体の真上を、大型の砲弾が飛んでいった。回避していなければ、胴体に大穴が空いていた所だ。
『面白いやんけ、俺も本気出させてもらうで』
煙の中から姿を現した敵機は、全身を変貌させていた。装甲だった部分が組み上がるように変形し、大蛇のように首をもたげている。その数は四本。頭部らしき部分には、大口径の砲口が覗いていた。
その根元にいる人型は、最初の印象とは真逆の、細いシルエットになっていた。どうやら、あの装甲は全て、この大蛇を構成するパーツだったらしい。
『おいおい、いつから怪獣映画になったんだよ』
『なんだこの下手物は、ナンセンスだ』
『本物の化け物退治になってきましたね……』
そのAMWなしからぬ姿を見て、部下がコメントする。得体の知れない相手でも、特に気後れしている様子はない。アバルキンは少し安堵して、渇を入れる。
「各機、相手が化け物だろうが兵器だろうが関係ない! このまま押し切るぞ!」
部下たちは即座に『了解』と返し、戦闘機動を開始する。対する敵機は『さぁさぁ、楽しませてくれや!』と吠え、四本全ての砲身をバラバラに構えると、砲撃を開始した。