自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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第十章 第四話「結末を迎える者たちについて」
正義と正義


 発見した入り口から数機だけ出てきた無人のペーチルを、難なく撃破したTk-11とTk-7改二は、そのまま地下へ続くゲートを潜った。

 中に入ると、先ほどのペーチルが上がってくるのに使ったのであろうAMW運搬用のエレベータを発見。比乃は少し考えてから、それを短筒による砲撃で床ごと破壊する。すると、崩れた床にぽっかりと穴が空いた。

 

 態々、機体の外に出てコンソールを操作し、エレベータで丁寧に降りてやる必要などない。途中で止められたら面倒だし、敵にエレベータを使っていることを察知されたら元も子もない。なのだが、

 

「そんなことを気にしなくても、もう気付かれてるかな」

 

「……多分」

 

『その割には、迎撃が薄いよな。どういうつもりなんだかな』

 

 志度が言外に「罠なんじゃないか」と言っている。けれども、ここで足を止める理由はない。

 

「さてね……でも、進むしかない。行くよ」

 

 これが罠だとしても、自分たちには突き進む選択肢しかない。先ほどから、比乃は脳裏にざわつくものを感じている。これが何らかの予兆だとしたら、一刻も早く元凶を叩かなければならない。そんな気がするのだ。

 

 それは心視と志度も同じようで、比乃の指示に黙って従った。二機のAMWが、装備されているワイヤーアンカー“スラッシャー”を駆使して、地の底へと続いているような、深い深い縦穴を、慎重に、できるだけ急いで降りていく。

 

 壁面へとスラッシャーを突き刺し、重力に任せて降下。また突き刺して降下、と繰り返して、二機は懸垂降下を行う。この手の作業は、日本の機士ならば訓練課程で嫌というほどやらされる。手慣れたものだ。そのおかげで、降下するのに苦労はしなかった。

 

 それから僅か十分経たずで、三人は広い空間へと到達する。頭部だけを穴から覗かせて、周囲を目視で警戒してから、何も居ないことを確認すると、そこに降り立った。先ほどから、センサーがまったく役に立たないのは、すでに承知していることだ。

 

 最低限の照明が灯っている、広々とした、何もない空間。コンクリートが剥き出しで、機材や資材も何もない。何のための場所なのだろうか、と視線を巡らせると、今降り立った場所から数百メートル先に、もう一基のエレベータが見えた。どうやらここは、昇降機の中継地点らしい。

 

 ここまでかなりの深さまで降りたはずだが、それでもまだ奥があるということらしい。しかし、比乃はそれよりも気になっていることがあった。

 

(いまだに迎撃もなし……誘い込まれてる?)

 

 自分が相手の立場なら、こういった場所にこそ、待ち伏せの戦力を配置する。侵入者を叩くには絶好のポイントのはずだ。だが、実際には敵機も、敵兵もいない。照明があるということは、廃棄されたわけでもない。ならば何故、こうも無防備に放置されているのか。

 

「解せないね……どういうつもりなんだろう」

 

『ま、楽に奥までいけるのはいいじゃねぇか、さっさとラスボス倒しに行こうぜ』

 

「この先にラスボスがいる保証は無いけどね」

 

 と言いつつ、比乃は確信めいたものを感じていた。脳に埋め込まれた何かが、神経を通じて、自分に訴えかけているのだ。“この先に何かがある”と、チリチリと焼き付くようなそれを、振り払うように頭を振る。

 

「とにかく、行けるところまで行くよ」

 

 今は進むだけ進むしかない。この感覚が正しいにせよ間違っているにせよ。直接確認しなければならないのには変わりないのだから。そうして機体の足を進めて、次のエレベータに向かい始めた。そのとき、

 

 《接近警報 六時方向 数三》

 

 AIが警告してきて、二機がばっと振り返って武装を向けた。近距離でならなんとか動作するセンサーが捉えた相手は、ちょうど今、比乃たちが降りてきた縦穴から“ゆっくりと”降下してくるところだった。

 

「ここにきて……」

 

「また、こいつら……」

 

『いい加減しつこいよなぁ』

 

 油断なく武装を構えるTk-11とTk-7改二の前に降り立ったのは、忘れもしない。もう何度目の邂逅となる、三体の西洋鎧だった。色は白、緑、紫。一年前、自分の足を奪い、ハワイでも苦戦させられた、忌々しい敵。

 

 即座に迎撃するか、どうするかと逡巡する比乃たちを前に、降り立った西洋鎧は、まるで比乃たちが居ることがわかっていたかのようだった。そして、自身の武器を構える前に、手のひらをこちらに向けた。比乃が怪訝そうに、心視と志度に「攻撃、少し待とう」と指示する。すると、相手が外部スピーカーで話し始めた。

 

『あんたら、自衛隊だよな。しかも、これまで何回か俺たちと戦った』

 

 若い少年の声だった。自分たちと同じくらいの年齢のように感じられる。比乃は少し驚いたが、OFMからの実質初めてとなる接触に応えるため、外部音声をオンにする。何らかの情報が得られるかもしれない。

 

「そうだけど、君たちはいったい何なの? これまで散々、ちょっかいを出してくれたけど」

 

『俺たちは、正義の味方だ』

 

「……は?」

 

 正義の味方、という単語を聞いて、比乃も心視も志度も、一瞬、自分の耳を疑った。

 

 これまで、世界中で紛争に武力介入し、場を掻き乱して荒し回り、何なら正規軍にさえテロ紛いに喧嘩を売ってきた連中が、よりにもよって、正義の味方を自称している。その事実を認識するのに、数秒かかった。その間にも、少年の声が続く。

 

『俺たちはただ、世界の平和を守りたいだけなのに、どうして国を守るはずの自衛隊が邪魔をするんだ。どうして平和を乱す戦いを繰り返す。どうして……俺たちの仲間を殺すんだ。教えてくれ』

 

 話を聞いた比乃は、HMDの下で目を閉じた。わかった。わかってしまった。このOFMを扱う奴らが、どのような奴らで、どうしてあんなことをしていたのかを、理解できてしまった。なので、答えた。

 

「理由は簡単だよ――お前たちこそ、世界の敵だからだ」

 

『な、なに……?』

 

「散々、平和を乱しているのはどっちだ? 考えの伴っていない、分不相応の力を得て、自分が全知万能の力を持ったと勘違いして、することが世界中で暴れまわること、それで挙げ句の果てには、正義の味方ごっこをしてると公言するなんて、聞いて呆れる」

 

 言ってから、比乃は確かな殺意を持って念じた。機体がそれを受け取り、全身の武装を敵に向けた。

 

『そ、そんなこと、俺たちは世界を救うために戦って……!』

 

 まさか、そんなことを言われるとすら思っていなかったのか、反論しながら狼狽える西洋鎧の言葉も無視して、獰猛な笑みすら浮かべた比乃は宣言する。

 

「そんな奴らは、ここで始末する。世界平和のためにね」

 

 次の瞬間、正規軍所属の機体が“自称”正義の味方に襲いかかった。

 対OFM用でもある装備をしたAMWが二機。更に搭乗者は同じ相手を何度もしている熟練兵だ。ここまで条件が揃って、負ける道理がなかった。

 

 相手が最後にあげた断末魔は「なんで」だった。今し方切り伏せた残骸に向けて、比乃は淡々とした、感情の籠っていない口調で答える。

 

「お前たちみたいな奴が、僕は大嫌いだからだよ」

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