自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~ 作:ハの字
エピローグ
東京。中央即応軍、第八師団駐屯地。
気持ちの良い風と、日差しが降り注ぐグラウンドの一角。比乃は一人、乗機であるTk-7改二の肩に座り、黄昏れていた。周囲に人影はなく。一人きりで、思考に耽る。
あのテロ組織本拠地攻撃から、もう半年が経つ。その間に、色々なことがあった……とは言ったが、それらに比乃が関わることはあまりなかった。軽傷だった心視と志度はともかく、あの作戦で重傷を負った比乃は、数ヶ月の療養が必要となったのだ。
退院自体は一ヶ月ほどで出来たが、こうして、駐屯地に来て任務をこなし始めたのは二ヶ月ほど前からである。
けれども、入院している間は、昔に両脚を失ったときと同じか、それ以上に騒がしかった。今回は自衛隊病院ではなく、東京の普通の総合病院に入ったので、まず、学校の友達が揃ってお見舞いにきた。
事情を知らないクラスメイトには、テロに巻き込まれたことにしておいたので、なんとか誤魔化せた。が、訳を知っている学友からは、こってりと絞られることになった。晃と紫蘭には、また余計な心配をさせてしまったと、比乃は反省した。
学校へは退院後すぐに通えるようになり、これまで以上に過保護になった幼馴染み二人と、いつものメンバー。相変わらず騒ぎを起こすクラスの皆への対処に追われる日々に、変わりはなかった。
掛け替えのない日常に戻れたことへの感慨を感じていると、ふと、朝に見たテレビのニュースの内容を思い返す。
あの作戦以来、世界中で起きていた大規模武装テロは、発生頻度が大幅に低下したのだ。世間には、テロリストの拠点を撃破したとだけ報じられ、詳細は全て非公開となった。各国の思惑が一致した結果だ。
世界平和のために歩もうとは、国家戦略上はあまりに馬鹿げた言葉だが、今はそうするしかないのだ。国と国との喧嘩をするにはまず、お互いに共通の敵を叩き潰してからでなければならない。
比乃がこれまで関わり、共に戦った国々の状況も好転していた。
英国は、ついに軍の再編成が形となり、クーデターの残党も完全に消滅した。テロリストも居なくなった今、平和を取り戻したと言えよう。
米国も南部に居座っていたテロリストの拠点を軒並み排除し終えたという。政府は、軍に治安維持活動に注力するように指示したと報じられている。
ロシアに関しては、相変わらずきな臭い話が絶えないが、国内での大きなテロはなりを潜め、兵器の横流しを行っていた主犯格が一斉に検挙されたという。
世界は、確実に良い方向へと向かおうとしている。あの大規模作戦で失われた人、物、それは沢山あるけれど、それでも、前代未聞の連合軍は、世界の平和を勝ち取ったのだ。
左腕、“動かすと僅かにモーターの駆動音がする”それを無造作に動かしながら、比乃は空を見上げる。今の心境を表すかのような快晴だ。
そういえば、比乃の知り合いたちと言えば、各々で変化があったり、なかったりした。
メアリとアイヴィー、それにジャックの三人は、変わらず日本の、はんなり荘に住んでいる。父親、英国の国王とは相当揉めたらしいが、メアリ曰く「半端なところで引き下がるのは信条に反する」とのことで、晃を巡って紫蘭と決着をつけるまでは、日本に居座るらしい。付き合わされるジャックは大変だ。
アイヴィーも、そんな親友に付き添う形で残ったようだが、本当は、彼女自身にも目的があるらしい。その目的までは教えて貰えなかったので、比乃にはわからなかったが、彼女のそれが達成されることを応援しようと思った。
米国のリアに関しては、なんと、再び結ばれた日米軍事同盟のために決定された技術交流の先駆け部隊として、日本に赴任することになったらしい。
具体的にどこの駐屯地に配属されるかは、比乃が聞いても教えてくれなかったが「絶対に追いついて、隣に立てる立派な女性になる」とメールに書かれていたので、もしかしたら、近くの駐屯地に来るのかもしれない。
そして、比乃の幼馴染みにして、長年の付き合いである同期。心視と志度は、
「おーい、比乃-、部隊長が呼んでるぞ-!」
「ご飯……みんなで食べに行く……約束」
「剛さんと宇佐美さんも待ってるから、早く来いよ!」
いつの間にかTk-7の足下に来ていて、比乃を見上げてそう叫んでいた。最近、背が伸びて自分と同じか……認めたくはないが、自分よりも背が高くなった二人を見下ろして、比乃は立ち上がった。
「今行くよ!」
機体の装甲の上を、軽やかに降りながら、比乃は思う。
テロが減っても、自分たち、自衛官の出番は無くならない。学校でも、頑張って友達を守らないといけない。国際交流もしなくてはいけない。ちょび髭の上官の機嫌もとらなくてはいけない。
とにもかくにも、自衛隊のロボット乗りは、大変なのである。
〈自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~ 完〉
これにて本作は完結となります。ご愛読、ありがとうございました。
もし、少しでも本作に感じられるものがありましたら、評価と言う形で作者に伝えて頂けると幸いです。