自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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上官と東京バナナ

 沖縄方面第三師団、それは日本国内における西部防衛の要である。

 その役目は、侵入してきた……あるいは“自然発生”した、警察では対処出来ない『癌』を、物理的に排除することである。その特性故に、災害救助などよりも戦闘に特化した部隊だ。

 

 多数のAMWを戦力として有し、所属する自衛官はほぼ全員が実戦経験済み。

 構成している隊員は、人殺しと敵性存在の駆除を完全に区別仕切っている者しかいない。相手がテロリストであれば、見た目が普通の青年であろうと、そこら辺の主婦であろうと、容赦なく淡々と吹き飛ばせる。そんな冷酷で殺伐とした集団だ。

 

 その部隊の総本山である駐屯地の中央に聳える三階建ての司令部の中。この部隊において最上位の地位を持つ駐屯地指令がいる一室に、先ほど空港から駐屯地まで帰還した比乃が「失礼します」と入室した。

 

 室内は若干広い執務室になっていた。その部屋の奥、執務机の向こう、この部隊の長である男が机の前で直立不動姿勢で佇む比乃に背を向けたまま口を開いた。

 

「まずは出張ご苦労……で、土産の東京バナナは?」

 

 そんな場にそぐわないことを言うと、椅子ごとくるりと回転して、その男性は比乃と対面した。

 

 胸に飾りの略章が並んだ緑色の制服に、七三に別けられた髪型にちょび髭が目立つ、五十歳前後に見えるその男。日野部(ヒノベ)一等陸佐は、比乃がそれらしき紙袋を持っているのを見て「おおっ」と表情を崩す。

 

「でかしたでかした、最近は爆発物警戒とかで通販も碌に使えないからなぁ、やはり直接お使いを頼むのが確実だ」

 

「任務のついでにお使いを頼むのやめてほしいんですけど、(日野)部隊長(ぶたいちょう)

 

「いいじゃあないか、俺とお前の仲だろ、ん?」

 

 この駐屯地で常用されているあだ名で呼ばれたのも気にせず、東京土産を受け取って嬉しそうに早速封を開け始める初老の上官と、それを見てため息をつく若すぎる部下。

 これが第三師団、別名「狂ってる師団」を纏め上げる駐屯地指令だと、このやり取りを見て思う人間はほぼいないだろう。

 

「んでだ、向こうの技研が作ったオプション装備はどうだった?」

 

 部隊長が話題を切り出した。オプションとは、Tk-7の特徴である拡張性を担う装備群のことである。

 

 比乃が東京で行っていた本来の任務は、その拡張装備を、東京都内にある技本でテストすることであった。

 今回テストした装備、AMWを短時間飛行させるスラスターのテスト結果はレポートとして提出済みだが、部隊長は直接比乃の口から感想を聞きたがった。比乃は少し考える素振りをして、

 

「移動用としては悪くないと思いますよ……ただ戦闘機動で使うには大きすぎるのと、稼動部が脆すぎてデットウェイト状態ですけど、近接格闘戦になった場合、腕部の稼動範囲に干渉するかもしれません」

 

 と率直な意見を述べた。言外に「戦闘中は切り離して使ったほうがマシ」と言っていることを察した部隊長は菓子を一度机に置く。

 口ひげを弄りながら手元のメモに「要改良」と書き込み、その下につらつらと比乃が上げた問題点を書き込んでいく。

 

「んー、なるほど、まぁうちの肉弾戦担当が言うならそうなんだろうってことで、こっちの技研にはそのまま伝えとくぞ。完成したらまたテスト頼む」

 

 こっちのとは、沖縄にある方の技研である。陸上自衛隊技術研究所、略して技研は日本各地に点在し、それぞれが分野毎に日夜装備の研究開発を進めている。

 

 メモに一通りのことを書き終えると、封を開けた菓子を再度手に取り「うまいうまい」と食べ始める。また一つ食べ終えると、部隊長はデスクの引き出しから書類を取り出して比乃に手渡した。

 

「お前が東京に行ってる間の小隊日報その他色々だ。一週間分だが、ちゃんと読んどくように……お前がいない間、あいつら寂しがってたぞ? この仲良しさん共め、訓練が落ち着いたら土産話でも聞かせてやれよ。特に、お前の同期二人は、沖縄からほとんど出ないからな」

 

「お前の話を期待して待ってるぞ」と、おちょくるような言い方をして、にやりと笑う。

 対して比乃は書類を受け取ると、それについて特に何か言うこともなく短く「了解しました」とだけ返した。そしてさっと敬礼すると、そのまま回れ右をして素っ気無く出て行ってしまった。

 

「…………むぅ」

 

 部屋に残された部隊長は、無言で今しがた食べ終えた菓子袋をくずかごに放り込むと、デスクから今さっき届いた、東京でやらかした件が書かれた始末書のコピーを取り出し、空いている片手で器用に次の袋を開けながら、少し寂しそうに呟く。

 

「まさか、反抗期か?」

 

 ちらりと見た本棚には「正しい息子との付き合い方~思春期編~」と記された分厚い指南書があった。

 その隣の空きスペースに同シリーズの反抗期編が加わったのは、それほど遠いことではなかった。

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