自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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空挺降下

「海外にコネがあるくらいだし、空自にも顔が効いて当たり前か」

 

 数日前、部隊長から一度駐屯地に戻って来てくれないかと言われた比乃は、特に断る理由もなかったので快諾した。そんな彼と同僚二人は今、航空自衛隊のお世話になりながら、沖縄へと向かっている途中である。

 

 カーゴブロックに三機のTkー7を積んだ輸送機の中で、比乃が呟いたその言葉に、志度と心視も同感だと頷く。

 

「空自の人達が迎えに来た時はなんだと思ったけど、習志野駐屯地の空挺部隊とかも空自とセットで運用されてたりするし、仲が悪いわけでもないもんなぁ」

 

 人間の空挺部隊と同様に、AMWにも空挺部隊が存在し、第一師団で実際に運用されている。自衛隊の中でも唯一の空挺部隊だった陸上自衛隊空挺団から、AMW登場適正がある者、逆に空挺適正があった機士科の人員を掻き集めて作られた部隊である。

 

 急拵えながらも、その技量は高い。空挺作戦を行えるだけでなく、戦闘技術も自衛隊内トップクラスの、スーパーエリート達。もしも、安久と宇佐美が部隊長に引き抜かれていなかったら、間違いなくここに所属していただろう。

 なお、今もこの二人を引っこ抜くことを諦めきれない部隊もあって、ちょくちょく、部隊長と各人事部で熾烈な攻防戦が成されているのだが……閑話休題。

 

 考えてみれば、東京に行く際にも三人のTkー7を空輸で運ばれたのだから、空輸されることは今更驚くことでもない。どちらかと言えば、その電話の後に届いた指示書の方に問題があった。

 

「でも……Tkー7も運ぶってことは、機士としての任務があるってこと?」

 

「それがはっきりしないんだよね……まぁ、とりあえず今から一仕事あるけど」

 

 心視にそう答えて、比乃が二人にも見えるように指令書を見せる。そこには数行、この状況下で行う作戦内容と予定日時、人員などについて簡単に記されているだけだった。これを何故行うかなどは、書かれていない。

 

 三人揃って「うーん?」と首を傾げていると、ターボファンエンジンの音を鳴り響かせ、川崎Cー2輸送機は沖縄本島上空に進入した。

 少し古いが、それでもAMW、Tkー7であれば最大五機空輸可能で、更に民間機並の速度が出る(軍用の大型輸送機は総じて足が遅い)ので、採用から数十年経った今でも、この機種は自衛隊で重宝されていた。

 

 乗務員用のキャビンの中で、AWM用の黒い操縦服に着替えていた三人は、部隊長から送られて来た指示書を再度見直して、顔を見合わせた。

 

「思うんだけど、これやったとして実践する機会なんてあるのかな。僕らの任務的に」

 

「だけど、空港で普通に降りるよりは面白そうだぞ。意図は不明だけども」

 

「……第一師団の大変さを、身を以て知ってみよう……とか」

 

「「それだ」」

 

 心視の意見に、二人はポンと手を打った。

 

 *   *   *

 

「えっほ、えっほ、えいほっほ」

 

 ゴリラのような声でリズムを取りながら、第三師団機士科所属の筋肉マン、大関三等陸尉は、日課のランニングを行なっていた。揺れる巨体から迸る汗が、なんとも健康的で、むさ苦しい。

 

 第三師団駐屯地には、決まった訓練カリキュラムを終えた機士に対して、自主訓練用に解放されているグラウンドがある。そこを十数キロ分も走った大貫は、畳んで用意していたタオルで汗を拭って「さて、次はお待ちかねダンベルだ」とトレーニングルームに向かおうとした。

 

「うん?」

 

 今入ろうとした建物の窓ガラスが震え出して、頭上から独特の重低音が聞こえて来た。大型航空機がこの駐屯地のすぐ側を飛行しているらしい、大関は少し怪訝そうな顔をして

 

「はて、輸送機が来るなんて連絡は受けていないが」

 

 通常、大型の輸送機や航空機が低空で近辺を通る場合は、その影響、特に騒音などの関係で、事前に通過地域の関係施設には連絡が入るようになっている。しかし、今日、この時間に輸送機が低空でやって来るという話は、大関は聞いていなかった。

 

「おーい大貫、輸送機が来るなんて朝礼で言ってたっけか?」

 

「輸送機ー? 初耳だなぁ」

 

 先にトレーニング施設に入っていた、同期の大貫三等陸尉にそう声をかける。彼も怪訝そうに「なんだなんだ、折角筋肉がリラックスしてるってのに、台無しだぜ」と、持っていたダンベルを置いて外に出て来る。

 

 二人が空を見上げると丁度、視界に大型輸送機、航空自衛隊のCー2が入った。よく見ると、後方の貨物ハッチが開いている。そこから、三つの人影――否、機影が、順番に飛び降りた。

 

 大きさは七、八メートル、長方形を組み合わせて人型にした機体が一機。その後ろから、装甲の上に空挺用のパラシュート、エアジャケットを装備した二機が続く形だ。

 

 太陽が眩しい青空に、二つの白丸が広がった。なんと、先に降りた一機はパラシュートを開いておらず、自由落下している。

 

「空挺訓練があるなんて朝礼で言ってたっけか」

 

「初耳だなぁ」

 

 二人が眺める先で、グラウンドで同じように訓練していた自衛官達が「馬鹿が降りて来るぞ!」「聞いてねぇぞおい!」と慌てて退避している。

 

 降りて来ている側も、まさか降下先に人がいるとは思っていなかったらしく、自由落下していたTkー7があわてた風に手足をばたつかせた。かと思うと、腰の辺りが光瞬き、機体を急転換させて、人がいない所へと進路変更した。後から続く二機も、器用にパラシュートのライザーを動かして移動してみせた。

 

 そして、一機目の腰から伸びるスラスターが何度か光ると、逆噴射を掛けられた機体がどんどん速度を失って行き、前転受け身を取って地面に着地した。

 

 それに続いて、地上から数十メートルの所でパラシュートを切り離したもう二機も着地し、ずしんと重い衝撃音を鳴らした。その際、少しバランスを崩して『おっとっと』と言った感じにバランスを崩しかけて、なんとか立て直した。

 

 三機のTkー7の着地地点は見事にバラバラで、派手ではあったが、優雅とは言えない登場だった。大関はその様を見て「うーむ」と渋い顔で唸る。

 

「下手くそだな、富士の教導か空挺団でも降りて来たのかと思ったが」

 

「三十点ってところか……ありゃあ違うな、というか」

 

 機体の肩に施されたマーキングを見た大関が「あれ、もしかして比乃達じゃないのか」と言って、ほれと大貫に指で示してみると、大貫も「お、ほんとだ」と同意した。

 

「仕掛け人は部隊長か、とんでもねぇ里帰りさせるもんだ」

 

「サプライズにしては過激過ぎるな……なーに考えてんだか、あのちょび髭」

 

 呆れた風な二人の前で三機のTkー7が降車姿勢を取り、頭部を後ろにスライドさせた。そこから出て来た、数ヶ月ぶりに見た後輩三人を見つける。

 

「ま、元気そうでなによりだな」

 

「全くだ」

 

 ともかく、この騒ぎの説明をさせようと、すでにグラウンドにいた自衛官達に囲まれ、頭を小突かれている三人の元に向かうのだった。

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