自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~   作:ハの字

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保護者の実力

「流石に無理させちゃったかしら」

 

 メイヴィスは、シュワルツコフと比べると、かなりすっきりしたレイアウトのコクピットの中で、一人呟いた。

 タッチモニターを兼ねた表示計には「Railgun overheat」の文字が表示されている。接近される前に敵を仕留める必要があったとは言え、問題を抱えた装備を連続で使用するのは、かなりの博打だったと言わざるを得ない。

 

 この機体、XM8は、リアのXM6とコンペティションが行われている試作機である。その姿形は、XM6と酷似しているが、一つだけ、大きな違いがあった。

 

 それは、腰の両側に懸架されている二門の小型電磁加速砲である。これは去年、Tkー9三番機が実戦で使用した、試作電磁砲の発展型と呼べる代物だった。世界各地で猛威を振るい始めたOFMに対抗するために開発されたそれは、正に特効兵器だった。

 

 しかし、小型化に伴う無理な設計には問題点が多い。特に、メイヴィスが懸念していた砲身の冷却、放熱装置は、その最たる物であった。もしかしたら、今の使用で自爆していたかもしれない。いつの間に頬を垂れていた冷や汗を拭う。

 

「……何はともあれ」

 

 無事、敵機の迎撃は成功した。しかし、あの基地に有効な対抗兵器が少ないからと言って、単独で先行したのは、軍人としては失格であることは自覚していた。部下を持ち、規律を重んじるべき立場だと言うのに、恥ずべき行為をしたとも言える。

 

 この後、駐屯地に戻ったら、日野部大佐からのお叱りは謹んで受けよう。メイヴィスは、ため息をついて帰投しようとした。その時、彼女の第六感とも言える部分が警告を発した。

 

 まだ終わっていない――

 

 次の瞬間、パッシブセンサーがアラートを鳴らした。直後、森林から飛び出した虹色の西洋鎧に、メイヴィスは目を見張った。先ほど撃破した二機と違い、地を駆けるそれが、手にした銃剣を構えて突進してくる。

 

damn(くそっ)!」

 

 思わず叫んで、XM8は横っ飛びに放たれた光線を避けた。彼我距離は四百メートル、さらに接近する敵機。

 メイヴィスは迷わず、腰のハードポイントから高振動ブレード――日本のものとは違い、両刃になっているそれを引き抜いた。そして、一瞬で距離を詰めて来た相手の刺突を、横に弾いて凌いだ。

 

 バックステップをして一度距離を取り、大きく踏み込んで斬りかかると、相手もフェンシングのような構えを取って、銃剣の横っ腹で高振動ブレードを弾いた。再び構え直す間も無く、西洋鎧の蹴りがXM8の胴体に入り、機体が吹っ飛ぶ。

 

「くっ……」

 

 余りの衝撃に一瞬意識が遠のいたが、なんとか堪え、機体を転倒させずに立て直させる。相手の姿勢が悪かったのか、損傷は軽微だ。装甲が若干凹んだだけで済んだ。

 

「やるわね」

 

 先ほど撃破した相手とは格が違うことを良く理解したメイヴィスの目が、駐屯地に居た時にはなかった狂気的な光を帯びる。久々の本気だ、腕は鈍っていないだろうか。否、これまで行って来た訓練を信じるのが軍人としての基本だ。殺れる。

 

 一方で、ラブラドライトの中のニコラハムは、相手の身のこなしと、事前の調べから、相手がかの有名なメイヴィス・ヴァージニア・スミス少佐であることを看破していた。しかし、その名声を知っていても負ける気はさらさら無かった。アメリカの野蛮人にこの私が劣るはずがないと、過剰なまでの自信と相手に対する侮蔑の念を抱いていた。

 

 XM8がブレードを順手に構え、じりじりと摺り足で間合いを詰める。西洋鎧も、銃剣をレイピアのように、手の甲を上にして柄頭を手首の上に乗せるように構えた。

 

 メイヴィスは分析する。西洋剣術? 相手はこの国の人間ではない。もしかしたら、イギリスのクーデター軍が関与しているのかもしれない。となれば、怖いのは突きだ。防御し難くい上に、致命傷になり易い。

 

 冷静に分析しながら、敵に斬り掛かった。脇を締めて隙を最小限にした斬撃。西洋鎧がバックステップでその切っ先から逃れ、そして想定した通りの刺突がXM8に迫る。これを強引に横に跳ねることで避けると、今度は横から再度斬りかかる。

 

 米軍におけるAMWの、八メートルというサイズと車両以上の機動力を持つ兵器同士の近接格闘戦は、ヒットアンドアウェイが基本だ。一撃、二撃しては距離を取って、相手の反撃を避ける。そして相手が体制を整える前に再度攻撃する。

 メイヴィスの戦い方はその基本を高レベルで実践していた。基本に忠実な分、堅牢で隙がない。

 

 しかし、対するニコラハムも、その啄ばむような攻撃を避け、時には剣先を搦め捕ろうと蛇の様に動き、相手の離脱が少しでも遅れれば突きを見舞う。まるで、数世紀前の剣闘士のような動きで対抗してみせていた。

 

 ブレードと銃剣が幾度となく打つかり合い、弾き合い、交差する。ニコラハムはコクピットの中で「粘るなぁ野蛮人!」と興奮気味に叫ぶ。

 

 機体性能はこちらの方が上。技量も聞いているよりも大したことないではないか、所詮は野蛮人の作った機体、恐るるに足りず! ニコラハムは、自分の操る機体のポテンシャルに酔っていた。

 スピード、パワー、反応速度、全てがこれまで乗っていた、カーテナなどとは比べものにならない程に優れている。

 

 更に、武器の性能も通常兵器とは桁が違った。幾度目かの打ち合いで、XM8の高振動ブレードの刀身が、ばっさりと切り飛ばされた。メイヴィスは素早くブレードを捨てると、生身の格闘家のように構えを取り、鋭いキックを見舞った。西洋鎧の右腕を打ち据えたそれが、銃剣を弾き飛ばす。

 

 互いに武器を失う。一瞬の間の後、今度はどちらともなく組み合った。XM8のナックルガードが西洋鎧の顔面を殴り飛ばす。お返しとばかりに、西洋鎧がフェイントを織り交ぜて振るった拳が、青い機体の肩装甲を弾き飛ばした。XM8の右腕が大幅に機能をダウンする。

 

 更に追撃のパンチ。メイヴィスは殴り飛ばされた勢いのまま機体を倒して、相手に風のような足払いを食らわせた。西洋鎧の身体が一瞬宙に浮く、そこに蹴りを入れようとしたが、逆にメイヴィスを衝撃が襲った。

 

 失念していた、OFMは浮遊しているのだ。足を払った所で効果は薄い――驚異的なバランス感覚で放った蹴りを受けて、XM8は吹っ飛ばされて、背中から地面に落ちた。

 メイヴィスは声にならない呻きをあげながら、計器を見やる。電磁加速砲の項目に《cooling(冷却)complete(完了)》の表示。

 

 相手は素手のまま襲いかかってくる――今っ。

 

 腰の片側の砲塔が瞬時に展開、小刻みに動いて照準。轟音が鳴り響いて、土煙が舞い上がった。一撃必殺の破壊力を持った弾丸が、驚異的な速度で反応し、斥力場を発生させたラブラドライトを捉える。斥力場を出していた左腕を破壊した。

 

「逸らされた……!」

 

 連続使用で出力が落ちたか、ならば次の手を、とメイヴィスはもう片方の砲身も展開。至近距離まで迫った相手にもう一撃を発射した。しかし、今度は相手の胴体を掠めただけだった。膨大な運動エネルギーの余波で、西洋鎧の装甲と搭乗席外周の殻に大きな亀裂が走ったが、敵は止まらない。

 

 そのまま腕を振り上げ、倒れているXM8のコクピット目掛けて振り下ろして来る。

 

「くっ……!」

 

 その手刀を、なんとか動く右腕を盾にして防いだ。手刀が恐ろしい音を発て突き刺さり、みしみしと音をたてて、装甲と内部の駆動系を破壊しながら、胴体装甲をそのまま押し潰そうと迫って来る。

 

「終わりだ野蛮人!」

 

 自身の勝利を目前にニコラハムが狂乱的な叫び上げる。そうだ、私はこれだけの実力を持っているのだ。これまでの敗北は、何かの間違いか不運によるものだ。私は強い、強い、強い……!

 

 西洋鎧の搭乗者の狂気に押されて、XM8の胸部装甲が限界を迎えつつあった。もう少しで、メイヴィスの身体が押し潰されてしまう。モニターのいくつかが暗転し始める。一般的なAMW、Tkー7であれば、すでに操縦者は死を待つだけになっていただろう。だがしかし、米国製の制御系等の頑丈性は、そこら辺の機体とは格が違った。

 

「ふっ……!」

 

 半分ほど視界を失ったXM8の中で、メイヴィスはのし掛かる相手の胴体、砕けて内側が露出している部分に猛然と膝蹴りを見舞った。硬い手応え、相手を退かすには至らなかったが、それで充分だった。装甲は完全に剥離し、内側の円形の装甲、ひび割れたコクピットが露出している。

 

 左腕に内蔵されていた、内蔵型高振動ナイフ。XM6と同型の、通常のAMW相手でも関節部を狙わなければ有効打にならない程に小降りなそれが、駆動音を発てて起動。

 

「行けぇっ!」

 

 僅かな逡巡もなく、その最後の武器を、露出した円形のコクピットに叩きつけた。メシャッと、硬い物を砕いた音と共に、中身に目掛けて、刀身が突き進む。そして、あれほどの狂気を放っていた西洋鎧は一瞬だけ震えて、XM8に覆い被さった姿勢のまま沈黙した。

 

 メイヴィスを押し潰そうとしていた腕が止まり、破砕音も止まった。三秒ほど、メイヴィスは目を見開いたまま固まっていたが、ようやく瞬きをして、今度こそ戦闘が終わったことを認識した。

 

「…………はぁ」

 

 安堵の深いため息をついて、西洋鎧を押し退けようとしたが、機体が反応しない。どうやら、制御系にまで損傷が及んでいたらしい。あと一瞬でも反撃が遅かったら、メイヴィスは死んでいただろう。

 

 メイヴィスは辛うじて生きていた通信機の電源を入れて、忿怒の声で捲したてる部隊長に、一言二言の謝罪と、迎えが欲しいという旨を伝えて、通信を切った。

 

 そして、横倒しになっている座席に仰向けに倒れこみ、目元を手で覆う。少し濡れていたことに気付いて、それを誤魔化すように呟く。

 

「……始末書、何枚書かないといけないのかしら」

 

 まさか、いい歳をした軍人が恐怖で泣いたなどと、誰にも知られたくなかった。

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