天の道をヒロアカで往く男   作:913

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今回、遂にサナギ体にぶっ刺された生徒くんの正体が判明します!
パラレルワールドでなく正史の世界線で絡ませたいという願望と、シンプルにライダーの人数が少ないという問題を解消するために登場させてみました!

本当は彼を出すのはもっと後半でもいいかなと思ったのですが、長いようで割と短いヒロアカのストーリーにちゃんと絡ませるには序盤で登場させないと出番がなくなっちゃうのでご理解いただけると幸いです。

最後の方には花から花へ渡る風も吹くので、お楽しみいただけたら幸いです!



本編と違うところ紹介<渋谷隕石>

かつて渋谷を崩壊させた隕石とその衝突による天災全般を指す場合が多い。
この隕石によって襲来した生命体”ワーム”は、ある勇敢な男の信念と犠牲によって完全に駆逐されたと考えられていたが・・・

現在も落下場所は「不明の物質が検出されている」という建前の上で封鎖されているが、それは不用意な情報漏洩による社会の混乱を防ぐためである。
そのため公安や政府、プロヒーローであってもこの”エリアX”及びその心臓部である”エリアZ”へ立ち入れる者はいない。
また、人工衛星等で確認することも不可能なため、他国は日本が何らかの秘密を隠蔽しているのではないかという疑いを持っているようだ。

この作品では最終決戦の被害はエリアX内だけに留まっており、加賀美陸の制止によりZECTが世に公表されることは無かった。
また、人間をネイティブに変える装置が配布された際は公安委員会が直々に過激なヴィランによる「新たな個性を強制的に植え付ける兵器」を撒くといった内容のテロであると説明した。









変わり始めたシナリオ

 

 

ワーム襲撃の明くる日、2年A組の生徒達は彼の病室を訪れていた。

その表情は例外なく暗いものだったが、ベッドに横たわる彼だけは穏やかな笑みを浮かべている。

 

「そっか、アイツ等は異星人だったのか。知らないことってまだまだあるもんだなぁ・・・あ、声小さくてごめんな?どうも無理に喋るとすぐ血痰吐いちゃってさ。」

 

彼は至って明るくそう告げるが、友人達は相変わらず黙ったまま俯いている。

 

「おいお前等、そう暗くなるなって。俺はこうして生きて喋ってんだから、そんな葬式みたいな顔すんなよ。あれだけの怪我して助かっただけでも上出来だろ?」

 

「・・・本当に辞めるのか?」

 

声こそ掠れているものの元気よくそう告げる彼だったが、天喰が独り言のように呟いた一言を聞くと表情が一瞬だけ曇った。

しかし、すぐに元の表情に戻ると声色をそのままに

 

「辞めるって言うけど、別に雄英を辞めるわけじゃない。ヒーロー科から普通科に移るってだけだ。会う気になればいつでも会える距離にいるよ。」

 

と言って笑ってみせた。

 

 

彼の”個性”は肺活量を断続的に増加させられるというものだった。しかしワームに攻撃された際に肺を傷つけられた影響で”個性”の使用が不可能になってしまっただけでなく、激しい呼吸や長時間の運動もできなくなってしまった。

もはや”無個性”かつ動くことすらままならない体になってしまった彼は、先日自らの意思でヒーロー科を退くことを選んだのである。

 

 

「もう一度考え直さないか?俺達も全力でサポートするから、最後までヒーロー科として過ごしてはくれないか?こんなところで君と袂を分かちたくないんだ!」

 

「今日まで毎日助け合ってきた君がいなくなったら、俺は耐えられないくらい辛くなる。

それに、ここで引き止めなければ一生後悔が残りそうなんだ。折角の君の覚悟を侮辱することになってでも言わせてほしい・・・帰って来てくれ・・・」

 

「ねえ、去年クラス皆で約束したの覚えてる?卒業したら全員プロデビューしてビルボードのトップ20占領しようぜって言ってたの。一人でも欠けちゃったら約束守れないよ・・・」

 

ミリオが、天喰が、ねじれが。クラスの全員が彼を引き止めようと、必死に言葉を紡いでいく。

涙を滲ませながら自分へ温かな言葉をかけてくれる仲間を前にした彼の目にもまた、涙が溢れていた。心配かけぬようにと堪えていたそれは、気づけば頬に筋を描きながら止めどなく流れ続けている。

 

「お前等って本当に優しいな・・・ありがとよ。でも・・・」

 

級友の言葉に2年間の思い出が蘇り、感情という絵の具が理性のキャンバスを塗りつぶす。

思わず彼等の言葉に決意が揺らいでいくが、言葉を発する度に広がる苦い鉄の味がそれを許してはくれなかった。

 

「確かにヒーローは助け合って強くなるもんだよ。でも、俺はもう助けてもらうことしかできなくなったんだ。とてもお前等の力になんかなれやしない。」

 

「そんなことないだろ「それとも”無個性”同然の重症患者にも戦う方法があるって言うなら教えてくれよ・・・」

 

とっさに否定しようとした言葉は、淋しげな声にかき消された。

そのあまりにも答えるに至らぬ彼の言葉に、生徒達は押し黙ってしまう。その様子を見た彼は、乾き始めていた涙を力まかせに拭って目を伏せた。

 

「ごめん、ヤケになってキツイ言い方した・・・これからも応援してるからな、お前等のこと。俺の分まで頑張ってくれよ、親友・・・」

 

友人達は告げられた言葉にぎこちなく頷くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

日が暮れて、クラスメート達が帰った一人用の病室は静まり返っていた。

まだ新しいアナログ時計の秒針がコツコツと小気味良い音を刻んでいる。

 

彼はシミひとつ無い真っ白な天井へと腕をもたげてその手を見つめながら、静かに口角を上げた。

 

「想定外も想定外だが、、、”個性”が消えたくらいなら許容範囲としよう。ワームにZECTに仮面の戦士、これだけの手駒を使えばヒーローになるよりよっぽど楽に目的を果たせそうだ。公安が最高のタイミングで公表してくれたのも良かったな。」

 

そう言ってほくそ笑む彼の右手首には不格好な黒いブレスレットが巻き付いている。

ところどころに金色の装飾が施されたそれは、不気味な輝きを身に秘めたまま彼を静観しているようだった。

 

「縛りつけられっぱなしのこの世界は、俺が自由へ導いてやる。」

 

薄暗い病室に横たわる彼の名は、織田秀成。

彼が求めるのは果たして自由か、それとも・・・・・

 

時計は未だに時を刻んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その前夜、根津は彼の手術を担当した外科医とともにおでん屋の屋台にいた。

外科医が折り入って話があるというのでついて来た根津だったが・・・

 

「オヤジ、ハンペンもう一つ頼む・・・本日4人目の幽霊、ハハハ。」

 

「お客さん、天丼もいいとこですよ。」

 

当の本人は酔って今一つなギャグを披露しているだけである。

ついさっきまでの名医は別人なのでは無いかと思われるその外科医・・・若林龍宏に根津は一先ず声をかけてみることにした。

 

「あの・・・それでお話しというのは何でしょうか?」

 

「ああ、そうそうそうだった。あの子の怪我のことなんだけどね、私が見たところあれは単なる刃物による裂傷ではないと思うんだよねぇ、これがさ。

ああいう類の刺し傷を作るには木の枝みたいなこう・・・ひん曲がった歪な形の得物でグサぁっとやらないといけないはずなんだよ。そのくせして、傷口の断面は白刃で斬りつけたみたいに滑らかときたもんだ。」

 

「と、いいますと?」

 

根津がそう尋ねると、若林は目をほのかに光らせつつ手元の酒を飲み干した。

 

「ありゃあ、どんな”個性”の人間でも残せない傷跡。そうでしょう、根津さん?私には心当たりがあるんですよ。ああいう恐ろしいことができる奴にね・・・きっとソイツはああいう見た目をしてるんでしょうなぁ。」

 

若林はおでん屋の提灯に集まる夜光虫を指差しながらそう言った。

ただならぬ雰囲気に気を利かせたのか、おでん屋のオヤジは席を外している。

 

「・・・その存在を知ったのはいつ頃で?」

 

若林の言葉の意味を汲み取った根津が尋ねる。

若林は額に滲む汗を手拭いで拭きながら答えた。

 

「さぁ、一年以上前になりますでしょうかねぇ。あいつ等に襲われて、化けられて。最初は自分が増えたくらいにしか思わなかったもんで、その恐ろしさに気づいた時はもう遅かった。愚かにも、何人もの人達が命を落としたあとに私は気づいたんですね。医者もへったくれもありゃあしなかったというわけです。」

 

「そのあとは、どうしたんです?」

 

「そのあとは助けられたんです、勇敢な若者に。今でも思い出すものです。

それからというもの、私はあの化け物に襲われたであろう被害者の治療や検死に尽力してきた。そういったところでとても褒められた話ではありませんが、せめてもの償いにと思いまして今日までやって来たわけです。」

 

そう言うと若林は皿に残っていたはんぺんを思い出したように口に放り込んだ。

その背後の闇夜では、絶えず吹き去っていく風が落ち葉を虚空に舞いあがらせる。時刻は既に10時を回っていた。

 

「それで・・・結局私への話というのは?」

 

チリチリと音を漏らす裸電球を見上げつつ根津が尋ねた。

 

「余計なお世話かもしれないけれど、あいつ等の特徴を一つ教えようと思ったんです。その特徴っていうのは、人の心の”隙間”に入り込んで来るっていうこと・・・具体的に言えば、迷いだとか悩みだとか、あとは後悔とか。そういうのを利用してくる奴なんですよ。」

 

そこまで言うと若林は根津の方へと向き直りこう告げた。

 

「だからね、今最優先すべきは精神面での健康を整えること。思春期の子供達というのはそういう”隙間”がたくさんできる真っ只中にいるわけです。そうと分かればあいつ等は何度でもやってきます。それを守れるのはあなた方しかいない。・・・どうか、彼以上の犠牲者が出ぬようにお願いします。」

 

「なるほど、雄英高校の総力を持って生徒達を守りきりましょう。わざわざお時間をお取りいただきありがとうございました。」

 

「はは、いいんですよ。子供達の安全と幸福こそ一番の肴になりますから・・・。」

 

小さな屋台の明かりが照らす中、若林は店頭の電球を必死によじ登るシロアリを見やると、次のおでん種へと菜箸を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<天道視点>

 

俺はいつものように朝食作りに励んでいた。

炊きたてのご飯を茶碗によそっていると、あと少しで完成というタイミングをわかっていたかのように樹花がパタパタと階段を駆け下りてくる。

 

「今日の朝ごはんもグー!今日は凄い豪華なメニューなんだね、お兄ちゃん!もう食べてもいい?!」

 

「おいおい、まだ完成してないぞ?」

 

「だって待ち切れないんだもん!ねえ、もう食べていいでしょ?」

 

食べたくてウズウズしているであろう樹花を見かねて「よく噛んで食べろよ?」と台所越しに声をかけると「うん!いただきます!」と元気な返事が帰ってきた。

 

「このお魚美味しいよ〜!これって鱈だよね?」

 

「ああ、今が一番油が乗っていて上手い時期だからな。普通に焼くだけで十分に塩味が出て美味くなるんだ。」

 

(なんていい朝なんだろうか・・・これが神の特権というやつか?)

 

美味しそうに自分の手料理を頬張る最愛の人。何度繰り返したかも分からぬ日常の一コマだが、俺にとってはその一瞬が何にも増して尊い宝物だ。

 

いつだったか、毎月6日がサラダ記念日という何かを聞いたことがあるが、その理論で考えると俺の中にある記念日は既に365日分を簡単に超えるほど多い。今日の朝食だけで鱈記念日以下複数の記念日を今日に設定できてしまうのだ。

樹花の言う「美味しい」にはそれだけの価値がある。

それだけ重みがある言葉を毎朝かけてもらえるからこそ、俺の朝は幸せなの”ピンポ〜ン”

 

しかし、そんな淡い幸せが持つ意味を噛み締めていたのも束の間、間の抜けた玄関のチャイムが鳴り響いてくるのが聞こえる。

そんな幸せな記念日を引き裂きに来る者がすぐ近くにいることを一時でも忘れてはならないということに俺は改めて気づかされながら、重い腰を上げた。

 

 

 

 

「へえ〜天道達の存在を国が認めたねぇ。あ、素顔こそ出てないけどこの赤くて青い目したのが天道だよね。やっぱ天道は変身してたほうがカッコいいな〜。」

 

「”影の英雄は中学生!今年度雄英高校に入学が決定?!”って・・・完全に面白がって書かれちゃってるよ、お兄ちゃん・・・お兄ちゃん?」

 

玄関の先にいたのはやはり・・・というより、はなから分かりきっていたが拳藤一佳だった。

とうとう朝食までウチで食う気になり始めたのかと柄にもなく俺は絶望したが、拳藤の要件は朝食だけではなかった。(つまりは朝食も含まれていたのでアレだが。)

今朝の新聞やニュースで大々的に取り上げられた「ZECTの真実」について気になったので来たのだという。

 

 

「お兄ちゃん・・・頭熱い・・・」

 

「ああ、すまない!いつの間にか手癖が悪くなっていてだな・・・」

 

樹花越しに新聞を見ていた俺は、無意識のうちに樹花の頭へと伸びていた手をどかした。

樹花の髪型が若干崩れているところを見るに、随分と撫で回していたらしい。

取り急ぎ髪を結い直す俺を見た拳藤は「妹好きもここまで来ると病気だな」と苦笑いしていた。

 

否定はしない。これは不治の病が引き起こす、、、言うなれば発作だ。妹への愛という病に俺は取り憑かれているのだ。わかっているならば帰れ。そうすれば多少症状が引く。

 

 

「そういえば樹花ちゃんって来年から中学生だよね。確か聖華学園だったっけ?」

 

俺の怒りを含んだ視線に気づいていながらそれを無視して喋りだす拳藤。

それはいつものこととして、問題は何故樹花の進路を知っているのか?

そんな俺の密かな疑問を知る由もない樹花は、いつも通り素直に答えた。

 

「はい!ほんとは最寄りの中学に行こうと思ってたんですけど、おばあちゃんとお兄ちゃんが折角行けるならいいところ行っとけって。それで結局自分で進路変えたんです。なんか私立の中学校とかカッコいいですし・・・」

 

出来の良い妹だ。本人の意向が最優先ではあるが、兄としては折角持ちえている才能を存分に発揮してもらいたいと願ってしまう。

所詮は俺のエゴなのだが、おばあちゃんも一緒に勧めてくれたのが決め手となったらしい。

己に相応しい場を見つけるのもまた己だ、とおばあちゃんは言っていた。

俺も樹花ならば、自分らしく在れる場を見つけられると確信している。

 

「そう言えば、一佳さんは雄英高校ですよね?」

 

「うん、ギリギリだったけど何とかヒーロー科に引っかかったんだよね・・・ってあれ?そう言えばさ天道、新聞に雄英がどうとか書いてあるけどナニコレ?」

 

「それはそうだろう。俺もその雄英高校のヒーロー科とやらに行く、それを面白がって書いたんだろう。入学といえば、そろそろ必要な物を買い揃えなければ。」

 

「あーなるほどね。そういうこと・・・って、えぇえぇぇ?!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

<拳藤視点>

 

私は唐突に雄英へ進むと宣言した天道の買い物に付き合った。

丁度私も色々と準備を整えたいと思っていたから、荷物持ちにでも利用してやろうという打算的極まりない考えに基づいて同行した私だったが・・・

 

「んぉお・・・天道、前が見えないから手伝ってぇ・・・」

 

「断る」

 

大間違いだった。

コイツが買ったのはいつ使うのか不明の万年筆と、3本入100円のボールペン。

あとは洗剤やら歯ブラシやら入学準備とは全くもって無縁なもの。もはやただの買い出しだ。

 

一方の私は新しいリュックサックに、新しい運動靴、水筒や弁当箱まで新調した。

おまけにどうせ天道が持ってくれるだろうという謎の信頼に任せて、制服まで受け取ったのだ。

で、いざ持ってもらおうと天道の方を振り返ったら、アイツはとっくに歩き始めていた。

重いから持ってほしいと言えば「非力なヒーローだな」とぶっきらぼうに嫌味を吐く。

相変わらずな人を見下した態度に怒りを通り越してある種の屈辱すら感じる。

ここが公共の場でなければ思い切りデカくした掌で殴りたいが、きっとその一撃はいつものように虚しく空を切るのだろう。

 

「持たないならせめて歩くのを遅k「いい時間だ、ひよりのところにも顔を出すとしよう。土産に旬の野菜でも持っていくか。」

 

(コイツ・・・あとで〆てやる)

 

思い出したように方向転換して、どこかへ歩いていく天道の後ろをフラフラ歩く私は明確な殺意を胸に宿していた。

が、当の天道は爽やかな表情で来た道ゆっくり戻って行った。

 

 

 

 

 

<第三者視点>

 

それから約一時間後、サルに到着した天道は大きなダンボールを手にしていた。

中には彩り豊かな冬野菜がたくさん詰められている。

 

「冬野菜もそろそろ食べ納めの時期だ、よければ使ってくれ。」

 

「いや〜こんなにたくさんありがとね。あ、ひよりちゃんは二人にお水出してあげて。私はこれ裏に置いてくるから。よいしょ・・・」

 

天道から冬野菜の詰め合わせを受け取った優しげな印象の女性、竹宮弓子はひよりにそう伝えると店の奥へとダンボールを運びに行った。

それを見送ったひよりが天道の座る席へとピッチャーを運ぶのを拳藤はボーッと眺めていた。

 

「兄妹でここまで違うもんかねぇ・・・主に性格が。」

 

「天ど、じゃなくてお兄ちゃんの性格はもとから悪いから。少なくとも、僕と兄妹なのをギリギリまで黙ってるくらいには。」

 

「それは違うぞひより、俺はお前の幸せを願うあまり判断が鈍っていただけだ。意地悪じゃない。それと、やっぱり今まで通り天道呼びで頼む。逆に距離を感じてならない。」

 

そう言って微笑む天道の目は笑っておらず、コップを持つ手が若干震えている。

拳藤は、毎度妹が関わると途端に豆腐メンタルと化す天道を見つめながら(護身用に妹ちゃん持ち歩きたいなぁ)などと無意味な思考に浸っていた。

 

 

 

天道はひよりの料理を食べ終わり、他愛ない世間話で盛り上がる女性陣を静かに見守っている。

自分と話している時は滅多に見せないひよりの笑顔を盗撮しようかしまいか脳内で戦っていると、不意に手元のスマートフォンが震えた。

 

(また加賀美か。また無駄話しだったら次は着拒してやる。)

 

そう思いつつ応答ボタンをスライドして聞こえて来たのは、焦りを含んだ声だった。

 

[天道か?すぐに本部まで来てくれ!緊急事態だ!]

 

「緊急だと?内容を[そうか来てくれるか!ほんじゃ待ってるぞ!]

 

そこで電話は切れた。

恐らく何かしらの厄介事をまた押し付けられるのだろう。

内容を聞かせないと言うのはつまりそういうことだ。

天道は何度目かも分からぬ加賀美のガチャ切りに若干腹を立てつつも、顔だけは出してやるかと感情を押し殺して立ち上がった。

 

「お?帰るの?じゃあ、いい加減私の荷物を半分持って「俺のも持ってっとけ。また来る。」

 

拳藤の発言を遮った天道は自分の分の手荷物を拳藤の荷物の上に積み上げると、軽く手を振りながらサルを後にした。

言葉を失った拳藤は、残された荷物を見上げるとヘナヘナとその場に座り込んでしまった。

 

「ちょっと大丈夫?」

 

心配した弓子が手を差し伸べると、拳藤はその手に縋り付きながら思いの丈をぶちまけた。

 

「違う、違うもん!私が好きになった人はあんなんじゃないもん!変身したアイツを好きになったのに!ああ〜ッ、一生変身しとけクソ野郎おおお!!」

 

そのままの勢いで、今度はひよりの胸に飛び込む拳藤の背中を擦りながらひよりは言った。

 

「うん、天道が変身するとカッコいいのは知ってる。強いし。」

 

(・・・でも、アイツはそれだけのヤツじゃない。)

 

いつか見た天道の勇姿を思い出したひよりは、大人びた笑みを浮かべた。

どうやらひよりの胸を温かく包んだのは、拳藤の体温だけでは無いようである。

 

「・・・ばか」

 

ひよりは最愛の人が消えたドアに向かって小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるTV局の一室にて、もうすぐ撮影が始まるバラエティ番組のゲストはメイクを施してもらっている最中だった。

 

「貴女の持ち得る美しさをより際立たせるにはこのくらい淡い方がよろしいかと。いかがですか?」

 

端正な顔立ちの青年は浅く被ったベレー帽を押し上げると、そう言って目の前に座る女性へ笑いかけつつ鏡を向ける。

 

「聞いた通りの腕前じゃない!初TV出演の正念場、この美貌でさらなるファンを獲得する作戦も成功間違い無しね!ありがとう!」

 

大人びた表情から一転、幼さの残る笑顔を浮かべるヒーロースーツ姿の女性は現在人気上昇中のプロヒーロー「Mt.レディ」こと岳山優。

 

「いえいえ、美しい女性をさらなる美の境地へ導くことが私の仕事ですので。特に優さん、貴女のような澄み渡る美しさと汚れなき強さを兼ね備えた女性は言うなれば、、、その、えーと・・・」

 

「”水晶だ”。」

 

饒舌に語り始めた青年が決めポーズをするものの、最後の一番いいフレーズが出てこない。

それを見越していたかのように、青年の足元でメイク道具を片していたニット帽の少女がニッコリと笑いながらそう続けた。

 

「そうそう、それそれ!私も一ファンとして貴女のメイクを担当できたこと、光栄に思います。ぜひまたご利用下さい、心よりお待ちしています。」

 

「ええ、ぜひそうさせてもらうわ。それじゃあね。」

 

彼女はそう言って手を振ると軽快な足取りで去っていく。

それをクールなポーズ(と本人は思っている)で見送った青年、風間大介は自慢げに鼻を鳴らすと足元の少女に話かける。

 

「どうだゴンよ、これが全ての女性の涙を拭う男の仕事だ。爽やかな風を思わせる立ち振る舞い、いやはや完璧過ぎて自分が恐ろしい。」

 

「そんなのいいから、大介も片付け手伝って。」

 

うっとりした目付きで自分に酔いしれる大介をゴンと呼ばれた少女は完全にスルーした。

 

「おいおい、俺達は相棒だろ?こういう場合は俺のことを素直に褒めるのが正解じゃないか。ほら、いつまでも道具とにらめっこしてないで私の美しさを「あ、電話だ。」おい!」

 

風間による必死の自己アピールも物ともせず、ゴンは携帯電話を耳に当て風間の声を強制的にシャットダウンした。

 

[もしもし?風間大介の携帯で間違いないかしら?]

 

「はい、そうです。お仕事のご依頼ですか?」

 

電話から聞こえてきた声は岬のものだった。

 

[いいえ、少し個人的な話があるのだけれど・・・]

 

岬がそう言いかけたのを”美人のみに作用する”超人的な聴力で聞き取った風間は、ゴンから携帯を奪い取るといつにも増して爽やかな声で話し始めた。

 

「これはこれは、お久しぶりですね岬祐月さん?それはそうと、貴女が以前モデルをした出版社からまたお呼びがかかりましたので、ぜひ貴女の美貌に再びご協力を頂きたいのですが。ああ、もちろん私からの完璧なメイクというプレゼント付きです。」

 

[あ、そ。その話を聞いてあげなくもないから、今からメールする住所まで来てね。じゃ。]

 

そう言うと岬は電話を切った。

風間は通話終了の文字が表示される画面を見つめながら、不敵に微笑んだ。

 

「全く、相変わらず気品溢れるお方だ。でも、それでこそ私のメイクも際立つというもの・・・さて。ゴン、次の仕事が入った。行くぞ!」

 

「ズゾゾゾ・・・ぷはぁ~。うん!」

 

風間はメイク道具一式を詰めたギターケースを肩に担ぐと、いつの間にか片付けを終えて一服しているゴンを呼びかける。

二人は次なる仕事の為、送られてきた住所へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

例の本部基地に着いた天道を待っていたのはしかめっ面の田所と加賀美、そして延々と岬に付きまとう風間とそれに呆れ返るゴンの姿だった。

 

「急な呼び出しですまなかった、よく来てくれたな。」

 

「全くだ、俺はくだらないコントを見に来た覚えは無い。」

 

「うん、それは100%あそこで岬さんにくっついてる奴のせいだろう、天道。何故俺を見ながら言うんだ?心外もいいとこだぞ?ん?」

 

田所の言葉に皮肉で返す天道だったが、明らかにその目は加賀美の方を凝視していた。

それに対して青筋を立てる加賀美をよそに、田所は普通に喋りだす。

 

「今回君らを呼び出したのは他でもない、かなり重要な案件だ。取り敢えず、俺は風間(アレ)を捕獲してくるから待っててくれ。」

 

そう言うと田所は岬を救助すべく、虫取り網片手に走って行った。

 

しばらくの沈黙の後、残された加賀美がふと天道に話しかけた。

 

「なあ、そう言えばさっきの電話切る直前になんか凄い女の泣き声が聞こえたんだけど・・・お前、なんかやらかしたか?」

 

「冗談よせ、拳藤は、、、アイツは毎度大げさなんだ。たかが荷物の一つや二つ程度であんな様子じゃ先が思いやられるな。アイツもヒーローを目指しているなら、男相手でも負けぬだけの力を身に着けさせなければなるまい。そのための試練を与えたまでだ。」

 

「それは違うな、天道!」

 

呆れたように語る天道の背後から聞こえた声の主は、頭に虫取り網が被さっている風間だった。

なお、その持ち手はゴンがしっかりと握っている。

 

「女性というのはお前達のような下劣な男とは違う、身に付けずとも持ち得る芯の強さがある!いいか、天道?お前のような青二才はわからないだろうから教えてやろう。女性というのは芸術作品、丁寧に扱わなければ傷つくのです!そうさせぬのが我々の仕事だ!」

 

風間の主張に天道も反論する。

 

「いいや、違うな。どんなに美しい作品でも、磨き上げなければホコリが積もる。俺達の仕事は時にそのホコリを払ってやることだ。」

 

「ハッ!ホコリが積もる?バカバカしい!美しさに陰りなど無い。そもそも、お前はホコリを払う力が強すぎる。だから余計な傷がつくのだ!お前のようなガキじゃその意味もわからないぃいいい!?」

 

「大介、自分から喧嘩売ったの分かってる?今聞いてるぶんには大介の方がクソガキだよ?」

 

風間の暴走はゴンの実力行使という名の仲裁によって何とか止められた。

それを目の当たりにした天道は、ゴンの手際の良さに(相変わらず良い保護者だ)と感動しているのだった。

 

 

 

「丸く収まったようで良かった。ところで、、、俺はなんでお前達を呼んだんだっけ?」

 

ようやく場が落ち着いたものの、色々とよく理解の及ばない世界の話を聞いていた田所は完全に当初の目的を忘れていた。

また、岬は嫌になったのか客人用のソファに身を任せて雑魚寝しており、加賀美は備え付けの古風なストーブでお湯を沸かしてお茶している。

 

「えーっと、、、ああそうだ!思い出した!」

 

天道と風間までお茶し始めようとしていたギリギリで何とか思い出すことに成功した田所が声を上げた。

 

「ようやくか。それでなんだ、その緊急事態ってのは?」

 

天道の問に田所は静かに答えた。

 

「あるものが、、、組織から消えたんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

・・・続く






次回 仮面ライダーカブト in hrak

ZECTが開発していたある新兵器が消息を絶った!
行方をくらませたそれらの正体は一体何なのか?
そして、根絶したはずのワームが再び発生した理由が明かされる時。

その一方で風間は世の女性の涙を拭い去るべく再びゼクターを手にする。

「全ては”あの人”の為に・・・!」


同時に天道の入学までのカウントダウンも間もなく始まるのだった・・・


天の道を往き、総てを司る!!






一体どこまでの事実が世間に公表されたかは、次回詳細を書きます。
因みに、風間さんと織田さんの変身はまだかなり先になりそうです・・・すいません。

今回一佳ちゃんが変身した天道、則ちカブトに恋しているような描写がありましたがその理由はまた後の機会に書こうと思います。

最後に、大変お待たせしてしまい申し分ありませんでした。
次回以降も気長にお待ちいただけると幸いです。

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