戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~ 作:ゼフィガルド
「どけぇ!」
全身からハリネズミの様に生えた砲塔から大量の弾丸が放たれた。衝撃で周囲の建物は破壊され、議事堂を中心とした焼け野原が拡がって行く。
弾幕と言う外ない攻撃を前に中田も剣狼も避け切れずに幾らか被弾した。流れ落ちた血が、地面に出来た凸凹へと溜まって行く。
「お前達よりも倒さなければならない相手が出来た! 俺の仲間を葬り、平和を望む心を阻む大悪! ユーステッドだ! 本当に世界に平和をもたらしたかったら、まずは奴らを始末しなければならない!」
レッドの叫びに対して、2人は言葉を交わすことなく暴力で応えた。弾幕を放った反動からか動きは大幅に鈍っており、満身創痍の中田達の接近に反応できずにいた。懐に潜り込んだ剣狼が獰猛に咆えた。
「死ね!!」
「お前が消えろ!!」
胸部装甲が展開し、今まで斃れて来たヒーロー達のガジェットが大量に射出された。全てが突き刺されば致命傷は免れないが、突如吹いた豪風に拠って軌道は逸らされた。見れば、上空で中田が風を操る様にして前脚を突き出していた。
「やっちまえ!!」
「くたばりぞこないが!」
自分への攻撃を逸らす余裕が無かったのか、バックパックから放たれた大量のミサイルが中田に直撃した。
彼の意思を無駄にしまいと、剣狼は巨体に見合わない機敏さでサマーソルトキックを繰り出した。展開していた刃が、グレート・キボーダーと化したレッドの両肩と両腕の関節部分を通過すると、地響きと共に両腕が落ちた。
「終わりだ」
なおも戦いを止めず、残った体の個所から大量のガジェットを射出しようとしたが、剣狼がグレート・キボーダーの頭を食い千切っていた。
司令部分を潰されると、巨体は力なく倒れた。人間サイズにまで縮小していき、そこには両腕と頭部を失った男の死体が転がるだけだった。
「終わった」
剣狼もまたサイズを維持することが出来ずに人間の形態へと戻り、膝を着いた。ジャ・アークは壊滅したが、宿敵であったエスポーワルレッドを倒した。
染井、豊島、黒田、槍蜂。仲間達。彼らの仇を打てた達成感で胸が満たされることは無かったが、安堵した瞬間だった。
「やるじゃないか」
声のした方を振り向く。寸断されたハズの首と両肩の切断面がボゴボゴと泡立ち頭部と腕の形を作って行く。泡の中を漂う二つの目玉がギョロリと彼を睨みつけていた。
「嘘だろ……?」
「俺は負けない。皆の願いが、希望(エスポーワル)が俺を望み続ける限り。俺は決して倒れない!」
かくも理不尽な存在だというのか。もう、立ち上がる力も気力も残ってなかった。全身を投げ出して、迫り来る大坊を凝視していたがどうにも様子がおかしい。
先程まで取り揃えていたガジェットの殆どが無く、手にはレッド・ソードが握られているだけだった。
「そうか。お前も、残っていないんだな」
「ここまで消耗するとは思っていなかったがな。お前との因縁もここで終わりだ」
振り下ろされたレッド・ソードは剣狼の頭を叩き割ることは無かった。大坊の脇腹にはドスが突き立てられていた。顔面血まみれの中田が鬼の様な形相で叫んだ。
「テメェだけは。テメェだけはゆるさねぇ!」
「ガっ……」
ドスを引き抜いては何度も突き立てる。血と一緒に涙や涎を垂らしながら、全ての悲劇と惨劇の清算を求める様にして、何度も何度も突き立て、やがて刃が折れた。同時に、大坊も膝を着いた。
「頼むよ。もう、死んでくれよ……。もう、生きないでくれよ……」
「まだだ。世界には、まだ。倒さねばならない悪があるんだ。グリーン! イエロー! ブルー! どうしてだ、また。あの時みたいに俺に力を貸してくれ! 俺
はまだ倒れる訳には行かないんだ!」
かつての仲間に助けを求める様にして天へと手を伸ばしたが、何も起こることは無かった。やがて、意識も霞んで今までの人生が流れていく。
「(俺はまだ、こんな所で。終わる訳には)」
そして、腕がだらりと地面に落ちた。装着していたベルトが体内へと沈んだ。そして、中田もまた倒れた。
誰が生きているのか。誰が死んでいるのかも分からないまま。剣狼もまた意識を手放した。