戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~ 作:ゼフィガルド
ガタガタと揺れている。どうやら自分は何かしらに搭乗して移動中であるらしい。
「リーダー。起きて」
聞き慣れた声に目を開ければ、桃色のレディススーツを着こなしている桜井の姿があった。暫く呆けていると、笑い声が聞こえて来た。
「無理もねぇよ。今まで、色々と会議に出て来たんだからな。ジャ・アークと戦っている時と違って、体も動かさねぇからついつい眠くなっちまうんだ」
まるで芸人が着用している様な黄色のスーツに身を包んでいる男。戦隊をしていた頃にはイエローと呼んでいた男であり、椅子に座りながら栄養食を齧っていた。
打って変わって、地味な紺色のスーツを着た男は寡黙に新聞を読んでいる。一度だけ此方を見たが、直ぐに視線を新聞へと戻した。
「すまん、桜井。俺達は何でここにいるんだったか?」
「ちょっと、本当に大丈夫? 私達、皇を代表する戦隊よ? ジャ・アークから世界を守った団体として、全世界を飛び回っている所なんだから」
「ジャ・アークを倒したのにか?」
「相手がジャ・アークだけなら良かったんだがな」
紺色のスーツを着た男。ブルーが呟くと、壁面のモニタにハゲ頭の男が映し出されていた。
「大坊君! 今度はユーステッドに出やがった。自分達を『破城軍』と名乗ってやがる! いつも通り、シメてやってくれ!」
「分かった」
モニタの向こうで喋っていたのは唐沢司令だった。大丈夫、いつも通り彼の言うことに従っていればいい。前方の運転席から出て来た男は、既に緑色の強化外骨格(スーツ)を装着していた。
「さぁ、やってやろうぜ!」
グリーンは既に得物であるスピアを展開していた。前方には大勢の戦闘員を率いた怪人が高笑いをしていた。
「この、槌型怪人であるハンマリオンが貴様らを打ち砕き! 地上にある全てを砕いて、我ら破砕帝国の物とする!」
「そうはさせないぞ! 破壊するばかりで何も生み出さない貴様らの思い通りにはさせない!」
まるで、呼吸をする様に滑らかに言葉が出て来る。グリーンを除く全員が一斉に変身ベルトを起動させ、強化外骨格(スーツ)を装着した。
全身に力が漲る。戦う為の勇気と希望が溢れ出す。大量に控えた戦闘員達が手を出しあぐねている隙に、戦意を高揚させるためのポーズを取る。
「人々の希望を守り抜く! 我ら! エスポワール戦隊!!」
リーダーである自分の戦意の高揚に伴い、背後で大きな爆発が起きた。様に見える程、敵対する者達にとって彼らは強大な存在へとなっていた。
「くっそ! 掛かれ!」
ハンマリオンの号令と共に戦闘員達が一斉に襲い掛かる。だが、エスポワール戦隊が持つ希望の力を前にしては塵芥も同然だった。
イエローが振るう巨大なハンマーは戦闘員達を吹き飛ばし、グリーンが操るスピアは次々と相手を貫いて行く。ピンクが振るうウィップは強か人体急所を打ち据え、ブルーの放った弾丸が的確に心臓や頭部を撃ち抜いて行く。
「レッドォ! ソード!」
灼熱を纏った炎剣がバターの様に戦闘員達を焼き切って行く。数の不利を物ともせず、瞬く間にハンマリオンのみを残すことになった。
「おのれ! 死ねぇ! エスポワール戦隊!!」
「うぉわ!?」
ハンマリオンは強敵だった。イエローのハンマーを弾き飛ばし、グリーンスピアを叩き折り、ピンクウィップを引き千切る。ブルーの弾丸は肉体を貫通せず、レッドのソードは頑強な槌で受け止められていた。
「グワハハハ! この程度か!」
「グッ! 皆! 奥の手だ!」
全員がガジェットを掲げると上空へと吸い込まれて行った。ほんの数瞬後、途轍もない重量物が降り注いで周囲に衝撃が走った。
「行くぞ! グレート・キボーダー!!」
「リーダー。リーダー」
意気揚々と乗り込もうとした所で、桜井に肩を叩かれた。彼女の指差した方を見れば、グレート・キボーダーに押し潰されて圧死したハンマリオンの残骸が飛び散っていた。
「俺達の勝ちだ!!」
全員で勝鬨を上げた。また今日も、世界の平和を守った。大坊の全身に充実感が満ち、生きている喜びが果たされて行くのを感じた。
~~
「エスポワール戦隊の皆さん。この度は、ユーステッドを代表して感謝します」
「いえいえ、世界を代表する戦隊として当然のことをしたまでです」
ユーステッドの大統領であるリチャードは彼らに感謝をしていた。交渉役である唐沢が話を進めてくれているが、大坊としては自分達どうして戦っているのかイマイチ把握しかねていた。
「(ジャ・アーク以外にも悪の軍団がウジャウジャ現れて、俺達は奴らを駆除する為に戦っているんだよな)」
もはや、世界中の国は身内で争っている余裕はなく。世界中に強化外骨格(スーツ)を纏って戦うヒーローが溢れていた。その中でもエスポワール戦隊は皆の憧れであり、伝説のヒーローとして尊ばれていた。
「いやー! エスポワール戦隊の皆さんよー!」
「こっち向いて―!!」
会談を終えて外に出れば、大勢のファンから感謝と歓喜の声が投げかけられ、自らの矜持が際限なく満たされて行くのを感じていた。
「(そうだ。俺はヒーローなんだ。これが、あるべき姿なのだ)」
日々を無垢に善良に生きる人達を助け、悪の手を払い除ける。これこそヒーローの在り方だった。
伝説の戦隊と言う名は伊達ではなく、ファンや協力企業からの資金提供、贈答品などは絶えず送られて来た。基地の設備は最新鋭の物が取り入れられ、プライベート面でも物に溢れていた。
「(これでいい筈だ。これでいい筈なのに)」
倒すべき相手がいる。頼れる仲間もいる。人々は自分達に感謝してくれている。だと言うのに、理由の分からない焦燥感が付いて回った。
何を見落としている? だが、自分達に自由な時間と言う物はほとんど存在しなかった。悪の組織は間断なく現れ、誰一人欠けることのない完璧な勝利で彩る日々が続いた。
「これで。良いんだよな」
「えぇ。後は我々が処理しておきます」
その日も悪の怪人達を倒した。戦闘員達の処理を軍人達に任せて、何時もの様に基地に戻ろうとした。倒れていた戦闘員の内の1人が手を伸ばしていた。
「助け……て……」
「え?」
言葉の真意を探ろうとしたが、軍人達がまとめて彼らを収納するので、それ以上は聞くことが出来なかった。順風満喫な日々の中、どうしてもその一言が心に残っていた。
~~
「え? 戦闘員が助けを求めて来た?」
「そりゃ命乞いだ。気にすることはねぇ」
誰もが問題をロクに取り扱おうとしなかった。
というよりも、避けていたのだろう。自分達が敵を倒すのではなく、殺しているという可能性に。
「一々、敵のことを気にして戦うなんて。センチメンタルな所もあるんだな」
ブルーからも冷やかされ、おかしいのは自分の方だと納得することにした。現状に従っていれば、何もかもが上手く行く。態々、疑問を呈する必要が無いことは明らかだった。
だが、疑問は降り積もる。ちりも積もれば山となり、徐々に戦闘員達は無機質な存在から有機的な物へと進化していく。
「死ねぇ! 資本主義の犬め!!」
「レッドソード!」
襲い掛かって来る者達を切り裂き、勝利を収め、人前に出ては人気を集める。
人気というのは商品だ。社会では良い様に消費され、ネタにされ、遣い潰されて行く。ゴシップ誌にヒーローについての記事が躍る。
「ヒーローと提携していた企業。巨額の脱税が発覚」
「戦闘員に使われていたのは不法滞在していた移民達だった? 彼らの人権を無視した、ヒーローの戦いの是非を問う!」
守って来た幻想はガラガラと崩れ落ちて行く。守るべきは助けを求めている人々か? それとも、自分達の味方か? 答えは簡単だった。
「助け……」
「俺達は正義の味方だ。社会で無垢に善良に生きる人達のヒーローなんだよ」
拳を振り下ろした。彼らは社会の秩序と正義を守るヒーローだった。守るべき社会から転げ落ちた者達の叫びは、程なくして権力者達に掻き消されて行く。
「ねぇ、ブルー。聞いた? この間、私達のゴシップ記事を書いていたユニティ通信社の記者。失踪したんだってさ」
「正義は必ず勝つからな」
今日も自分達を応援する声に溢れている。グッズは売れ、トークショーで出番は増え、口座の数字は増えていく。税金対策に寄付を行い、名声を獲得し、中流階級以上の人間達からは惜しみない称賛を浴びた。
「(そうだ。俺はヒーローだ。社会や皆を守っているじゃないか)」
次の強敵は何処に現れるだろうか? ボランティアや対談の予定をマネージャと話し合っていると、目の前に襤褸を着た女の子が立塞がっていた。片目に包帯を巻いている。
「レッド、助けて」
「はーい。お嬢ちゃん、レッドさんはね。忙しいんだよ。だから、我慢してね」
だが、彼女の存在は目に入らない。あくまで自分が助けるべき大勢の内の1つに態々気を使う必要が無い。
「あの子、なんかただならない雰囲気だったけれど。相手しなくて良かったのか?」
「何を言っているんですか。レッドさんは皇を代表するヒーローなんですよ? 一個人に時間を割ける訳無いでしょう」
「それもそうだな」
数日後。少女の姿を新聞とニュースで見掛ける羽目になるが、大坊の心が揺れることは無かった。自分達は福祉関係者ではないし、自身の行動の全てが皇の風評に関わるのだから、些事に動く訳には行かない。
彼らはエスポワール戦隊。世界の平和と秩序を守る者達ではあるが、システムからはみ出た者達を守る訳では無かった。
「キョーッキョッキョッキョ! 現れたわね! エスポワール戦隊! 今日こそ、このカマ怪人が貴方達の命を狩り取って上げるわ! お前達、やっておしまい!」
「死ねや、金の亡者共!!」
「皆! 世界の平和は! 俺達が守るぞ!」
エスポワール戦隊は戦い続ける。世界の平和を守る為。世界を構築する社会のシステムに消費されまいと声を上げる者達を踏み潰しながら、誇らしさを胸に戦っていた。