戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~   作:ゼフィガルド

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ヘンシン 4

 

 芳野が通っている学校の半径数百メートル。その範囲内に居た者達のスマホには一斉に通知が出た。ある者は会社員、またある者は無職、またある者は主婦と。それを受け取った者達は画面内に表示された場所と相手を見て、戦慄していた。

 

「相手は怪人って。怪物じゃない」

「冗談じゃない! そんな化け物を相手に戦えるか!」

 

 一方的な制裁が出来る相手ではないと分かると、彼らは一様にして応援要請を見なかったことにした。悪に毅然と立ち向かうヒーローの仲間としては、あるまじき姿であったが、全員がそうという訳でも無かった。

 

「剣狼っていうのか。早速、リベンジの機会が巡って来たか!」

 

 銃剣型ガジェットを握り締めた男は、義手の使用心地を確かめる様にして、掌握運動を繰り返し、スマホに表示された場所へと向かった。

 

~~

 

「が、頑張れ! ハザマさん!!」

「ぐっ……」

「(クソッ。銃撃が見切られ始めて来やがった)」

 

 校舎裏での戦いは、数の不利を物ともせずに剣狼が押していた。

 かつて、エスポワール戦隊と幾度となく死闘を繰り広げた彼と、ガジェットの性能が向上していたとしても一方的な制裁ばかりを行って来たハザマ達では戦闘経験に雲泥の差が存在していた。

 

「どうした。その大層なガジェットは、弱い者いじめをする為の玩具か?」

「弱い者いじめだと? ふざけたことを抜かすな!! これは然るべき制裁だ!」

「ハザマ! 挑発に乗るな!」

 

 怒りで攻撃は更に大振りになり、狙撃手も援護が困難となっていた。そのチャンスを逃す剣狼ではなく、攻撃を回避した後、背後に回り込んで一瞬の内にハザマを締め落とした。

 彼が気絶すると同時に、装着していたベルトを剥がした。変身が解除されると。そこには眼鏡を掛けてワイシャツを着た、如何にも一般人と言う風体をした中年が居た。その姿を、離れた場所から見ていた芳野が声を上げた。

 

「え? 嘘。門倉先生!?」

「ほ、本当だ。声が全然違うから気が付かなかった」

「何だと? お前達。コイツを知っているのか?」

「知っているも何も。この人は」

 

 その人物に見覚えがあるのは芳野だけではなく、腰を抜かしている日野も同じだった。その詳細を訪ねようとした所で、剣狼はピタリと立ち止まった。ハザマを抱えて飛び退くと、男が降って来た。

 

「この臭い。お前は」

「お前に切られた腕が! 疼くんだよ!!」

 

 この男の素顔を見たとしても、芳野や誰かは分からなかった。だが、剣狼には分かっていた。先日、自分達に一方的に暴力を振るおうとしていた人間だと。

 再び返り討ちにしようとした所で、強烈な悪寒に襲われた。彼が突き出した機械仕掛けの腕に対し、生存本能が警鐘を鳴らしていた。避けようとして、背後に芳野達がいることに気付いた剣狼は叫んだ。

 

「お前達! 俺に掴まれ!」

「は、はい!」「わ、分かった!」

「ハッハッハ!! 吹っ飛びやがれ!」

 

 男の義手に大量のエネルギーが集中しているのが見えた。大気が震え、彼の周囲に被膜の様な物が発生する。

 全身が膨れ上がり、人間の形が崩れて行き、巨大な赤毛の狼へと変貌した。芳野と日野は彼の体に掴まり、ハザマを咥えて剣狼は校舎から脱出した。ただ、1人。狙撃手だけが、何が起きているか分からずに留まっており。

 

「おい。何をして」

「レッドビーム!」

 

 逃亡しようとする剣狼に向けて放ったレッドビームが、彼に命中することは無かった。しかし、強化外骨格(スーツ)により視界関係を強化されていた狙撃手は、まともに視認してしまい、その目を灼かれていた。

 

「ぎゃあああああああああ!!! 目が! 目が!!」

「ハハハハハ! すげぇ。こいつはすげぇよ!」

 

 のた打ち回る仲間のこと等、興味も無く。義手の男もまた、校舎から去っていた。残されたのは光を奪われた男だけだった。

 

~~

 

 レッドビームを回避した彼らが駆け込んだのは、黒田や中田達が待機している事務所だった。だが、待機していた面々は剣狼の姿を見て絶句した。

 何せ、布一つも纏っていないのである。それに加えて怯える学生に気絶した中年、更には組長の一人娘など、あまりにも不可解な面々だった。

 

「お、お嬢!? これはどういう事で!?」

「えっと。その、本当に色々とあって。服の余りとか無いですか?」

「流石に無いですね。近くのコンビニで買ってきますよ」

 

 若衆の一人が見兼ねて、近くのコンビニまで走った。まさか、組長の一人娘にあらぬことをしたのではないか。等と考える者がいなかったのは、異常な状況があまりにもはっきりしていたからだろう。

 一方でガタガタと肩を震わせているのは日野である。何せ、本物の暴力団の事務所である。そんな彼に優しく声を掛けたのは芳野だった。

 

「大丈夫ですよ、日野君。だって、貴方は何も悪いことしていないでしょう?」

「そ、そうだよね。僕は何も悪いことしていませんよね!」

 

 自分の無実を喧伝する様にして声を張り上げたが、返答は周囲からの一睨みだけだったので、それ以上声を上げる様な真似はしなかった。

 暫くすると、気絶しているハザマが目を覚まし、腰元にあるはずの物がない事と周囲の様子に気付き、緊張感を漂わせた。

 

「目を覚ましたか。『エスポワール戦隊』さんよ?」

「き、貴様……」

「えぇ!? コイツが!?」

 

 中田は信じられないと言った表情をしていた。目の前にいるのはどう見てもくたびれた中年であり、エスポワール戦隊の構成員等には見えなかった。他の面々も同じ考えであり、騒めいていた所で黒田が声を上げた。

 

「どういうことだ。お嬢、事情を知っているなら教えてもらえませんか?」

「わ、分かりました」

 

 説明を促された芳野は今朝の出来事から全てを語った。学校で生徒が飛び降りた事、剣狼が来た事、校舎裏でエスポワール戦隊によるリンチが行われていた事。ハザマを倒した直後に乱入者が現れ、彼の攻撃から避難する為に全員で逃げて来た事。

 事情を聴いた一同は一斉にハザマへと敵愾心を向けた。ヤクザや暴力団達を襲い続けている件の団体の構成員。ともなれば、怒りが湧くのも無理からぬことだった。

 

「待ってくれ、兄さん達。生かしてコイツを連れて来られたのは幸運だ。色々と聞きてぇこともある」

 

 黒田と中田は同じ席に座り、ハザマと日野と向かい合いになった。真っ先に声を上げたのは中田だった。

 

「テメェら。俺達の仲間をやっている連中とつるんでやがるんだよな。まさか、ここから無事に帰れる。なんては思っちゃいねぇだろうな? こちとら、テメェらを殺して処分する方法なんて幾らでもあるんだぜ?」

「やめろ、中田。俺らだって荒事はしたくないんだ。アンタらの仇はお仲間が討ってくれるかもしれねぇが、無事に帰りたいだろ? だったら、知っている事。教えちゃくれねーか?」

 

 中田が威圧的な態度相手を追い込み、その横で黒田は助け舟を出す様にして柔和な態度を取っていた。どちらも脅しを掛けている事には変わりないのだが、この四面楚歌で差し出された助けに、日野は迷わず飛びついた。

 

「ぼ、僕はずっといじめられていたんだ。ずっとネットとかで助けてくれって書き込んでいたら、ある日。いじめっ子が急に大けがをしたって聞いて」

「それがエスポワール戦隊の差し金って訳か。やったのはアンタなのか?」

「そうだ。悪は許さない。裁かれるべきだ」

「そんな。門倉先生、どうして……」

 

 日野と違い、ハザマはこの場においても冷静さを保っていた。むしろ、彼から発せられる威圧感に気圧される者も居た。

 

「お嬢、コイツと知り合いなんですか?」

「はい、私達の学校の先生です。真面目で沢山の生徒達に好かれていた先生でしたが、去年転勤したと聞きました」

 

 その言葉に。中田や組員達の威圧に怯む様子すら見せなかったハザマが俯いた。芳野の言葉に反応したのを見て、黒田は更にその部分を攻め込んだ。

 

「アンタは良い先生だった。だから、この学校にある『いじめ』を見過ごせなかった。そう言う事か?」

「その通りだ。私は日野君がいじめられている事を知っていた。その事について、何度も教育委員会に訴えたが取り扱って貰えなかった。それ所か! 私を邪魔者扱いして転勤させたのだ!」

「口封じって訳か。嫌だね、学校もヤクザ顔負けじゃないか」

「それで、暴力で解決したって訳か」

 

 話を聞いてみれば非常に単純な物だった。不正と悪を見過ごせない教師が、いじめられている生徒を助けるために立ち上がった。そのフレーズだけを聞けば美談ではあるが、実行手段は余りにも暴力的だった。

 その領分は『ヒーロー』と言うよりも、むしろ自分達反社会的組織の手法であった。掲げた思いが美徳であれ、実行する手段を違えれば、それは犯罪でしかない。

 

「言葉で何が分かる? 家庭訪問もした。いじめっ子の両親をも訪ねたが『ウチの子がそんな事をするわけがない。相手が嘘をついている』の一点張りだ。そんな状態を繰り返して、何が好転する?」

「おいおい、まさか教師から暴力の正当性を主張されるとは」

「暴力が正しいとも思っていない。だが、暴力を使わねば是正できぬ間違いもある。そう言った事態はアンタらの方が詳しいんじゃないのか?」

 

 ハザマからの言葉に黒田は眼光を鋭くした。目の前にいるのは冴えない中年かと思っていたが、恐らく子供達の中で繰り広げられる修正しきれぬ闇を幾つも見て来たのだろうと察した。

 

「エスポワール戦隊ってのは。そう言う間違いを正したい奴の集まりなのか?」

「知らん。中には、適当に鬱憤を晴らしたい者も居るのだろうが。私の様に制式な構成員に迎え入れられる奴にはある程度の基準があるとは聞いた」

「道理で。チンピラみたいな奴はスーツを与えられていないのか」

「つまり、アンタから芋づる式に引っ張り出すってのは無理って事か」

「そう言う事だ」

 

 ベルトが取られながらも、彼は日野を守るようにして相手の出方を伺っていた。その様子を見た黒田は吸っていたタバコを灰皿へと押し付けた。

 

「そのガキ連れて失せろ。アンタらを殺した所で報復されるだけだからな。ここで生かして、恩を売っておいた方が賢明だ」

「良いのか?」

「あぁ。だが、そのベルトとガジェットは置いていけ」

「……分かった。こうして、話し合いに応じてくれたこと、礼を言う」

 

 言われた通り。銃剣型のガジェットとベルトを置いて、ハザマは日野と共に事務所を出ていった。彼の後姿を見ながら、芳野は複雑な表情を浮かべていた。

 

「門倉先生。優しくて皆に好かれていたのに」

「優しいからこそ。許せない悪もあったのかもしれませんね。聖職者が暴力を行使しなきゃいけないなんて嫌な時代だと思わねぇか。黒田?」

「反撃する気も起きない程の暴力で沈めるのは手っ取り早いからな」

「優しさが暴力を引き起こすか」

 

 優しさと暴力。一見すると矛盾するかもしれないその二つの要素がどうして絡み合ってしまうのかも。かつて、自分も慕っていた事のある教師の豹変に。芳野は戸惑う他なかった。

 

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