戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~   作:ゼフィガルド

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継ぐ者 4

 日野を誘った男は、自らを『シアン』と名乗った。訓練所では、自分と同年代の構成員達もおり、彼らとは話題もよく合い、境遇が似ていた事もあり良き友人となった。

 最初の内は授業でやる様な体育から始まり、徐々にガジェットの扱い方や、皇国内に蔓延る『ターゲット』について学んだりと。覚えは良くなかったが、日野は必死に学んでいた。勉学は中の上、構成員として重要な身体能力は下から数えた方が早かったが、そんな彼でも周囲から注目される才能があった。

 

「日野。97点」

「日野ちゃんすげぇ!!」

 

 訓練用の銃剣型ガジェットを下ろす。視線の先にあるターゲットは、いずれも頭部や胸部などが撃ち抜かれていた。周囲が感嘆の声を漏らす中、指導役であるシアンが拍手をしていた。

 

「凄いね、日野君。まさか、君にこんな才能があったとは」

「しょっちゅう、FPSゲームをやっていたこともあったのかも」

「素晴らしい。その能力を伸ばせば、君も『カラード』になれるかもしれない」

「カラード?」

「エスポワール戦隊は主に『構成員』『上級構成員』『カラード』の3階層から、構築されている事は。授業でもやったよね?」

 

 ノートにも書き留めていた事を憶えている。身体能力、経歴、適正テストを乗り越えた者だけが正式な構成員になり、初めて強化外骨格(スーツ)が配布される。功績を積み上げることで上級構成員へと昇進でき、部下を持つことが許されるようになる。

 戦いの中でスーツの適合率が上がれば、本人の気質に合わせた能力と色が発現し、それに応じたヒーローネームを授かった者達を『カラード』と呼んでいた。

 

「はい。でも、僕もなれるんでしょうか?」

「信じて、努力すれば叶う! 君にはその能力がある。良ければ、僕が君を指導しよう!」

「お、お願いします!」

「やったな! 日野ちゃん!」

 

 友人達からの賞賛と先輩から見込まれたこともあり、日野はかつてない程にやる気を見せていた。通常のカリキュラムに加えて『シアン』の指導もあって、自らの才能を伸ばしていった。その日々は充実しており、毎日家に帰っては両親にその話をしていた。

 彼の両親には、ゲームか何かの話の様に思えていたが、誇らしげに楽しそうに話す彼を見ているだけで満足してくれていた。その時間は間違いなく幸せだった。だが、それは唐突に終わりを迎えた。

 

~~

 

「……お母さん? お父さん?」

 

 ほんの十数分前。帰って来る事を告げた、自宅の玄関には死体が転がっていた。見慣れたエプロン姿をしていたが誰かは分からなかった。何故なら、頭から先が無かったからだ。

 急いで、家の中に上がると。全身を無数の羽に貫かれて絶命している父の姿があった。床には、自分の為に作られていた料理の数々がぶちまけられていた。日野は震える手でシアンに連絡を入れて、嗚咽の混じった声で現状を伝えた。

 

「シアンさん。家が、皆が殺されていて。凄い荒らされていて」

「日野君。まずは、その場を離れるんだ。近くに犯人が潜んでいるかもしれない」

 

 言う事に従い、その場を離れた。その際に表に転がっていた構成員の死体からベルトと銃剣型ガジェットを奪い取った。呆然自失のまま、フラフラと近くの空き地まで行って座り込んでいると。目の前に巨大な影が落ちて来た。

 鶏の様な頭部に、腕の代わりには2本の翼が生えていた。体躯は日野の倍程もあり、ぎょろりと彼を睨みつけながら、嘴を開いた。

 

「ケェーッ! ケェーッ! ケケェーッ! ケケケッ!!」

「ヒッ!?」

 

 狂った様に鳴き声を上げていた。哀しみと恐怖から、日野の表情はグシャグシャに歪んでおり、目の前の怪物は心底愉快そうに鳴き声を上げていた。

 

「ゲヒャーッ! いい気味だ!」

「……え?」

 

 突然放たれた人間の言葉に、彼は自らの心が凍てついて行くのを感じた。いい気味だと。自分の不幸を嘲笑うかの様な言葉に、反応せずにはいられなかった。

 

「お前達! 俺の子供と妻! 殺した! だから! 俺も! お前達殺した!」

「お、お前は」

 

 数日前。リンチを食らって、凄絶な最期を遂げた同級生を見ながら、ゲタゲタと笑っていた事を思い出した。いい気味だと、ザマァ見ろと。悪は滅びるのだと。

 自分が普段から嗜んでいる娯楽では、溜飲が下がって終わる所だ。だが、現実ではそうは行かない。大切な物を奪われた憎しみは、無かったことにはされない。

 

「タケダ! タケダ! 俺! タケダ!」

 

 目の前の怪物は、自分をイジメていた同級生の父親だった。復讐の為に変わり果てた姿となっていた。嘴の端から涎をたらし、目からは止めどなく涙が溢れていた。

 

「コッケェーッ!!」

 

 怒号と共に腕を勢いよく交差すると、腕部から放たれた羽根が地面へと突き刺さった。咄嗟に反応できたのは、訓練の賜物だった。相手の攻撃を避けたことで、自分は戦えるのだと認識した時、萎れていた心に闘志が宿った。

 

「テメェの糞みたいな家族のせいで、僕は苦しめられたってのに! 今更、逆恨みするんじゃねぇよ!!」

 

 悲劇の主人公ぶるな。と、日野は思った。最初に手を出して来たのは、お前の息子の方からだ。大人しくて、オタクだからと言うだけでゲラゲラ笑いながら侮辱して来た。耐え忍んで来た、現実に現れたヒーローが助けてくれた。然るべき裁きが下っただけなのに、今度は被害者ヅラをして来た。許せることではない。

 先程、剥ぎ取ったベルトを装着した。量産型のスーツが彼を包み、授業で習ったように銃剣型ガジェットを構えた。

 

「ぶっ殺す! ぶっ殺す!!」

「お前が死ね!!!」

 

 互いに家族を失った者同士。残されたのは自分の命だけ。怪人化して、強化された身体能力は、空を飛び回ることを可能としていた。滑空しての一撃はブロック塀を砕き、射出される羽根は車や家宅の外壁に突き刺さった。

 対する日野の動きには訓練の結果が出ていた。飛翔する怪人の羽を的確に素早く射貫いていた。実戦の中で技術は洗練されて行き、武田は両翼の付け根を撃ち抜かれて落下したが、殺意が衰えることは無い。

 

「コッケェーッッッッ!!」

 

 ダメージを受けた体を奮い立たせる様にして叫んだ。日野は蓄積したダメージを見逃さず、心臓や頭部など。人体急所に向けて打ち込むが、怪人は止まる気配無く日野へと突っ込んで来た。

 肉体から羽毛と血をまき散らしながら、収まる事のない憎悪を滾らせていた。日野もまた、同じく憎悪と敵意を持って迎え撃っていた。

 

「死ね! 死ね!」

 

 距離を詰められる事が避けられぬ以上、銃剣を使う方の構えへと切り替えて肉薄した。一瞬の交差の内、巨大な腕から繰り出された拳は日野の頭部を掠め、フェイス部分を切り裂いた。突き出した銃剣は怪人の喉笛を貫いていた。

 

「コケェッ」

 

 短い悲鳴を上げた後、刎ねられた首はゴロゴロと転がって行った。同時に怪人の体は萎んでいき、元の姿へと戻って行く。即ち、人間の死体が転がっていた。胴体から切り離された頭部は、日野を睨みつける様に見開かれていた。

 

「……」

 

 装着していたスーツの首元に奇妙な感覚が走った。授業でも習ったが、これはスーツに内包されている『精神安定化』の為に流されている電流や薬剤らしく、戦場での混乱を沈めてくれる役割があるそうだ。

 恐る恐る。彼の体に近付き、物品を漁った。その懐には大量の万札が収められていた封筒と手帳が入っていた。手帳を開くと、最初の方は仕事のスケジュールが敷き詰められていたが、後半になると本人の精神の乱れを表す様に書き殴った文字と……日野の住所が書かれた紙が挟まれていた。最後には日野も知らない笑顔を浮かべた武田家の集合写真が挟まれていた。

 

「日野君!!」

「シアンさん」

 

 暫し、手帳を眺めていると。シアンが駆け寄って来た。周囲の交戦跡と倒れている死体を見て、状況を察した。

 

「まさか。君一人で怪人を倒したのか?」

「……はい」

「よく、無事で居てくれた。頑張ったね」

 

 彼に労いの言葉を掛けた後、シアンは死体を調べた。すると、程なくして彼の腕に装着されているリングに目が行った。

 

「シアンさん。それは?」

「僕達ヒーローの変身ベルトの……。怪人版、だろうね」

「一体誰が。そんな物を」

「分からない。でも、こんな物を一般人が開発できる訳が無い。つまりは、僕達『エスポワール戦隊』に対抗する組織が現れたんだ」

 

 シアンに引き続き構成員達が現れ、死体の処理を始めた。彼らに指示を飛ばしている傍ら、呆然と立ち尽くす日野の方を見ながら彼は言った。

 

「日野君。今日は、本部の方に行きなさい。現場には警察とかも立ち寄って来るだろうからね」

「……すいません。1日だけ。戻らせて下さい」

 

 暫しの沈黙の後。シアンは各所に手配をしてから『1日だけだよ』と言った。その言葉に甘え、彼は毅然とした足取りで自宅へと向かった。

 

~~

 

 朝起きると。トーストの匂いが漂っていた。父親が新聞を広げながら、テレビを見て、コーヒーを啜る。それに同席しながら黙々とトーストにバターを塗りつけて食べていた。いつも学校に着ていく制服は母が洗濯してくれていた。

 学校に行くのが嫌でも、着て行かなければならないそれを憎みもした。そんな朝がこれからも、少なくとも。学生の間には繰り返される物だと思っていた。

 

「ん……」

 

 目覚ましの無機質な音に起こされた。リビングに降りると惨状は何も片付いておらず、変わらず父の死体があるだけだった。昨晩の内にアイロンをかけてくれていたのか、制服だけはハンガーに掛かっていた。

 もう行くことは無いだろうと言うのに。袖を通して、訓練道具一式を学生鞄に入れた後。家を後にする際に言った。

 

「行ってきます」

 

 もう二度と帰って来る事の無い、日常と幸せに別れを告げて、日野はエスポワール戦隊の本部へと向かった。

 

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