戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~   作:ゼフィガルド

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守るべき日々 5

 

 普段は稼業に精を出している染井組の者達も、この日に限っては事務所で待機していた。街中には剣呑な雰囲気が漂っており、極道社会の大物の葬儀が執り行われている事とは無関係ではないのだろう。

 

「コンビニに飯買いに行くだけで、こんなに緊張したのは初めてだぞ」

「だったら、俺が弁当でも作って来てやろうか?」

「すっかり主夫が板に付いてやがるな」

 

 剣狼だけが持参した弁当を頬張る中、組員達は落ち着かずにいた。組長達が無事に帰って来るか、自分達もまた無事でいられるのか。

 拾って貰った恩義の前では、命など差し出してみせるつもりでいたが、日常の中に制裁と言う形で死がまとわり付き始めた頃から、覚悟は揺らいでいた。堪らず、組員の一人が口に出した。

 

「中田。テメェは、何処まで呑気なんだ。心配じゃねぇのか」

「心配です。本当を言うなら、今すぐにでも親父の元に飛び出していきてぇんです。でも、親父からリングと組を守ってくれるように頼まれたんです」

 

 普段の彼とは打って変わって、真剣その物だった。だが、先輩組員が聞きたいことは、自分達が無事でいられるかどうかという不安に対する八つ当たりの様な物だったので、訂正をすれば利己的な人間として思われてしまう。

 兄貴分の人間が言い澱んだのを察した黒田が、中田の頭を小突きながら注意を促した。

 

「中田。心配するなら、相応の態度でいろって事だ。今日位は軽口を慎め」

「ウッス。分かりました」

 

 小突かれた頭を擦りながら、中田は元凶である剣狼へと視線を向けていた。

 既に食事を終えて、彼はスマホを覗き込んでいた。文句の一つでも言ってやろうと思っていたが、あまりに真剣な表情で画面を見ているので、何が表示されているのか気になった。

 

「ケン。何を見ているんだ?」

「軍蟻から貰ったアプリだ。今の所は、問題ないようだが」

「問題ないって。何の話だ?」

 

 画面に表示されているのは簡素な物だった。何かのアプリには、異常が無いことを告げる様に緑色の画面を表示し続けていた。黒田や他の組員達も覗き込んでいた。

 

「ケン。俺と中田、兄貴達にも分かる様に説明してくれないか?」

「分かった。だが、軍蟻からの受け売りだから、俺もよく理解している訳ではない」

 

 説明によると。このアプリは、剣狼、染井組長、豊島のスマホに入っている物で、お互いに通信状況を交換し合うだけの物であるらしい。中田や剣狼でさえ疑問を浮かべる中、黒田は察していた。

 

「そうか。連中の技術力を考えれば、妨害電波。いや、そうでなくても交戦の最中にスマホが破壊されることは大いにあり得る」

「つまり、このアプリの連絡が途絶えることがあれば、連中に襲撃されているって事になるのか?」

「そうなると言っていた」

 

 一同に緊張が走る。このまま何事もない画面表示が続いて欲しいと思っていた。画面内の緑のアイコンが黄色へと変化し、最後には赤色に変化した。

 

「おい、ケン。これは」

「待てよ、黒田。通信状況が悪い所にいるだけじゃねぇのか?」

「いや、通信状況が悪いだけではこうはならないと言っていた」

 

 剣狼が立ち上がり事務所から出ようとした、黒田と中田に引き留められた。従順な彼の行動とは思えなかった。

 

「二人共。離してくれ」

「待機してろって言われただろ。親っさんのメンツを潰すつもりか?」

 

 普段は理知的な黒田が凄んだ時の威圧感は、兄貴分の男達ですら息を飲む物だった、剣狼は怯む様子すら見せなかった。同じく、剣呑な雰囲気を漂わせて中田も畳み掛ける。

 

「組員の手綱も握れないって、笑いモンにするつもりか?」

「俺は言う事を聞く飼い犬じゃないんでな」

 

 二人が腕に装着したリングの起動ボタンを押すよりも先に、剣狼は腕から生やした刃を突き付けていた。薄皮が剥がれて、一筋の血が鎖骨を渡り、胸元へと流れて行った。

 

「一つだけ聞きてぇ。何の為だ? 敵討ちの為か? 親っさんの為か?」

 

 自分の命を絶ちうる凶器を向けられても、平静に問いただすことが出来る黒田もまた傑物であった。一方で、中田はキュッと口を結んでいた。

 

「何かできるのに、何もせずにはいられない。俺はガイ・アーク様と共に戦えなかったが、今度は違う。黒田の兄貴、中田の兄貴。この場を頼む」

 

 立ったまま、両膝に手をついて頭を下げた。仁義や礼儀に疎いと思っていた彼も、組員達の行動を観察しているという事が分かる立礼だった。

 黒田と中田も固まっていた。組長のメンツを潰す訳にもいかないが、もしも窮地に陥っているのなら駆け付けたい気持ちは同じだった。二人が逡巡していると、背後から声が響いた。

 

「バカ野郎。自分の身位は、自分で守れるってんだ! テメェの力なんか頼りにしてねぇよ!」

「行ってきやがれ。連中に一泡吹かせてやりな!!」

 

 それが彼に対する信頼なのか、日ごろの鬱憤の解消も兼ねた物なのかは定かではないが、自分達よりも兄貴分に言われては、黒田達も止めようが無かった。諦めた様に溜息を吐く黒田の代わりに、中田が言った。

 

「行ってこい。もしも、勝手なことをしたって言われたら。俺達も一緒に殴られてやっからよ!」

「礼を言う」

 

 事務所を出た剣狼は四つん這いになった。体は膨れ上がり、全身赤毛の巨大な狼へと変貌した。屋根から屋根を伝い、嗅覚を頼りに葬儀場まで向かう。

 

「……発見」

 

 猊下では驚く人々に混じりながら、冷静にこちらを見据えている人間もいた。強化外骨格(スーツ)やガジェットこそは見当たらなかったが、エスポワール戦隊の構成員と思っても良かった。

 だが、有象無象を相手にしている暇は無く、彼は全力で駆け抜けて行く。地上では、一部の者達が後を付ける様にして走り出していた。

 

 

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