戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~   作:ゼフィガルド

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守るべき日々 6

 

 両親が惨殺され、敵討ちをした翌日。エスポワール戦隊に住み込みで働くことになった日野は、執念を滲ませながら特訓に打ち込んでいた。

 鬼気迫る様子に、同期はおろか正式な構成員達。果てはカラードや大坊にすら一目置かれる程の存在となっていた。

 

「日野ちゃん。そろそろ休もうぜ? 体壊しちまったら、元も子もねぇよ」

「……分かった」

 

 友人である稚内は、日野の変化を痛ましく思っていた。数日前までは、ゲームや漫画の内容で楽しく会話をしていた相手が、凄絶な雰囲気を纏ってしまった。

 食事をしていても会話は弾まず、何を切り出せばいいかも分からない。それ所か、日野に起きた悲劇が自分の身内に起きるのではないかと言う保身すら思い浮かぶ始末だった。

 

「(畜生。自分のことしか気に出来ないのか)」

 

 稚内もまた、犯罪者や悪党を許さない人物だった。彼自身がいじめられていた訳ではないが、父親がパワハラを苦に首を吊った事。母親が病んでしまった事。幸いなことに弟は親戚に引き取られたが、彼はヤングケアラーとして母の面倒を見ていた。

 エスポワール戦隊へと入ったのは、彼らがパワハラをしていた上司に制裁を下してくれたこと。共に皇から悪を駆逐することに協力してくれれば、母の面倒を見てくれると言う条件を提示された故だった。

 

「稚内さん。何で、僕に構うんですか?」

「放っておけるかよ」

 

 先輩として、日野を弟の様に可愛がっていた。両親が元気で、一般的な家庭の幸せを分けて貰えることが嬉しく。また、彼を救済したエスポワール戦隊の一員である自分のことを誇らしく思えていた。

 だから、日野を襲った不幸に心を痛めていた。折角、ヒーローに救済されたと言うのに、こうも容易く日常が潰された事に。

 

「正直、僕に構わないで欲しい。1人の方が気楽だから。ちゃんと、皆とは歩調を合わすつもりでいるから」

「……もう、失いたくないからってか?」

 

 小さく頷いた。親しくしていた人間を失った悲しみがどれほどの物か、稚内にも分かっていた。優しい父とはもう話せなくなったこと、快活で色々な場所へと連れて行ってくれた母親にも見る影は無く、弟ともしばらく会えていない。

 肩が震えていたのは、怒りからか悲しみからか。無表情と言うよりかは、感情が死んでいるかのような無機質さがあった。

 

「だから、失う前に連中を駆逐してやるんだ。一人残らず」

「……それ、日野ちゃんが好きだった漫画のセリフだよな」

 

 ちょっとだけ心が軽くなった気がした。日野が口にした言葉は、よく話題にしていた漫画に出て来たセリフだった。母親を殺された主人公が、敵対者へと復讐を決意した際に出て来た物で、奇しくも彼の置かれた状況と似通った部分があった。

 

「そうだ。悪党は駆逐されて然るべきだ」

「大坊さん!? それに。七海さんも」

「……どうも」

 

 2人が食事をしていた卓に現れたのは、大坊と七海だった。エスポワール戦隊のトップが現れたことに固まる稚内を差し置いて、大坊が切り出した。

 

「日野君。俺達は近い内に、大規模な作戦を行う。君にも参加して欲しい」

「ちょ、ちょっと待って下さい!? 日野はまだ見習いで」

「その通りだ。本来、そう言った大規模作戦に連れて行くのは習熟度の高い構成員達だが、既に彼は怪人との交戦経験もある」

 

 怪人。今まで一方的だった、エスポワール戦隊の制圧に対して抵抗する者達。個人での戦闘能力はマチマチで、構成員が単独で対処できる程度の者もいれば、カラードでさえ苦戦を強いられる相手もいる。

 彼らとの交戦はガジェットを持った程度の同志では務まらず、対処に当たるのは構成員以上に限られていた。稚内や日野は、訓練こそ積んでいる物の扱いは同志程度だった。

 

「参加すれば、1人でも多くの悪党を殺せるんですね?」

「あぁ。同時に、作戦に参加する仲間を助けることも出来る。君の射撃能力は、『シアン』からも評価されている。スポッターと護衛も付けるが、命を懸ける場だ。断ってくれてもいい」

 

 今までとは比べ物にならない程に危険な任務だった。だが、日野の目は煌々と輝いていた。断るつもりなど無かった。

 

「だったら、俺も連れて行って下さい!」

「稚内。お前はまだ見習いだ。そんな危険な場所には連れて行けない」

「大丈夫だよ。僕は必ず帰って来るから」

「……そんな」

 

 怪人の危険は聞いていた。稚内の知り合いの中にも、怪人に殺された者。二度と普通の生活を送れなくなった者も居た。不安を和らげるようにして、七海が彼の肩を叩いた。

 

「大丈夫。私が守るから」

「七海さんが?」

「七海は優秀だ。大丈夫、日野君は連れて帰る。約束しよう」

 

 何の根拠もないが、暖かさと揺るぎのない信頼に満ちていた。彼の声を聴いて、気が緩んだのか。稚内は再び食事を取り始め、暫し4人で雑談に興じていた。

 

~~

 

「全弾命中。凄い」

 

 葬儀場付近の建物。七海がスポッターを務めながら、下調べをした脱出経路を使った怪人達を容赦なく射殺していた。

 この作戦に呼ばれるまでに積んだ修練の結果。日野は能力を開花させ、カラードまでに上り詰めていた。専用のガジェットである狙撃銃を構えながら、怪人達の装甲をいとも容易くぶち抜いていた。

 

「次」

 

 喜びも感動も無く、淡々と撃ち抜いて行く。逃げようとした者の多くが撃ち殺される中、葬儀場の中心は阿鼻叫喚に包まれていた。

 最初の内は怪人に変身した組員達も思っていた『ヒーロー達に対抗できる』と。だが、彼が現れてから希望は容易く打ち砕かれた。

 

「死ねやぁあああああああ!!」

 

 ジャッカル型の怪人やハイエナ型の怪人達が次々と飛び掛かる。

 1人目は串焼きをする様にして、胴体を緑色のスピアが貫通した。

 2人目は頭上から振り下ろされた黄色のハンマーと床に挟まれて、中身をぶちまけて絶命した。

 

「これが、エスポワール戦隊リーダーの力……!」

「どけ! 俺がやる!!」

 

 怪人達の中でも一際巨大なゴリラ型の怪人が、彼を押し潰さんと肉薄する。

 反社会組織の中でも『武闘派』と呼ばれて恐れられた男は、ヒーローを相手にしても全く怯む様子は無かったが、大坊もまた恐れる様子は無かった。

 

「デカいだけで俺に勝てると?」

 

 巨大な拳が振り下ろされたが、両手首が寸断された。そのまま、腕から駆けあがり、肩へと乗ると眼球に向けて青色の拳銃を乱射した。弾丸が角膜を抉り、水晶体を突き破り、硝子体を食い破る。

 もしも、人間であれば痛みからショック死すらしていたが、怪人の生命力は容易く消えはしない。両手が無いなら噛み砕いてやろうと大口を開けると、喉に灼熱が走った。

 

「ゴガァ!」

「フンッ!」

 

 リチャードから渡されたクリスタルによって、強化されたレッドソードの刀身はゴリラ型の怪人を寸断できる程のサイズとなっていた。

 伸びた刃は脊椎を貫通し、食道を焼いた。力を籠めると、縦方向に切り降ろした。皮膚と臓器は割かれ、開いた腹から重力に従って腸と血液が流れ出た。一瞬の内に、巨体が倒されたのを見て動揺が走る。大坊が号令をかける。

 

「怯んだぞ! 連中を一人残らず始末しろ!!」

「ウォオオオオオ!! リーダーに続け!!」

 

 逃げようとした怪人達の背中には、銃弾が殺到した。戦おうと立ち止まった者達は、意気高揚した構成員達に袋叩きにあって殺された。

 勝利の雄たけびと断末魔が木霊する中。大坊は奥へ、奥へと進んで行く。肌を焼く様なピリピリとした感覚があった。

 

「奥に幹部クラスの奴がいるな。シャモア達は大丈夫だろうか」

 

 先に行った仲間達の身を案じながら、大坊は駆けて行く。この時点で、極道達の戦力はほぼ全滅状態にあった。

 

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