戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~   作:ゼフィガルド

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守るべき日々 8

 

 セラドン色のスーツを纏った男。名を『比嘉内』と言う。シャモアやメイズの様な悲劇的と思しき過去を持っている訳ではなく、一般の家庭で育ったごく普通の人間であったが、悪に対する憤りは人一倍抱きやすかった。

 しかし、彼自身は特段何かをされた訳ではない。昨今の、あふれ出るニュースや情報で知る犯罪者。果てはSNSや動画のコメント欄などに書き込まれる対立を煽る様な、あるいは自身の優位を示したいが故の悪意に満ちた言葉には逐一反応する様な人物だった。

 

「(畜生。いつもみたいに一方的にぶっ殺すだけで良いと思っていたのに)」

 

 だが、今日は違っていた。いつもは殺され、命乞いをするだけの存在だった悪党達が怪物へと変身して、自分達と対等に渡り合っていた。

 これだけ大量の死人が出たのも初めてであり、背筋も凍り付くほどの殺意を浴びせられたのも初めての事だった。

 

「殺し合いの現場に来るのは初めてか? だろうな。いつもは一方的にお前達が殺すだけだったからな」

 

 トゥーハンドの拳銃から放たれた炎弾を回避できたのは、スーツの性能があったからと言う他ない。しかし、彼は自らの命を脅かす敵と相対する様な真似はせず、直ぐに踵を返して逃げ出しながら、通信を入れていた。

 

「こちらセラドン! リーダー! 予想外のアクシデントだ! 敵幹部の中に規格外に強い奴がいる!」

 

 背後から迫り来る火球を紙一重で回避しながら、彼は葬儀場内で戦いっているシャモアとメイズを見捨てて逃げ出していた。染井は、強い不快感を覚えながらも踵を返し、豊島達が戦っている戦場へと戻った。

 

~~

 

 シャモアの戦闘スーツを身に纏いながら流麗に戦う彼女は、しかし。刀虎の猛攻を前に徐々に押され始めていた。振るう爪撃の鋭さは刀剣の如くであり、受け流す事を決して許さぬほどに暴力的だった。

 

「ギャハハハ!! 勇ましく出てきて、そのザマか!!」

「黙れ! 私は貴様などには負けん!」

 

 口では勇んでみるが、勝ち目が薄いことは彼女も察していた。自分よりも二回りは大きい巨体に、薙刀の刃を通さない鋼の様な肉体。加えて構成員やカラードのスーツをも切り裂く攻撃力を持っているともなれば、荷が勝ち過ぎる相手とは思えた。

 仲間の応援を待てば。とも思ったが、これ以上犠牲者を増やすのは忍びなくも思った。一緒に突入してきたメイズは自分以上の不利を強いられている故、助力も期待できそうになかった。

 

「正義は勝つってか? スポンサーや脚本にでも頼んでみるんだな!!」

 

 刀虎の攻撃に耐え切れずにガジェットは弾き飛ばされ、壁に叩き付けられた。スーツの機能により痛覚が遮断されるが、身体へのダメージが無くなった訳ではないので、立ち上がれずにいた。

 嗜虐に満ちた笑みを浮かべながら刀虎が近づいて来る。牙に唾液を滴らせながら、文字通り舌なめずりをしていた。一矢報いようにも体が動かない。仇も討てずに殺されるのかと。楽しかった姉との日々が走馬灯の様に蘇ろうとした時、一喝が響いた。

 

「待て。それ以上、俺の仲間を嬲るのは許さない」

 

 光を吸い込むような漆黒のスーツを身に纏い、手にした剣は炎に包まれている。大坊だった。

 シャモアへと向けていた関心は一瞬の内に剥がれて、刀虎の殺意と敵意は目の前の男へと集中した。

 

「レッドォ!!」

「刀虎か。懐かしい顔だな。来いよ」

 

 猫科特有の跳躍力を持って、天井や壁を跳ね回りながら肉薄する。レッドソードと爪刀が打ち合い、火花を散らす。数合交える毎に刀虎の爪が剥がれるが、度に走る激痛など気にすらしていなかった。

 

「フーッ! フーッ!」

「シャモア。そろそろ回復しただろう? 撤収しろ」

「……了解」

 

 滲むような思いはあったが、戦いのレベルが違い過ぎた。最近、怪人化した者ではなく、歴戦の怪人達がここまで強いとは思っていなかった。

 リーダーが駆け付けて来るのが遅ければ、自分も命を散らしていただろうと思い、彼女は急いでこの場を脱した。

 

「態々、仲間が逃げるのを待ってくれるとはな。お前は昔から、そうだ。冷静そうなフリして、目の前の欲望にしか興味がない」

「死ねぇ! レッドォ!!」

 

 梅松の付き人をしていた時の冷静な振る舞いは掻き消え、一心不乱に獲物へと飛び掛かる。だが、既にこの戦いは過去に行われた物の焼き直しであり、あの頃より強くなっている大坊の相手ではなかった。

 振り下ろされた爪牙ごと刀虎を叩き切った。両断され、臓器などが地面にビチャビチャと落ちた後、残骸は高熱を放ちながら爆発した。

 

「ふぅ。メイズとセラドンは無事だろうか」

「リーダー! 無事ですか?」

 

 場にそぐわない明るい声に反応すると、幾らか手勢を引き連れたビリジアンたいた。背後には引け腰のセラドンが居る。

 

「問題ない。シャモアは回収してくれたか?」

「ハイ。ホワイトの治療を受けています。ダメージはありますが、命に別状はないと。表の制圧が終えたんで、リーダーの援護に駆け付けたんですけれど。1人で撃退しちまうとは!」

 

 わざとらしく拍手を送る中。大坊の視線は彼ではなく、引け腰になっているセラドンへと注がれていた。

 

「セラドン。なんで、お前はそこに居るんだ?」

「て、敵にヤバいのが居たんです! いち早く皆に報告をしないとって思いまして。命からがら脱出できたんですよ」

「そうか。ソイツはどんな奴だったんだ?」

 

 説明を求められたセラドンは如何に相手が強大であったかを話した。逃走した自分の正しさを補強する様にして、やや誇大気味に捲し立てた。大坊は深く頷くだけだったが、聞いていたビリジアンはため息を吐いた。

 

「敵前逃亡して、仲間を見捨てる奴が本当に『エスポワール戦隊』に相応しいのかね?」

「しょ、しょうがないじゃないか! アイツは別格だったんだ!」

「よせ、ビリジアン。セラドンは貴重な情報を持って帰って来てくれたんだ。俺はまだ奥の方にいるメイズを助けに行く。ここの確保は任せたぞ」

「分かりました!」

 

 レッドが去って行く姿を見ながら、ビリジアンは爆破資産した刀虎の破片を集めていた。ビリジアンに指示されている組員達に合わせて、セラドンもタラタラ集めていると尻を蹴られた。

 

「何やってんだよ。回収位は俺らでやるから、お前はリーダーとメイズを助けに行けよ」

「で、でも。この場の確保を頼むって」

「それにしたってカラードは2人もいらねーよ!」

 

 渋々、セラドンはリーダーの後を追う様にして走ったが、スーツの収音機能をもってしても聞き取れない位の小声で呟いた。

 

「(ケッ。人を死地に向かわせて置いて。自分は安全圏に籠るクソ野郎が。そんなに言うんなら、テメェが行けよ)」

 

~~

「ガハッ!」

「死ねや!」

 

 怪人化した梅松と豊島の二人を相手取りながらも、メイズは立ち回りに切れを増していた。亀型怪人の巨体を活かしたカバーに隙を見出し、また。豊島の動きにも目が慣れて来た事もあり、彼は地に伏した彼の頭を叩き割ろうとメイスを振り上げた。

 

「(くっ。すまねぇ、親父)」

 

 迫り来る死の瞬間に、思わず目を閉じた豊島だったが。いつまで経っても衝撃がやって来ない事を不審に思い、目を開く。武器を振り上げたまま棒立ちになっていた。頭部は吹き飛んでいた。

 

「豊島。梅松。他の奴らは?」

「逃げ出したぜ」

「親父!!」

 

 そこには無傷な染井が居た。メイズの体が倒れ、二本のメイスが転がる。豊島がそれらを拾い上げようとしたが、軽さに驚いた。

 

「思ったよりも軽いな」

「連中の技術力の賜物って所か。刀虎の奴は上手くやったのか?

 

 梅松が踵を返す。背筋が凍り付きそうになる程の殺意があった。瞬間、風切音が聞こえた。豊島の背中から生えている翼が吹き飛ばされ、梅松が背負った甲羅に弾痕が出来ていた。

 

「メイズを殺したか」

「テメェがエスポワール戦隊のリーダーか」

 

 今まで相対して来た構成員達とは一線を画していた。威圧感、隙の無さ、染み付いた死臭。背後では、ボロボロになった羽を引き千切りながら豊島が吼えた。

 

「なんで、テメェは極道を襲いやがる」

「極道だから襲っているのではない。悪党を許さないだけだ。お前達はメイズの父親の工場を潰した一員でありながら、裁きも受けずに矛先を向けた。許されないことだ」

 

転がっていた2本のメイスが、大坊の手元に引き寄せられた。殺意と敵意の赴くままに駆け出す。梅松が、先ほどメイズの攻撃を受け止めた時の様に自らの身を呈して染井達の前に躍り出た。

 

「ギェッ」

「梅松!?」

 

 堅牢な装甲が飴細工のように簡単に砕かれた。悪夢のような出来事だった。

 先程までメイズの攻撃を防いでいたはずの盾は、アルミ缶を潰すかのように砕かれ、割れた背中から剥き出しの内臓が見えた。

 

「メイズの怒りだ。思い知れ!!」

 

 叫び共に振り下ろしたメイスは露出した内臓を潰した。臓器が破裂し、中身をぶちまけながら梅松の巨体は沈んだ。

 

「ば、け、もの…」

「次はお前達だ」

 

 自分達ならばカラード等の強敵にも対抗できる。幻想は容易く打ち砕かれた。今まで何度も生死を賭けたやり取りに身を置いたことのある豊島であったが、ここまで暴力的な存在と出くわしたことが無かった。

 逃げようにも自分の機動力は奪われている。一方で、染井組長は無傷であった。自分の命一つで何処まで足止めできるかは分からなかったが、ここを死に場所にすると決意した。

 

「親父。逃げて下さい。アイツの強さは異次元です。俺が足止めをします」

「無駄だ。手負いのお前なんざ、一瞬で殺されるだろうが」

 

 だとしたら、戦いの中で隙を見つける。全身に闘志を漲らせた瞬間、天窓を突き破って大坊へと襲い掛かる存在がいた。

 

「レッドォオオオオオ!」

「ケン!?」

「今日は懐かしい顔とよく合う」

 

 レッドソードと全身から生えた刃で打ち合う。数合交えた後、剣狼は飛び退き、染井達の傍に着地した。豊島が叫ぶ。

 

「バカ野郎! 事務所に居ろって言っただろうが!」

「アンタらだけでコイツを倒せるのか?」

 

 そう言われれば言葉に詰まるしかない。梅松が倒された今、染井と自分だけで、目の前の怪物に対応できるかは疑問だった。

 

「丁度良い。テメェの仇が目の前にいるんだ。ここで殺るぞ」

「レッド! ガイ・アーク様の仇だ!!」

「良いだろう。俺は負けない。人々の心に希望(エスポワール)がある限り!」

 

 エスポワール戦隊リーダー。ジャ・アークの幹部達を皆殺しにし、皇の悪を裁き続ける男。彼を倒しさえすれば、国内を包む狂騒も落ち着くか。

 もしも、彼を倒すことが出来れば。皇における裏社会のトップへと昇りつめかねない程の箔も付くだろう。皇の命運を左右する戦いは始まろうとしていた。

 

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