戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~   作:ゼフィガルド

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幕間 3

 染井家の朝は重い物となっていた。父親が逝去したこともあり、芳野は忌引きで学校を休んでいたが、部屋に閉じこもったまま出て来ようとしなかった。

 部屋前に置いた朝食に手が付けられていた事だけは幸いだった。昼食を乗せたトレーを置き、朝食の残りを下げた。

 

「必要な物があったら、言ってくれ。持って来る」

 

 返事は無かった。以前よりも広くなった居間で、1人食事を取る。砂を噛んでいる様な味気なさと共に、先日の記憶が蘇る。

 腕を切り飛ばし、臓腑を裂いた。倒したと思った相手は、予想さえできなかった復活を遂げて、一瞬で形勢を逆転させた。植え付けられた敗北が、恐怖が腹の中で暴れまわるようだった。

 

「クソッ!」

 

 机に拳を打ち付けていた。自分が居れば、どうにかできるというのは思い上がりでしかなかった。敵対者には絶対的なまでの理不尽と暴力を押し付けるヒーローの脅威は健在だった。

 頭を抱えていると、呼び鈴が鳴った。家主に代わり表に出ると、黒塗りの高級車が停まっていた。中から出て来たのは槍蜂と軍蟻だった。

 

「何の用だ?」

「いや、二人共大丈夫かと思ってな」

「芳野は部屋から出てこない。飯は食ってくれるが」

「そうか。何が起きるか分からないから、お前は傍にいてやれよ」

「……分かった」

 

 相手の気遣いは分かったが、先日の失態を思い返すと皮肉の様にしか受け取れない自分が情けなくなり、返事も素っ気ない物となってしまった。

 どの様にフォローするべきかと槍蜂が考えている傍ら、軍蟻がタブレットを差し出した。

 

「暫く家から離れられないなら、会議とかではコレを使って」

 

 インターフェイスを既存のスマホに似せていたこともあり、剣狼は説明もなく起動できていた。流石にアプリの使用方法だけは説明を受けていた。

 

「会議が始まる30分前にアラートが鳴るから。コレ、充電器も」

「良いのか? 内容が盗み見されたりはしないのか?」

「大丈夫。僕達だけしか知らない暗号通信を使っているから」

 

 教わった操作を確認する様にして、タブレットを操作して通話アプリを立ち上げた。知らない背景が映し出されたかと思えば、慌てた様子で移り込んで来たのは中田だった。

 

「おぉ! ケン! ちゃんと映っているな!」

「中田の兄貴。今、何処にいるんだ?」

「事務所を移したんだ。お前も復帰できるようになったら、迎えに行くぜ」

「ちゃんと繋がったみたいだね。このまま会議を始めよう」

 

 無遠慮に染井家に上がり込んだ。今まで案内している間に、タブレットの画面は切り替わり、会議室を俯瞰的に映し出していた。会議室には染井組以外の者達も出席していた。中央にはフェルナンドが鎮座していた。

 

「『ジャ・アーク』再結成の為に集まってくれたことは礼を言う。まず、確認するが。俺達の目的は『エスポワール戦隊』の打倒までだ」

「その後の、お宅の組織との関わりって言うのは?」

「綺麗さっぱり手を引くつもりだ。アンタらのシノギや抗争には関わらない」

 

 顔ぶれに若さが漂うのは、どの組もごっそりと上の方が抜けてしまったからだろう。ヒーローの脅威に怯える者、怒りを漂わせている者、冷淡に出席者達を値踏みしている者。単純な協力関係と言う訳ではなさそうだった。

 声を張り上げたのは、2m近い巨体を持つ坊主頭の男だった。黒スーツの左腕部分が盛り上がっている所を見るに、彼もリング装着者であるようだ。

 

「なら、話は早ェ。エスポワール戦隊の頭をぶっ殺せば、それで終わりじゃあ!」

「金剛。それが出来ないから集まっているんでしょう。貴方の兄貴分も、レッド1人に殺されたって聞きましたが」

 

 金剛と呼ばれた男に冷や水を浴びせた男は、フチなしのメガネを掛け、頭髪をオールバックでまとめ、グレーのスーツを着こなしている姿はサラリーマンとしても通じる物だった。

 

「金木ィ。老人共を騙して金儲けしとる連中には、そんな根性も無いか!」

「喧嘩は他所でやってくれ。今日話したいのは、今後の方針だ」

 

 フェルナンドが威圧すると、金剛達は押し黙った。スクリーンには、大坊乱太郎の姿が映し出されていた。いずれも犯罪者や怪人達を無慈悲に殺傷している姿だった。

 

「エスポワール戦隊の頭はコイツだ。戦闘能力は頭一つ抜けている。先日の葬儀場での抗争も、染井組の奴らが追い詰めたが」

 

 続いて流された映像には、件の復活シーンだった。両腕が銃身へと変貌して、周囲に破壊を振りまく暴風めいた光景だった。

 

「この様に戦闘能力では無類の強さを誇っている。マトモに戦うのは得策じゃない。犠牲を増やすだけだ」

「では、どうするつもりですか? 脅しで止まる連中だとは思えませんよ?」

 

 エスポワール戦隊の隊員達は強化外骨格(スーツ)で全身を覆っている為、相手の詳細などが割り出せず、人質作戦も使えない。

 

「俺もそう思っていた。だが、少しだけ事情が変って来た」

 

 続いてスクリーンに映し出されたのは、牧歌的な光景だった。老人や若者達に交じって隊員達が混じって田畑を耕していた。

 制裁ばかりをしている彼らのイメージからは掛け離れていたが、誰も何も言わない。まるで、この光景が何処で繰り広げられているかを知っている様だったが、事情を知らない中田は黒田の脇を突いていた。

 

「おい。ここ何処なんだ?」

「俺も知らねぇ」

 

 全員何も言わないが、実は知ってそうで誰も知らないのではないか? そんな疑問が過ったが、タブレットから参加していた剣狼が声を上げた。

 

「それは何処での活動なんだ?」

「ハト教。大坊達がかつて平穏なひと時を過ごした場所で、エスポワール戦隊の客引きパンダみたいな場所だ」

 

 国内で無法にリンチをして回る集団というイメージを払拭するためのパフォーマンスとも揶揄されているが、介護ホーム的な役割を果たしており、それ以外にも不登校や引きこもりの人間などの更生も受け持っているらしい。

 

「更生ビジネスなら、ウチでもやっていた事ですが。極道や半グレを排除して、パイを奪っている訳ですか?」

「そう見られてもおかしくはない」

「なるほどぉ。ここにカチコミ掛けてやれば、連中を脅せるって訳か!」

「いや。そんなことをしては、結局は全面戦争になるだけだ。俺達がこの中で狙うのは一つ」

 

 ハト教と呼ばれる場所での活動を映し出した写真の中に赤丸が付けられた。いずれも、1人の女性に対してだけだった。

 

「この女性は?」

「エスポワールピンク。初代エスポワール戦隊のレッド以外の、唯一の生き残りだ。最近、俺達が脅したこともあって、今はハト教で働いているらしい」

「……ほぅ」

 

 金木が獰猛に笑みを浮かべた。相手の弱点に付けこみ、脅すのは極道の常とう手段と言ってもいい。タブレット越しには空気が伝わらないのか、剣狼が無遠慮に尋ねる。

 

「レッドが今更、他人を気にするのか?」

「問題ない。アイツがピンク宅に襲撃を掛けられない様に観測していることは俺達も把握している。現状、アイツがレッド唯一の弱点なんだよ」

 

 もしも、ピンクを誘拐拉致することが出来れば、エスポワール戦隊に一矢報いることが出来るならと、会議に出席していた者達は意気込んでいた。

 

「ガラを浚うなら、任せて下さい。慣れてますよ」

「いや、今回の任務は正面からって訳には行かない。潜入任務になる。加えて、現地でピンクと交戦できるだけの能力を持った者に限られる」

 

 レッド程ではないにしても、彼女もエスポワール戦隊であったとしたら生半可な戦闘能力の持ち主ではないことは予想できた。

 

「だとしたら、儂の出番か!」

「いや、リングを付けたままは入れない。それに、金剛さん。アンタは良くも悪くも有名だ。顔が割れちまっている」

 

 潜入の段階で弾かれる。となれば、無名の人間を送り込むしかない。この場にいる者達の視線は黒田達に集まった。フェルナンドも頷いた。

 

「中田。お前に任せるつもりだ」

「俺ェ!?」

「コイツより、俺に任せて貰った方が」

「駄目だ。黒田、お前は察しが良すぎる。こういうのはな、ちょっと位。間の抜けた奴の方が疑われないのさ」

 

 黒田が眉間を抑えていた。中田が潜入任務。この上なく不安に駆られるが、当の本人は自信満々な顔をしていた。

 

「えぇ、任せて下さいよ。俺が見事に溶け込んでみせますんでね!」

「……不安ですね」

 

 全員の心中を代弁する様にして、金木がポツリと呟いた言葉に剣狼以外が頷いていた。

 

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