戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~   作:ゼフィガルド

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普通 12

 

 播磨にとって、世界は偽物ばかりだった。面白くもないエンタメに興じる同級生、一つも心を打ち震わせない美談や感動。一つも感じられなかった親子間の絆。友愛と綺麗ごとを述べながらも、隠し切れない程に汚濁し切った世界。

 特に彼が嫌いだったのは、エンタメにおける主人公(ヒーロー)と言う物だった。誰もが憧れ、思いを馳せる為に合わせた規格。脚本に則って、約束された未来に突き進む存在を、これ見よがしに素晴らしい物だと飾り立てる周囲を嫌っていた。だから、彼は初代ジャ・アークが現われた時は喜んでいた。

 

「世界には本物がある」

 

 彼らは特撮劇の様に、ヒーロー達の都合に合わせて勝負を仕掛けたりもしない。子供達に見せられない刺激的な惨劇を幾つも引き起こしていた。

 予定調和の無い世界で跋扈する悪と言うシンボルに対しては、やはり善のシンボルがぶつけられた。エスポワール戦隊と言う『希望』を象徴する彼らは、まるで台本の筋書きの様に悪の組織を滅ぼした。結局はオキマリから逃れられない事に落胆しながら、彼は自らの冷淡さを活かして裕福な地位を獲得していた。そんなある日、彼は衝撃を受けた。

 

「国会議事堂前で……」

 

 ニュースに映っていたのは、エスポワール戦隊のリーダーだった。ヒーローであったはずの存在が、何故この様な凶行を起こしたのか? かつての仲間を殺害し、復活した幹部達を次々と殺害して回る。

 誰に褒められる訳でも、報酬を得られる訳でも無く。ヒーローとして悪を退治する使命に殉じているに違いない。狂人でしかないが、播磨の心は打ち震えた。

 

「凄い。本物だ! 本物のヒーローだ!!」

 

 誰かに褒められる為でも、グッズ販売のコマーシャルフィルムでもない。彼はヒーローとしての使命を果たし続けているのだ。何とかして、彼と話がしたいと思い、持ちうる手段の全てを使えば、会合するのは簡単だった。

 

「でね。俺は、あの特撮劇とかアメコミのヒーロー共は全部偽物だと思っているんですよ。だって、アイツら。本当に困っている社会的困窮者を救わずに、怪人とかヴィランとばっかり戦っているでしょ?」

「気が合うな。実は俺も疑問に思っていたんだ。ヴィランを倒すよりも、パワハラやいじめをしている奴、平和を全うしようとしている奴らを倒すべきだと思っているし、虐待されている児童や社会的困窮者に目を向けてこそ。胸を張れるヒーローだと思っている」

 

 更に嬉しかったのは、自分が思い求める『本物』と言う理想像を、大坊も抱いていた事だった。間もなくして、播磨は変身用のベルトとガジェットを受け取り、ハト教の運営に力を入れて行くことになった。

 今までは上手く行っていた。信者達を体の良い労働力に変え、介護施設も順調に運営していた。貧困層向けに細く長く絞って行くつもりであったが、評判が評判を呼びキャパシティの問題も出て来た。……ある日のことである。

 

「すみません、お願いがあります」

 

 面会に来たのは利用者の親族だった。度々、支払いの遅れも出ていることから生活的に困窮していたことは予想したが、ビジネスである以上。相手が同情を買うような真似をした場合は、払い除けるつもりでいた。

 

「何だい?」

「私の父を……ここで。殺して貰えませんか」

 

 あまりにも真剣な声色に周囲も気圧されている中。播磨だけは笑みを浮かべていた。一般人をここまで追い詰めるだけの何かがあるのだと。

 

「話してみなよ」

 

 皇と言う国では安楽死は認められていない。年老いた両親は最後まで面倒を見るべきだという常識が蔓延っているが、当事者に掛かる負担や心労について考えられる者は少ない。

 彼が語る人々の美徳言うのは、正に唾棄すべき偽物であった。自分は面倒を見る気も無ければ、協力する気もない。ただ、気分が良くなりたいという美辞麗句を吐いているだけの連中。彼らに怯えながらも、これ以上耐えられない。と言う悲鳴は、男性の心からの本音だったのだろう。

 

「殺人教唆は犯罪だと分かっています。それで、私も制裁の対象に入っても構いません! これ以上は、共に歩んでいくのは無理なんです……」

「君の本音。気に入ったよ。ただし、条件がある。死ぬ間際に立ち寄るんだ」

 

 言われた通り。既に自分の事も周囲の事も、息子の事さえも分かっていない男性を始末する際に見せた表情を忘れることは無い。

 手っ取り早くスペースを空ける意味で合理的でもあったが、それ以上に感情と心がきしみを上げながら、叫んでいる真実の姿に播磨は見惚れていた。以後、彼は介護施設の傍らで処分施設も運営していくことになる。

 

~~

 

 件の介護施設を爆破する準備をして、妨害電波を起動させた後。播磨は幾らかの手勢と共にハト教の秘密脱出口を使っていた。随行させている、オリーブグリーンのカラードが尋ねて来た。

 

「播磨様。何故、態々介護施設を爆破する必要が?」

「直に処分施設の事もバレるだろうとは思っていただろうし、跡形もなく老害共を吹っ飛ばそうと思ったから。って言うのは、おまけだね」

「おまけ?」

「うん。ほら、中田って奴が居ただろ? あの潜入工作員」

「いましたね。特に何かをしていた訳ではありませんでしたが」

「アイツがいたおかげで、何かがあったとしても『ジャ・アーク』の仕業に出来る。何よりも、最近のリーダーは温くて困るんだよ」

 

 滅多に感情を浮かべない彼の顔に怒りが浮かんでいた。ギリリと噛み締めた歯の隙間からは血の混じった唾液が噴き出していた。

 

「何か思い当たる節が?」

「ピンクだ。アイツのせいで、リーダーの心に贅肉が付いた。誰かの為だけを思うヒーローなんて不純だ。大義と理想だけを見据えていないと本物じゃない。アイツさえいなくなれば、リーダーは更なる怒りと信念によって世界中の悪を駆逐してくれるはずだ」

 

 その為に、工作までして来た。ハト教は間もなく悲劇の舞台となるはずであり、様子を見届ける為に双眼鏡で施設を見ていたが、播磨の予想通りにはならなかった。

 

~~

 

「何だこりゃ!?」

 

 介護施設付近へとやって来た稚内は、天へと昇って行く存在を見た。姿形からして怪人の類だろうと思い、仲間達と共に銃剣型のガジェットを構えたが。

 

「待って!」

「桜井さん!?」

 

 入り口から桜井が慌てて出て来た。フェイス部分は解除しているが、胴体部分は自分達と同じく強化外骨格(スーツ)を装着している。少し遅れて、富良野も一緒に出て来た。

 

「先輩。どうしたんですか?」

「あの怪人は、中田君なの。介護施設内に爆弾が仕掛けられていて、私達を被害から遠ざける為に彼は……」

「ちょっと待ってくれ。話が突拍子過ぎて、全然わからねぇ!」

 

 他の隊員達も理解に時間を要していたが、リーダーが懇意にしている人物が虚言を吐くとは到底思えなかった。

 

「地下への行き方は、この入居者の部屋の電灯スイッチをこの間隔で切り替えて! 他にも、爆弾が仕掛けられているかもしれないから。隊員の人達も避難を手伝って!」

 

 事態の深刻さを察した一同が残りの避難作業を完遂させるために動き、件の地下スペースを探る為に動く。稚内の動きが遅れてしまったのは、自分の母親が避難できているかを目で追っていたからだろう。

 

「望?」

「母さん! 無事だったんだな!」

「先輩が外へと連れ出してくれましたからね」

 

 富良野の顔色も良くは無い。もしも、何も知らないままでいたら自分も巻き込まれていたかもしれないと思うと、ゾッとした。彼女を安心させる様にして、桜井がそっと肩を抱いた。

 

「大丈夫。後は、私達に任せて」

「先輩?」

 

 家の中でよく見る、飼い猫の様にゴロゴロしていて腑抜けた表情でも無ければ、不安そうにしている訳でも無い。かつて、富良野も憧れていたエスポワール戦隊の一人がいた。

 

「稚内君。中田君から伝言を頼まれていたの」

「なんて?」

「おふくろさんの事を大事にしてやれよ。って」

 

 瞬間、稚内は理解した。どうして、中田が怪人化してまで爆弾を皆から遠ざけようとしたのか。彼の身の上話を聞いていた頃には、内心では自分達に復讐する機会を伺っているのではないかと疑っていた。

 だが、共に日々を過ごしていく内に、何時しか疑うことも忘れていた。疑念など必要が無かったのだ。

 

「バカ野郎……!」

「でも、諦めちゃ駄目。皆の為に頑張るのは、もう無理だとしても。私は、私を守ろうとしてくれる人達の事は助けたい。……だから、戦う為じゃなくて! 彼を救う為に! 力を貸して!!」

 

 彼女の覚悟と決意に呼応する様にして、胸元から桃色の光が発せられた。彼女のガジェットであるピンクウィップが光に覆われ、空に向かって振るうと何処までも伸びて行く。

 

「えぇ!?」

「お願い! 彼を掴んで!!」

 

~~

 

 空に昇って行く際、走馬灯の様に今までの出来ごとが巡っていた。筋を通すだなんて恰好を付けてしまったが、実際は大した理由ではなかった。

 もしも、ここで何もしなければ。知人友人が悲しむだろう。アイツらが悲しむ顔を見るのは嫌だなぁ。と言うのが発端で、かつての恩師やら何やらが浮かんで大それたことをしてしまった。胸に抱いた爆弾のタイムリミットは残り僅かだった。今、手放したとして爆風から逃れられるだろうか?

 

「一丁前のツラをする様になったじゃねぇか」

 

 目の前には染井組長がいた。勿論、こんな空中にいる訳も無いので幻だという事は分かっていた。いや、ひょっとしたら自分はもう爆風に巻き込まれて死んでしまったのかもしれない。

 

「ヘヘッ。親っさん、俺。アンタみたいになれたかな?」

「立派なもんだよ。小便漏らしていた小僧とは思えねぇな」

「ひでぇっすね。向こうでも、親っさんに付いて行くんですから、他の奴らには内緒で頼みますよ?」

「いや、お前がこっちに来るのはまだまだ先になりそうだ」

 

 不意に幻が途絶えた。気づいたときには、自分の足に桃色の鞭が巻き付いていた。抱えていた爆弾が爆発する寸前に、体が地上へと引き寄せられていく。

 

――

 

「お願い。千切れないで……!」

 

 ミシリと嫌な感触が伝わって来た。グリップハンドル付近のボディが千切れかけるたびに再生を繰り返していく。やがて、負荷に耐え切れず完全に分断されようとした所で。

 

「うぉおおおおおおおおおおお!!!」

 

 稚内が千切れかけている部分を引き合わせて、再生が素早く行われる様に促していた。だが、彼に掛かる負担も相当な物だろう。協力者は彼だけに留まらない。姿を消していた富良野が隊員と一緒に、取り外して来たマットレスを持って来ていた。

 

「先輩! 緩衝材に使えるかは分からないですが!」

「ありがとう! 中田君! 貴方が私達を助けてくれるなら! 私達が貴方を助けてみせるからッ!!」

 

 間もなくして、空から変身状態が解かれた彼の姿が確認でき、マッドレスの上に着地させることに成功した。マットレスの上で気絶している彼のバイタルを確かめる為に、多くの隊員達が駆けつけていた。

 

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