戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~   作:ゼフィガルド

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矛盾 7

 

 エスポワール戦隊基地は地獄と化していた。廊下の至る場所には隊員と怪人達の死体が転がっていた。緊急脱出用の避難口にも待ち伏せされており、生き延びようとした者達の希望が悉く断ち切られていた。

 

「待ってくれ! 命だけは」

 

 両手を頭の後ろで組まされ、一列に並ばされた隊員達の後頭部が次々に撃ち抜かれて行く。量産型の強化外骨格(スーツ)の興奮作用では誤魔化しきれない程に制圧が進んでいた。

 

「ボス。どうしますか?」

「絶対に投降を許すな。全員殺せ」

 

 通信越しに、フェルナンドは淡々と指示を飛ばしていた。次々と積み重なって行く死体は相当の物となっており、処分するにも隠蔽するのも難しい。

 

「いやいや、処分する方法はあるじゃないですか」

「どうすんだ?」

「今。俺達は怪人なんですよ? 処分する為の方法はここにあるでしょう?」

 

 槍蜂は自らの口を指差した。その場にいた者達は少しの間考えたが、意味を理解した瞬間。叫んでいた。

 

「ふざけるな! 俺達は人間だぞ! んなこと、出来るか!」

「でも、アイツらに勝ちたいんでしょう? これだけやったんです。連中、今度は本気で俺達を殺しに来ますよ?」

 

 自分達が行った報復に対して、向こうも全力で報復をしてくるだろう。今回、自分達がやったように誰一人として生かすつもりもないだろう。

 末端の隊員達は兎も角、リーダーやカラード達の実力は油断ならない物であり、襲撃メンバーの中にも返り討ちに合った者達もいる。

 

「……一つ聞くかが、食った分だけ。強くなるのか?」

「えぇ、俺達は怪人ですからね。ついで、コイツらは訓練を受けていた事もあって肉質も良い。死体の処理、自分達の強化。一石二鳥じゃないですか」

 

 合理的ではあるが、反社会的存在である彼らにも破れない人間としての理がある。法律以前に、人としての倫理観だ。

 だが、人である彼らには未来を予想することできる。推し進めたのは報復に対する恐怖か、あるいは自分達に理不尽を強いる社会か。ワニ型の怪人が女性隊員の死体に牙を立てたのを皮切りに、他の者達も同じ様に食らいついた。

 

「美味い。昔食った、羊の肉みたいな味がしやがる!」

 

 味や肉質よりも、別次元の快楽が脳を刺激していた。相手の生命を蹂躙する背徳感。全身を満たす活力。自分が生まれ変わっているのではないかと言う錯覚に襲われる程の変化だった。

 

「豊島さんは食わないんですか?」

「俺は外道に落ちるつもりはねぇよ」

「悔しくないんですか? 染井さんの仇を取りたくないんですか?」

「化け物の分際で親父の名前を言うんじゃねぇ」

 

 カニバリズムに走った怪人達の体躯は膨れ上がり、牙や爪は凶悪な物へと変貌していた。彼らは、心まで怪物になり果てたのだと。

 

「化け物ねぇ。でも、それを言ったらヒーローの連中も化け物じゃないですか。貴方は、大坊さんと戦ったことがあるんでしょう?」

 

 思い出す。両手を切り落とされても、理不尽で暴力的な復活を遂げた姿を。あの異様さは怪人とは何が違うのか。

 

「化け物に勝つには、こっちも化け物になれってのか」

「そういう事ですよ。この期に及んで人間ごっこは止めましょうよ。ヒーローも怪人も、どっちも化け物であることには変わりないんですから」

 

 ならば、この戦いは化け物同士での殺し合いでしかないのか。

 血の臭いに誘われる様にして、続々と怪人達が表に出て来た。彼らは仲間達の異常な行動に驚きはした物の、次々と忌避感を捨て去って同じ様に死体の処理に当たっていた。

 

「……俺達は、組む相手を間違えたか」

 

 もしも、地獄と言う場所が存在しているのなら。きっと、この様な光景が繰り広げられているのだろう。人の倫理観も道徳も放り投げた、惨状は獣の様な叫び声と共に続いていた。

 

~~

 

「エスポワァアアアアアアアル! ダガァアアアアアアア!」

「ぐっ!?」

 

 接近戦を試みた黒田は、脇腹と兼部にダガー型のガジェットを突き立てられていた。刀身が体内に沈み込んだのを見計らい、パープルは柄のスイッチを押した。刃の部分が分離すると同時に、刺された箇所が爆ぜた。

 

「黒田ァ!」

「今こそぉおおおおお! 仲間の思いがお前をぉおおおお! 倒す!!」

 

 背中にマウントしていた銃剣型のガジェットを両手に持ち乱射した。だが、黒田は下がる所か距離を詰め、肉薄した。再び刺されるかと思いきや、彼はパープルの股間に向けて蹴りを放っていた。

 睾丸が潰れ、強化外骨格(スーツ)から痛みを遮断する電気信号が送られるよりも先に、黒田は尾を振るった。刃の様に鋭い先端は、パープルの股間にぶら下がっていた物を切り落とした。

 

「あああああああああああああああぁああああああ!!」

「テメェ、うるせぇんだよ」

 

 絶叫が響くが、直ぐに途絶えた。声帯ごと首の骨を折られていた。彼の死体からガジェットやベルトを奪うと、黒田は直ぐに歩き始めた。

 

「なぁ、これは何処に向かってんだ?」

「エスポワール戦隊の緊急用脱出口だ」

「……ちょっと待てよ。なんで、そんな場所があることを知ってんだ?」

「どうやって入手したかは俺も知らねぇよ。ただ、これだけ静かな所を見るに、殆ど制圧は完了したみたいだな」

 

 気付けば、交戦音も怒号も何も聞こえなくなっていた。既に戦闘は終わっていた。何処を見ても死体が転がっている。自分達の恩師は、こんな光景を望んでいたのだろうか?

 変身が解かれた隊員の中には、稚内の様な少年もいた。桜井や富良野の様な女性もいた。こんなことが起きてしまったのだから、和解や相互理解は絶対に不可能だと考えていた。

 

「これから、どうなるんだろうな」

「戦争だ。どちらかが滅びるまでな」

 

 その時、自分はハト教で見た彼らを手に掛けられるのだろうか? いや、もう戻ることも出来やしない。廊下に頃がる死体の数が増えていた。入り口に向かう者達も居れば、基地内戻ろうとする者達も居た。進んだ先に合った光景は。

 

「ウォオオオオオオオオ!」

 

 黒田達は己の目を疑った。辺り一面には強大化した怪人達がいた。周囲に散らかっている物、彼らが手に持っている物、口に運んでいる物を理解した瞬間。中田の絶叫が木霊した。

 

「ヒーロー達に目に物を見せてやりましたし。中田さんも取り戻せたんだから、次に迎えて備えましょう」

 

 膝から崩れ落ちる彼の気も知らずして、槍蜂は声を掛けた。トラックや車が駆けつけて来たが、全て遠い世界の出来事の様に思えていた。

 

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