戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~   作:ゼフィガルド

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かえるべき場所
善意という怪物 1


 

 皇を覆う現状については、海外も重い腰を上げた。エスポワール戦隊にもジャ・アークにも悟られない様に、秘密裏に会談は行われていた。

 

「では、許可を?」

「我が盟友が危機に陥っていますからね。今は、倫理や世論を乗り越えるべき時です。超法的に軍隊や警察にも『ヒーローガジェット』の配備を許可しますが、条件があります」

「ユーステッドと技術共有をすること。ですね」

「はい。ヒーローガジェットが暴走や不正使用がされる危険性が無い事。平和憲法に接触する可能性が無いことを示す為にも、情報開示をして貰います」

 

 立ち会っている皇の議員は内心で舌打ちをしていた。既にユーステッドの企業が技術を盗用して、ヒーローガジェットやスーツをエスポワール戦隊に回していたのは分かっていた。

 立件するよりも先に、技術を接収するべく交渉を持ちかけて来たという事は、既に向こうでは生産体制の他にも色々と整ったのだろう。

 

「これらの技術を開示した所で、ユーステッド内で軍事的に使われないという保障はありますか?」

「勿論です。議定書にも明記しています」

 

 秘密裏の会談で製作した議定書にどれだけの信憑性があるのだろうか?

本来は皇を蝕んでいたジャ・アークに対抗する為だけの技術力だったが、人間同士の諍いでも効果を発揮するという事は、嫌という程分かっていた。

 

「皇だけに負担させるつもりはありませんよ。スーツやガジェットの製作費は我が国からも出させて貰います」

 

 金を出すんだから、文句を言うな。大国らしいやり方だった。かつて、用済みとなったヒーローを追い出した高い代償を支払わされようとしていた。

 

~~

 

 桜井達の軟禁生活は続いていた。ネットの書き込みや外出は出来ないが、施設内であるなら行動制限は緩かった。自堕落な生活は避けようと、トレーニングルームを使わせて貰っていたが、殆ど人はいなかった。

 

「誰もいないですね」

「手っ取り早く強くなる方法を見つけたから。でしょうね」

 

 皇国内は内戦状態にあると言っても良かった。悪人や前科者達が怪人となり、義憤に駆られた者や保身に走った者がエスポワール戦隊の一員となる。

 数で言えばエスポワール戦隊が多いが、個人の強さは怪人に分がある様に思えた。どちらの立場としても関わるつもりのない彼女達は、出来るだけ外のニュースを見ない様にしていた。気まずい沈黙が続く中、自動ドアが開く。中性的な顔立ちをした少年『軍蟻』が居た。

 

「お姉さん。ちょっと、研究室に来てくれる?」

「分かった」「私も行きます」

 

 富良野も付いて行く。桜井の体調を管理するという名目で、ベルトの解析作業は行われていた。彼女が拒否をしなかったのは、自分達に埋め込まれている物の正体を知りたいというのもあったからだ。

 研究室の充実ぶりは、現役だった頃に基地内で見た物と遜色がない様に思えた。ベッドに寝かせつけられ、様々な機材を取り付けられ、研究者の指示に従って行動をしていた。強化ガラス越しに見ながら、富良野は疑問を口にした。

 

「そもそも。ベルトやリングって言うのは、一体何なんですか?」

「何。って?」

「いや、リングは其方の技術だとしても。ベルトって言うのは、人類が開発した技術なんですよね? でも、何の脈絡もなく、こんな凄い技術って生み出される物なのかなって」

 

 ぼんやりとした記憶ではあるが、富良野が幼少期の頃。戦う為の道具と言うのは銃や兵器などが中心だった。悪の組織というフィクションめいた存在の登場から、特撮ドラマなどで使われるベルトやガジェットが開発されるなど。

 偶然にしては、あまりにも呼応しすぎている様に思えた。果たして、本当にエスポワール戦隊は人類から生み出されたのかと。

 

「分からない。誰が開発したのか、どうやって生まれたのかも。お姉さんに聞いてみたけれど、やっぱり知らないって」

「ブラックボックスなんですね。解析して、何か分かった事とかは?」

「小さいお姉さんに話しても分からないと思う」

 

 イラっとした。確かに計器に浮かぶ数字や情報を見ても分からないが、ザックリしたことだけでも教えて欲しかった。

 

「じゃあ、これだけ。ベルトが先輩に影響を与えているってことは?」

「幾つか。感受性が常人よりも高くなっているから、情緒不安定になり易い」

 

 自分と生活しているときは、あまり素振りを見せないが。言われてみれば、心を病んで入院したり、ハト教の一件ではパニックに陥ったりと。メンタル面が脆いと言うのには、納得できることがあった。

 

「それって、本当にベルトの影響なんですか?」

「エスポワール戦隊員の多くは、スーツの各所に施されたギミックを使って、思考を操作する電流を流したりしているから」

「……え? どういうことですか?」

 

 エスポワール戦隊のスーツには電流を流すギミックが仕組まれており、装着者の恐怖や躊躇いを感知した瞬間に興奮状態にして、全てを打ち消す勇敢さを作り出しているのだと言った。

 

「スーツには身体的能力強化以外にも、精神面を補助する役割も大きい」

 

 先日まで一般人に過ぎなかった者達が、いきなりヒーローになれることにも納得いった。偽りの勇気を与えられていたのだと。

 

「だったら、先輩が情緒不安定になっているのはおかしくないですか? ベルトを内包しているなら、むしろ普段から勇敢に……」

「ずっと戦って来た。ずっと勇敢を与えられることがデフォルトになっていた。戦いが終わって、変身する機会も無くなった。スーツから勇気を貰えなくなった彼女は、精神的に弱りやすくなってしまったんだと思う」

 

 例えば、薬を常用して健康状態を保っている人間が服用を止めると日常生活が送り難くなるように。桜井の日々もベルトに支配されていたという事だろう。

 彼女の現状を知れば知るほど、無垢に応援していた頃の自分が憎たらしく思えて来る。あの活躍が、何を犠牲にした上で成り立っていたかと思うと。胸がキュッと締め付けられる。

 

「分離とかは出来ないんですか?」

「出来ない。既に彼女の体の一部になっている。引き剥がそうとすれば、ショック死するかもしれない。でも、仮に分離して。どうする?」

「え?」

「今の皇では、彼女はヒーロー以外に生きる道はない」

 

 今まで、一緒に暮らして来た。だから、彼女も日常に帰れる物だと考えていた。だが、振り返ってみればジャ・アークやエスポワール戦隊に生かされているだけで、ヒーローでない彼女を求めているのは自分だけだった。

 疑問に対して答えが出せないのを見て、追及するようなことはせず。軍蟻はポツリと呟いた。

 

「構造的に。スーツとリングには似通った部分が……」

 

 彼の呟きが富良野の耳にはいることは無かった。

 

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