戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~   作:ゼフィガルド

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善意という怪物 9

 

 エスポワール戦隊にも動揺が走っていた。今まで静観することしか出来なかった政府が動いている。大量の支部が制圧され、捕縛を免れた者達は本部に終結していた。

 

「これだけか」

「うん。捕縛を免れても、保身の為に脱走した人達も少なくはない。ベルトの反応も消失しているから、何もかも捨てたと見て良い」

 

 脅威と理不尽に抗ってこそのヒーローではなかったのか。状況次第で逃げ出す程度の覚悟しか持っていなかった者達に対する憤りを超えて沸き上がったのは、窮地に立った今。なおも共に戦う仲間がこれほど居たということだ。

 逃げ出した者達の中にはカラードも居たが、残った隊員の中には、一番ランクの低い量産型強化外骨格(スーツ)を装着している者も居た。

 

「七海。彼らこそ、真の仲間だ。国から言われて、早々に市井に帰ろうとしたブルー達なんかとは違う。今度こそ! 俺と最後まで戦ってくれ!」

 

 賛同を示す様に応という咆哮が響き渡る。同時に、末端の者達が装着している量産型のスーツが色づいて行く。まるで、大坊の覚悟に呼応するようにして本人達も決意したかの様だった。七海が言う。

 

「リーダー。号令を」

「皆! 今度の敵は皇だ! 自由と平和の下に横暴を許し! 俺達ヒーローと言う自浄作用を阻む連中を許すな! 俺達が! 本当の皇を取り戻すんだ!」

 

 かくして。数年前、皇を守ったヒーローの矛先は翻った。人々の平和を願う善意はそのままに、人々の中に蠢く悪意と敵意を遥かに上回る憎悪と憤怒を抱えて、彼らは参上する。

 号令を飛ばした後、大坊は踵を返して指令室へと向かった。既にビリジアン達が準備を終えていた。

 

「リーダー。後はアンタが始め。って言ってくれれば、皇全国に放送できるぜ」

「そうか。では、ビリジアン。始めてくれ」

 

~~

 

「皇全国の皆。俺の名前は、もはや言うまでもないだろう。エスポワール戦隊リーダーの大坊乱太郎だ」

 

 皇全土に放送される。ラジオで、テレビで、ネットで。ありとあらゆる媒体で声明が表明されていた。当然、桜井達も見ていた。

 

「最近の皇の安寧が乱されているのは、一重に俺達の力不足だ。悪人共が裁きを受けることを良しとせず、その身を怪物に変えても生き永らえようとしている。実に醜く、浅ましいことだ」

「そうなるまで追い詰めたのは、この人なんですけれどね」

「リーダー。まさか、本気で」

 

 先日の会合を思い出す。彼は、皇その物を憎んでいた。非人道的な実験の末に自分達を生み出した事か。自分達の証とも言えるベルトの軍事利用を考えている事か。

 

「鎮圧の為に国が動き、俺の同志達も捕縛されている。この事態を喜ぶ者もいるだろう。だが、本当に良いのか? 俺達が敗れれば、この皇という国は元通りに腐って行く。裁かれなかった悪人共は、お前達の大好きなアニメや漫画を薄っぺらい倫理観で規制しようとするぞ。お気持ちの配慮を求める者達によって言論が弾圧を受けるぞ」

 

 だが、それらも一部に過ぎない。彼は、もっと大きな怒りを抱えていた。声に熱が入る。

 

「俺は、この皇が守る価値のある国だと思っていた。皆の未来のために戦えていることを誇りに思っていた。だが、実際はどうだ!? 今の皇は自由と平和を濫用するクズに溢れている! 怪人どもを倒して平和など訪れるか!? いや! 俺達が倒すべきは! こんな腐った人間どもを生み出す皇その物だったんだ!!」

 

 カメラが引き、大坊の前に目隠しをされた5人の人間が並べられていた。いずれも手足を拘束されて、顔面をグシャグシャに歪めている。大坊は手にしたレッドソードの切っ先を向けた。

 

「この男は! SNS上で誹謗中傷と差別をばらまいていた! 隣国の工作員から金を受け取ってな!」

「助けてくれぇ!! この国には言論の自由があるんじゃなかったのか!」

「人を苦しめる自由などいるか!!」

 

 振りかざした剣で男の頭を叩き割った。次に向かったのは、中年の醜い女性だった。

 

「この女は、自分の容姿や性別を武器にして若く才能のある女性達の活躍の場を潰す工作をしていた。女性の権利と自由を掲げてな!!」

「皆! これは弾圧よ! 私達の権利侵害を目的にした……」

「自由と権利を使って先に弾圧をしたのは貴様らだ!!」

 

 手にしていたレッドソードは巨大なハンマーへと変わっていた。爪先から、頭のてっぺんに至るまで丁寧に叩き潰した。骨が皮膚を突き破り、合間から血液や臓腑を垂れ流していた。

 

「俺は間違えた。この国は、自由と平和を取り戻すべきではなかった。故に、これから俺達は、お前達に預けた自由と平和を返して貰う! 差別をする自由、迫害をする自由、弾圧する自由。搾取する自由。俺が守った世界に、存在してはならない。止めようと思うなら止めて見せればいい。だが、もしも俺達の同志になりたい者がいるなら、付いて来い! 共に! 病に侵された、皇を救おう!」

 

 砂嵐が流れる。本気だった。大坊は、この国に戦争を仕掛けた。部屋の無線が鳴った。相手はフェルナンドだった。

 

「緊急招集だ。集まってくれ」

 

 富良野と共に訪れた会議室はすし詰め状態だった。ジャ・アーク本部のメンバー達が全員集まっているんじゃないかと思った。フェルナンドの隣にいるスーツの男は、桜井も見た事があった。

 

「フェルナンド! 隣にいる奴は、政府の関係者じゃ」

「その通りだ。さっきの放送を見て分かる通り、エスポワール戦隊はこの国に戦争を仕掛けやがった。見て見ろ」

 

 スクリーンが降りて来る。自衛隊基地などを映し出せば、支部襲撃の報復と言わんばかりに巨大な合体メカが暴れ回っていた。

 

「やれ! グレートキボーダー!」

『皇の自由は我々が守る! 煌めけ、希望の一撃! エスポワールキャノン!』

「来るぞ!! 各自散開! 強化済みの戦車も出せ!」

 

 敵も味方も全員がスーツを着用している。片や、量産型強化外骨格(スーツ)の制式仕様なのか、カラーリングは自衛隊仕様の物となっていた。

 一方、驚異的だと思った光景があった。エスポワール戦隊員と思しき者達には、全員がカラードに進化していた。銃剣型ガジェットをサイドアームズとして携行している者はいたが、全員が専用のガジェットを装備していた。会議室に詰めかけていた者達は息を呑んだ。

 

「御覧の通り、今やエスポワール戦隊員は一騎当千の者達が残っています。もはや、我々だけでは押し切るのは難しい状態になっており……」

「俺達に協力を打診しに来た訳だ。願っても居ないことだ」

 

 何の皮肉か。皇がヒーロー達によって倒されようとしていて、悪の組織に助けを求めている。富良野が声を上げた。

 

「何を考えているんですか!? ここで、ジャ・アークに協力して事態を切り抜けたとしても、どれだけの借りを作ることになると思っているんですか!?」

「では、このまま彼らに国が滅ぼされるのを見ておけというのか!? 国が綺麗ごとだけで成り立っていると思っているのか!!」

 

 政府の男が言うことは実際に正しいのだろう。綺麗ごとだけで国が成り立っていないこと位は富良野にも分かっていた。言葉に詰まった、彼女の代わりに桜井が口を開いた。

 

「なら、滅んじまえ」

「……な、何を言っているんだ」

「アンタらが自由と平和で腐らせてきた国でしょうが。正直に言うと、いい気味ね。私達が勝ち取った世界の意味も知らないで好き勝手に過ごして来たツケよ。いっそ、このままエスポワール戦隊に倒された方が良いんじゃない?」

「黙って聞いていれば、何が分かる! じゃあ、君は何か! 言論も思想も統制された国にでもしたいと言うのか!?」

「ここは議論の教室じゃねぇんだ。それに、あの女の意思がどうであれ。俺は最初からアンタらに協力するつもりだよ。リングを渡した仲だろう?」

 

 というよりも、協力せざるを得ないということは誰にでもわかっていた。運命共同体として、エスポワール戦隊と戦わねば明日はない。

 既に水面下で取り決めもされていたのか。トントン拍子で話はまとまっていた。捕縛していた怪人の釈放など、政府が堂々と犯罪組織と取引をする光景が繰り広げられていた。

 

「なぁ、黒田。コレヤバいネタじゃね? 今後、政府を揺すれるんじゃ?」

「そんな余裕があればな。今は、俺達の生存すら危ないんだぞ」

「金剛達も殺された。俺も強くなっている自信はあるが」

 

 各自の決意はもとより、皇全土を巻き込む戦争の火蓋は落とされた。関係者でない桜井と富良野は部屋へと戻っていた。

 

「どうして。こうなっちゃったんでしょうね?」

「……もしも、リーダーに帰るべき場所があれば違っていたかもしれない。善意と力以外何もなくて、変えるべき場所を変えられなかったから怪物になるしかなかったのよ」

 

 大坊は、ヒーローと言う役目から帰って来れなかった。変えられなかった。終わらないヒーローは悪を倒し続ける。怪獣、怪人―---—嫌われ者も含めて。彼は拳を振るい続ける

 

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