戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~   作:ゼフィガルド

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ビッグ・ブラザー 5

 

 カーター達は逃げ惑っていた。引き連れて来た兵士達が突如として同士討ちを始め、護衛の者達も凶弾に倒れ行く。一体、何故、どうして? まるで理解できない裏切りの原因を探るべく、彼は無線機に呼びかけていた。

 だが、返事は無かった。無線が使えなくなる直前、自衛隊の者達も一斉に味方を攻撃し始めたと聞いた所から、軍に頼るのは危険だと考えた。

 

「クソ。選んでいられる場合ではないか」

 

 所詮はテロ組織。世界の警察たるユーステッドの威信を示し、利益を持って帰るはずだったと言うのに。無様に逃げ惑う彼を嘲笑う様にして、エスポワール戦隊のテーマソングが響いていた。

 

~~

 

 脱出口を降りて行くと、長い通路に出た。ポツンと電動自動車が1台だけ停まっていた。カギは掛かっていなかったので、乗り込んで電源を入れると音声ナビゲーションが流れ始めた。

 

『これは緊急脱出用の車両です。追跡を避ける為に、妨害電波を流しております。設定された目的地にだけ、向かう様になっています』

「何処に向かうんでしょうか?」

 

 モニタに地図と目的地の写真が表示されているが、富良野と芳野にはピンと来ない場所だった。一方、桜井には見覚えがあった。

 

「ここ。ジャ・アークの連中と決戦の場に使っていた採石場だ」

「よりによって。って、場所ですね」

 

 車は走り出す。念の為に富良野が運転席に座ったが、アクセルを踏まずとも進んで行く。戦場から脱したことを実感できたのか、大きく溜息を吐いた。

 

「私達。助かったんでしょうか?」

「ケンさんや皆も、ヒーロー達と殺し合いをしているって言うのに?」

 

 気まずい沈黙が辺りを支配した。自分達は逃げることが許されているが、あの場に居た者達はそうではない。では、彼らが死罪に値する者達だったかと言われれば、この場にいる者達は違うと言うだろう。

 罪を犯した者達であることは間違いない。人々に後ろ指をさされる極道者や怪人だったとしても、生活を共にすれば根っからの悪人でない事位は分かる。少なくとも、死んで欲しくはないとい言う情は湧いていた。

 

「でも。私達に出来ることは、無事に逃げること位よ。中田君や、皆から頼まれているんだから」

「……この戦いが終わったら、平和で正しい皇がやって来るんでしょうか?」

「先輩は、どう思いますか?」

「やって来ない。来るわけがない」

 

 もしも、皇や怪人側が勝者となれば。ヒーローに関する規制強化が入るだろう。だが、負った傷痕から考えてユーステッドを始めとした外国からの介入などで、国民の生活はより圧迫されるかもしれない。すると、元の生活に近しくはなって行くだろうと予想は出来た。

 問題はヒーロー側が勝利した場合だ。彼らの今までの活動を鑑みれば、マトモな未来がやって来るとは思えない。犯罪以外の悪事に対しても私刑を加えて行く先に待ち受けるのは、感情を優先させる獣の世界だ。いずれは、ヒーローが賛同する思想以外は認めない世界へと導くのかもしれない。

 

「桜井さん。何とかできないんですか? ヒーローなんですよね?」

「……私はもう、ヒーローを辞めたのよ」

 

 この避難とて決して安全な訳ではない。自分達の現在地がバレていない保証も無ければ、目的地に待ち伏せが無いとも言い切れないのだから。

 芳野も諦めたように口を閉ざし、車は一同を目的地にまで運んでいく。この争いは自分達には関係ない。いつもの様に震えて蹲っていれば、誰かが助けてくれると信じている。

 

「……誰かって。誰なのよ」

 

 移動している間に、どれだけ事態が進展しているのだろう。自分の目が届かない所で、昨日まで話していた知人や友人が傷ついて斃れているかもしれない。

 心が騒めくが、酷く冷静な自分も居た。行った所で何もできやしない。何かできると言うのなら、どうして大坊を止めなかったのだと。

 

「先輩?」

 

 車は採石場に辿り着いていた。騒ぎとは無縁で、人の気配も見当たらない。騒ぎが収まるまで、ここに居れば安全だとは思えた。今回もまた、自分は部外者で騒ぎに巻き込まれる被害者でいればいい。

 いい訳ならいくらでも思いついていた。ここにも悪漢が現れるかもしれないし、自分は中田達から頼まれている。彼女達から目を離す訳には行かない。車の機能を確かめていた。

 

「へぇ。ステルス機能もあって、耐久も問題なし。よし」

 

 桜井の腹部にベルトが浮かび上がっていた。皇に起きている現状に呼応するようにして、力強い光を放っていた。富良野が目を見開いた。

 

「バカなことを考えないで下さいね。中田さん達からも、私達を守る様に頼まれているんですよね?」

「違うのよ。多分ね、リーダー達が何かをしたんだと思う。ベルトに反応するような何かを」

「どういうことですか?」

 

 車外に出た芳野はスマホを開くと、動画サイトに投稿されている議事堂付近の映像を見た。頻りに空に向かって、青い電気が放たれては周囲に拡散していく意図の分からない動画ではあったが。

 

「多分、ベルトを強化する何かだと思う。だって、今の私。自分の思考が変だと思っているもの」

「分かる様に言って下さい!」

「私。行かなくちゃって思っている。リーダーに何か言わなきゃいけないって思っている。こんな勇気、私の中にある訳ないのにね」

 

 既に変身は終えていた。本来であれば、桜色の強化外骨格(スーツ)であったが、ほんのり赤味を帯びていた。芳野が小さく悲鳴を上げた。

 

「ひっ」

「あぁ、多分。リーダーの力を分け与えるとか、そんなのかな」

「行かないで下さい」

 

 富良野はポケットから包丁を取り出すと。自らの首元に切っ先を向けた。手は震えており、ほんの僅かな拍子で突き刺してしまうかもしれない。

 

「先輩が行くって言うなら。私、ここで自分を刺しますから。芳野さんに治療なんて出来ませんよね」

「あ。ぅ、え……」

「御免。止まってあげたいんだけれどね」

 

 桜井が手にしていた、鞭型ガジェット『ピンクウィップ』が富良野の全身に絡みついた。簀巻きになった彼女は、車内に放り込まれた。

 

「ふざけないで!! なんで、ヒーローってだけで、先輩が戦場に行かなくちゃいけないんですか!? 周りが勝手に馬鹿をしているだけでしょう!? なんで、そんな奴らの為に! 先輩が命を懸けなきゃいけないんですか!? おかしいじゃないですか!!」

 

 目尻に涙を浮かべながら叫んでいた。悪の組織も怪人達も居なくなったはずだったのに、人々はヒーローを求めた。

 正義を恐れた人々は、生き残る為に邪悪に染まるしかなかった。正論や善意は、個人で立ち向かうには余りにも強大だった。悪が膨れ上がれば、ヒーローも強くなる。サブカルチャーなら歓迎される拮抗だとしても、現実に起きれば脅威が膨らんでいくだけだ。

 

「そうね。ヒーローなんて碌なもんじゃない。もっとさ、ハト教とかみたいに。困っている人達だけを助ける存在で良かった。誰かを倒す存在になりたかった訳じゃないし、今でも好きじゃない。でも、一つだけ良かったと思っていることがある」

 

 フェイス部分を解除して、富良野と至近距離で顔を合わせた。二人の距離は徐々に近づいて行き、やがて0になった。互いの口は塞がっていた。

 

「貴女と出会えたこと。リーダーと私が違っていたのは、それだけだから」

「行かないで……」

 

 視界が掠れていく。意識も朦朧として生き、やがて思考も中断された。車内で何かしらの操作を行うと、車全体が周囲の景色に溶け込んだ。

 

「ヒーローって言うのは、皆の為なら。愛する人だって見捨てないといけないんですか?」

「愛しているからこそよ。芳野ちゃん、美樹のことをお願い。代わりに、中田君達のことを助けて来るからね」

 

 返事も聞かず、彼女はピンクウィップを構えると胸に埋め込まれたクリスタルと反応して、質量を増していきバイクの形を取った。座席に跨った彼女に対して、芳野は一声掛けた。

 

「皆と一緒に。帰って来て下さい」

「頑張る」

 

 遠ざかって行く桜井の姿が消えると、芳野は車内へと戻った。ただ、待つことしか出来ない現状にジィっと耐える様にして、頭を抱えていた。

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