戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~   作:ゼフィガルド

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ビッグ・ブラザー 10

 議事堂内。エスポワール戦隊員によって連れ出された議員達は解放された訳ではなかった。神田首相達とは別の部屋に閉じ込められ、変身ベルトを装着させられていた。

 

「まさか、私達にも戦えということではないだろうね」

「ヒヒヒ。大丈夫ですよ、そんなことはありません。でも、何があるか分かりませんからね。議員の皆さまを守る為にベルトを装着して貰っているんですよ」

 

 騒ぎの原因がエスポワール戦隊にあることは間違いないが、抗議をすれば何をされるか分かった物ではなく、彼らは口を閉ざしていた。

 ベルトの装着感は不思議な物だった。腹部を圧迫する様な物でも無く、体内で活気や元気の様な物が生み出されて行くような気がした。何なら、この緊張状態も緩和されて行くような気がした。

 

「なるほど、これが。君達の装着しているベルト……なんだな」

「そうですよ、石井先生。我々はこの力を使って、皇の悪を退治しているのです。……例えば、下らないロビー活動をしている工作員共とかね。先生も迷惑していたでしょう?」

 

 マスメディア等は報道しないが、昨今の民間団体による政治的な活動には、隣国の工作員や過激派思想の者達が関わっていることは、彼らも分かっている。

 法治国家としては話し合いで解決するべきだという体裁はあったが、足元に集る虫共が暴力で蹴散らされて行く様子も見ていた。

 

「これを言うのはどうかと思うがね。……正直、爽快だったよ」

「流石。先生、話が分かるじゃないですか」

 

個人が所有する暴力など、警察や自衛隊によって簡単に鎮圧される物だが、エスポワール戦隊は違っていた。彼らはヒーローであり、現代の装備を凌駕する性能を持っている。

今、その力を自分が装着している。ベルトのバックル部分を押し込めば、変身できる。というのも分かっていた。目の前にいるホワイトのカラードは、一言呟いた。

 

「ヒヒヒ。先生も。一緒にヒーローをやりましょうよぉ!」

 

 いつ追われるか分からない権力だけではなく、物理的に敵を打ち据える力も手に入る。既に石井は正気ではなく、彼は変身を実行した。

 全身が強化外骨格(スーツ)に覆われていく。力が漲り、脳髄に電流が迸った。視界が開けたような気がした。

 

「勿論だ。そうだ。皇は生まれ変われるべきだったんだ。私達が講堂を支配していた時の様に。外圧に苦しみ、頭を下げ続ける情けない皇ではない。未来を信じられた、あの頃を取り戻す必要があるんだ!」

「い、石井さん?」

 

 荒唐無稽。誇大妄想。年を経れば得られるはずの常識や老獪さが抜け落ちたかのようだった。気づけば、また1人。新たにボタンを押していた。

 

「そうだ。この国を導いて来たのは私達だ! だと言うのに、老害だの好き勝手言う連中に、見せてやらねばならん!」

 

 1人の決意に呼応するようにして、連行した議員達がまた1人。ヒーローへと変身していく。その様子は、桜井達の部屋に設置されているモニタにも映し出されていた。神田が咆えた

 

「バカが!」

「嘘でしょ?」

 

 政治家達までもが変身するとは考えてなかった。全員が、まるでレッドの考えに呼応する様にして理想と希望を語っていた。

 1人、また1人とガジェットを起動していく。全員が変身すると、ホワイトに引き連れられて部屋を出て行く。暫くして、ドアがノックされた。

 

「首相! 皇は、エスポワール戦隊の下に生まれ変わるべきです!」

「さぁ、私達の仲間になって下さい!」

「やめろ!」

 

 飛び出して来た戦隊員達に拘束され、瞬く間に変身ベルトを巻きつけられ、起動させられた。全身に強化外骨格(スーツ)が装着されると、地面に伏せながら彼らを見上げた。

 

「私は、屈せんぞ……」

「神田さん!」

 

 桜井が急いで神田の変身を解除しようとするが、ホワイトが立ちはだかった。

 

「ヒヒヒ。リーダーの同期って事は、君のベルトもオリジンなんだよね。ちょっと研究してみたいけれど、ここには設備が無いからね。残念だねぇ! 弄り対象の高橋の奴も死んじゃったし……。君の仲間に殺されてサァ」

 

 目と思しき部分に人差し指を当てて、悲しむようなジェスチャーを取っているが、マスクに覆われている表情がどの様になっているかは分からない。

 

「人を殺しているんだから。自分だけ殺されないなんてこと、ある訳ないじゃない」

「ヒヒヒ! 嫌な奴は死んで当然って思うタイプゥウウ? だったら、リーダーと一緒にエスポワール戦隊の活動を手伝って欲しかったなぁ! リーダー! 君のことが大好きだったモン!」

「お前がリーダーを語るな!」

 

 自分でも信じられない程の声量が出ていた。だが、目の前のホワイトは動じた風もなく、依然としておどけ続けるだけだった。

 

「でも、最近のリーダーの隣に居たのは僕達だから! 僕達はリーダーに付いてく!」

「貴方も。世界が自分達みたいな奴らばっかりになれば良いと思っているの?」

「当然さ! 多様性とか、自由とか。そう言うの要らないから! 正しさこそが大事なんだよ! それこそが皆を幸せにするんだよ!」

「……世界がアンタらみたいな正しさで埋まったら終わりよ」

「いいや、始まりだよ。何故なら、僕達はヒーローだ。正しさの象徴なのだから」

 

 神田首相が何処かに運ばれて行く。取り返そうにも、周囲から牽制されていて動けずにいる。結局、自分は最後まで役立たずだと言うのか。

 

「さぁ、最終章だ。僕達で皇の希望の未来を導くんだ!」

 

~~

 

 避難所にて、残った片腕で自衛隊の者達が使っていた設備を遣いながら、軍蟻は現状の周辺を確認していた。

 

「あの電波は、ここら一体のアンテナを介して広範囲に拡散されている。アレが無くならないと自衛隊も派遣軍もスーツを使えずに、抑止力が足りなくなる」

「では、どうすればいいのです?」

 

 カーターはいら立ちを隠しもせずに軍蟻に尋ねた。すると、彼は懐から粘土の様な物を取り出した。

 

「本部で脱出ギリギリまで作っていた、同化電波の妨害装置を埋め込んだ物だ。マップ上の、ポイントを打った位置に設置して作動してくれたら、この付近の異常だけは収まるとは思う」

 

 設置数は決して少なくはなく、辿り着くまでに襲撃が無いとも限らない。悪人ではないからと、蹲っていても事態は好転しない。中田は、カーターの脇腹を突いた。

 

「で、ユーステッドの司令官さん。アンタも協力してくれんのか?」

「どうして私が!? 被害に遭っているのですよ!?」

「だけどよ、ここで何もしなかったら。アンタの立場もヤバくなるんじゃないか?」

 

 派遣された軍人達に被害を出しただけで終われば、責任の追及は免れないだろう。言い訳をするにしても材料は必要だった。

 

「わ、分かりました。私も動くしかないのですね」

「よっし、自衛隊で動ける奴にも連絡を入れて貰えないか?」

「……今は、仕方なくだからな」

 

 フェルナンドに指示され、自衛隊員は基地へと連絡を取っていた。その間に、軍蟻が皆を手招きしていた。

 

「これだけ意図的に動くんだから、向こうも反応して分散してくると思う。だから、何人かは彼らの護衛に付いて欲しい」

「分かった。もし、部分的にでも解除されたくない場所があるとすれば何処だと思う?」

「勿論、議事堂付近。だから、ここら辺は剣狼や実力者達が向かって欲しい」

 

 避難所に近い場所は自衛隊や派遣軍に任せ、議事堂付近は剣狼や中田達が行くということで方針が決まった。

 

「よし。連中が勘付く前に動くぞ」

「えぇい。どうして、私がこんな目に!」

 

 怪人達とカーター達は一斉に動き始め、やがて彼らの動きに反応する様にしてヒーロー達も動き出していた。

 

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