戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~   作:ゼフィガルド

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ビッグ・ブラザー 16

 

「邪魔なんだよ! お前らは!」

 

 グレート・キボーダーに搭載されている兵器は、建造物や対人向けの物が殆どだった。爪先に搭載されている機関砲以外にも、ミサイルなども発射しているが家屋などを破壊するばかりで、剣狼達を捉えられずにいた。

 

「ハッハッハ! 待ってろ! 血祭りにあげてやるからな!」

 

 銃弾の雨を潜り抜けた拳熊はグレート・キボーダーの足に取り付いていた。まるで、木登りをする様にして、装甲に爪を食いこませグイグイと登って来る。

 

「シアンさん! 奴を振り落とさないと!」

 

 通信で他のカラードから困惑した声が上がる。今まで蹴散らすばかりで、真っ向から立ち向かって来た存在はいなかった。

 巨大人型兵器の構造上。足を振る動作は大きくバランスを崩しかねない。自分達の周囲を飛び回っている剣狼達の存在がある以上、身動きの取れなくなる行動は控えたかった。

 

「周りの被害を考えれば控えたかったが、仕方あるまい。全砲門開け!」

 

 グレート・キボーダーの装甲の各所が展開され、砲口が出現した。それが何を意味するかを察知し、黒田は叫んだ。

 

「剣狼! 隠れろ!」

「ッチ!」

 

 屋根伝いに移動していた剣狼達が地上に降りた瞬間、周囲が実弾と光学兵器の暴風によって薙ぎ払われた。

 

「これだけやったのなら、アイツも生きてはいまい」

 

 確認したが、足元から這い上がって来る拳熊の姿は確認できなかった。索敵モードに切り替えようとした所で、通信が入った。

 

「どうした」

「あの怪人は始末できていません。もうすぐ、俺の所のコックピットに侵入してきます。セーフティシャッターが潰されるのも時間の問題です」

 

 通信では搭乗者の声に混じって、背後から乱暴に殴って来る音が聞こえて来る。シアンの表情に緊張が走るが、通信機からは冷淡な返事が返って来た。

 

「なので、俺は奴がコックピットに侵入すると同時に脱出機能を使います。担当火器の引継ぎをお願いします。ご武運を」

「分かった。スマルト、お前の勇気。俺達が引き継ぐ」

 

 ガァン! と一層大きい音が響くと同時に、グレート・キボーダーの一部から脱出ポッドが排出された。中で何が起きているかは、最後まで伝わって来た。

 

「猪口才な真似をしやがって! 死ね!」

「お前も死ね!!」

 

 叩きつけられたのか、激しい音がした。同時に轟音が響き、通信は途絶えた。排出されたポッドが大爆発を引き起こしていた。

 仲間の死に思うことが無い訳ではなかったが、彼らは索敵モードへと移行した。周囲にドローンを飛ばして、瓦礫だらけになった街を探索すると。直ぐに、二人の姿を捉えることが出来た。

 

「見つけたぞ!」

 

~~

 

 剣狼と黒田はグレート・キボーダーの撃破は考えていなかった。自分達の目的は最初から洗脳電波の解除だけで、操られている者達を味方に付けて戦うつもりだったが、可能性は潰えていた。

 

「酷いもんだ。アイツら、洗脳した奴らのことを何と思っちゃいねぇのか」

「あのまま、あの機体の好き勝手にさせたら被害が拡大する」

 

 倒す術が無い訳ではない。拳熊が木登りの要領で食らい付いていたのを見るに、自分達の攻撃が通らないということはないのだ。だが、先の薙ぎ払いを鑑みれば、危険と言う外ない。

 黒田も頭をひねってみたが、都合よく秘密兵器が出て来る筈もない。ブンブンと刃の付いた尻尾を振ってみる。

 

「黒田のアニキ。どうする?」

「……俺も、中田のことを馬鹿には出来ねぇな」

 

 飛来して来たドローンが自分達を捉えたが、即座に切り裂いた。それだけで相手の意図を理解したかのように、剣狼は背中に黒田を乗せて駆け出した。

 

「やることは簡単だ。今まで通り、ぶん殴ってやるだけだ」

「中田のアニキみたいなことを言うんだな。でも、分かり易くて良い!」

 

 増援のドローン達が小火器で攻撃を仕掛けて来るが、全てを無視して巨体へと接近する。ありとあらゆる火力が向けられるが、光学兵器は避けて実弾兵器は切り裂きながら猛進していた。

 

「この! クズ共が!!」

 

 足を上げる。質量で押し潰そうとして来るが、剣狼は強靭な四肢を持って跳躍。拳熊がした時の様に組み付くことに成功した。

 違う所があるとすれば、トカゲ型の怪人である黒田は刃の様な尾を、剣狼は腹の下から飛び出した刃を機体に食い込ませていた。

 

「走れ!!!」「応!!」

 

 装甲を切り裂き、内部に血管の様に走るケーブル等も切り裂いていく。

 カラード達も迎撃の為に脚部に収納されている迎撃用の兵器を起動させるが、小回りと言った面で勝てる訳がなく、狙いを付けようとする前に別の個所に移られては、切り裂かれるのを繰り返されていた。

 

「機体脚部の損傷率が酷いです! このままではバランスを維持できません!」

「このままじゃ、転倒して棺桶になるだけか。仕方ない! 全員脱出!」

 

 シアンの提案に頷くと、全員がガジェットの脱出ボタンを押した。搭乗者達はポッドで射出され、合体を解除されたグレート・キボーダーが降り注いだ。

 近くに降り立ったシアン達は、直ぐに合流して死体の確認へと向かった。崩れ落ちた巨体に帰還を命じると上空へと昇って行った。これで相手が死んでいれば御の字だが、上手く行くとは思っていない。

 

「どうだ?」

「死体。ありません!」

 

 5人が周囲に視界を向けるよりも先に一陣の風が吹いた。脇腹を切り裂かれ、武器を破壊され、ベルトを寸断された。辛うじて、シアンだけは避けていたが他の者達は変身の術を絶たれて、人間へと戻っていた。

 

「助かるよ。ロボットから出た、お前達はどの隊員達よりも弱くて助かるよ」

「くっ……」

 

 ガジェットも強化外骨格(スーツ)も奪われた彼らに戦う術はない。今まで、麻痺していた恐怖を取り戻したのか、顔面は真っ青に染まっていた。

 

「降参して、捕虜になるなら命を助けてやる。情報は欲しいからな」

「ほざけ!! お前達も戦え! こいつらは、皇を侵略する悪党だぞ!」

 

 シアンが檄を飛ばしていると、こちらに向かって来る巨体があった。手には、上半身だけとなり、脊椎を地面に垂らしているスマルトの残骸があった。

 

「勝負は終わったのか。全く、レッド以外の偽物には荷が勝ち過ぎたか!!」

「諦めろ。お前に勝ち目はない」

 

 目の前で無惨な死体を見せつけられれば、戦意を挫かれるのも無理はないことだった。だが、シアンだけは違った。

 

「(ここで負けるのか? 俺達は理不尽に膝を着くのか?)」

 

 かつての様に。ジャ・アークに再び蹂躙されるのか。あるいは、自由を振りかざす市民達が跋扈する世界がやって来ると言うのか。既に、前世界に居場所のない彼が諦めるはずがなかった。

 すると、まるで彼の覚悟に呼応するようにして、剣狼に切り裂かれたガジェットがシアンへと吸い込まれて行った。異常を察知した拳熊が仕留める為に動き、剣狼が叫んだ。

 

「拳熊!! 離れろ!」

「構いやせん! 何か起きる前に殺せば、お終いよ!!」

 

 殺意に満ちた掌が振り下ろされた。血と肉片が飛び散った。拳熊は葬った獲物を啜るべく腕を上げたが、肩から先が消失していた。

 

「あ?」

「獣め。駆除してやる」

 

 それが、拳熊の見た最期の瞬間となった。目の前には人型サイズになったグレート・キボーダーが居た。掌を翳すと、表面から線状の光が幾重にも走り、拳熊の全身を通過すると、バラバラに切り刻まれた。

 肉片、骨片、臓器の全てが地面へと落ちたが。シアンは腕部から出現させた火炎放射器で焼き払った。

 

「ケン。知っているのか?」

「以前、レッドが近い状態になっているのを見た事がある。奴らは窮地に陥ると、周りの力を吸収して強化されるんだ」

「そうか。俺はリーダーに近い状況なんだな」

 

 既に、武装を奪われたカラード達は退避していた。改めて両者は向かい合った。傍若無人の限りを尽くしていた拳熊が一瞬で葬られた。自分達は目覚めさせてはいけない力を呼び起こしてしまったのではないかと思えた。

 

「やるぞ。でないと、俺達が葬られる」

「今度こそは、逆転はさせない」

「良いだろう。全ての力が俺一人で操れるなら、手っ取り早い。貴様らを駆逐してやるよ!!」

 

 グレート・キボーダー。新生エスポワール戦隊の力の象徴とも言える存在が、1人の人間の手中に収まった。巨体を切り刻むよりも、遥かに脅威となっていた。

 

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