戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~   作:ゼフィガルド

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ビッグ・ブラザー 18

 

「リーダー。近隣の洗脳電波の分散拠点が潰されています」

 

 ビリジアンが焦燥と共に報告をした。ブルーやシアンなど、エスポワール戦隊内でも特に強力な力を持つ者達が撃破されたということに他ならない。

 報せを聞いた大坊は胸に手を当てていた。同時に、彼の腰に装着されているベルトに何かが吸い込まれて行った。

 

「シアンはよく戦った。このエスポワール戦隊で仲間を育て上げ、善を信じ、悪を憎んでいた彼が死ぬなど。やはり、この世界は間違えている」

「どうしますか?」

「決まっている。これ以上、俺達の仲間を傷付けることは許さない」

 

 大坊の強化外骨格を覆う様にして、装甲が装着されて行く。その姿は、死亡したシアンが使用していたガジェット『グレート・キボーダー』の由来の物であるということは一目でわかった。

 

「行くんですね?」

「あぁ。ブルーが人質になっている可能性もあるからな。ビリジアン、いざとなれば拠点を放棄してでも活動は続けろ」

 

 議事堂付近の洗脳電波は破壊されたが、皇全体に拡散された物の収束にまでは及んでいない。自分が生きてさえいれば、同志は増やせる。エスポワール戦隊を終わらせないと言う大坊の意思を引き継ぐつもりでいた。

 出撃する大坊を見送った後。ビリジアンは、議事堂内のカラード達の通信へと繋いだ。

 

「今、リーダーが出撃した! 彼が負けるはずがないとは思うが、万が一のこともある。総員! 何かあったとしても撤退出来る準備をしておけ!」

 

『応!』という返事が返って来た。今や議員達の多くもエスポワール戦隊に取り込んでおり、彼らは戦力でありながら人質としても機能した。

 

「俺達が皇を変えるんだ。変わらなきゃならねぇんだ」

 

 何かあった時の準備を進めながら、ビリジアンは辺り一帯のカメラから情報を取り入れていた。

 

~~

 

 首相も居なくなり、彼女だけが部屋に取り残されていた。ホワイトと言う男が置いて行ったモニタには、街中の戦況が映し出されていた。

 豊島や黒田。顔見知り達が命を散らしていく。かつての戦いより陰惨で、憎悪と暴力に塗れた戦いは留まる気配を見せはしない。

 

「どうして」

 

 彼らは邪悪だったか。皇を侵略する怪人だったか、悪の組織だったか。

 自分が知らない所で悪事に手を染めていたかもしれない。そうだったとしても死んで良い人間とは思えなかった。

 悲嘆に暮れてはいたが、モニタの電源を落とすという選択は無かった。リーダーと慕っていた男が、何をしているかという事実から目を背ける訳には行かなかった。

 

「(どっちが勝って、どっちが負けて。何が残るの?)」

 

 どちらが勝利した所で、祝いのファンファーレが響く訳もない。ただ、凄惨な爪痕と憎悪が残るだけだ。だとしても、お互いに戦いを止められない。

桜井が口惜しさに臍を噛んでいると、扉が開かれた。七海が複数のカラードを引き連れていた。

 

「ピンク。貴方は、一緒に来て貰う」

「七海ちゃん……、一体どういうこと?」

「戦況が良くない。洗脳電波を分散、拡散するアンテナに妨害工作が仕掛けられた」

 

 それはつまり、これ以上。エスポワール戦隊の思想に憑りつかれて、無駄な殺傷が起きることが無くなるということだ。俄かに桜井に笑顔が戻ったが、それも一瞬のことだった。

 

「だから。リーダーが直接打って出た」

「……え?」

「捨て身になった連中が何をするか分からないから、安全の為に付いて来て欲しい」

 

 エスポワール戦隊にもジャ・アークにも多大な損害が出たばかりだ。今も治療中の者達も多い中、大坊が切り込めば何が起きるかは想像に容易い。

 

「待って。リーダーが打って出るってことは」

「うん。ジャ・アークは、今日。滅亡する」

 

~~

 

 怪人達は洗脳が解かれた自衛隊員や派遣軍を吸収しながら、軍蟻達が拠点としている場所に向かっていた。

 今まで、カラードと呼ばれる怪物達に苦戦を強いられてきたが、逆転のチャンスは訪れた。出現するエスポワール戦隊の者達も数の暴力でねじ伏せ、自らの糧にしていく。

 

「ざまぁみろ!!」

 

 洗脳が解除された隊員の一人が叫んだ。平穏を荒らされ、同士討ちを強いられ、友人や仲間を失って来た者達が憎悪を叫ぶ。

 強化外骨格(スーツ)の下から出て来た者が、守るべき皇の国民だったとしても、昂った感情が抑えられる訳もなかった。時には、怪人達と協力して制圧を超過したリンチを掛けようが、怒りは収まらない。そして、怒りは更なる怒りを呼んだ。

 

「死ね」

 

現れた大坊が呟いた言葉には冷徹な殺意が籠っていた。

線状のレーザーが一同を通過すると、ずるりと上体が地面へと落ちた。中には、咄嗟に飛んだり、伏せた者達もいたが、僅かに死期を延ばしただけだった。

 

「あ」

 

 放たれた拳に顔面が消し飛んでいた。踏みつけた衝撃で、臓器や眼球が飛び出して圧死した。逃げようとした者は背中に機銃掃射を受けた。

 僅かの間に死体の山を築き上げるが、屍の山を踏みつぶしながら進んで行く。その先には、中田や剣狼達が治療を受けている避難所があった。そんな彼を遠方から捉えている存在も居た。

 

~~

 

「不味いですね」

 

 反町は偵察に出している子機から入って来た情報を見て冷や汗をかいていた。彼は、直ぐにフェルナンドへと報告をした。

 

「大坊が近づいてきているか」

「どうしますか? 今は、道中で遭遇している怪人達を排除するのに時間が掛かっているみたいですが」

「中田と軍蟻を連れて逃げろ。槍蜂、お前は俺と此処に残れ」

「了解」

 

 迷っている時間は無かった。寝ている中田と負傷している軍蟻を担いで、反町が逃げる準備を整えている中、剣狼も立ち上がっていた。

 

「ボス。俺も戦う」

「バカを言うな。今のお前じゃ、役に立たない。反町達と避難してろ」

「何だと?」

 

 異議を申し立てようと身を乗り出したが、崩れ落ちた。見れば、槍蜂の拳が腹部に突き刺さっていた。

 

「俺の一撃も避けれないんじゃ、いても邪魔なんで。ほら、立って歩けるでしょ? 一緒に避難しといてくださいよ」

「……くそ」

 

 恨みがましい視線を向けながら、剣狼は反町や他の怪人達と一緒に逃げ出していた。残されたのは、フェルナンドと槍蜂。それと、大坊を討とうとする血気盛んな者達だった。

 残された自衛隊の者達は判断に迷っていた。果たして、彼らを追い出すべきかどうか。自分達も量産型スーツを装着しているが、力付くで追い出そうものなら何をされるか分かった物ではない。意を決した様に、自衛隊員が言った。

 

「悪いが、お前達の戦いに巻き込まれたくないんだ。ここから、出て行ってくれないか?」

「元よりそのつもりだ。お前らを人質にしても、アイツは止まる訳が無いしな」

 

 もしも、大坊と言う男に人間らしさや良心の呵責があるのなら、人質作戦も有効だっただろう。だが、彼が止まる訳が無いことは知っている。

 

「代わりに治療中のブルーと日野ってガキをこっちに寄こせ」

 

 自分達の身柄の安全や心証の確保の為にも、死に体のブルーは預かっておきたかったが、これまでの義理立てもあって引き渡した。だが、と続けた。

 

「日野と言う少年は渡せない。今の彼は、ただの少年だ」

 

 素性の割れていない日野は、今は避難している者達の中に混じっていた。暫し、睨み合いが続いたが、それは中断される事になった。通信機が鳴った。

 

「た、隊長。れ、レッドです。レッドが来ています」

「!!」

 

 想像以上のスピードだった。自分が少しでも返答を間違えれば、ここにいる部下達や避難民達に被害が及ぶ。言葉を選んでいる間に、フェルナンドに通信機が引っ手繰られた。

 

「よぅ。レッド」

「その声色はフェルナンドか」

「そうだ。おっと、いきなり皆殺しって真似は止めろよ。俺はお前の仲間を預かっている。ブルーって奴だが、瀕死の重体だ。俺達が治療を止めれば、コイツは死んじまうぜ?」

 

 微かな可能性に賭けた交渉だった。もしも、彼がテーブルに着く気があるならば幾らでも丸め込める。返答は爆発音だった。

 

「そんな交渉に乗るとでも思っていたのか?」

「分かった。決裂だな」

 

 通話を切った。運ばれて来たブルーの意識は朦朧としており、生きているか死んでいるかも分からない状態だった。ゆっくりと、銃口を向けて……下ろした。

 

「殺さないのか?」

「殺すと、ソイツのガジェットがアイツに移っちまう」

 

 既に交戦は始まっていた。通信機が無くても怒声や悲鳴などの雰囲気が伝わってくる中、フェルナンドは駆け出して行った。

 

~~

 

 カラード達と怪人達は交戦の末、数を減らしていた。この避難所には、生き残った怪人達が集まっており、臨時の前線基地となっていた。

 反町達と一緒に逃げ出した者達も居たが、迎え撃とうとした者達も居た。その中には、前ジャ・アークの頃から戦っていた猛者も混じっていた。

 

「うぉおおおおおおお!」

「シャアアアアアアア!」

 

 サイの様な巨大な体躯の持ち主、蛇の様に変幻自在の体を持つ者。その他にも様々な怪人達が物量で圧殺せんと大挙して襲い掛かった。

 

「俺は! エスポワール戦隊リーダー!」

 

 取り出した巨大な二振りのメイスが、押しかけて来たサイの角を叩き折り、頭部を叩き割った。続けて、緑色のスピアを取り出して投擲した。何体もの怪人を貫いた後、壁に縫い留めた。

 大型の手裏剣型ガジェットはまるで意思を持っているかのように動き、蛇型の怪人を3分割に寸断して、怪人達の首を狩り取って行った。

 

「同じだ」

 

 フェルナンドの記憶に蘇って来たのは、かつての戦いだった。ガイ・アークや仲間達が次々と殺されて行き、自分だけが生き残ってしまった。

 怪人化リングを作り、今度こそは同じ悲劇を繰り返さない様に。戦えるだけの力を持とうとした、今までの軌跡を踏みにじる様にして、大坊は怪人達を鏖殺していた。

 

「エスポワァール! レェッド!」

 

 背後ではバズーカ型のガジェットが使用されたのか、盛大な爆炎が立ち上がっていた。さながら、戦隊の登場シーンのようでもあった。

 

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