ボーイからクリスマスパーティを今年もやるという誘いを受けてから早いもので今日がクリスマスパーティ当日の日。今日まで色々なことがあった。
まずはカイザーが正式にトゥインクルシリーズ引退を発表したこと。そしてドリームトロフィーリーグに挑戦するという発表をしたことだ。レースの世界から引退というものではなくてボクは心底安心したし、ドリームトロフィーリーグに挑戦することをみんなで祝福したのを覚えている。本人はトレーナー探しから始めようと思っていたらしいが、結局はハダルに戻ったらしい。この辺の詳しい事情は聴いていないが、戻れたようなら何よりだ。そのことを話している時のカイザーはどこか遠い目をしていたが。
次に、今回のクリスマスパーティはハイセイコー先輩も参加することになったことだ。ダメもとでボーイが先輩を誘ったところなんとOKを貰えたらしく、ハイセイコー先輩が加わるとのことだ。てっきり忙しいものだと思っていたのでとても驚いた。ハイセイコー先輩曰く、
『去年はせっかく誘ってもらったのに参加できなかったからね。だから今年は参加させてもらうよ。生徒会の方は気にしないでくれ』
と言っていた。
後はボクの海外遠征プランの話を打ち合わせをトレーナーを交えて理事長と話したり、プレゼント選びのためにまたみんなと出かけたり、トレーナーが会場を借りるために理事長に許可を貰いにいっていたり、理事長も参加しようとして、たづなさんに止められていたりと色々とあった。
そしてボクは今ジョージと一緒にあらかじめ指定された集合場所でみんなを待っている。前回と同じく正門前集合らしい。ボクとジョージはみんなを待ちながら他愛もない世間話をしていた。
「なぁジョージ、会場どこやと思う?去年はプレハブ小屋やったんやけど」
「んー、分かんない。でも ワクワク 言ってた。だから ワクワク できる」
「やなぁ。期待しとけ言うてたからまた大掛かりなことしとるんやろうなぁ」
ただでさえ用務員の仕事に加えてトレーナーの仕事もしているのにどこにそんな時間があるのだろうか?ちゃんと寝ているのだろうか?そんな心配が浮かんだが、体調が悪そうにしている所は見たことがない。つまり問題はないということなのだろう。
……ボクのトレーナーはウマ娘の蹴りにも耐える沖野トレーナーを本当に人間か?なんて言っていたが、トレーナーも大して変わらないと思うのは気のせいだろうか?
そんなことを考えていたらハイセイコー先輩が到着した。こちらに挨拶をしてくる。
「こんばんは、テンポイント、エリモジョージ。今日も冷えるね」
「こんばんはです、ハイセイコー先輩。忙しい中ありがとうございます」
「やほー ハイセイコー」
「ジョージは会長相手でも変わらないんやな……」
「ハハハ、気にしてないよ」
ハイセイコー先輩はそう言っていた。ならば、ボクが口を挟むようなものではないだろう。それ以上は何も言わない。
ハイセイコー先輩が到着したら、他のメンバーも続々と正門前に集まってきた。最後に沖野トレーナーが来て、会場へと案内してくれる。
沖野トレーナーが先導するように告げる。
「みんな揃ってるみたいだな。じゃあ早速向かうか!」
「おきの~ん。今回の会場はどこなの~?去年とは違うんでしょ~」
「そうだな。今回は理事長に頼んで校舎の一室を貸し切ったらしい。一体どうやったのかは謎だが……」
確かに謎ではある。深く突っ込まない方がいい気がするので何も言わないが。
そして沖野トレーナーの案内でボク達は夜の校舎に入る。普段は立ち入ることができないので少し新鮮な気分だった。教職員の人たちがまだ仕事をしているのか、はたまた今日のために特別に電気を点けているのかは分からないが、ところどころ明かりが点いていた。
そうしてしばらく歩くと目的地に着いたのか沖野トレーナーが立ち止まる。そこは多目的室だった。中の照明は点いていないのか中は暗くどうなっているのか確認することはできない。
「さて、誠司から指定された場所はここなんだが……。ぶっちゃけ俺も中はまだ見てないからな。去年のこともあるし、一体どんな光景が広がっているのやら」
そう言って沖野トレーナーが扉を開ける。ボク達はそれに続くように部屋の中に入っていった。
そして、部屋の中に入った瞬間、みんな言葉を失っていた。ボクも例外ではない。誰もが感嘆の声を漏らす。
前回はthe・クリスマスといった内装が広がっていた。今回もクリスマスということでそこは変わらない。ただ変わっているのだとすれば、さながらプラネタリウムのような星空が部屋に広がっていた。時折、サンタと思わしき姿がソリに乗って星空を駆け巡っている。一体どうやっているのか、どんな技術を使っているのか。そんな疑問が浮かぶよりもボク達はこの光景に圧倒されていた。
「神藤 すご」
「これは、すごいね。思わず圧倒されてしまったよ。去年もこれぐらいのものを?」
「いえ、去年よりもさらにすごいです……!」
「これはちょっと……あたしも言葉が出ないわね……」
「いやはや~。神藤さんってどこまでできるんだろうね~?」
「見てくださいトウショウボーイ様!星空をサンタさんが!」
「ホントだ!いやマジでどうやってんだこれ!?」
我に返ったみんなが口々にこの部屋への感想を言い合っている。そんな時、奥からこの部屋を作った張本人が現れた。
「よぉ、みんな来たようだな」
そう軽い口調で言ってきた。その言葉に思わず沖野トレーナーが反応する。
「おま、誠司!なんだこの部屋!?」
「いやー、凝り過ぎちゃいました」
「いくら何でも凝り過ぎで済ませていいレベルじゃねぇだろ!?」
沖野トレーナーは驚きながらそう言った。
そんな時、急に普通の照明が点いて先程の夜空からいつもの室内に切り替わる。そのことにみんなが残念そうな声を上げる。
ボーイが代表してトレーナーに抗議した。
「なんで消すんだよ誠司さん!すごかったのに!」
「落ち着けトウショウボーイ。これには深い理由があるんだ」
「なんや?深い理由て」
ボクがそう聞くと、トレーナーは心底残念そうに溜息をついて答える。
「……あの星空点けたままだと暗すぎて料理が見えないから飯が食えないという欠陥を抱えているんだ」
「えぇ……」
「後……いや、これは言わないでおこう。とにかくそういうことだから我慢してくれ。その代わり料理は去年よりも豪華に仕上げたから」
そういったボク達の前には去年以上に豪勢な料理の数々が並んでいた。思わずどれから取ろうか迷ってしまいそうになる。先程まで残念そうにしていたメンバーも自分の分の取り皿を持って料理を取りに向かう。
全員取り終わった後は発起人であるボーイが乾杯の音頭を取ってそれぞれ思い思いに食事を取る。料理に舌鼓を打ちながら、楽しい時間が流れていた。
しばらくして次は何を食べようかと迷っていると、ハイセイコー先輩がボクに話しかけてくる。
「やぁテンポイント。楽しませてもらっているよ。すごいねこれは」
「ハイセイコー先輩。そうですね……、トレーナーが凝り性なんは知っとりましたけど今年は特にすごいです」
「まぁそうだろうね。私もびっくりだよこれは」
そう会話している時、ボクは前から気になっていたことを質問することにした。
「ハイセイコー先輩、1つええでしょうか?」
「構わないよ。何でも言ってくれたまえ」
「ハイセイコー先輩は、やたらとボクを気にかけてくれますよね?普通やったら、会長が同世代でもない、深い関りがあるわけでもない1生徒とメッセージのやり取りなんてしませんし、有マん時もボクの勝利を我が事のように祝ってくれましたよね?それはなんででしょうか?」
「おや?迷惑だったかな?」
「いえ!迷惑だなんてとんでもないです!やけど、ちょい疑問でして……」
「まあ君の疑問はもっともだ。トレセン学園の生徒会長である私と1生徒でしかない君。普通であればまず関わることすらなかっただろうね」
「はい。やから疑問なんです」
「答えは単純だよテンポイント。私が君を気に入っているからさ。君とジュニア期で走った時からずっと……ね。そしてその気に入っている理由は1つ。私と君が似ているからだ」
「似ている?ボクと、ハイセイコー先輩が……ですか?」
「そう。あ、似ていると言っても容姿とか走り方の話ではないよ」
まあそれは分かっている。ボクとハイセイコー先輩の見た目はあまり似ていないし走法も似ているとは言えないだろう。
ハイセイコー先輩は話を続ける。
「似ているというのは世間での評価のことさ。君も知っているだろう?私の世代が何と言われているのか」
「人気のハイセイコー先輩、実力のタケホープ先輩……ですよね?」
「そう。その評価を受けている時、つまりはトゥインクルシリーズの話なんだが私はそのことがとても悔しくてね。少しだけ荒れている時期があったんだ。今となればいい思い出だけどね」
ハイセイコー先輩にも荒れている時期があったことに驚く。いつも余裕綽々とした態度をしている先輩からは想像できないからだ。
「人気ばかりが先行して実力が伴わない……。そしてその人気の大部分は私が地方から中央に殴り込みに来たウマ娘だから……。誰も私の走りではなく、私の背景で応援してくれていただけ……。恥ずかしながらそう思っていた時期があってね、私は不貞腐れていた。実際にはそんなことはなかったのだけれどね」
「まぁ、気持ちはわかります」
ボクも人気ばかりが先行しているような時期があったので他人事ではない気がした。……待てよ?もしや先輩が言いたいことは。
「君も感づいたかな?私と君が似ている所。私もタケホープには勝てないと言われていた時期があった。君もトウショウボーイには勝てないと言われていた時期があっただろう?あの時は、君が思っている以上に心配していたんだよ?当時は私も辛かったから、君の気持ちは痛いほど分かったからね」
ハイセイコー先輩は苦笑いをしながらそう答える。先輩はだから、と前置きして言葉を続けた。
「私が君を気にかけているのは私と君が似ているから……そう思っていたからさ。人一倍強い闘争心、同世代にいる強いライバル、そして人々からの人気。どれもこれも私ととてもよく似ていた」
「そうなんですか……」
「そうさ。だから君が有マ記念を1着で勝った時は本当に嬉しかったよ。私の有マ記念はタケホープには勝ったけど1着にはなれなかったからね」
ハイセイコー先輩の言葉にボクは嘆息する。向こうは笑みを浮かべていた。その後も、ボクと先輩の共通点を細々と教えてくれる。そのことにボクは頷きながらも内心驚いていた。
まさかボクとハイセイコー先輩にそんなに共通点があるとは思わなかった。そして、先輩がボクを気に入っている理由、それが分かった。
そう考えていると、先輩がボクに告げる。
「さて、テンポイント。君の聞きたいことは聞けたかな?」
「あ、は、はい!ありがとうございます、ハイセイコー先輩!」
「いいよ、気にしないでくれ。私もこうして君とゆっくり話せて楽しいからね。あぁ、それと」
そう前置きしてハイセイコー先輩は続ける。
「君は年明けから海外挑戦をするんだったね?頑張ってくれ、生徒会長としてではない。ハイセイコー個人として応援しているよ」
「あ、ありがとうございます!」
そう言って先輩と別れる。先輩は新しい料理を取りに向かった。
……しかし、自分がハイセイコー先輩に気に入られているとは思いもしなかった。てっきり、ボクのトレーナーと親しいからボクとも親しくしてくれているものだと思っていたから。ただ、悪い気分ではない。むしろ、トレセン学園の生徒会長にそこまで気に入られているのだから嬉しかった。上機嫌でボクも料理を取りに行く。
その後はプレゼント交換の時間になった。今年も各々が用意したプレゼントをジングルベルの歌とともにプレゼントを隣の人物に回していく。曲が止まり、ボクの手元に1つのプレゼントが渡った。早速開けてみる。
中には少し豪華なペンダントが入っていた。中心部分にはサファイアだろうか?それを取り囲むように装飾されている。見るからに高そうだ。それを見てハイセイコー先輩が声を上げる。
「ほう?私のプレゼントはテンポイントに渡ったようだね。気に入ってくれるといいのだが」
「いや、コレ高いんとちゃいます先輩!?大丈夫ですか!?」
思わずそう言ったが、ハイセイコー先輩は笑顔で告げた。
「ハハハ、気にする必要はないよ。見た目こそ高そうに見えるが実際のところはそうでもないからね」
「そ、そうなんです?」
「あぁ。さて、私のプレゼントは……と。ほう、これは手袋か。この季節にはありがたいね」
「あ、それは私のですね」
そうクライムカイザーが言った。それにハイセイコー先輩がお礼を言う。
「大事に使わせてもらうよ、クライムカイザー。……ところで、グリーングラスはなぜそんなに微妙な顔をしているんだい?」
「……いや~。なにこれ?」
ボクもグラスの方へと視線を向けると、グラスは変な置物を両手で掲げていた。見た目は骸骨なので結構不気味である。……誰か探さなくても分かる。これは。
「わたし」
「まあ、やろうな」
ジョージのプレゼントだろう。ジョージは得意げに説明する。
「ぞわわ 退散。玄関 よし」
「どういうこと~?」
「魔除けの置物、玄関に置くとええんやて。ちなみにどこのやつなん?」
「メキシコ」
なんでそんなものを持っているのか疑問だが、深くは突っ込まないようにした。
そして、今年もボーイのプレゼントはクインに渡ったようである。去年もそうだったし、最早この2人には運命的な何かが結びついているのかもしれない。
楽しい時間はあっという間に過ぎていくもので、気づけば21時になりそうだった。さすがにこれ以上続けるのは良くないということで解散となる。名残惜しいが、あまり遅くなると今度は学園側から怒られるかもしれない。ボクたちはそれぞれの帰路につくことにした。後片付けは後日トレーナーがやってくれるらしい。
ボクとジョージは外泊届を出しているので、誰かの家に泊まることになった。その時、名乗りを上げたのがハイセイコー先輩である。驚きながらも本当にいいのかと尋ねたところ、
「何、今以上に親睦を深めようと思ってね。今夜はお互いに語り明かそうじゃないか」
と言ってくれた。せっかくのお誘いなので、ボクとジョージはご相伴に預からせてもらうことにした。
その後は、先輩の家で会話をしながら夜を明かした。
この話で合計100話突破だったりします。ちなみに消したもう一つの理由は電気代。