楽しいクリスマスパーティから時間が経つのは早いもので今日は年末。俺はというと……。
「ん~!やっと着いたで!」
「テン坊 実家 ワクワク」
「……なんでエリモジョージ先輩がいるし。どういうことだし」
「気づいたらおったんや。まあ1人増えるぐらいええやろ?ところでトレーナーはいつまでボーッとしとるん?」
「……そうだな。ここに来ることが決まってからの展開の速さに未だにビックリしているよ」
テンポイントとキングスの実家である北海道まで来ていた。今はお手伝いさんの車をみんなで待っている。しかし、俺の胸中は本当に大丈夫だろうかと不安になっていた。
そもそも、どうして今年もまたテンポイントたちの実家に来ることになったのか。話は少し前にさかのぼる。
俺が北海道に行くという話が持ち上がったのは本当に昨日のことである。昨日はテンポイントが明日実家に帰るということでトレーナー室で年内最後のミーティングをしていた。
俺がテンポイントに告げる。
『……というわけで、この日が海外に飛び立つ日だ。しっかり覚えておけよ?』
『了解や。しっかし、ボクも海外かぁ……』
『こっちのバ場と海外のバ場は違う。だからまずは向こうのバ場に慣れるために大目標であるキングジョージの前に数レース程使うつもりだ』
『どのレース使うかは決めとるん?』
テンポイントの質問に俺は首を横に振る。
『現段階ではまだ……だな。とにもかくにも向こうで練習してみて、様子を見てから決めても遅くはない。だからどのレースに出るかはまだ不明だ』
『ふーん。了解や……っと、ちょい待ち。お母様から電話や』
そう言ってテンポイントは電話をするために会話を打ち切る。俺は電話が終わるまで待っていた。
しばらくして、テンポイントが困ったような表情で俺を見てきた。一体どうしたのだろうかと思い、俺はテンポイントに聞く。
『どうした?テンポイント。そんな困った顔をして』
『あ~……、トレーナー?ちょい聞いてもええか?年末って暇?』
『まあ暇だが……。もしかして』
『……まあ察しがついとると思うけど、お母様がこっちこぉへんか?って言うとる。去年みたいに』
『なるほどなぁ……』
別に俺自身は問題ないが、1つ気になったので聞いておくことにした。
『何となく気になったんだが……どうしてだ?』
『お母様曰く、聖蹄祭でキングスが大変お世話になったことと、ボクがいつもお世話になっとるから、そのお礼がしたいんやと』
『別に大丈夫なんだがなぁ……』
『でも、お母様しつこいからなぁ……。多分退かんで?』
『……分かった。とりあえず年末年始のいずれかに向かうとだけ伝えておいてくれ』
俺はテンポイントにそう告げて、お土産に何を持っていくかを考えることにした。テンポイントは俺が言ったことを母親に伝えている。
『お母様?……うん、トレーナーもOKやって。やから……えっ?ちょい待ち!?いつの間にそんな……ッ!やから……ッ!って切れてもうた……』
何やら随分慌てていた。一体どうしたのだろうか?
俺はテンポイントに聞く。
『どうした?随分慌てていたが』
『……トレーナー。多分、明日にはボクやキングスと一緒に発つことになるで』
テンポイントの言葉に俺は驚く。一体どういうことだ?テンポイントは何を言っているんだ?その気持ちを表に出さないようにしながらテンポイントに質問した。
『待て、どういうことだ?なぜ明日には発つことになるんだ?』
俺の言葉にテンポイントは溜息をつく。そして、携帯の画面を見せながら俺の言葉に答える。
『お母様、もうチケットの手配済ませとった……。ボクと、キングスと、トレーナーの分』
『……は?』
間抜けな声を出しながら、俺はテンポイントが見せている携帯の画面を見る。そこには、北海道行へのチケットがご丁寧に3枚分あった。名前は上から順に、テンポイント、キングスポイント、そして俺の名前が書かれている。日時は全て一緒の日。明日だ。
……ということはつまり。
『最初から選択肢はなかった……ということか』
『スマン!トレーナー!お母様がホンマにスマン!』
テンポイントは手をついて俺に謝る。
『気にするな。どの道休みではあったから問題はない。ただまあ……、さすがに急すぎるとは思っているが……』
俺はそう嘆息するが、飛行機が予約してある以上キャンセルするわけにはいかないだろう。俺は腹を括って北海道へと旅立つことを決めた。これが昨日の出来事である。
……今思い返してみても、かなり急な北海道旅行になったと思っている。ただ何とか準備も間に合い無事に着くことができた。後はこちらで何もないことを祈るだけである。
ちなみにエリモジョージは飛行機が飛び立った時に機内を見渡しているといつの間にかいた。ちゃんと飛行機のチケットは買っているようだったが、一体いつ俺たちの会話を聞きつけたのだろうか?
しばらく空港で待っていると、去年も見た迎えの人が来た。その人の案内の下、俺達は歩を進める。向こうはエリモジョージがいることに首を傾げていたが、テンポイントが説明して納得したのか追及はしてこなかった。
そうして車で揺られることしばらく、去年も見たテンポイントの実家が見えてきた。車が停止したのを確認してから俺達は車を降りる。
「母さ~ん!今帰ったし~!」
キングスがそう言いながら家の扉を開けて入っていく。それに続くようにテンポイントも家へと入っていった。俺とエリモジョージは外で待つ。
キングスとテンポイントが入ってからほどなくしてワカクモさんが俺達を出迎えてくれた。丁寧にあいさつをする。
「神藤さん!この度は私の我儘で遠路はるばるありがとうございます。ささ、立ち話もなんですから早速上がってください。……そちらの方は?」
「テンポイントさんのルームメイトのエリモジョージさんです。いつの間にやら着いてきていたみたいで……。ご迷惑でなければ彼女も一緒で構わないでしょうか?」
「エリモジョージ。好きに いいよー」
「まあ!あなたがエリモジョージさんでしたか!テンから話は聞いていますよ。勿論構いません!ささ、2人とも早速上がっていってください」
「では、失礼します」
「おじゃまー」
そう言って俺達はテンポイントたちの家に上がる。そのまま俺達は客間に通された。
俺は早速持ってきた菓子折りをワカクモさんに渡す。
「ワカクモさん、こちらつまらないものですが」
「ですがー」
「まあ、ありがとうございます。別によろしいのに……、律儀なんですね」
そう言って薄く微笑んだ。そのまま言葉を続ける。
「重ねてになりますが、本日はありがとうございます。私の我儘でここまで来てくださって……。その分、今日は精一杯おもてなしさせていただきます」
「そんな、とんでもない!こちらとしても年末の過ごし方に悩んでいたところだったので、渡りに船だったんですよ!」
「そうそう。神藤 ぐでーっ するだけ」
「お前は何目線なんだエリモジョージ」
その時、ふと気になったことを俺はワカクモさんに質問した。
「ワカクモさん、ご主人が先程から見当たらないのですが……。今日はどちらに?ご挨拶をと思ったのですが……」
「あぁ~……」
俺がそう聞くとバツが悪そうに頬を掻く。そして俺の質問に答えてくれた。
「実は主人は急な出張が入りまして……。今は関西にいるんです」
「関西に?それはまた……遠いですね」
俺は目を丸くして驚いた。ワカクモさんはそのまま続ける。
「元々関西の方で仕事をしていたのですが……。今はこっちの方に住んでいるんです。でも、たまに本社の方から声がかかることがあって……」
「それで今はいない……と」
「そういうことになります。主人も神藤さんと会うのを楽しみにしていたのですが……。出張に行くのも最後まで抵抗していましたし」
ワカクモさんは苦笑いしながらそう答える。つられて俺も苦笑いした。しかし、なんだかんだテンポイントのお父さんには一度も会ったことがない。だから今日は是非とも挨拶をと思ったのだが……。
(まあ急な仕事が入ったのなら仕方ないな)
俺はそう割り切った。
その後は、夜に開かれると言っていた宴会のための準備を手伝いながら時間は過ぎていった。
迎えた夜、テンポイントの親族が集まって宴会が開かれていた。場所はテンポイントの家から少し離れた位置にある別邸である。というか、前回来た時キングスは名家ではないと言っていたような気がするが絶対にそんなことはないだろう。少なくとも普通の家に別邸があるとは思えない。……まあ、自分の実家にもあるから特段珍しいものだとは思わないが。
そして、宴会で俺はテンポイントの親族の人たちと話していた。
「いやー!君がテンのトレーナー君か!噂には聞いているよ、すごいトレーナーなんだって?」
「いやいや、自分なんてまだまだですよ。毎日勉強させてもらっている日々です」
「何言ってんだい!おじさんは生で見たよ、この前の有マ記念!聞くところによるとあの作戦を立てたのは君だそうじゃないか!」
「そうですね。私が考えて、テンポイントも納得した上であの作戦で行きました」
「普通だったら、あんな共倒れしそうな作戦なんて考えないよ!でも、君は信じてたんだろ?テンを」
「はい。テンポイントなら必ず競り勝てる、そう信じていました」
「……カーッ!いいトレーナーだねアンタ!ウマ娘のことを心の底から信頼している、目を見りゃわかるよ!それは簡単に見えてかなり難しいことだ。テンもいいトレーナーを捕まえたもんだよ!」
「ははは、恐縮です」
そう親戚の人たちに褒められながら、俺は料理をつまんでいた。テンポイントたちは未成年の人たちと席を囲んでいる。ここにいる人たちは全員酒が入っているので入らせるわけにはいかないだろう。
しかし、気のいい人たちばかりだ。思わず俺も饒舌になる。他愛もない世間話にも花を咲かせる。
「なんだって!?アンタこんな免許まで持ってるのかい!?」
「いやぁ、免許、というか資格を取るのを楽しいと感じる性分でして。友達からは良く資格マニアなんて言われてますよ」
「しっかし、こんなマイナーな資格まで持っているとは……。国家資格以外は持ってるんじゃないか?」
「国家資格でも学校で学ぶ必要があるもの以外は大体揃えてますよ。後はひよこ鑑定士の資格もあります!」
「逆になんでそんなもの持ってるんだよ!?こりゃ資格マニアというのもあながち嘘じゃないみたいだねぇ」
そんな話をしていた。
そうやって話していると、俺は夜風に当たろうと思い席を立つ。親戚の人たちに一言断って、俺は宴会場を後にした。
靴を履いて外に出る。かなり寒い。これでも結構厚着をしたはずなのだが、まだ足りなかったようだ。そう思いながらも俺は外を歩く。
しばらく夜風に当たっていると、誰かが後ろから俺の肩を叩く。俺は誰だと思いながら後ろを振り向く。そこに立っていたのはテンポイントだった。
「よ、トレーナー。奇遇やな」
「テンポイントか。本当に奇遇だな。夜風に当たろうと思って外に出たんだが」
「なんやトレーナーも一緒か。やったら一緒にのんびりしよか。ええとこ知ってんねんボク」
「そうだな。じゃあ案内頼むよ」
「任しとき」
そう笑顔で言うと、テンポイントが俺を案内する。道中、俺はテンポイントにあることを話すことにした。
「そうだ、テンポイント。実はだな……」
「どしたん?随分歯切れ悪そうやけど」
「いや、海外に飛び立つ前にお前が走る姿を日本で見たい……っていうファンがいるんだ」
「ホンマ?それは嬉しいなぁ。やけど、なんでそんな歯切れ悪いんや?」
「……望んでいる人たちは関西の人たちなんだ。だからこそ、やるとしたら関西のレース場を使うのが望ましいだろう。ただ、いつ向こうに発つかはもう決めている。出走できるレースは限られるんだ。別にないことはないんだが……」
「あんまり気が進まん……っちゅうことか」
「身も蓋もないことを言えばそうだな」
俺はテンポイントにそう告げる。するとテンポイントは苦笑いを浮かべながら答える。
「まあ、しゃあないんやないか?それに声もあんまり上がってへんのやろ?」
「今のところはな」
「やったら、ファンの人たちには申し訳ないけど諦めてもらうしかないんやないか?」
「……まあそうだな。ファンには申し訳ないが、こればっかりは仕方がない」
そんなことを話しながら、テンポイント先導の下、歩を進める。しばらくして目的地へと到着した。
そこは去年テンポイントが練習していた場所だった。夜空には星々が煌めいていてとても奇麗だった。普段生活しているビルや建物に囲まれている場所ではこの景色を見ることはできないだろう。白い息を吐きながらその景色に少しの間見惚れていた。
俺達はそこで立ちながら話す。
「今年も1年、色んなことがあったなぁトレーナー」
「そうだな。本当に色んなことがあった」
俺達は今年の思い出を振り返っていく。
「京都、鳴尾と来て春の天皇賞までを3連勝。絶好調な滑り出しだったな」
「やな。やけど、宝塚で不調のボーイに負けてもうた。それが原因で、ボクの心は1回折れてもうた」
「あの時は自分の不甲斐なさを痛感したよ。俺のせいで、そんなことをずっと思っていた」
「今となってはいい思い出やけどな。それに、あの敗戦があったからこそ今のボクがあるし……。トレーナーがボクんことどんだけ思うてくれとるのかよう分かったからな」
「はは、それは良かった。色々ぶちまけたせいで少し恥ずかしかったけどな」
「ボクも色々ぶちまけたからそこはおあいこやな」
俺達は互いに笑いあう。心地よい時間が流れていた。
「しっかし、ホンマに許さんで……、ボクがボーイの下やって記事書いとったんは」
「落ち着け。あっちも商売だから仕方ないさ」
「……まあ、百歩、千歩いや、万歩譲ってボクんことは許したるにしてもトレーナーのことボロクソにこき下ろしてたんは今でも許さへんからな」
「別に俺は気にしてないんだがなぁ……。むしろ俺としてはお前の評価のことについて小一時間問いただしたいところなんだが。何がトウショウボーイの下だ、目ん玉ついてんのか?ってな」
「考えること一緒みたいやな、ボク達」
「だな」
「まあ記者のことはこの辺にしとこか。それにしても、夏合宿はホンマきつかったなぁ。戦法を変えるためにむっちゃ頑張ったわ」
「あぁ。そして迎えた秋の始動戦である京都大賞典。そこでの圧勝と東京オープンレースの勝ち。そこで俺の考えは間違っていないということを改めて認識したよ」
「やな。ボクに無茶苦茶合っとったわあの走りは。そして、打倒ボーイを掲げて迎えた有マ記念」
「観客は度肝を抜かれただろうな。まさか最初から最後までお前とトウショウボーイのマッチレースになるとは」
「最後にグラスが追い込んで来とったけどな。まあゴールするまで気づかんかったけど。そして……」
「あぁ……。勝つことができた。そして、世間に証明したな」
「うん。ボクがボーイに負けてないっちゅうこと。ボクはボーイの下やないということを証明してやったわ」
俺達は今年の出来事を1つ1つ振り返っていく。時折笑いながら、時折懐かしさを感じながら、振り返る。
そうして振り返っていると、どこからか鐘の音が聞こえてきた。これは……。
「除夜の鐘……やな。いつの間にか年越してたわ」
「本当だな。全然気づかなかった」
俺達の間に少し流れる沈黙の時間。その沈黙を破るようにテンポイントが俺に話しかけてくる。
「……なぁ、トレーナー」
「どうした?テンポイント」
テンポイントが俺の正面に立つ。そして、笑顔で告げる。
「今年も1年、よろしゅうな!ボクの、最高の相棒!」
「……あぁ、こちらこそ!今年も1年、よろしく頼むぜ!俺の、最高の相棒!」
俺も笑顔を浮かべて答える。
星空の下、俺達は今年も1年共に頑張っていこうと誓いを立てた。
ハロウィンはデジたんとドットさんですか……。まだ石は貯蓄できる……。我慢、我慢だ私。