ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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他愛もない日常回


第91話 準備は万全

 URA賞の授賞式が終わった次の日の朝、ボクはいつも通りの日常を教室で過ごしている。そんな時教室の扉を開けてボーイが入ってきた。

 そのまま自分の席に座るとボクに話しかけてくる。どこか興奮気味だった。

 

 

「おはようテンさん!なぁなぁテンさんテンさん!日経新春杯で走るって本当なのか!?」

 

 

「おはようさん。そうやな、一応そん予定や」

 

 

「マジかー!てっきりレースに出走しないで日本を飛び立つかと思ってたから楽しみだぜ!最後にテンさんの勇姿をしっかりと見に行かないとな!」

 

 

 ボーイはそう言ってボクにどれだけ嬉しいかを語ってくれた。かなり照れくさかったがそれだけ楽しみにしてくれてるのだろう。ファンの人たちもボーイと同じ考えなのだとしたら、レースに出走することを決めたのはあながち間違いではなかったのかもしれない。

 ただ、ボクは一言釘を刺す。

 

 

「やけど、あくまで体調次第や。体調次第では出走取り消しもあること忘れんようにな」

 

 

「分かってるさ!無理して出走するのは良くねぇからな!」

 

 

 ボーイはそう答える。そうしてボクの出走の話で盛り上がっているとグラスとカイザーが登校してきた。自分たちの席に荷物を置いてすぐさまボク達の下へとやってくる。

 

 

「おはよ~2人とも~。何の話してたの~?」

 

 

「おはようございますボーイさん、テンポイントさん。随分盛り上がってましたけど、なんのお話をしていたんですか?」

 

 

 2人は開口一番ボク達が話していたことについて尋ねてきた。ボーイが答える。

 

 

「おはよう2人とも!いやさ、テンさんが日本で最後にレースに出るらしいからさ、そのことを話してたんだよ!」

 

 

「おはようさんグラス、カイザー。まあそういうことや」

 

 

 ボクが出走するレースに興味が出てきたのか、グラスがさらに尋ねる。

 

 

「へ~。じゃあ是非とも応援に行かないとね~。どのレースに出走するの~?」

 

 

「G2レースの日経新春杯や。確か……今週末やったか?」

 

 

 ボクは素直に答える。するとグラスは頷きながら確認していた。

 

 

「今週末か~。うんうん~……うん?」

 

 

「どうした?グラス。なんかあったのか?」

 

 

 突然グラスが身体を震わせ始めた。それを心配したボーイがグラスに聞く。しかし、ボーイの問いかけに答えることなくグラスはボクに詰め寄ってきた。

 

 

「テンちゃんテンちゃん、本当に今週末なの!?」

 

 

「う、うん。間違いないで」

 

 

「……嘘~。そんなことってある~?」

 

 

 嘘ではないことを告げると、今度はガッカリしだした。一体どうしたのだろうか?そう思っているとグラスは続けて話始める。

 

 

「私その日レースだよ~。アメリカジョッキークラブカップ~」

 

 

「あちゃ~、日程被ってもうたかぁ」

 

 

 どうやらグラスはその日レースに出走予定らしい。なら応援にはこれないだろう。少し残念である。

 そう考えているとグラスは未練がましくボクにお願いしてくる。

 

 

「テンちゃんテンちゃ~ん、私と一緒にアメリカジョッキークラブカップで走ろ~?」

 

 

「無茶言うなや。とっくに出走登録期間過ぎとるわ」

 

 

「だってだって~、テンちゃんあっちに行っちゃったら最低でも1年は一緒に走れないじゃ~ん。だから一緒に走ろうよ~」

 

 

「あんまり無茶言うなってグラス。テンさんの言う通りとっくに出走登録期間は過ぎてんだからさ。諦めるしかねぇよ」

 

 

 ボクとボーイはグラスを宥める。するとグラスは露骨にガッカリした表情を浮かべながら言った。

 

 

「オヨヨ~、友達が日本で最後に走るレースの応援にも行けないなんて悲しいよ~。ついでにみんなテンちゃんのレース見に行くから私のとこには応援誰も来ないよ~、オヨヨ~」

 

 

「そんなこと言われてもな……」

 

 

「大丈夫ですよグラスさん!」

 

 

 ボクがどう対応しようか悩んでいるとカイザーが会話に入ってきた。

 

 

「グラスさんの応援には私が行きますから!これで少なくとも誰も応援に来ないという状況は脱しました!」

 

 

「……本当にいいの~?テンちゃんの日本最後のレースだよ~?」

 

 

「はい!テンポイントさんの方にはボーイさんも行きますので、なら私はグラスさんを応援しに行こうと思います!」

 

 

「……ありがと~カイザーちゃ~ん」

 

 

 グラスはそう言ってほほ笑んだ。ボク達もつられて笑顔を浮かべる。

 その後は他愛もない雑談をする。話題は海外でのレースのことだった。

 

 

「つってもさ、海外のレースといっても色々あるよな?テンさんはどれに出走するとか決めてんの?」

 

 

「トレーナーが言うには、キングジョージと凱旋門賞は確定らしいで。後は前哨戦で数レース、もしかしたらアメリカでも走るんやと」

 

 

「はえ~3か国も走るんだね~。キツそ~」

 

 

「まあ、あくまで予定やからな。そっからボクの体調と相談して……みたいな形になると思うわ」

 

 

「海外に行く間は神藤さんはどうするんですか?普通だったら契約の一時解除になると思いますけど」

 

 

「海外研修という名目でボクと一緒に行くで」

 

 

「そうなんですね。……あれ?でもそうすると緊急時に学園の設備を直せる人いなくないですか?基本神藤さんが対応していますよね?」

 

 

「……何とかなるやろ、多分」

 

 

 トレーナーもその辺はしっかりと考えているはずだ。うん、きっと。

 

 

「後はアレだな」

 

 

「そうだね~アレだね~」

 

 

「……まあ、テンポイントさんがいないとなるとあの問題がありますよね」

 

 

「アレってなんや?」

 

 

 気になったボクはそう尋ねる。すると3人は口を揃えて答えた。

 

 

「「「エリモジョージ先輩のストッパーがいない」」」

 

 

「……ホクトが何とかするやろ」

 

 

 遠くでホクトの悲鳴が聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。きっと気のせいだ。

 

 

「海外だと語学の壁があるけど……まあテンさんなら大丈夫だろ。英語の成績悪くないし」

 

 

「やな。不安なとこもトレーナーが空いとる時間使うて教えてくれてるわ」

 

 

「神藤さんそんなこともできるの~?」

 

 

「学生時代暇やからって色んな国の言葉勉強しとったらしいで。代表的な国の言葉は大体わかるんやと」

 

 

「暇だからって他国の言葉を勉強しようってなる発想が凄いですね……」

 

 

「後はそうだな……。日経新春杯のメンバーくらいか?気になるとしたら」

 

 

「今んとこ分かっとるんは……阪神大賞典を勝った子と後は」

 

 

「わたし」

 

 

「うわっ!?ビックリした!いつの間に来てたんだエリモジョージ先輩!」

 

 

 ボーイが驚きながらそう言った。まあ驚く気持ちはわかる。ボクも驚いていた。ジョージは本当に神出鬼没である。

 ジョージはボクを見ながら宣戦布告をしてきた。

 

 

「テン坊 壮行 負けない」

 

 

「ふふん、ボクかて負けんで?日経新春杯、ボクが勝たせてもらうわ」

 

 

「めらめら。 あ そろそろ 帰る」

 

 

 ボク達はお互いに火花を散らすほどに見つめる。ふと時計を確認したジョージはそう呟いてどこかへと去っていった。おそらく、朝のホームルームが始まりそうになったから自分の教室へと帰っていったのだろう。

 去っていったジョージの方を見ながらボーイがボクに聞いてくる。

 

 

「本当に神出鬼没だなエリモジョージ先輩」

 

 

「だね~。普段何してるんだろ~?」

 

 

「寮におる時は割と大人しゅうしとるで。外では分からんけど」

 

 

 そんな他愛もない話を続けていると朝のホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴った。先程まで友達とお喋りを楽しんでいたクラスメイト達が次々と席に着く。ボク達も例外ではない。自分たちの席に着いて先生が来るのを待つ。今日もまた学園での1日が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は授業も終わって放課後になる。ボクはコースのトラックで練習に励んでいた。無論、日経新春杯に向けた調整である。

 何本か走ってから休憩を取り、そのタイミングでトレーナーにタイムを教えてもらう。

 

 

「トレーナー、タイムは?」

 

 

「ほれ、いい調子だ。この調子なら日経新春杯も問題ないだろう」

 

 

「どれどれ……うん、まあええ感じやな。後は追い切りして、ボチボチ調整して本番やな」

 

 

「だな。今回のレースにはお前と同タイプのエリモジョージがいるから油断ならないな。後はアイツがどう走るかによるんだが……」

 

 

 トレーナーは溜息をついて呟く。

 

 

「情けないことに、アイツのことは本当に分からんからな。一番読みにくいタイプだ」

 

 

「やなぁ。ボクも大体分かる言うてもどう走るかは本番になってみんと分からんわ」

 

 

 こういう時、ジョージは本当に厄介だ。何をしてくるかの予測がつかないから対策が立てづらい。まあ考えても仕方のないことなのでトレーナーもそれ以上は何も言わなかった。

 トレーナーがボクに今回の作戦を告げる。

 

 

「まあ負けるつもりはないんだが……。今回一番大事なのは無事に走り終わることだ、分かってると思うけどな」

 

 

「分かっとるよ。無茶はせぇへん」

 

 

「分かってるなら、大丈夫だな」

 

 

 そう言ってトレーナーは笑みを浮かべた。ボクも笑みを浮かべる。

 日経新春杯の大まかな作戦も決めたところで、休憩時間が終わる。ボクはまた練習に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空が夕焼けに染まった頃、練習を終えたボクはトレーナー室で勉強をしていた。寮の門限まではまだ時間がある。なのでトレーナーから英語を教わっていた。

 別に英語の成績が悪いわけではない。むしろ良い方であるとは自覚している。なのでトレーナーに教わっているのはリスニングだ。向こうは発音が違うだけで別の意味の単語になることもある。正しい発音を身に着けるためにもトレーナーに教えてもらっていた。

 一通り終わったのか、トレーナーは教科書を閉じてボクに告げる。

 

 

「……と、まあこんな感じだな。しかし俺が教える必要ないくらいには大丈夫だぞ」

 

 

「まあ、自分でもそれなりに勉強しとるからな。というかトレーナーは本場の人たちと話す機会なんてあるんか?」

 

 

「まあじいちゃんの知り合いには海外の人もいるからな。その人たちと話す機会があったからそれなりに自信はある。向こうからもお墨付きはもらってるし」

 

 

「旅館の時にちょろっと話は聞いとったけど、トレーナーのお爺様はなにもんなんやろうな」

 

 

「俺も詳しくは知らんが、融資関係の仕事に就いていたらしいぞ。それ以上のことは知らん。俺達の前では仕事の話はしないし、趣味のことしか話さなかったからな」

 

 

「ふ~ん」

 

 

 聞きながらボクはトレーナーお手製の教科書に目を通している。本人からのOKを貰ったということは現地に行っても大丈夫だろう。それにトレーナー曰く、

 

 

『最悪身振り手振り使って説明すれば大体理解されるから大丈夫だ』

 

 

らしい。なので気を楽にしていくことにした。

 そのままトレーナー室でのんびりと過ごしていると、寮の門限が近い時間になってきた。そろそろ帰らなければならないだろう。ボクは帰り支度を済ませてトレーナーに挨拶をする。

 

 

「それじゃトレーナー。また明日もよろしゅうな」

 

 

「おう、テンポイント。また明日な。あぁそうそう、明日は追い切りの予定だ」

 

 

「ん、了解や」

 

 

 明日の予定も聞いたところでボクはトレーナー室を後にして寮へと帰る。いつものようにお風呂に入って、ジョージと少し会話をして、消灯したら寝る。いつもの日常だ。

 ただ、この日常も後もう少しで終わる。来月には海外遠征のために日本を離れるからだ。そのことに少し寂しさを感じる。

 

 

(やけど、ボクの強さを海外に見せるんや!ボクが日本のウマ娘の代表として、強さを見せつけたる!)

 

 

 そう心に誓いながら、ボクは眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま数日が経ち、朝から雪が降る中、ボクは日経新春杯の日を迎えた。




迎えた、本番の日。
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