ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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記者の人たちに説明する回


第94話 記者会見

 トウショウボーイたちをテンポイントの病室へと送り届けてから、俺は今後のためにテンポイントの担当を務めてくれる医者の人の下へと訪れていた。

 

 

「今日はよろしくお願いします、先生」

 

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。神藤トレーナー。最後に確認しますが……、本当によろしいのですね?」

 

 

 先生は神妙な顔つきで俺にそう聞いた。おそらくだが、本当にレースの世界へ復帰するためのリハビリをするかの最後の確認だろう。

 俺とテンポイントはすでに覚悟を決めている。深く頷いて答える。

 

 

「はい。レースの世界に復帰する、それが俺達の総意です」

 

 

「……すでに聞いているとは思いますが、リハビリの道は過酷を極めます。成功する確率は限りなく低い、仮に成功しても全力で走れるかは分からない、テンポイントさんの脚は今、そのような状態となっております。まるで、彼女の脚が復帰するのを拒むように」

 

 

「……」

 

 

「最悪の場合、走れなくなる可能性も0ではありません。それでも、あなたたちは復帰することを望みますか?」

 

 

「はい」

 

 

 俺達はすでに決意を固めてある。たとえどれだけ可能性が低くても、その可能性にかける。あの日俺達はそう決めた。

 先生も俺の決意が固いことが伝わったのか、頷きながら続ける。

 

 

「分かりました。それでは当院も最大限のサポートをしていきます。テンポイントさんがまたレースで走るれるようになることを目指して」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 俺は頭を下げてお礼を言った。顔を上げて先生の表情を見ると笑みを浮かべていた。

 

 

「いえ、これも私たちの仕事ですから。それでは今後のことになるのですが……、リハビリの開始は骨が癒着するまでは行いません。なので、レントゲンで確認しながら適切なタイミングでリハビリを始めていきます」

 

 

「分かりました」

 

 

「そして、骨が癒着したらリハビリの開始となります。再三になりますが、過酷な道のりになりことを覚悟しておいてください。それほどテンポイントさんの骨折が酷いということでもありますし、これから先何が起こるのかも分かりません。この骨折自体、不思議な現象ですからね」

 

 

「……そうですね。向こうの先生からはまるで骨折することが運命だった、なんて言われましたよ」

 

 

 俺の言葉に先生は複雑な表情を浮かべていた。

 

 

「私もあのレース映像を見ましてね。あまりこう言いたくはないのですが……、その人には同意せざるを得ません。調子も悪くない、出走前のメディカルチェックのデータを見せてもらいましたがそれにも問題はなかった。なら後に残っているとすれば雪に脚を取られた、天候の問題等が挙げられますが……」

 

 

 先生はそのまま続ける。悔しそうな表情を滲ませて。

 

 

「雪が積もっているようには思えませんでした。脚を取られた可能性は論外、天候に関してもそれで崩れるほどのウマ娘でもないでしょうし、本当にあのレースで骨折することが運命だった……としか言いようがありません。医者として、情けない限りです」

 

 

「いえ、先生たちには本当にお世話になっています。こうして、テンポイントと話せているのは先生たちが尽力してくれるおかげですし、希望が見出せたのも先生たちのおかげですから」

 

 

「……そう言ってくれるとありがたい限りです」

 

 

 そこからは細かいリハビリの内容などを確認し、続きは本格的にリハビリが始まった時にテンポイントを交えて、ということで解散となった。俺は途中ハイセイコーと合流し、テンポイントの病室にいるトウショウボーイたちを回収して学園へと戻る。帰る時、トウショウボーイだけ浮かない表情をしていたのが気になったがきっと大丈夫だろう。アイツには頼れる友達がいるのだから。だからこそ、何があったかは聞かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トウショウボーイたちのお見舞いから明けて次の日。俺は記者会見の会場に来ていた。ここに来ている理由はただ1つ。テンポイントの現状を記者の人たちに話すためだ。

 付き添いで来ているたづなさんは不安そうな表情をしている。

 

 

「……神藤トレーナー、本当によろしいのですか?」

 

 

「はい。テンポイントのトレーナーとして、私には説明する義務がありますから。今まで学園に来ていたマスコミの対応、ありがとうございました」

 

 

「いえ、それが我々の仕事でもありますから」

 

 

 たづなさんはそう言った。

 そして、準備が整ったということで俺は記者の人たちが待つ場へと足を踏み入れる。俺が入ってきた瞬間、カメラのフラッシュがたかれた。少し眩しさを感じたが、特に気にならない程度だ。カメラも回っている。生放送でもされているのだろうか?それだけテンポイントのことが気になるのかもしれない。

 マイクが置かれている場所まで移動し、一礼する。そのまま、告げる。

 

 

「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。今回この場を用意させてもらったのは他でもありません。テンポイントの現在の状態についてお話しするために、この会見を開かせていただきました」

 

 

 その言葉を発してすぐ、記者の1人から質問が飛んでくる。

 

 

「単刀直入にお聞きします!テンポイントさんの現在の状態はどうなっているのですか!?」

 

 

 その質問に俺はすぐさま回答する。冷静さを保ちながら。

 

 

「テンポイントは手術も成功し、今は病院にて療養中となっております。担当してもらいました医師の方は命に別状はない、そう仰っていました」

 

 

「どの病院に入院しているかをお教えください!」

 

 

 正直来ると思っていた質問だ。俺は首を横に振りながら答える。

 

 

「その質問にはお答えできません。理由としましては、病院の情報を公開して多数の人間がその病院に足を運ぶのを防ぐためです。病院にはテンポイントだけではなく、他の患者さんも入院していますので、その方々のご迷惑とならないようにするためにもお教えするわけにはいきません。なので、もしこの病院ではないだろうか?という目星がついたとしても、足を運ぶようなことがないようにお願いいたします」

 

 

 そう言いながら俺は一礼する。質問をした記者は理由を聞いて納得したのか大人しく引き下がった。

 次の質問が飛んでくる。おそらく、皆が最も聞きたいと思っていたことだろう。そんな質問だった。

 

 

「神藤トレーナー!今回のテンポイントさんの骨折の原因は何でしょうか!?詳しくお聞かせください!」

 

 

 その質問にも、何とか冷静さを保ちながら答える。

 

 

「……原因は不明です。あの日のテンポイントは体調も問題なく、メディカルチェックも問題はないと、そう診断されていました。だからこそ私は出走を決め、テンポイントもそれに従いました。当日は雪が降っていましたが、雪に脚を取られたというわけでもなく天候が問題だったというわけでもありません」

 

 

「ではどうして!?」

 

 

 俺が聞きたい。そう言いたくなる気持ちを必死に抑えて答える。先生たちに聞いた言葉をそのまま。

 

 

「まるで、あのレースで骨折することが運命だったと……。手術を担当した先生と現在の入院先の先生はそう仰っていました。なので、詳しい原因については私にも分からないというのが現状です」

 

 

「そんな……」

 

 

 記者の人は項垂れた様子を見せる。気持ちは分からないでもない。骨折の原因が不明と言われて、さらにはオカルトじみたことを告げられたら残念な気持ちにもなるだろう。だが、俺にはそう言うしかない。

 次の質問が飛んでくる。

 

 

「今回のことについて、ファンの方々に何か一言、お願いします」

 

 

「はい」

 

 

 俺は一拍おいて答える。

 

 

「これはネットで呟かれていた言葉になりますが……、ファンの方々が無理強いをしたからテンポイントの骨折に繋がった、あのレースには出走するべきではなかった、そのまま海外に飛び立つべきだった、ファンの人たちは反省してほしい……。そんな心無い言葉が見受けられました」

 

 

 記者の人たちは揃って顔を俯かせる。心当たりがあるのだろう。テンポイントが出走したことの原因に。そのまま俺は言葉を続ける。

 

 

「ですが、今回のレースに出走すると最終的な判断を下したのは私です。テンポイントも、そのことに納得して走ることを決めました。確かにファンの言葉を受けて出走を決めたのは事実です。しかし、あくまで最終的な判断をしたのは私であり、ファンの方々が悪いわけではないということを皆さん忘れることがないようにお願いします」

 

 

 これは俺の本音だ。そもそも、誰がこのような結末を迎えるなどと予想できただろうか?誰も予想がつかなかっただろう。それに、日本を飛び立つ前にテンポイントのレースを見たいという気持ちは分からないでもない。だから、ファンの人たちが悪いわけではない。俺はそう思っていた。

 その後は細々とした質問が続く。そして、残り時間が少なくなってきたというところでその質問が飛んできた。

 

 

「テンポイントさんは、レースの世界に復帰できるのか、お聞かせ願えますか?」

 

 

 その質問に、俺は一瞬だけ目を閉じる。意を決して口を開く。

 

 

「……手術を担当した先生、入院先の先生。両名が仰るには、レースの世界に復帰するのは極めて難しいと。そう仰っていました。リハビリをしても可能性はないに等しい、下手をすれば二度と走れなくなる、絶望的な状況だとそう告げられました」

 

 

 俺の言葉に記者の人たちは明らかに落胆したような表情を浮かべていた。きっと、この会見を見ているテレビの前の人たちも同じ気持ちになっているだろう。

 

 

「……では、テンポイントさんはこのままドリームトロフィーリーグに進むことなく引退だと。そういうことになりますか?」

 

 

 なんとか声を絞り出したのだろう。記者の1人がそう質問する。それに俺は首を横に振って答える。

 

 

「いいえ。私とテンポイントが出した結論といたしましては、レースの世界に復帰すると。そう2人で決めました。どれだけの時間がかかるかはまだ分かりませんが、ひとまずは復帰を目指してリハビリをする、そう決めました」

 

 

 その言葉に、会場は驚きの声が上がった。そして、次々と悲鳴のような声を上げて俺を糾弾する。

 

 

「しかし!可能性はないに等しいのでは!?」

 

 

「あくまでないに等しいだけです。完全に0というわけではありません」

 

 

「走れなくなる可能性もあるんですよ!?」

 

 

「全て覚悟の上です。私も、テンポイントも」

 

 

「担当が不幸になろうとしているのに……!アンタそれでもトレーナーか!」

 

 

「まだ不幸になると決まったわけではありません。極めて難しいだけで幸せになる可能性もあります。そして、皆様にまず誤解しないでいただきたいのでは復帰すると決めたのは私だけではなく、そしてテンポイントだけでもありません。我々2人が話し合って決めたことです」

 

 

「担当ウマ娘が走れなくなるかもしれないんだぞ!無茶を止めるのがトレーナーの仕事だろ!何考えてるんだ!」

 

 

 その言葉に、俺は心の中で嘆息しながら答える。

 

 

「無茶を止める……。確かにそうかもしれません。本来であれば止めるべき立場なのは重々承知しています。過酷なリハビリ、それに耐えても本来のように走れるかは分からない。そもそも、復帰できる可能性もよくて数パーセントと宣告されています」

 

 

「だったら!」

 

 

「ですが」

 

 

 俺は記者の言葉を遮るように続ける。

 

 

「私は、トレーナーの本懐はウマ娘の夢を、彼女達が決めたことを全力で支えることにあると思っています。担当がこのレースで勝ちたいと願うのであれば全力でサポートをし、担当が復帰を願うのであればその側で支え続ける。彼女たちが望んだことを叶えるための手伝いをすることこそが、トレーナーなのだと。私はそう思っています」

 

 

 俺の言葉に記者の人たちは言葉を失っている。最後とばかりに俺は記者の人たちに告げる。

 

 

「確かに可能性は限りなく低いのかもしれません。しかし、テンポイントが、私の担当が復帰することを望んだのであれば私はそれを全力でサポートすると、そう覚悟を決めています」

 

 

「め……」

 

 

 滅茶苦茶だ。おそらくそう言おうとした記者の人の言葉を遮って、その人物は大声を上げた。

 

 

「素晴らしいですッ!」

 

 

 いきなりの大声に驚いている記者が散見される。俺はその声を上げた人物の方へと視線を向ける。確かあの人は……。

 

 

(俺のことを好意的に書いてくれている出版社の1人だな)

 

 

 テンポイントのクラシック級からシニア級の最初の頃、俺のことを酷評する雑誌が多い中で数少ない俺のことを好意的に書いてくれていた出版社の記者だった。インパクトが強かったので覚えている。確か、乙名史さんと言っただろうか?

 乙名史さんはそのまま言葉を続ける。

 

 

「担当ウマ娘の夢を叶える手伝いをすることこそがトレーナーの本懐……ッ!私、感服致しました!」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「つまり神藤トレーナーはこう言いたいのですね!担当ウマ娘が望むのであれば例え火の中であろうと水の中であろうと突き進み!脚を癒すためならどんな名湯へと訪れることを厭わず!水を飲みたいと望んだのであればアルプスの山まで汲みに行くことすら苦ではないと!そう仰りたいのですね!?」

 

 

 乙名史さんの言葉に記者の人たちが困惑したような表情を見せている。おそらく、全員の心は一致したことだろう。絶対そこまで言ってないだろ……、と。

 俺は乙名史さんの言葉に頷きながら答える。

 

 

「勿論です。テンポイントが牛乳を飲みたいというのなら北海道まで調達しに行きますし、テーマパークを貸し切ってくれというのであれば貸し切りましょう。私の貯金全額使うことになっても躊躇いはありません」

 

 

 俺がそう言うと、乙名史さん以外の記者の人たちは絶句していた。しかし、俺の言葉に嘘偽りはない。テンポイントのためならばどんなことでもする覚悟だ。

 そして、当の乙名史さんはすごくいい表情を浮かべている。

 

 

「あぁ……ッ!やはり私が見込んだ通りのお方でした……ッ!あなたは素晴らしいトレーナーです!」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 そして、これを最後に会見が終わった。記者の人たちは撤収していく。最後に乙名史さんが俺にまた取材の許可を求めてきたので承諾した。乙名史さんは嬉しそうにしていた。

 全員帰って、静まり返った会場でたづなさんが俺に尋ねてくる。

 

 

「……さすがにご冗談ですよね?先程の言葉」

 

 

「テンポイントが望むのであればやりますよ」

 

 

「やめてくださいね?本当に」

 

 

 そう釘を刺された。




秋アニメ始まりましたね。うまゆるの放送を楽しみにしています。
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