ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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入院しているテンポイント回


第95話 ゆっくりと

 ボーイたちがお見舞いに来た日から明けた次の日、ボクは病室で暇を持て余していた。トレーナーが来るのは早くても正午過ぎ、ボーイたちもさすがに昨日の今日でお見舞いには来ないだろう。ハイセイコー先輩も忙しいだろうし来ないのはほぼ確定。後来るとすればキングスかお母様なのだが、キングスは放課後になるまで来ないだろうし、お母様も今日は来れないと事前に連絡が来ていた。つまり、

 

 

「あぁ~、暇や~。めっちゃ暇や~」

 

 

ボクは何もやることがない。骨がまだ完全にくっついていないので絶対安静中の身では何もできない。今日の新聞も読み終わったし、トレーナーが持ってきた暇つぶしの漫画も読み終わってしまった。また新しく持って来てもらわないといけないと思いながら、ベッドの上で嘆く。

 しかもこの病室、ボク1人しかいないという個室待遇だ。しかも他の個室よりも上の階に位置している。なぜわざわざこのような個室を用意したのだろうか?トレーナーに聞いてみたところ、

 

 

『秘匿性を考えたら個室一択だからな。寂しいだろうが我慢してくれ』

 

 

らしい。まあ、マスコミが踏み入る可能性を考えたら仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。ボクは今日何度目になるか分からない溜息をついてゆっくりと過ごす。

 

 

(しゃあないとは言え、ホンマに暇やなぁ)

 

 

 早く骨折が治ってほしいと思いながら過ごしていると、病室の扉が開く音がした。トレーナーは用事があるからこの時間には来れない、ボーイたちはまだ授業中だろうから来れない。じゃあ一体誰だろうか?そう思っていると、ボクの前にジョージが姿を見せた。思わず驚いてしまう。驚いているボクを尻目にジョージはボクのところへと近寄ってくる。そして、いつもと変わらない調子で挨拶をした。

 

 

「やほー テン坊」

 

 

「あ、あぁうん、おはようジョージ……やなくて!授業はどうしたんや!?」

 

 

「単位 だいじょぶ もーまんたい」

 

 

「そういう問題やないやろ!?」

 

 

 しかし、ジョージはまるで気にしないように寛ぎ始める。何を言っても無駄だろう。そう思ったボクは諦めることにした。それに、ジョージが来たことで退屈だった時間が無くなった。授業をサボっていることはあまり褒められたことではないが、そのことには感謝しなくてはならない。

 するとジョージは思い出したかのように鞄を掲げる。

 

 

「そだ。許可 ある」

 

 

「うん?授業を休む許可もろうてたんか?」

 

 

「そ。テン坊 届け 頼まれた。だから もーまんたい」

 

 

「あー、そういうことやったんか」

 

 

 どうやらジョージは授業をサボったわけではなく、ボクに色々なものを届けるためにちゃんと先生に許可を貰ってここに来たらしい。何故ジョージに頼んだという問題も、ボクとジョージが寮で同室だから、ということで納得できる。ならば問題ないだろう。

 ボクは時間を確認するために時計を見る。

 

 

(もうそろそろやな)

 

 

 そう思いながらボクはジョージに頼みごとをする。

 

 

「ジョージ、ちょいええか?」

 

 

「なに?」

 

 

「テレビつけてくれへんか?見たいもんがあんねん」

 

 

「らじゃー」

 

 

 そう言ってジョージは近くにあったテレビのリモコンを操作してテレビをつける。そしてボクの言ったチャンネルに切り替える。テレビには、見覚えのある姿が見える。ボクのトレーナーだ。

 

 

「神藤だ」

 

 

「せや。今日記者会見やる言うてたからな」

 

 

「合点」

 

 

 見たい番組というのは、ボクの現在の状態を報告するためにトレーナーが開くと言った記者会見である。ボクは緊張しながらその会見を見ている。

 

 

(トレーナーは大丈夫言うてたけど……。やっぱり心配や、非難の矛先がトレーナーに向く思うたら……)

 

 

 おそらくだが、今回のレースの出走を決めたとしてトレーナーは非難されるだろう。ボクはそう考えていた。元々ファンの人たちの声援を受けて出走を決めたとはいえ、最終的に出走すると判断したのはトレーナーだ。そのレースで骨折したのだから、マスコミしたら格好の的だろう。今までの記者のイメージからして、絶対に批判の的にされる。そう思っていた。

 だが、いざ会見が始まってみると思ったよりも非難はされていなかった。ボクの近況や骨折の原因など、質問に関してもボクのことが中心でありトレーナーの責任を問うような質問は一個も飛んできていない。

 

 

(まあ、ボクの近況を説明するための会見言うてたし当たり前か……)

 

 

 肩透かしを食らったような気分だが、ボクは安堵する。ジョージはあまり興味なさそうに見ていた。

 そして、会見の時間も終わりが近づいてきた頃、その質問がトレーナーに投げかけられた。

 

 

《テンポイントさんは、レースの世界に復帰できるのか、お聞かせ願えますか?》

 

 

 その記者の言葉に、ボクは再度緊張する。それは、トレーナーが一番非難されるであろうと危惧していた質問だった。

 レースの世界に復帰するのは2人で決めたことだが、復帰できる可能性は極めて低い上に下手をすれば二度と走れなくなるというおまけつきだ。それを覚悟の上でボク達はリハビリすることを決めたのだが、記者たちからすればそんな事情はお構いなしだろう。

 テレビの向こうのトレーナーも、ボクの状態がどれだけ悪いのか、復帰するのにかなりのリスクがあるということを説明している。そして、記者の人がドリームトロフィーリーグに進むことなくこのまま引退するのか?という質問を投げかけた。それに対して、トレーナーは毅然とした態度で答えている。

 

 

《いいえ。私とテンポイントが出した結論といたしましては、レースの世界に復帰すると。そう2人で決めました。どれだけの時間がかかるかはまだ分かりませんが、ひとまずは復帰を目指してリハビリをする、そう決めました》

 

 

 そう発言した瞬間、記者の人たちは皆一様に驚いた表情を見せる。一瞬の静寂が訪れた後、危惧していた通りトレーナーに対して批判の声が集中した。

 ボクの将来を潰すつもりか、ボクが不幸になってもいいのか、そんなに可能性が低いのだからやる意味はない、このまま引退させるべきだ、担当の無茶を止めるのが仕事。そんな声がトレーナーに向けられている。その声にボクは思わず不快感を示す。事前に2人で決めたことと言っているのに、まるでトレーナーが一方的に決めつけたかのように糾弾している。

 ジョージも嫌なものを見る目でテレビを見ている。

 

 

「押しつけ 自分勝手」

 

 

「やな。ボクが無理矢理やらされとるとでも思うてるんやろ」

 

 

 しかし、そんな糾弾の声にもトレーナーは終始冷静に対応していた。そして、記者の人たちに告げる。

 

 

《無茶を止める……。確かにそうかもしれません。本来であれば止めるべき立場なのは重々承知しています。過酷なリハビリ、それに耐えても本来のように走れるかは分からない。そもそも、復帰できる可能性もよくて数パーセントと宣告されています》

 

 

《だったら!》

 

 

《ですが》

 

 

 トレーナーは記者の言葉を最後まで聞かずに答える。

 

 

《私は、トレーナーの本懐はウマ娘の夢を、彼女達が決めたことを全力で支えることにあると思っています。担当がこのレースで勝ちたいと願うのであれば全力でサポートをし、担当が復帰を願うのであればその側で支え続ける。彼女たちが望んだことを叶えるための手伝いをすることこそが、トレーナーなのだと。私はそう思っています》

 

 

 そして、おそらく自身の考えであろう言葉を記者の人たちに告げる。

 

 

《確かに可能性は限りなく低いのかもしれません。しかし、テンポイントが、私の担当が復帰することを望んだのであれば私はそれを全力でサポートすると、そう覚悟を決めています》

 

 

 その言葉に、会場にいる人たちは絶句していた。いや、1人だけ大声を出してトレーナーを称賛している。あの人は確か……。

 

 

(トレーナーのことをよく言うてくれとる記者の人やん。ボクも何回か会うたことあるな)

 

 

 乙名史さんだっただろうか?トレーナーに批判の声が集中していたボクのクラシック級からシニア級初期の時に、数少ないトレーナーのことを好意的に書いていた記者の人。たまにある妄想癖が玉に瑕だが基本的に良い人である。こちらが答えずらい質問はしてこないし、何よりこの人自身あまり批判的な内容は書かない。そのため、記者の人が苦手なボクもこの人は好意的に感じている。

 最後はトレーナーと乙名史さんのやり取りを信じられないものを見るような目で他の記者の人達が見る中、会見が終わりを告げる。そのまま別のニュースへと移っていった。

 ジョージが会見の感想をボクに言う。

 

 

「神藤 テン坊 大好き」

 

 

「まあ、最後のアレは冗談やと信じたいところやわ」

 

 

 トレーナーなら本当にできそうだというのが恐ろしい。そのため、冗談交じりで言おうとも思わなかった。実際にやった場合困るから。

 そのままジョージと他愛もない会話を続ける。その会話の時、ボクはふと言葉を漏らす。

 

 

「それにしても、ジョージももうちょい本気出してもええんちゃうか?」

 

 

「どゆこと?」

 

 

 ジョージは不思議そうな表情でボクを見る。ボクはジョージの疑問に答える。

 

 

「いや、ジョージが強いんは知っとるんやけど、ジョージの強さはムラがあるやん?」

 

 

「そだねー。その日 気分」

 

 

 おそらくその日の気分次第で走っている、と言いたいのだろう。それで勝てるとはどれだけのポテンシャルを持っているのだろうか?そう思ったが口には出さない。

 ボクはジョージに告げる。

 

 

「ジョージは強いんやから、たまには気分次第やない走りをしてもええんちゃうか?」

 

 

「うーん」

 

 

 ジョージは唸った後ボクに問いかける。

 

 

「テン坊 わたし 勝つ やったー?」

 

 

「当たり前やんか。ジョージが勝ったらボクは嬉しいで」

 

 

「わたし 勝つ もりもり?」

 

 

「むっちゃ元気貰えるで」

 

 

「そう 分かった」

 

 

 ジョージはそう答えるとボクに宣言する。

 

 

「わたし 勝つ だから テン坊 回復」

 

 

「うん。ボクも早く回復できるよう頑張るで」

 

 

「とりま 次 勝つ」

 

 

「日程次第ではボクは現地には行けへんけど、テレビで応援しとるで」

 

 

「残念 分かった」

 

 

 少しだけしょんぼりしたジョージはそれだけ言って、帰っていった。おそらく学園に戻るのだろう。ボクはテレビのリモコンを操作して興味を惹かれるような番組を探す。

 しばらく経つと、病室の扉を開けて誰かが入ってくる。入ってきた人物はトレーナーだった。

 

 

「よう、テンポイント。調子はどうだ?」

 

 

「よ、トレーナー。悪くないで」

 

 

「そうか。……ん?さっきまで誰か来てたのか?見慣れない荷物があるんだが」

 

 

「あぁ、さっきまでジョージが来とったんよ。ボクん荷物届けるためにな」

 

 

「そういうことか」

 

 

 そう言ってトレーナーは近くにあるソファに腰掛ける。ボクは先程の会見のことを話題に挙げる。嬉しさを感じながら。

 

 

「そうそうトレーナー、会見見とったで?ええこと言うやんか」

 

 

「嘘偽らざる俺の本音だよ。あれが俺のトレーナー観だ」

 

 

「分かっとるよ。いやぁ、それにしてもボクのためなら何でもする覚悟か~」

 

 

「何かしてほしいことでもあるのか?」

 

 

「う~ん……。ひとまず牛乳買ってきてもろうてもええか?そろそろなくなりそうやねん」

 

 

「分かった。じゃあ北海道に行く手配を……」

 

 

「いや、そこまでいかんでもいいから。普通の市販のやつでええから」

 

 

「冗談だよ。牛乳以外に何かあるか?」

 

 

「あの会見の後やと冗談に思えんのやけど……。後は暇つぶしに持って来てもろうた漫画全部読み終わったから他のがあるとありがたいぐらいやな」

 

 

「分かった。また別のやつを持ってくるよ」

 

 

 そうしてトレーナーと会話をする。楽しい時間が過ぎていく。そのまま、ボクが眠るまでトレーナーは病室にいてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナー棟の一室。仕事をしているあるトレーナーの前に1人のウマ娘が訪れる。

 

 

「とれーなー」

 

 

「……っと、あなたでしたかエリモジョージ。どうしましたか?」

 

 

 ウマ娘、エリモジョージに対して彼女のトレーナーである時田はそう質問する。エリモジョージは時田に対して尋ねた。

 

 

「次 わたし いつ?」

 

 

「あなたの次のレースですか?次は京都記念ですが……それがどうかしましたか?」

 

 

「そう」

 

 

 エリモジョージは短くそう答えた。怪訝な表情を浮かべながら時田はエリモジョージに尋ねる。

 

 

「どうしました?走りに関してならば、いつも通りあなたに一任するつもりですが……、言ったところで聞きませんしね」

 

 

「うーん」

 

 

 少し考える素振りを見せた後、エリモジョージは時田に対して告げる。

 

 

「次 本気」

 

 

「……は?」

 

 

 時田はエリモジョージの言葉に面食らったような表情を浮かべる。しかし、エリモジョージは言うことは言ったとばかりに部屋を後にした。部屋にいた時田が担当しているウマ娘の1人、ホクトボーイが頭に疑問符を浮かべながら時田に尋ねる。

 

 

「どうしたんすかね?ジョージ先輩。なんか次のレース本気出すとか言ってますけど」

 

 

「……どうでしょう。どの道、我々にできることは本番まで気が変わらないことを祈るだけですよ」

 

 

「ま、それもそっすね」

 

 

「本番になったら気分がコロッと変わってそうですけどね」

 

 

「……いやな信頼っすね」

 

 

 2人は短くそう会話をする。突然本気を出すと宣言したエリモジョージに対して、時田は本番まで気が変わらないことを祈るだけだった。




秋アニメが続々と始まってますね。今期は結構見たいものが多いので時間を見つけて消化していきたいです。
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