ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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珍しい組み合わせ回


第97話 今後のこと

 今日もテンポイントの病院へ行くために俺は準備を済ませてトレーナー室を出る。そして、外に出た時に誰かから声を掛けられた。

 

 

「こんにちは~、神藤さ~ん」

 

 

 声の方へと視線を向ける。立っていたのはグリーングラスだった。

 

 

「よう、グリーングラス。珍しいな?お前が1人でここに来るなんて」

 

 

「いや~、実は練習休みなんだよね~。だから~あてもなく歩いてたら~ここに来てた~」

 

 

「なるほどな。俺はこれからテンポイントのお見舞いに行くつもりだが、お前も行くか?」

 

 

「おぉ~。だったら私も行こうかな~」

 

 

 1人でお見舞いに行こうとしていたが、急遽グリーングラスも連れて行くことになった。俺の車に乗ってもらい、病院へと向かう。

 

 

「いや~ありがとうございま~す。本当は今日もお見舞いに行こうとしてたんだよね~」

 

 

「ということは、俺の提案は丁度いいタイミングだったわけか」

 

 

「そうそう~。ベストタイミングだったわけですよ~」

 

 

 病院へ向かう途中の車内で、グリーングラスとそんな会話をしていた。グリーングラスに限らず、トウショウボーイたちも練習が休みの日や暇な時間を見つけてはテンポイントのお見舞いに来ていることは俺も知っている。そのことを思い出すと、俺は自然と頬が緩んだ。

 しばらくして病院に着く。グリーングラスを連れてテンポイントの病室へと向かった。道中、看護婦がグリーングラスに会釈をして不思議そうな顔をして問いかける。

 

 

「あら、グリーングラスさん。今日は検診の日ではなかったはずですが……」

 

 

 看護婦の問いかけにグリーングラスは困ったような笑みを浮かべて答える。

 

 

「あ~……、今日は別の用事があって来たんですよ~」

 

 

「あぁ、そうなんですね。引き留めて失礼しました」

 

 

 看護婦はそう言って再度会釈をしてこの場を後にする。俺達もテンポイントの病室へと進め始める。だが、俺とグリーングラスの間に気まずい沈黙が訪れていた。

 やがて、沈黙に耐えかねてかグリーングラスの方から話しかけてきた。

 

 

「……聞かないんだ~?検診のこと~」

 

 

「まぁ、大体察しはついてるからな。それに、あまりいい話でもないんだろ?」

 

 

「よくお分かりで~」

 

 

 そう言ってグリーングラスは困ったように笑った。

 おそらく、検診というのはグリーングラスの脚に関することだろう。年が明けて以降、さらに状態が悪くなったと聞いている。元々、それほど身体が強い方ではないがさらに酷くなっているらしい。

 グリーングラスに告げる。何もしてやれないことに申し訳なさを感じながら。

 

 

「……ま、俺には心配することしかできねぇけど、お大事にな」

 

 

「その気持ちだけでも嬉しいよ~。ありがとうね~。それに~」

 

 

 グリーングラスは一拍おいて続ける。

 

 

「神藤さんは~、テンちゃんのことがあるからね~。そっちも頑張ってね~」

 

 

「……あぁ。ありがとな」

 

 

「どういたしまして~。お、着いた着いた~」

 

 

 そう話していると、テンポイントの病室に着く。俺は扉を開けて入っていった。グリーングラスもそれに続く。

 中ではテンポイントがベッドの上でテレビを見ていた。俺達が入ってきたことに気づいたのか、テレビから視線を外して俺達の方へと向ける。嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

 

「来たぞ、テンポイント。今日はグリーングラスも一緒だ」

 

 

「やぁやぁテンちゃ~ん。体調はどうかな~?私は~普通~」

 

 

「トレーナー!グラス!……なんや珍しい組み合わせやな?後、そこは調子がええとか言うとこやろ」

 

 

 テンポイントは不思議そうな表情をして質問する。俺は正直に答えた。

 

 

「お前のお見舞いに行こうとした時に偶然出会ってな。一緒に行くか?って誘ったんだよ」

 

 

 グリーングラスが続けて言う。

 

 

「そうそう~。私も練習休みだから~OKしたんだよ~。元々テンちゃんのお見舞いには行く予定だったんだけどね~」

 

 

「そうやったんか。まあなんにせよゆっくりしてき」

 

 

「じゃあお言葉に甘えて~」

 

 

 そう言ってグリーングラスはソファに座る。そして、テレビへと視線を向けた。内容はごく普通の時事ニュースである。

 俺も荷物を置いてゆっくりしようとしたところに、テンポイントから声を掛けられる。

 

 

「そや、トレーナー。ちょいええか?」

 

 

「どうした?テンポイン……ト」

 

 

 どうしたのだろうかと思い、テンポイントの方を向く。その表情は、とてもいい笑顔だった。可愛い。……ただ、威圧するようなオーラがやばい。ソファに座っているグリーングラスもそれを感じ取っているのか、引き攣ったような笑みを浮かべている。

 俺は何かやってしまっただろうか?そう思いながらテンポイントに質問する。

 

 

「ど、どうしたんだ?テンポイント。そんないい笑顔を浮かべて」

 

 

 そう聞くと、その笑顔のままテンポイントは答える。

 

 

「いやな?記者会見のことなんやけどな?」

 

 

 記者会見。その単語が聞こえた瞬間、俺は全てを察した。次いで襲ったのはキングスに対する同情の感情。

 

 

(キングス……ダメだったか)

 

 

 最後まで隠し通せるものではないと思っていたが、バレてしまったらしい。新聞と雑誌を渡しているのはキングスなので、きっとキングス経由でバレたのだろう。心の中でキングスに対して合掌する。

 軽く現実逃避しそうになったが、覚悟を決めて俺はテンポイントに聞く。

 

 

「き、記者会見?それがどうかしたのか?」

 

 

 テンポイントは依然として笑顔のままだ。だが、威圧感はどんどん増している。脚が震えそうになるが何とか堪える。

 テンポイントが答える。

 

 

「いやぁ、ボクビックリしたわぁ。まさか、トレーナーとボクが!2人で決めたことってちゃんと言うとったのに、トレーナーの独断だのボクが可哀想だの書いてある記事を見てな?思わず笑ってもうたわぁ」

 

 

 正直立っているのも辛くなってきた。そして、テンポイントは笑顔から一転して怒りの表情を見せる。

 

 

「……ボクんトレーナーコケにするのも大概にせぇよホンマに」

 

 

 底冷えするような声でそう告げた。マスコミに対して、明確な敵意を抱いているのを感じる。内心恐怖を抱きながらも俺は思う。

 

 

(……恐れていたことが、現実になってしまったか)

 

 

 こうなればもう手遅れに近いだろう。少なくとも、テンポイントは俺を批判していたマスコミの奴らの取材は一切合切受ける気はないと言っても過言ではない。苦手だったものが、明確に敵意を露わにするほどになったのだ。例え取材を受けたとしても最低限のものにしか答えない光景が目に浮かんだ。グリーングラスはテンポイントの雰囲気に震えている。

 一応、俺はテンポイントを宥めるように言う。できる限り機嫌を損ねないように言葉を選ぶ。

 

 

「まあテンポイント。向こうも不安なんだろうよ」

 

 

「……どういう意味や?」

 

 

「簡単な話さ。向こうの立場になって考えてみろ。表舞台に出ているのはトレーナーである俺だけ、骨折した本人は何も言っていないし姿も見せない、話しているのはトレーナーのみ……。これだけだったら信じろってのが無理な話だ」

 

 

 俺の言葉にテンポイントは嘆息しながら答える。

 

 

「それは分からんでもないで。でも、ここまでこき下ろす必要はあるんか?なんやトレーナーの解雇を求めるて」

 

 

「そうした方が一般の人達の目を惹きやすいからさ。何も記者の人達も本気で言っているわけじゃない」

 

 

「やったら尚更たちが悪いやろ」

 

 

「それはそうだが……」

 

 

 まずい、少し押され気味だ。しかも、俺の方は苦し紛れの言い訳でしかないのと違い向こうは事実に基づいた正論をぶつけている。俺の方が劣勢になるのは当たり前だった。その後も、何とか宥めようとするがあまり効果はなかった。

 ……まあ、これも分かっていたことだ。これ以上説き伏せることを諦めてテンポイントに聞く。

 

 

「……分かった。これ以上言っても俺が不利になるだけだからな。諦めて降参しよう。で?何が望みだ?お前は記者の人達に何を望む?」

 

 

 テンポイントは毅然とした態度で答える。

 

 

「最低でも、トレーナーをこき下ろしたこん出版社の奴らは取材を受けへん。他も……まあ最低限度の受け答えしかせぇへんわ」

 

 

「……取材拒否か。それはちょっと困るな。最低限の受け答えでも構わないから俺をこき下ろした記者の取材も受けるってのはダメか?」

 

 

「なんで自分をこき下ろすような奴らを庇うねん?」

 

 

 俺は思っていることをそのまま伝える。

 

 

「別に庇うわけじゃない。ただ、他と違う待遇をした場合、今以上にあることないこと書かれる可能性があるからだ。それはお前も本意じゃないだろう?」

 

 

「……それはそうやな」

 

 

「俺の方でもできる限りのことはする。だから、取材拒否は勘弁してくれないか?俺はまだしも、お前にまで被害が及ぶのは嫌だからな」

 

 

「……」

 

 

 テンポイントは目を閉じて考える。やがて、考えが纏まったのか、観念したように溜息をついて答える。

 

 

「……分かった。気持ち的に納得できへんけど、あることないこと吹聴されるんはボクも嫌やからな。我慢するわ」

 

 

 その言葉に、俺は安堵する。

 

 

「助かる。さっきも言った通り、俺の方でもできる限りのことはしよう」

 

 

「頼むで、トレーナー」

 

 

「あ、あの~」

 

 

 無事話がついたところで、グリーングラスが遠慮がちに手を上げる。

 

 

「も、もう大丈夫かな~?」

 

 

「大丈夫だ。悪いなグリーングラス、俺達のゴタゴタを聞かせてしまって」

 

 

「それは大丈夫だけど~……。テンちゃんめっちゃ怖かった……」

 

 

「ご、ゴメングラス!ホンマにゴメン!」

 

 

 テンポイントは手を合わせてグリーングラスに謝った。

 話題を変えるために、俺はテンポイントにある提案をする。

 

 

「そうだテンポイント。お前に1つお願いがあるんだが」

 

 

「なんや?今のボクにできることなん?」

 

 

「あぁ。すごく簡単なことだ」

 

 

 俺はテンポイントに聞く。

 

 

「ブログを始めてみないか?」

 

 

「「ブログ?」」

 

 

 テンポイントとグリーングラスが口を揃える。不思議そうな表情を浮かべていた。俺は続ける。

 

 

「正確には、ファンの人達に向けたものを作ろうと思っているんだ。俗に言うファンクラブのサイトってやつだな。ただ、お前の許可なしにやるわけにはいかないからな」

 

 

「それって~、具体的に何をする予定なの~?」

 

 

「やろうと思っているのは、今だとテンポイントの経過報告だな。怪我がどんな具合なのか、どれくらい回復しているのか……。そんなことを書くつもりだ」

 

 

「書くつもり?実際に書くのはトレーナーなんか?」

 

 

「そうだな。後は写真なんかもつけて釣りでも何でもないことを証明するつもりでもある」

 

 

 テンポイントは少し考える素振りを見せる。やがて、考えが纏まったのか結論を俺に告げる。

 

 

「ボクとしては構わんで。それに、これでファンの人達の不安も晴れるんやろ?やったらボクからはなんもないで」

 

 

「そうか。だったら今日か明日にでも取り掛かろう」

 

 

 特に説得の必要もなく話は纏まった。ひとまず安堵する。

 すると、テンポイントが何かを思い出したかのようにグラスに話しかける。

 

 

「せや、カイザーから聞いたで?グラスも残念やったな、こん前のレース」

 

 

 この前のレースとはアメリカジョッキークラブカップのことだろう。確か、グラスはクビ差の2着だったはずだ。1着の子は去年の目黒記念でも負けた相手。悔しさは倍増だろう。

 グラスは唸った。

 

 

「うあ~。そうだった~。でもでも~次やった時は絶対負けないもんね~」

 

 

 だが唸ったのも一瞬のことですぐに決意を新たにするように告げる。

 だが、テンポイントは心配そうな表情をしてグラスに尋ねる。

 

 

「……何となくやけど、グラスも脚の調子あんま良くないんやろ?無理したらアカンで」

 

 

 どうやら、テンポイントもグラスの脚の状態のことを見抜いていたらしい。グラスは一瞬驚いた表情を見せるが、すぐにテンポイントに聞き返す。

 

 

「……誰から聞いたの~?」

 

 

「……前にトレーナーが言うてたんや。憶測の話やったけど、そん表情を見るに図星やな?」

 

 

「……そうだね~。年が明けてから、また酷くなってきてるみたい~」

 

 

 テンポイントはなおも心配するようにグリーングラスを見る。だが、グリーングラスは決意の籠った目をしてテンポイントに告げる。

 

 

「大丈夫だよテンちゃん。確かに酷くなってはいるけど、レースに出る分には問題ないくらいだから。それにね」

 

 

「……それに?」

 

 

「私はもう、気持ちで負けたくないんだ。みんなに、レースで走る子たちに。だから、止まってはいられない」

 

 

 そう告げた後、グラスは表情を崩して続ける。

 

 

「まあ~さすがにレースに影響が出るくらい酷かったら出走はしないから安心してね~」

 

 

「……そか。うん、グラスも頑張ってな!」

 

 

 テンポイントは笑顔でそう言った。グリーングラスもつられてか笑みを浮かべる。

 

 

「テンちゃんも~。頑張ってね~」

 

 

 お互いに激励し合う。俺はその光景を微笑ましく思いながら見ていた。

 その後は、グリーングラスを彼女の家に送り届けて俺はまた病室へと戻ってくる。テンポイントと話をしながら、今日も1日が過ぎていった。




最近出費が激しくて辛いです。でも欲しいものだから後悔はない。
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