ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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地味にお父さん初登場回


第100話 相棒

 リハビリを始めてからさらに月日が流れた。すでに2月も半ば。今ボクは病室のベッドの上でテレビを見ている。特に何か目的があって見ているわけじゃない。見たいものはまだ時間があるので、ただ何かを思うわけでもなく見ているだけだった。

 正直言って、気分は憂鬱だった。理由はリハビリにある。溜息1つ吐いて、ボクは1人愚痴るように呟く。

 

 

「なんで……なんで動いてくれないんや、ボクの脚……」

 

 

 リハビリを始めてからすでに2週間は経っただろうか?初日は全くと言っていいほど力が入らなかったが、医者の先生が言うようにこれから慣れていけば、そうすれば少しずつでも前進していけるはずだ。そう思っていた。

 だが、現実は今になってもボクの左足には全く力が入らない。右足は問題ないというのにだ。左足は地面に脚をつけることすらままならない状態がずっと続いていた。先生はレントゲンを見る限り異常はないと言ってくれていた。だからこそ不思議なのだ。異常はないはずなのに、体重をかけるどころか脚をつくことすら許さないこの左足が。

 リハビリの日々を思い出し、また溜息が零れる。そんな時、病室の扉を開ける音が聞こえた。何となく、誰が来たのか分かった。ボクはテレビを消す。

 扉を開けた人物がボクの前に姿を現す。思った通り、ボクのトレーナーだった。台車に数個の段ボールを載せて運んできている。

 

 

「おはよう、テンポイント。具合はどうだ?」

 

 

「おはようさんトレーナー。今日はいつもよりええ調子や。それは?」

 

 

 中身は大体分かっているのだが、一応聞いてみることにした。ボクの疑問にトレーナーが答える。

 

 

「あぁ、今週分のやつだ。お前を応援するために、みんな色んな物を送ってくれているぞ」

 

 

「……ありがたい限りやな、ホンマ」

 

 

 トレーナーが持ってきた段ボールの中には、ファンの人達がボクのためにと全国から送ってきてくれた様々な物が入っている。ボクが入院している病院を明かせないという関係上、トレセン学園宛てに送るようにトレーナーが誘導したらしい。そう言っていた。ちゃんと中身は学園とトレーナーで精査してあるらしく、変なものはあらかじめ弾いているらしい。

 トレーナーは携帯を取り出してボクに告げる。

 

 

「さて、と。じゃあ今日も写真を撮るか」

 

 

「頼んだで」

 

 

 トレーナーが段ボールの中に入っている物をボクの周りに置いていく。さすがに一度じゃ置き切れない量なので、何回かに分けて置く。写真を撮る理由は、ちゃんとボクの下に届いているのだと証明するためにファンクラブのブログに載せるらしい。

 準備が完了したのでトレーナーが携帯を構える。ボクは笑顔を浮かべる。ファンの人達にボクは元気だと伝えるために。

 数枚撮り終わった後、段ボールから出した物をトレーナーが片付け始める。片付けている最中、扉を開けて新しい人が部屋に入ってきた。

 入ってきたのはお母様だった。

 

 

「おはよう、テン。神藤さんも、おはようございます」

 

 

「おはよう、お母様」

 

 

「おはようございます、ワカクモさん」

 

 

 お母様は薄く微笑みながら挨拶をする。ボクとトレーナーもそれに応えるように挨拶を交わした。お母様は荷物を置いてソファに座る。

 ソファでゆっくりしているお母様にボクは気になっていることを尋ねる。

 

 

「お母様、実家の方は大丈夫なんか?ここまで遠いやろ?時間も随分早いやんか」

 

 

 するとお母様は問題ないとばかりに答える。

 

 

「大丈夫よ。昨日のうちに今日の分の仕事も終わらせて、昨日の最終便でこっちに来たんだから。それに、大事なあなたのためだと思えばこの程度のこと苦じゃないわ」

 

 

「……ッ!」

 

 

 お母様の言葉にボクは嬉しくなって思わず顔を俯かせる。そんなボクを見て、お母様はからかうように告げる。

 

 

「あらあら?テンったらどうしたの?恥ずかしいのかしら?」

 

 

「……ちゃいます。嬉しいんです」

 

 

 俯いていた顔を上げてお母様の表情を見る。柔らかい笑みを浮かべていた。ボクもつられて笑顔を浮かべる。そんなボク達の様子をトレーナーは少し離れた位置で微笑ましい目で見ていた。

 片付け終わったトレーナーがこっちに戻ってくる。そしてふと思い出したかのようにボクに尋ねてきた。

 

 

「そういえばテンポイント。お父さんの方はお見舞いに来たのか?」

 

 

「うん?来とったで。トレーナーが来とらん時間帯に」

 

 

「……本当に不思議なぐらい会わないな、お前のお父さん」

 

 

「別にトレーナーのこと悪う言うてないから安心してええで。むしろ看病のことで頭が上がらん言うとったわ」

 

 

 そんな会話をしていると、お母様がトレーナーに告げた。

 

 

「旦那なら、もう少ししたらここに来ますよ。今はお手洗いに行っていますので」

 

 

「あ、そうなんですか」

 

 

 トレーナーは少し驚いたような表情をしていた。今しがた会わないと言ったばかりなので、驚くのも無理はないだろう。

 しばらくしたら再度扉が開く音が聞こえる。中に入ってきたのはお父様だった。

 

 

「久しぶりやな、テン。元気か?」

 

 

「お父様。うん、今日は調子ええです」

 

 

「そかそか。それは良かった。……あなたが、テンのトレーナーさんですね?」

 

 

 お父様に言われて、トレーナーは姿勢を正して答える。

 

 

「はい。私、テンポイントのトレーナーをさせてもらっています、神藤誠司と申します。初めまして……ですね」

 

 

「はは、そうですね。不思議なぐらい会わんもんですから。ただ、妻とテンから色々聞いとりますよ?ええトレーナーやって」

 

 

 お父様の言葉にトレーナーは気恥ずかしそうに頬を掻いた。ボクとお母様はその光景を見て口を手で押さえて笑った。

 だが、一転してお父様は厳しい表情でトレーナーを見る。お父様がトレーナーに問いかけた。

 

 

「トレーナーさん、1つ聞いてもええでしょうか?」

 

 

 雰囲気から真面目なことだと思ったのだろう。トレーナーも表情を引き締めていた。

 

 

「……なんでしょうか?私にお答えできることでしたらなんでも答えましょう」

 

 

「それは良かったです」

 

 

 お父様は一拍おいてトレーナーに尋ねる。

 

 

「……記者会見、見させてもらいました。テンのためやったら、どんなことでもやる。それに違いはありませんか?」

 

 

「はい。テンポイントのためだったら、私はどんなことでもやり遂げましょう」

 

 

「どんな時でもテンの側におる、テンのためやったらどんなことでもやり遂げる。そん言葉に嘘はありませんか?」

 

 

「はい。テンポイントのために、私は最善を尽くす覚悟です」

 

 

「……」

 

 

 お父様はただトレーナーのことをジィっと見ている。トレーナーもお父様から視線を外すことなく真っ直ぐ見ている。ボクは緊張しながらその光景を見ている。

 しばらくお父様とトレーナーが睨み合うように立つ。先に動いたのはお父様だった。先程までの睨むような視線から一転して笑みを浮かべ告げる。

 

 

「……いい目をしとります。嘘やないみたいですね」

 

 

「ありがとうございます。それと、申し訳ありません。今回私のせいでテンポイントさんに大怪我を負わせてしまい……」

 

 

 トレーナーは頭を下げてそう言った。その言葉にボクは抗議する。

 

 

「何言うとるんやトレーナー!レースへの出走はボクとトレーナーが2人で決めたことやろ!トレーナー1人が悪いわけやない!ボクも同罪や!」

 

 

 動いたことで左足に痛みが走ったが、そんなことは関係ない。ボクはトレーナーの言葉を必死に訂正する。

 そんなボクの様子を見て、お父様は笑みを浮かべたまま告げる。

 

 

「落ち着きぃやテン。神藤さんも顔を上げてください。別にそんことで神藤さんにあれこれ言うつもりはありません。確かに思うことはあります。やけど、神藤さんは今も必死にテンの看病をしとります。それに、ホンマやったら止めるべき立場やのにテンの意思を尊重してくれとるのも、私は知ってます」

 

 

「「……」」

 

 

 ボクとトレーナーはお父様の言葉を黙って聞く。

 

 

「どんなに低い可能性やとしても、テンのために必死に力を尽くしてくれとる。それだけで、神藤さんの人柄の良さ、どれだけテンを大事に思ってくれとるのかはよう分かります。そんな人を糾弾する趣味は私にはありません。やから、感謝することはあっても神藤さんを恨むようなことはありません。それは、妻も同じ意見です」

 

 

 お父様の言葉にお母様が大きく頷く。そして、お父様の言葉に続くようにお母様も話始める。

 

 

「それに、テンがこれだけ信頼を寄せているんですもの。それだけで、神藤さんがテンにとってどれだけ大きな存在なのかがよく分かります」

 

 

 お父様は、お母様の言葉に同意するように大きく頷いた。

 

 

「……はい。テンはホンマに、ええトレーナーに恵まれました」

 

 

 そして、お父様とお母様が2人揃ってトレーナーに頭を下げて告げる。

 

 

「「どうかこれからも、テンのことよろしくお願いします」」

 

 

「……はい、なんとしてでも、テンポイントが望む結果に導いてみせます!」

 

 

 2人の言葉に、トレーナーは力強くそう答えた。ボクはそのやり取りを聞いて、零れそうになる涙を必死に抑えている。

 嬉しかった。これだけ思われているということに。そして、同時に思った。絶対に復帰して見せると。この思いに報いるためにも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、先程の緊張した雰囲気から一変して和気藹々とした雰囲気が流れる。

 お母様が話を切り出す。

 

 

「それでね?テンったら昔はかなりの甘えん坊だったんですよ?」

 

 

「あぁ!そやったなぁ!ホンマに懐かしいわ!神藤さんも聞きますか?テンの小さい時ん話!」

 

 

「……ちょっと興味がありますね。是非聞かせてもらえますか?」

 

 

「ちょ!?お母様、お父様!そん話は止めてっ!」

 

 

 ボクの必死の抗議も空しく、ボクの小さい頃の話が暴露される。

 

 

「何をするにしても私の後ろにべったりと着いてきてて!ちょっとでも離れようものならすぐ悲しそうな表情をして……。もう本当に可愛かったんですから!」

 

 

「そやったそやった!いやぁ、アルバム持ってきてへんのが悔やまれるなぁ。是非神藤さんにも見てもらいたかったですわ!」

 

 

「ホンマに止めてやお父様お母様!」

 

 

「はは。まあ子供というのはそういうものですよね」

 

 

 トレーナーは笑みを浮かべつつそう答える。しかしボクは恥ずかしさでそれどころではなかった。

 

 

「キンが生まれてからは少しは落ち着いたんですけどね?でもキンを寝かしつけたら……」

 

 

「あぁ!お前に寂しそうな表情して甘えてきおったんやったな!お母様寂しい……って!」

 

 

「~~ッ!」

 

 

 一体何の公開処刑だこれは。そんなことを思いながらボクは恥ずかしさを隠すように枕に顔をうずめる。

 枕を顔から離すと、トレーナーが時計を確認した後告げる。

 

 

「そろそろじゃないか?テンポイント。エリモジョージのレース」

 

 

 その言葉にボクは食い気味に反応する。この公開処刑から逃れるために。

 

 

「そやったな!はよ見るでトレーナー!お母様お父様!」

 

 

 ボクが叫ぶようにそう言うと、トレーナーがテレビを点けてチャンネルを切り替える。ジョージが出走するレース、京都記念が今まさに始まろうかという場面だった。

 

 

 

 

《……京都レース場第9R、京都記念が今幕を開けようとしています。距離は2400m、芝の状態は良と発表されています。出走するウマ娘の紹介へと移りましょうまずは……》

 

 

 

 

 ボクはトレーナーに今回のレースについて聞く。

 

 

「トレーナー。今回有力な子は誰が出とるん?」

 

 

「そうだな……、エリモジョージは勿論、同じ天皇賞ウマ娘ホクトボーイ、昨年のオークス覇者リニアクイン辺りが有力視されているな」

 

 

「ジョージは何番人気なん?」

 

 

「確か……前評判では2番人気だったか?」

 

 

 2番人気。今までのジョージだったらあまり期待できない方だ。ジョージが大敗する時は決まって人気を集めている時なのだから。ただ、あの時病室で交わした約束があるから大丈夫だとボクは思った。

 お母様たち同様、ボクもテレビに集中する。今まさに出走しようかという場面だった。

 

 

 

 

《……京都記念が今、スタートです!》

 

 

 

 

 ゲートが開いて、出走するウマ娘たちが一斉にスタートを切った。

 レースはジョージが逃げる展開を見せていた。いつものようにハナを取って走っている。特に問題はなさそうだ。

 そのままレースは特に波乱が起こることはなく進んでいき、第3コーナーに差し掛かる。依然として先頭はジョージだ。お母様もお父様もテレビの前でジョージを応援している。

 ふと、トレーナーの方を見ると怪訝そうな表情を浮かべていた。どうしてそんな表情をしているのか気になったボクはトレーナーに尋ねる。

 

 

「どうしたん?トレーナー。怪訝な顔して」

 

 

「……気づかないか?テンポイント」

 

 

「何が?」

 

 

 トレーナーの言っていることが分からず、ボクはそう聞き返す。するとトレーナーは怪訝な表情を浮かべている理由を教えてくれた。

 

 

「……今のエリモジョージの走り、お前の走りに似ている」

 

 

「え?ホンマ?」

 

 

「あぁ。さすがに完璧に、とは言わないがお前のフォームに似ている」

 

 

 会話が聞こえていたのか、お母様とお父様もトレーナーに聞き返す。

 

 

「そうなんですか?」

 

 

「テンのフォームに似ているとは思いましたが……」

 

 

 どうやらお母様たちもそう思っていたらしい。ボクは改めてレースを見る。

 ……確かに、ボクの走りに少し似ているような気がする。一体どういう意図があるのだろうか?そう思いながらテレビを見ていると、第4コーナーでジョージは後ろの子たちに捕まった。お母様とお父様は残念そうな声を上げる。ただ、トレーナーは厳しい表情でテレビを見ていた。そのことを聞こうとすると、テレビの実況から驚くような声が上がった。

 

 

 

 

《……エリモジョージが先頭だ!先頭はエリモジョージ!先頭は一団となっているしかし第4コーナーで捕まったと思われたエリモジョージが二の足を炸裂させている!一度詰められた差がまた開いた!エリモジョージ先頭!これはもう完全に決まった!2着争いはホクトボーイかハッコウオーか!1番人気ホクトボーイが粘っているがこれは僅かに届かないか!?しかし2着を争っている間にエリモジョージが今悠々とゴールイン!京都記念を制したのはエリモジョージです!2着との差は4バ身差!》

 

 

 

 

 京都記念を制したのは、ジョージだった。




やっべぇブルーロックめっちゃ面白かった。
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