ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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前回の続きと昔話回


第101話 走りの真意

 ジョージが出走すると言っていた京都記念。その結果は、ジョージが最初から最後まで逃げて勝ちを収めた。第4コーナーで後ろを走る子たちに一度捕まってしまったが、二の足を使ってもう一度引き離しての4バ身勝ち。天皇賞ウマ娘であるホクトとオークスを制したウマ娘リニアクイン相手に見事に逃げ切り勝ちをした。

 勿論ジョージが勝って嬉しいという気持ちはある。だが、ボクとトレーナーはそれ以外のことに目をつけていた。

 ボクは困惑しながらもトレーナーに尋ねる。

 

 

「……トレーナー、ジョージは何の意図があってボクの走りを真似たんや?」

 

 

 ボクの疑問に、トレーナーは首を横に振る。

 

 

「分からん。それに、あくまで似ているだけ……と言えなくもない走りだ。本当にお前の真似をして走っていたのかはまだ分からない」

 

 

 トレーナーも意図は分からないらしい。テレビでは、ウィナーズサークルでジョージとジョージのトレーナーがインタビューされているところだった。

 

 

 

 

《京都記念勝利おめでとうございます時田トレーナー。今後のレースについてお聞かせ願えますか?》

 

 

《エリモジョージもホクトボーイも、次走は鳴尾記念を予定しています。そして、宝塚記念を大目標に調整を進めていくつもりです》

 

 

《成程、ありがとうございます。エリモジョージさんも、京都記念優勝おめでとうございます!一言お願いできますか?》

 

 

《……》

 

 

《あ、あの?》

 

 

 

 

 ジョージにマイクが向けられているが、ジョージはぼうっと立っているだけだ。表情の変化が少ないから分からないが、何か考え事をしているように見える。ジョージのトレーナーが呼びかけているが、それも無視して何かを考えている。記者の人も困り顔だ。

 お母様が呟く。

 

 

「どうしたのかしら?ジョージちゃん。何か考え事をしているみたいだけど……」

 

 

「やな。何考えとるんやろ?ジョージ」

 

 

 しばらく待っていると、記者の人がジョージの走りを褒めだす。おだてる作戦だろうか?

 

 

 

 

《そ、それにしても!素晴らしい走りでしたねエリモジョージさん!第4コーナーで集団に追いつかれましたが、二の足を使っての見事な逃げ切り勝ち!完璧な勝利と言えるでしょう!思わず……》

 

 

《違う》

 

 

《え?》

 

 

《違う》

 

 

 

 

 記者の人がジョージの走りを褒め始めると、ジョージはやっと反応を示した。だが、記者の人に返した言葉は誉め言葉を否定するもの。ジョージが続ける。

 

 

 

 

《完璧 違う》

 

 

《ど、どういう意味でしょうか?》

 

 

《6 7 ぐらい。次 完璧 本気》

 

 

《え、え~っと……?って!待ってくださいエリモジョージさん!一体どこに……ッ!》

 

 

《ばいびー》

 

 

《ちょ、ちょっとー!?》

 

 

 

 

 言う事は言った、とばかりにジョージはウィナーズサークルを後にした。記者の人は最後まで困った表情を浮かべたままだった。ジョージのトレーナー、時田トレーナーは頭が痛そうに抱えている。その後の取材はずっと時田トレーナーが対応していた。

 お父様が苦笑いを浮かべて呟く。

 

 

「なんちゅうか……、自由な子やなぁ」

 

 

「そうなの。でも、そういうところが可愛いと思わない?」

 

 

「そういう問題やないと思うんやけどお母様……」

 

 

 そう言いながらもボクはジョージの言っていたことの意味を頭の中で考える。

 ジョージは6、7と言っていた。つまり今回の走りは本気ではなく6割か7割程度の力で走っていた……という事だろうか?いや、多分違う。何となくだが、そうではない気がする。そこでふと頭をよぎったのはトレーナーの言葉。

 トレーナーは今回のジョージの走りがボクに似ていると言っていた。だが、あくまで似ているだけとも言えない走り。それを考えると……。

 

 

(ジョージは意図的にボクん走りを真似た?やけど、今回ん出来は6割か7割程度……っちゅうことやろうか?)

 

 

 これなら、ジョージの言葉の意味が理解できる。そして、最後に言っていた言葉。次こそは完璧なボクの走りを見せる、そう考えているのかもしれない。

 だが、どうしてボクの走りを真似たのだろうか?そう考えていると、お母様が呟くように言った。

 

 

「それにしても、ジョージちゃんも面白いことを考えるのね。激励のためにテンの走りを真似るなんて」

 

 

「激励……ですか?」

 

 

 トレーナーがボクが疑問に思った部分をお母様に聞いた。激励とはどういう事だろうか?するとお母様は得意げに答える。

 

 

「えぇ。ジョージちゃんがテンの走りを真似ていたのは、ジョージちゃんなりの応援なんじゃないかなって。そう思ったんです。後はテンの走りはこんなにも強いんだぞ、っていうことをみんなに伝える気持ちがあったのかもしれませんね」

 

 

 さすがに完璧に分かるわけじゃありませんけど、と苦笑いしながらお母様は締めた。ボクは呆けながらお母様の言葉を反芻していた。

 成程。ボクの応援のため、ボクの走りが強いという事を証明するため……か。元々ジョージとボクの戦法は近いものがある。ボクが走れない分、ジョージがボクの走りを真似ることで少しでも自分で走っている感覚を味わってほしい。そんなことを考えているのだろうか?嬉しさを覚えるのと同時に、不思議と納得できた。トレーナーも同じ気持ちなのか

 

 

「成程な」

 

 

と呟いていた。

 だが、それと同時にボクはエリモジョージというウマ娘のポテンシャルの高さに驚いた。普通、他の子の走りを真似て、それも1着でゴールするなどという芸当はできない。同じことをやれと言われてもボクには無理だ。思わず身体が震える。

 だが、これは恐怖から来るものではない。武者震いだ。競ってみたい、ボクが今の戦法に変えてジョージと戦ったのは日経新春杯の1回のみ。まともな決着はついていない。だからこそ、競ってみたい。そして、どっちが上なのかを決めたい。ボクは思わず口角を上げる。

 まあ、競ってみたいと考えるよりも先にこの怪我を治すことが先なのだが。一層リハビリを頑張らなければと気持ちを新たにする。リハビリは今日は休みだから明日からになるが。

 テレビに視線を戻すと、すでにインタビューが終わって次のレースの準備に取り掛かっていた。その後も走っている子たちをテレビの前で応援しながら時間が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レースも最終レースが終わったという事で、またテンポイントたちとの話に花を咲かせている。テンポイントの子供の頃の話は本人が恥ずかしがるので切り上げてもらった。今の話題はテンポイントのおばあちゃん、ワカクモさんの母親にあたる人物の話だ。

 ワカクモさんは昔母親から聞いたであろう話を懐かしみながら俺達に語ってくれる。

 

 

「……それで、母さんが言うには父方の両親にすごく反対されていたらしいんです。理由については教えてくれなかったんですけど、猛反対されていたらしくて」

 

 

 俺は時折頷きながら話を聞いている。ふとテンポイントの方を見ると、俺と同じように頷いていた。お父さんの方は何度も聞いた話だと言っていたが、それでも初めて聞くような姿勢で聞いている。余程この話が好きなのかもしれない。

 ワカクモさんが話を続ける。

 

 

「それでも、父さんは諦めなかったみたいなんです。何度突っぱねられても、俺にはこの人しかいないんだ!だから結婚を認めてくれ!……って何回も直談判して。今にして思うと、テンの諦めの悪さは父さんに似たのかもしれませんね」

 

 

 どうやら、テンポイントのおじいちゃんとおばあちゃんはかなりの大恋愛の末に結ばれたらしい。話を聞いているとそう思った。

 

 

「でも、結局は認めてもらえなくて。父さんは軟禁に近い形で屋敷に幽閉されたらしいんです」

 

 

「そ、それで?お爺様とお婆様はどうしたんや?」

 

 

 テンポイントは続きが気になるのか、急かすように言った。そんなテンポイントの様子に笑みを浮かべながら、ワカクモさんは続きを話し始める。

 

 

「その時父さんが取ったのは、屋敷を抜け出して母さんに会いに行くことでした。裸足で抜け出したらしくて、足を血だらけにしながら自分の前に現れた父さんを見て母さんはすごくビックリしたって言ってました」

 

 

「すごい行動力ですね……」

 

 

「でしょう?でも、本当にすごいのはここからなんですよ?」

 

 

「あぁ、せやったなぁ。私も何回も聞いとりますけど、毎回驚かされますわ。お義父さんの行動力には」

 

 

 一体どうしたのだろうか?そう思いながら話の続きを待つ。

 

 

「それで、驚いている母さんの手を取って父さんはこう言ったそうです。俺と一緒に逃げよう!ここじゃない、どこか遠い別の場所で暮らそう!……って。それに母さんは了承しました。そして父さんたちが向かった先が……」

 

 

「今私らが住んどる北海道です」

 

 

 その言葉に、俺は驚いた。テンポイントも驚いたような表情を浮かべている。俺は思わず尋ねた。

 

 

「え?でも、確かおじいさんたちが元々住んでいた場所って……」

 

 

「はい。関西ですね。道中は協力してくれた人達のおかげもあってか、父方の者に見つかることはなく無事に逃げることができたそうです」

 

 

「関西から北海道まで……」

 

 

 かなりの大移動だ。それだけ、思いが強かったということかもしれない。

 

 

「北海道に着いた両親は、名前を変えて暮らしていたそうです。追手に見つからないように、隠れて過ごしていたらしいです」

 

 

「まあ見つかったら間違いなく連れ戻されますからね。聞いている限りだと」

 

 

 俺の言葉に、ワカクモさんは頷いた。俺の考えが合っているとばかりに。

 

 

「そこから幸せな日々を過ごしていました。子供を産んで、父さんは前のような豪勢な暮らしはできなかったけど、母さんがいたから前以上に幸せだったと、毎日のように語っていました。けれど……そんな日々も終わりを告げる時が来たんです」

 

 

「ま、まさか……」

 

 

 テンポイントが震えながらそう言った。俺も、大体の察しはついた。おそらく……。

 

 

「えぇ。父方の両親に、見つかったらしいです。丁度、私が生まれた年に」

 

 

「そんな……」

 

 

 テンポイントは話にのめり込んでいるのか、絶望したような表情を見せる。だが、多分俺も同じ表情をしているだろう。それだけ、この話にのめり込んでいる。

 

 

「その時母さんは終わった、と。そう思ったらしいです。けれど、父さんは違いました。自分の両親の姿を見るなり、地面に膝をつけて土下座してお願いしたらしいです。結婚を認めてくれ!と。逃げ出したことを謝りながら、額を地面に擦りつけて必死にお願いしていたそうです」

 

 

「そこまで、テンポイントのお婆さんのことが好きだったと……」

 

 

「そうですね。すごく惚れ込んでいました。見ているこっちが恥ずかしくなるくらいには」

 

 

 苦笑いしながらそう言った。話を続ける。

 

 

「そんな父さんの態度を見て、父の両親はただ一言、こう言ったみたいです。孫を、私を抱かせてくれないか?と。父さんと母さんは、言われた通りに私を両親に抱っこさせたと」

 

 

「「……」」

 

 

 俺とテンポイントは無言になる。一体どうなったのか?そう思いながら。

 ワカクモさんは微笑みながら続けた。

 

 

「腕の中で無邪気に笑う私を見て、父さんの両親は涙を流したそうです。そして、父さんたちに今までのことを謝罪しました。自分たちが間違っていた、くだらない噂に惑わされて、お前たちを見ようとしなかった。申し訳なかった……と。そこで、父さんたちの間にあったわだかまりは完全になくなったそうです」

 

 

 その顛末に、俺は涙を流しそうになった。何とか堪えたが。思わず呟く。

 

 

「良かった……良かったですねぇ……」

 

 

「ホンマや。ホンマに良かったわ……」

 

 

 そして、先程の神妙な口調から一転して明るい口調でワカクモさんは続けた。

 

 

「そして!私はその後すくすくと成長して母さんがなれなかった桜の女王になりました!って話ですね。いやぁ、両親もじいちゃんたちもすごい泣いてましたねぇ」

 

 

 しみじみとそう言った。その様子に、俺はさっきの涙が引っ込んだ。テンポイントも同じだったらしい。何とも言えない表情をしている。それはテンポイントのお父さんの方も一緒だった。

 そして、締めるようにワカクモさんがテンポイントに告げる。

 

 

「テン。あなたもじいちゃんのように頑張ってね。辛い時だってある、苦しい時だってある。けれど、あなたの隣には神藤さんがいるわ。神藤さんだけじゃない。私も、旦那も、キンだっている。あなたのお友達もね」

 

 

 続くように、お父さんの方もテンポイントに告げる。

 

 

「そうや、テン。やから、1人で抱え込まんと辛い時は辛い言うんやで?お義父さんが頑張ってこれたんは、お義母さんっちゅう支えがあったからや。俺はそう思うとる。お前は1人やない。それだけはしっかりと覚えとき!」

 

 

 そう言ってテンポイントの頭を撫でる。テンポイントはくすぐったそうに目を細めていた。だが、目元には涙が見える。きっと、嬉しいんだろう。自分の両親からここまで思われて。俺は微笑ましく思った。

 テンポイントの両親は時計を確認したかと思うと、立ち上がって俺達に告げる。

 

 

「すいません、そろそろ出ないと飛行機に間に合わなくなってしまうので。この辺で失礼しますね。神藤さん、テン」

 

 

「はい。今日はありがとうございました。色々とお話聞かせてもらって」

 

 

「ボクの小さい頃ん話は今すぐ記憶から抹消するんやで」

 

 

 スマン、多分無理だ。心の中でテンポイントに謝りながら俺は2人を送るために一旦病室の外に出る。しかし、2人は病室の外に出ると俺に話しかけてくる。

 

 

「大丈夫ですよ、神藤さん。神藤さんは、少しでもテンの側にいてやってください」

 

 

「え?でも……」

 

 

「ええんですよ。テンも、神藤さんが側におる時がええ表情しとりましたから。側におった方がテンも安心するでしょう」

 

 

 そして、2人は俺に深々と頭を下げてお願いする。

 

 

「重ねてになりますが、テンのことどうかお願いします」

 

 

「神藤さんなら、信頼できます。やからテンのこと、私たちの娘んこと、どうか頼みましたよ」

 

 

 ……俺は決意を込めて、この人達を安心させるようにしっかりとした態度で答える。

 

 

「はい。テンポイントのために、全力を尽くさせてもらいます!」

 

 

 俺がそう答えると、2人は満足したように病室を後にする。俺はまた病室に入ってテンポイントの下へと足を運ぶ。

 帰ってきた俺にテンポイントが尋ねてくる。

 

 

「お母様達なんて言うてたん?」

 

 

「お前のことを改めてよろしくされたよ」

 

 

「そか」

 

 

 テンポイントは短くそう答えた。俺はテンポイントに話しかける。

 

 

「なぁ、テンポイント」

 

 

「どしたん?トレーナー」

 

 

「頑張ろうぜ、どんなに険しい道のりでも、先の見えない道だとしても、俺達なら大丈夫。……そうだろ?」

 

 

 俺は拳を突き出す。レース前、いつものように。テンポイントは笑みを浮かべて答える。

 

 

「……あぁ!ボク達なら大丈夫、一歩ずつ頑張っていこうや!」

 

 

 テンポイントも拳を突き出す。軽く合わせて、俺達は再度これから頑張っていくことを確認した。

 

 

「あぁでも、辛い時はちゃんと言えよ?無理だけはしてほしくないからな」

 

 

「大丈夫や。昔みたいに隠したりはせんよ。っちゅうか、トレーナーやったら無理してたら気づくやろ?」

 

 

「ま、それもそうだな」

 

 

 俺達は、その後も他愛もない話をしながら過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せや、キングスはどうしたんや?いつもやったら来る思うてたんやけど」

 

 

「……アイツなら補習受けてるぞ。今日一日中」

 

 

「……何したんや、キングス」

 

 

「とりあえず、お父さんたちにバレないことを祈るだけだな」

 

 

「……やな」

 

 

 なお、病院に来ないことを不審に思ったワカクモさんがキングスに電話してバレたらしい。こっぴどく叱られたと涙ながらに言っていたとテンポイントが話していた。




ブルーロックを全巻揃えたい欲が凄いです。
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