ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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生徒会長のお見舞い回


第103話 会長の責任

 一歩前進したリハビリから明けて次の日。ボクは病室でぼうっと過ごしていた。お昼ご飯の病院食のことを思い出しながら1人呟く。

 

 

「トレーナーのご飯食べたい……」

 

 

 別に病院食が不味いというわけではないのだが、とにかく味が薄い。ボクの身体のことを考えたら仕方のないことなのだが、さすがに一ヶ月近くほとんど変わらない味の料理を食べていると飽きが来るのは当然だ。思わずため息を吐く。

 愚痴っても仕方がないと考えたボクはトレーナーが持ってきてくれた本を読むことにした。穏やかな時間が流れる。

 そのまま本を読むことに集中していた時、病室の扉を開けて誰かが入ってきた。ボクは時計を確認する。学園の授業はすでに終わっている時間だった。大半の生徒が下校して練習に励んでいるだろう。この時間だったら……。

 

 

(トレーナーやろうか?それとも、ボーイたちか?)

 

 

 正直誰が来てもおかしくない時間だ。そんなことを考えていると扉を開けて病室に入ってきた人物がボクの前に訪れる。

 その人物は、ハイセイコー先輩だった。先輩は笑みを浮かべてボクに挨拶をする。

 

 

「こんにちは、テンポイント。今日の調子はどうだい?」

 

 

 ボクは少し驚きながらも挨拶を返す。

 

 

「こ、こんにちは。ハイセイコー先輩。ええ調子です、リハビリも順調ですし」

 

 

「それは何よりだ」

 

 

 ハイセイコー先輩は荷物を置いてソファに座る。そのままボクに申し訳なさそうな表情を浮かべながら謝罪をしてきた。

 

 

「すまないね、テンポイント。中々お見舞いに来ることができなくて」

 

 

 ボクは慌てながらも先輩を擁護する。

 

 

「い、いえ!こうして来ていただけるだけでもボクは十分ですんで!それに先輩も忙しい身ですし、お見舞いに来てもらえるだけでも十分っちゅうか!」

 

 

「そう言ってもらえると助かるよ。これからも、空いた時間を見つけたら君のお見舞いに足を運ぶとしよう」

 

 

 そう言って先輩は挨拶した時同様笑みを浮かべる。先輩は生徒会長としても忙しいだろうに本当にありがたい限りだ。

 とりあえず、ボクは何か話題はないかと頭の中で考える。その時、ボクの頭にあることが浮かんだ。それは、日経新春杯の時のこと。あまり触れていいことなのかは分からないが、ボクはその話題を先輩に切り出す。

 

 

「そ、そういえば日経新春杯ん時に地面に激突しそうやったボクを助けてくれたんはハイセイコー先輩やったんですよね?」

 

 

 ボクの言葉に先輩は答える。

 

 

「あぁ、私だよ。それがどうかしたのかい?お礼なら、最初にお見舞いに来た時にもらえたから十分だよ?」

 

 

「いくら感謝してもし足りんぐらいの恩ですけど……、そうやなくてですね。その……」

 

 

 ボクは少し言い淀んでしまう。だが、意を決して聞く。

 

 

「その、URAからなんか言われんかったんですか?救助んためとはいえ、レース中のコースに飛び出したわけですから。特に、ハイセイコー先輩は生徒会長ですし……。お咎めなしっちゅうわけにはいかんかったんじゃないですか?」

 

 

 基本的に、ウマ娘のレース中にコースに飛び出すのはご法度だ。それは、人であってもウマ娘であっても変わらない。いくら救助のためとはいえ飛び出してきたのだから何らかの処罰があるのではないだろうか?ボクはそう思っていた。最初にお見舞いに来た時には聞くことができなかった。

 ボクはそう尋ねるとハイセイコー先輩は困ったような顔をして答える。

 

 

「そうだね。さすがにお咎めなし……とはいかなかったよ」

 

 

「やっぱり……」

 

 

「あぁでも……フフ。そうだね。その時の話をしてあげよう。とても面白い話だからね」

 

 

「お、面白い?」

 

 

 先輩の言葉にボクは思わずそう聞き返した。URAからお叱りの言葉を貰ったはずなのに、面白いというのはどういう事だろうか?そう考えていると先輩がその時のことを話し始める。

 

 

「そうだね……。アレは日経新春杯が終わって数日が経った後、君のお見舞いが済んだ次の日ぐらいだったかな?私はURAに呼び出されてURA本部へと足を運んだんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、トレセン学園生徒会長ハイセイコー君。今日ここに呼び出された理由は分かっているね?』

 

 

 重厚な扉を開けて部屋の中に入った私に、重役の1人が開口一番そう告げる。私は頷きながら肯定した。

 

 

『はい。先日行われた日経新春杯……。そのレースで私は、レース中であるにも関わらず観客席から飛び出し、コースへと侵入した。そのことについて……ですね?』

 

 

 私の言葉に質問した重役は頷く。どうやら合っていたらしい。もっとも、安堵なんてできないが。私は気を引き締めて次の言葉を待っていた。

 部屋の中には私を含めて6人。5人のURAの重役が私の前に座っていた。机に腕を組んでいる1人が私に尋ねてくる。

 

 

『救助のためとはいえ、レース中のコースに飛び出すのは禁止されています。そのことは勿論知っていますね?』

 

 

『はい』

 

 

 私は頷いて答える。レース中のコースに飛び出すのはご法度。誰もが知っているルールだ。いくら人命救助のためとはいえ、褒められた行為ではないことは私も分かっていた。だが、自分が取った選択に後悔はなかった。大切な友であるテンポイントの命を助けるためを思えば私の名誉や地位がいくら汚れようが構わなかった。

 眼鏡をかけた人物が私に詰問してくる。

 

 

『あなたはトレセン学園の生徒会長。全生徒の模範となるべきウマ娘です。そんなあなたがルールを破った。それも、基本中の基本のことを。いくら人命救助のためとはいえ、褒められた行為ではありません』

 

 

 私は、その言葉に強い口調で返した。

 

 

『それは勿論存じております。ですが、大切な友であるテンポイントのため。そう考えたら自然と身体が動いていました』

 

 

 私の言葉に重役の人達は口を閉じる。私は続けた。

 

 

『褒められた行動でないことは重々承知しております。ですが、私は自分の行動に後悔はしていません。いかなる処罰も受けましょう。生徒会長の解任、どうぞお好きなように。私は、友の命を救うことができた。それだけで十分ですので』

 

 

 私は自分の意思を告げる。部屋の中を静寂が支配していた。

 やがて、真ん中に座っている人物がボクに話しかけてくる。

 

 

『成程。余程の覚悟があるようだ。では、君に対する処罰を告げる』

 

 

 私は目を閉じた。いかなる処罰でも受ける覚悟を持って。そして、私の処罰が告げられる。

 

 

『反省文。後日URA宛てに反省文を提出してもらうことにしよう』

 

 

 告げられたその言葉に私は思わず素っ頓狂な声を上げた。

 

 

『……はっ?』

 

 

 だが、私の気持ちなどお構いなしに他の人物も口々に賛成の声を上げる。

 

 

『まあ、妥当でしょう』

 

 

『えぇ。それに、これを機にルールを改定するというのはいかがでしょうか?』

 

 

『良いですね。改めるなら……レース中のコースに飛び出すことを禁ずる。しかし、人命救助のためであればその限りではない……と言った感じでしょうか?』

 

 

『そうさなぁ、これからも同じような事例が起こる可能性だってある。それを考えるとルールを変えることが望ましいさね』

 

 

 私はあまりのことに何も言えないでいた。そんな私に真ん中に座っている人物が私に告げる。

 

 

『……と、いうことだ。君に対する処罰は反省文を書いてもらう事。それだけだ。おっと……、コースに入ったのは神藤誠司君もそうだったか。彼にもそう通達しておくとしよう』

 

 

『あ、あの。1つよろしいでしょうか?』

 

 

『なんだね?』

 

 

『本当に、それだけでよろしいのでしょうか?仮にも全生徒の模範となるべき生徒会長がルールを犯したのですよ?』

 

 

 私の言葉に重役たちは揃って曖昧な表情をしていた。代表して真ん中に座っている人物が答える。

 

 

『確かに、君はルールを犯した。それは糾弾されるべきことだろう。だが、それは人命救助のためだというのは周知の事実だ。ならば、重い罰を与える必要はない。我々はそう判断した。ただし、褒められた行為ではないのは確かだから軽い罰は与えるがね』

 

 

 私は先程までの緊張が一気になくなる感覚を味わった。次いで、少しの安心を覚えた。とにかく、反省文の提出。そして、私は生徒会長を続行することになるらしい。

 

 

『さて、話は終わりだ。ハイセイコー君。これからも君の手腕を期待しているよ』

 

 

『……はい。誠心誠意、務めさせてもらいます』

 

 

 私はそう言って部屋を後にした。帰りの足取りはどこか軽かった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、いうわけさ。つまるところ、ほとんどお咎めなしと言ってもいいね」

 

 

 ハイセイコー先輩はそう締めた。その内容は日経新春杯でコースに侵入したことに対するURAからの会話の内容。それを聞いたボクは開いた口が塞がらない程に驚いていた。

 そんなボクの様子を見てハイセイコー先輩は苦笑いをしている。

 

 

「まあ、確かに驚くだろうね。私もどんな罰が下されるのかと思ったら反省文だけだったんだから」

 

 

「そ、そうですね……」

 

 

「まあ、結果として私は生徒会長を続けることになったよ」

 

 

「あはは。まあハイセイコー先輩が生徒会長続けるんことなってボクは良かったです」

 

 

 そんなボクの言葉に、ハイセイコー先輩はウィンクしながら告げる。

 

 

「テンポイント、君になら生徒会長の座を譲ってもいいと考えているんだけどね。どうだろうか?」

 

 

 ボクは勢いよく首を横に振って答える。

 

 

「い、いえいえ!そんなボクなんかが!」

 

 

「そうかい?ファンからの人気、実力、生徒からの支持……どれをとってもふさわしいと私は思っているのだが……」

 

 

「う、う~ん。やけど……」

 

 

 ボクはしり込みしながらも続ける。

 

 

「やっぱり、ボクは会長になって何をやりたいかなんて思いつかんので、遠慮しときます。お言葉は嬉しいんですけど」

 

 

「残念、フラれてしまったか。まあ君ならそう答えると思っていたけどね」

 

 

 嘆息しながらハイセイコー先輩はそう告げる。ただ、気になることがあったのでボクは先輩に尋ねた。

 

 

「ボーイはどうなんです?ボーイも、会長にふさわしいんやないですか?」

 

 

「トウショウボーイかい?う~ん……」

 

 

 少し悩む素振りを見せた後、首を横に振って答える。

 

 

「個人的な意見だが、彼女は自由であるべきだ。生徒会長という役職で縛るわけにはいかない。だから、私としてはあまり生徒会長にはなって欲しくはないかな。本人が望めば、その限りではないけどね」

 

 

 その答えにボクは納得した。確かに、ボーイの性格を考えるとその方がいいだろう。むしろ、生徒会長という職について自分の走りをできなくなってしまったらと考えると、その方がいいかもしれない。もしかしたら、逆に良い方向に働くかもしれないが。

 その後はハイセイコー先輩の学園での生活を中心に聞いていった。笑えるような話から、少し真面目な話まで。様々な話を聞いて過ごした。




そろそろ秋のG1戦線が始まる頃。
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