ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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新しいレースを開催する予定回


第104話 招待レース

 季節はもうすぐ3月になりそうな頃。もうそろそろ暖かくなってもおかしくないがまだまだ寒い日が続いている。俺はいつものようにテンポイントの病室にいる。

 だが、今テンポイントの容態は芳しくない。朝から原因不明の高熱にうなされており、荒々しい呼吸をしている。突然高熱が襲ってくること自体は初めてじゃない。今までも何回かあった。だが、そんな彼女に俺がしてやれることは、手を握って安心させることぐらいしかなかった。その度に、俺は自分の情けなさを感じていた。

 テンポイントの苦しそうな声が俺の耳に届いている。不安そうに俺を呼んでいた。

 

 

「ハァ……ッ、ハァ……ッ。とれーなー、ちゃんとおる……?」

 

 

「……あぁ、安心しろ。ちゃんとここにいる」

 

 

 そう言って手を強く握る。ちゃんといることに安堵したのか、少しだけ楽になったような表情をした。呼吸も、先程よりは安定する。少しだけ、俺は安堵した。

 俺は不安を抱えながらも、今回のことについて先生に尋ねる。

 

 

「……先生、テンポイントの容態は?」

 

 

 医者の先生は安心させるような声で答える。

 

 

「風邪の症状に近いです。このままゆっくり休めば、じきに良くなるでしょう」

 

 

 そう宣告されて、俺の中にあった不安な気持ちは大分収まってきた。だが、まだ油断はできない。今日はつきっきりで看護しないといけないだろう。看護婦の人と連携を取ってテンポイントの看護にあたる。

 ただ、ここで問題となったのは今日は朝からテンポイントのお見舞いに来ていたので仕事の道具を一切持ってきていないということだ。さすがに今日の分の仕事はやっておかないとまずい。なのでテンポイントの手を離して一度学園に戻ろうとしたのだが、俺が手を離そうとするとテンポイントの方から強く握ってくる。もっとも、高熱の影響か力は全然入っていなかった。だが、先程より力を込めて俺の手を握っている。そして、不安そうな声で俺に告げる。

 

 

「いやや……。いかんといて、とれーなー……」

 

 

 ……その言葉を聞いて、少し困った気持ちになりつつも俺はもう一度座りなおしてテンポイントを安心させるように話しかける。

 

 

「大丈夫だ。どこにもいかねぇよ」

 

 

 仕事道具に関しては、誰かに連絡して持ってきてもらうことにしよう。俺は携帯を取り出して知り合いに連絡する。仕事の道具を持ってきてもらうために。その間も、テンポイントの手をずっと握っていた。テンポイントは、そのことに安堵したのかしばらくしたら寝息を立て始めた。

 高熱で不安な気持ちが出てきているのだろう。俺も小さい頃に熱を出した時、誰かが側にいないと不安で仕方がなかったことを思い出す。きっと、テンポイントは不安なんだろう。だからこそ、少しでも安心させるために彼女の手を握り続けている。

 しばらくしたら、病室の扉を開けて誰かが入ってくる。看護婦の人だった。バッグを抱えている。そのまま俺に話しかけてきた。

 

 

「神藤さん、こちら仕事の同僚だという方からです」

 

 

「あぁありがとうございます。こんな状況ですから、仕事道具を持ってきてもらったんですよ」

 

 

 俺は握っている手の方を見ながら笑みを浮かべて答える。看護婦の人は笑みを浮かべながら話す。

 

 

「テンポイントさんにとても信頼されているんですね、神藤さんは。でないと、ここまで安心した表情で眠らないと思います」

 

 

「まあ、この子のトレーナーとして今まで一緒に頑張ってきましたから。今もですけど」

 

 

 俺は看護婦さんからバッグを受け取ってお礼を言う。用事はそれだけだったらしく、看護婦さんはそのままテンポイントの容態を確認してから退出した。

 受け取ったバッグの中から、俺は早速仕事の道具を取り出す。片手しか使えないので少し手間取ったが問題はない。ノートPCを下敷き代わりに使って書類仕事を終わらせていく。今日は一日中、テンポイントの病室で過ごしていた。

 次の日になる頃には、先生の言っていた通りテンポイントの容態はすっかり良くなっていた。熱も下がって体調も問題はなくなり、テンポイントもすっかり元気を取り戻していた。そのことを確認した俺は学園へと戻る準備をする。帰り際にテンポイントからお礼を言われた。

 

 

「ありがとな、トレーナー。ずっと側におってくれて」

 

 

「いいってことよ。じゃあテンポイント、また夕方見舞いに来るよ」

 

 

 俺はそう答えて学園へと戻る。だが、その前にお風呂に入ってからにしよう。そう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂に入って、学園に戻ってきた俺を待っていたのは秋川理事長による集合の報せだった。俺だけではなく、トレセン学園に在籍しているトレーナー全員が召集される。一体何事だろうか?と思いながら俺は集合場所の会議室へと足を運んでいた。

 集合場所で坂口を見つける。向こうも俺に気づいたのか近づいてきて挨拶をしてきた。

 

 

「おはようございます、神藤さん。テンポイントさんの容体はどうですか?」

 

 

「おはよう坂口。あぁ、今朝はすっかり熱も下がって元気になったよ。ところで、今回なんで集められたか知ってるか?」

 

 

 俺の質問に坂口は首を横に振る。

 

 

「分かりません。皆さんどうして呼ばれたのか分かっていないみたいで……」

 

 

「そうか。まあ、秋川理事長を待つしかないか」

 

 

 そう話していると、秋川理事長が会議室に姿を現した。そして、そのまま一番前へと歩いていく。一番前に立つと、挨拶を始めた。

 

 

「清聴ッ!トレセン学園のトレーナー諸君!忙しい中集まってくれたこと心より感謝する!」

 

 

 そのまま集めた目的について話始めた。

 

 

「トレーナー諸君に集まってもらったのは他でもない!URAがあるレースを開催する予定を報せてきた!今日はそのレースについての説明を行う!」

 

 

 理事長の言葉にトレーナーの1人が手を挙げる。理事長の許可を貰って意見を述べた。

 

 

「秋川理事長、それは一体どのようなレースなのでしょうか?」

 

 

 その質問に、理事長は大仰に頷いた後答える。

 

 

「百聞は一見に如かず!早速見てもらおう!たづな、資料を!」

 

 

「はい」

 

 

 そう言われて、たづなさんが資料を配っていく。程なくして俺のもとにも資料が届いた。俺はその資料を確認する。そこには……。

 

 

「開催ッ!その名も、〈ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップ〉!」

 

 

 英語で<Japan Universal Racing Cup>というレース名が書かれていた。一体どういうレースなのだろうか?そう思っていると理事長が説明を始める。

 

 

「このレースがどのようなレースなのか!非常に簡単だ!世界各国のウマ娘たちを日本に招待し、日本のレース場で走る、招待レースのようなものだ!勿論!日本のウマ娘も参加可能だ!URAは、そんなレースの開催を年末に予定していると発表した!」

 

 

「世界中のウマ娘が!?」

 

 

 どこかからかそんな声が上がった。俺も声こそ上げなかったが内心驚いている。会議室では様々な声が上がっており、そのほとんどは好意的な声が占めていた。俺も面白い試みだとは思っている。

 しかしながら、懸念点が1つある。そのことから俺は面白い気持ちよりも不安な気持ちの方が大きかった。そう思っていると、トレーナーの1人が手を上げて理事長に質問した。時田さんである。

 

 

「失礼ですが理事長。招待レースと銘打っていますが、現在はどれだけの国がそのレースのことを認知しているのでしょうか?開催までまだまだ期間はありますが、下手をしたら開催すら危ぶまれるのでは?」

 

 

 そう、本当に海外のウマ娘たちが出走してくるのかという疑問が湧いてくる。さすがに年末開催なので期間はたっぷりとあるのだが、下手をしたら日本のウマ娘だけで出走するという可能性もある。そうなったら、いつものレースと変わり映えしないだろう。この時期に開催することを発表した、ということはURAにもちゃんと考えがあるのだと思うが。時田さんもそう考えてはいるが、念の為ということもあり質問したのかもしれない。

 その質問に、理事長はまるで問題ないとばかりに答える。その表情は笑顔だった。

 

 

「心配は無用ッ!すでに出走に好意的な姿勢を見せている国がいくつかある!それに、期間はまだまだたっぷりとある!今回はあくまで開催する予定だけを報せに来た!」

 

 

「……成程。ありがとうございます」

 

 

 そう言って時田トレーナーは礼を述べる。俺は資料を捲ってどのようなレースになるのかを見てみた。

 

 

(東京レース場2400m……いつものレースと特に変わらないな……)

 

 

 気になるところといえば、出走条件がトゥインクルシリーズに在籍しているウマ娘のみという点だろう。これは海外から出走してくるウマ娘もトゥインクルシリーズにあたるレースに出走しているウマ娘のみが条件に組み込まれているから特に問題はなかった。

 報せはこれだけだったみたいで、後はいつ頃に出走の登録始めるのかの説明があり、程なくして解散となる。解散した後、坂口が興奮気味に俺に話しかけてきた。

 

 

「神藤さん神藤さん!すごいですねコレ!実際に開催されたらものすごい人が見に来そうじゃないですか!?」

 

 

「まあそうだな。世界中のウマ娘が日本のレース場に集まるんだ。注目度は抜群だろうよ」

 

 

「でも出走できるかちょっと不安ですね……。競合率高そうですし……」

 

 

 坂口の心配そうな声に俺は否定の言葉を投げる。

 

 

「そんなことはないと思うぞ?年末といえば有マ記念がある。大体のトレーナーはそっちに照準を絞るんじゃないか?」

 

 

「あ~……そういえばそうでしたね。でもそうなるとどっちに出走するか悩みますね……」

 

 

「まあ期間はたっぷりとあることだし、ゆっくりと悩めばいいんじゃないか?」

 

 

「それもそうですね」

 

 

 俺達はそう言って別れた。その後は仕事を終わらせてテンポイントのお見舞いへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テンポイントの病室に着いた俺は、ブログ用の写真を撮って早速記事を作成している。結構慣れてきた。

 記事を作成していると、ベッドの上のテンポイントが俺の鞄から飛び出している資料が目に入ったのか、尋ねてきた。

 

 

「トレーナー?なんやそれ?」

 

 

「うん?あぁこれか。URAが年末に開催を予定しているレースの資料だよ。今日理事長から発表されてな」

 

 

「ふ~ん……」

 

 

 テンポイントに資料を渡すと、その資料を流し見し始めた。時折頷きながら見ている。

 しばらくすると、楽しそうな表情で俺に告げる。

 

 

「おもろそうやん。トゥインクルシリーズで海外のウマ娘なんてみぃひんかったからな」

 

 

「まぁそうだな」

 

 

「出走したいとこやけど……そん前にボクは脚治すことが先決やしなぁ……」

 

 

 自分の左足を触りながら、溜息を吐いてそう言った。俺はテンポイントを安心させるように言う。

 

 

「少しずつだが、リハビリの結果は出てきている。それにさっきも言ったようにこのレースまでにはまだまだ期間があるからな。その頃には、お前の脚もきっと治っているさ」

 

 

「……ま、悲観せんほうがええな!トレーナーんいう通り、ホンマに少しずつやけど回復して来とるし、こん頃にはきっと走れるようになっとるやろ!」

 

 

「そうだ!病は気からっていうし、明るく前向きにいこうぜ!」

 

 

 俺の言葉にテンポイントは笑顔で頷いた。

 そんな話をしていると病室の扉を開けて誰かが入ってくる。その人物はトウショウボーイだった。

 

 

「ようテンさん!お見舞いに来たぜ!これ見舞い品な」

 

 

「今日も調子よさそうやなボーイ。見舞い品ありがとな」

 

 

 テンポイントの言う通り、トウショウボーイは調子よさそうにしていた。最初のお見舞いの時はどことなく元気がない雰囲気があったか、あの後しっかりと持ち直したようだ。そのことに俺は安堵する。

 するとトウショウボーイはテンポイントが持っている紙が気になったのか尋ねてくる。

 

 

「うん?テンさんなんだその紙?」

 

 

「これか?URAが年末に予定しとるレースの資料やで。ほい」

 

 

「お、サンキュー。どれどれ……」

 

 

 テンポイントから資料を受け取り、トウショウボーイは資料を見る。肩を震わせている。

 資料を一通り読み終わったトウショウボーイは興奮気味に言葉を発した。

 

 

「なんだこのレース!スゲェ面白そうじゃねぇか!」

 

 

 そして、笑みを浮かべて続ける。

 

 

「オレもこのレースに出走しようかな!おハナさんに相談してみるか!」

 

 

 ……俺はテンション高くそう言ったトウショウボーイに、沈痛な気持ちで告げる。

 

 

「……トウショウボーイ、喜んでいるところ悪いが……」

 

 

「ん?どうしたんだよ誠司さん。そんな可哀想なものを見る目でオレを見て?」

 

 

「……このレースの出走条件は、トゥインクルシリーズに在籍しているウマ娘のみだ。ドリームトロフィーリーグに移籍したお前は出走できない」

 

 

「……え?」

 

 

 そう告げられたトウショウボーイは改めて資料を確認する。そして、出走条件のページを見たのだろう。肩を震わせている。今度はさっきのような喜びからじゃない。どちらかというと怒りや悲しみの感情が見てとれた。

 そして、悲痛な叫びをトウショウボーイが上げる。

 

 

「嘘だろぉぉぉぉぉ……!?」

 

 

 目に見えて落胆するトウショウボーイに、俺は何も言えなかった。テンポイントも、なんとも言えない表情でトウショウボーイを見ていた。




ぼっち・ざ・ろっくおもしろいのでお勧めです。
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