ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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気まぐれウマ娘のレース回


第105話 気まぐれウマ娘

 時間が過ぎるのは早いものでついこの前3月に入ったかと思えば、もうすぐ3月も終わりそうな頃になった。学園の方も春休みに入っている頃だろうか?それだけの月日が流れていた。今はお昼過ぎぐらいである。

 ボクは朝からベッドの上で本を読んでいた。病室ではトレーナーが仕事をしている。会話こそ交わしていないが、それなりに心地よい時間が流れていた。

 だが、ボクの心はあまり晴れやかな気分ではない。思わず溜息を吐いて愚痴るように呟く。

 

 

「はぁ……。まさかここにきて治りが遅うなるなんて……」

 

 

 医者の先生が言うには、少し治りが遅くなってきているらしい。リハビリの影響も多少あるらしく、本来であれば今日も朝からリハビリをする予定だったのだが急遽中止となった。無理をして身体を壊さないようにするためだろう。分かってはいるのだが、それでも焦りは生まれる。特に、体重負荷もまだ全然かけられないほどだ。一日でも早く復帰したいと考えているのでどうしても焦ってしまう。

 ボクの呟きが聞こえてか、トレーナーが作業の手を止めてボクに話しかけてきた。

 

 

「これも身体を壊さないためだ。無理して一生走れなくなるよりはマシだろ?」

 

 

「分かっとるよ。それでも……」

 

 

「焦る……よな。だけど今はまだ我慢の時だ。我慢して我慢して、復帰した時にその鬱憤を晴らしてやろうぜ」

 

 

「やな」

 

 

 トレーナーの言葉にボクは頷く。トレーナーの言う通り、一生走れなくなるよりはマシだ。今はただひたすら我慢するしかない。復帰するその時まで。

 丁度本も読み終わったので、本を閉じて時計を確認する。この時間だと……もうすぐジョージが出る鳴尾記念の出走時間だ。ボクはトレーナーにお願いする。

 

 

「もうそろそろやな。トレーナー、テレビ点けてもろうてええか?」

 

 

「うん?……あぁ、もうそんな時間か。今点ける」

 

 

 トレーナーも時計を確認した後にリモコンを操作してテレビを点けた。テレビでは出走するウマ娘の紹介に入っている。

 ボクはトレーナーに尋ねた。

 

 

「トレーナー。ジョージって今回は何番人気なん?やっぱ1番人気なんか?」

 

 

 ボクの質問にトレーナーは首を横に振る。

 

 

「いや、京都記念と同じ2番人気だ。1番人気はホクトボーイ、ここは変わらないな」

 

 

 トレーナーから返ってきた言葉に、ボクは少し驚いた。だが、すぐに納得する。

 

 

「まあ、ホクトの成績は安定しとるからなぁ。少なくともジョージよりは」

 

 

「そうだな。特にホクトボーイは前走の大阪杯で6着だったのにそれでも1番人気だからな。天皇賞ウマ娘はそれだけ注目されるってことだし、同じ天皇賞ウマ娘でもエリモジョージよりはホクトボーイ、って人が多いんだろ」

 

 

「ちゅうか、ホクトは中1週でレースなんか。カイザーも頑丈やけどホクトも大概やな」

 

 

 ボクは思わずそう呟いた。羨ましい限りである。

 テレビを見ていると、ターフの上でホクトとジョージが何やら話している様子が見えた。もっとも、声は拾えないのでなんと会話しているのかは分からないのだが。もしかしたらホクトが宣戦布告でもしているのかもしれない。

 実況のウマ娘の紹介も行われている。丁度ジョージの番になった。

 

 

 

 

《……さてさて、鳴尾記念2番人気は2枠2番のエリモジョージです!前走京都記念は同じ天皇賞ウマ娘であるホクトボーイを相手に逃げ切り勝ち。しかし発走するその時までこの子の気分は他の出走する子にも、勿論我々にも分かりません。そのことが評価されての2番人気でしょう!》

 

 

《果たしてそれは誇れることなのか?少々疑問が湧きますがそれもまた愛嬌というやつでしょう。それに気分が乗った時のエリモジョージの強さは手がつけられませんからね。果たして今日の気分はどうなのか?》

 

 

《1番人気はこのウマ娘!7枠7番ホクトボーイ!トウショウボーイとグリーングラスを相手に勝利した秋の天皇賞、前走の大阪杯と前々走の京都記念では破れましたが調子は上がってきているとは本人談。パドックでの調子も悪くありませんでした!京都記念の雪辱を晴らすことができるか!》

 

 

 

 

 

 実況の言葉にボクは苦笑いをするしかなかった。確かにジョージの気分は本人以外には分からないだろう。ただでさえ表情に出さないので余計に。

 程なくして、出走する子たちが次々とゲートに入る。そして最後の子がゲートに入り、発走の時をただ待っている。

 

 

 

 

《……阪神レース場第8R鳴尾記念。エリモジョージとホクトボーイ、2人の天皇賞ウマ娘のどちらに軍配が上がるのか?それとも他のウマ娘が勝利するか?今……スタートです!》

 

 

 

 

 ゲートが開いてウマ娘たちが一斉に飛び出す。鳴尾記念が始まった。ボクは少しの緊張を覚えながらテレビを見る。トレーナーも表情を引き締めてテレビを見ていた。

 まずハナを取ったのはやはりジョージだった。だが、その走りを見てボクは驚く。前走の京都記念でもやっていたボクの走りの真似。それをこの鳴尾記念でもジョージは実践していた。それだけじゃない。あの時はボク達もあくまで何となく似ているだけと思っていた走りが、本人曰く6割か7割ほどと言っていた走りがほとんどボクと変わらないフォームで走っている。そのことにボクは驚いていた。

 トレーナーも、ボクと同じ気持ちなのか驚いたように呟く。

 

 

「……やべぇな。京都記念のインタビューで次は完璧に仕上げると言っていたが、本当に完璧に仕上げてくるとは……」

 

 

「やな。ホンマにボクん走りにそっくりや」

 

 

 これはもう気のせいで済ませていいレベルではない。それほどまでに完成度の高い走りをジョージは見せていた。思わず身体が震える。早く競ってみたい、ボクの本気とジョージの本気、ぶつかったらどっちが勝つのか。それを早く試してみたい。その気持ちに駆られる。

 その後もレースはジョージが先頭を走る形で続いていく。ホクトはいつも通り後方に控える形だ。

 

 

 

 

《……さぁレースは向こう正面に入りました。2番のエリモジョージが先頭で走っています。後続との差はかなりありますその差は7バ身程でしょうか?いやそれ以上開いています。2番手を見てみましょう2番手は1番スリーシャトーか2番手はスリーシャトー。3番手は4番ファインニッセイ後はほとんど団子状態となっております向こう正面スローペースで展開しています。このままのペースが続くか鳴尾記念》

 

 

 

 

 トレーナーがボクに問いかける。

 

 

「お前だったらどうする?この後の展開は」

 

 

 ボクは間髪入れずに答える。悩む必要はない、答えは1つだ。

 

 

「ペースを抑えんでそんまま突き放す。後続の子には悪いけど、こんままやったらもう決まったも同然や」

 

 

 もしこのままの展開で進むのであればジョージの勝ちは揺るがないだろう。ボクはそう確信する。トレーナーも同じ意見だったのか頷いていた。

 レースはすでに第4コーナーを回って最後の直線に入ろうかというところだった。

 

 

 

 

《……第4コーナーを回っております!2番手集団は固まっております!ホクトボーイが2番手集団に上がってきた!しかし先頭エリモジョージはすでに最後の直線に入ってきました!2番エリモジョージが最後の直線に入った!このまま行くのか!?このまま行くのか!?あまりにも後続が、あまりにも後続が楽に走らせすぎたか!余裕たっぷりだエリモジョージ!エリモジョージが完全に先頭だ!2番エリモジョージが先頭だ!》

 

 

《今日は最初から最後まで気分よく走っていますねエリモジョージ。後続も必死に追い上げていますがこれはもう決まったでしょう!》

 

 

《2番手集団を抜け出してホクトボーイが来た!そしてハッコウオーが差を詰めてきた!ようやくハッコウオーが差を詰めてきました!しかし完全にエリモジョージ独走だ独走だ!問題なし!2番手はホクトボーイかハッコウオーも懸命に追い上げているがしかしエリモジョージはすでにゴールしました1着はエリモジョージだ!2着はホクトボーイ!》

 

 

 

 

 結局、そのままジョージが逃げ切り勝ちを収めた。それも普通の勝利ではない。2着に大差をつけて勝利した。ただのウマ娘ではない、同じ天皇賞ウマ娘であるホクトを相手に。

 トレーナーは引き攣ったような顔をしていた。あまりの勝ちっぷりに驚いているのだろう。多分、ボクも同じ表情をしていると思う。

 トレーナーがボクに話しかけてくる。

 

 

「……とんでもねぇ勝ちっぷりだな。第4コーナー入る前に勝つとは思っていたが……」

 

 

「まさか、同じ天皇賞ウマ娘のホクト相手に大差勝ちするとは思わんかったわ……」

 

 

 ホクトだって弱いわけじゃない。少なくともボーイとグラス相手に天皇賞を勝利するだけの実力はある。そんなウマ娘を相手にして大差勝ちを収めるジョージの方が凄いのだ。

 だが、この大差勝ちはレースの展開が絡んでいるだろう。トレーナーもそう思っているのか、今回のレースのことを話し始める。

 

 

「まぁ、大差がついたのは展開のせいもあるだろうな。差しや追い込みのウマ娘にとっては不利になるスローペース展開だったのも敗因の1つだろう。エリモジョージにも十分な脚が残っていたしな」

 

 

「やな。さすがに第4コーナーであんだけ差ぁ開いてたら追いつけんやろ。終始5バ身以上差が開いとったし」

 

 

 ボクとトレーナーは今回のレースをそう分析した。

 全ウマ娘がゴールした後、しばらくしたらウィナーズサークルでのインタビューの映像に切り替わる。ジョージのトレーナーとジョージが記者の人達に囲まれていた。

 

 

 

 

《京都記念に続いて鳴尾記念の勝利おめでとうございます!これで2連勝ですね!》

 

 

《そうですね。ですが、まだまだ油断はできません。次は宝塚記念ですので、しっかりと調整して……調整して……行こうと思っています》

 

 

《あ、アハハ……。そ、そうですね》

 

 

 

 ジョージのトレーナーである時田トレーナーは一瞬ジョージの方をチラ見した後絞り出すようにそう言った。記者の人も苦笑いを浮かべている。まぁ、気持ちは分からないでもない。トレーナーもそう思っているのか、同じように苦笑いをしている。そして、当の本人であるジョージはいつものようにぼうっとしていた。

 記者の1人がジョージに質問する。

 

 

 

 

《そ、それではエリモジョージさん!鳴尾記念勝利おめでとうございます!今のお気持ちは?》

 

 

《ん。完璧 ムフー》

 

 

《成程!?ありがとうございます!次のレースについての意気込みを語ってくれますか!?》

 

 

《テン坊 見てるー?ぶい 元気 もりもり》

 

 

《あ、あのー……。次のレースについての意気込みをぉ……》

 

 

《飽きた。とれーなー よろー》

 

 

《ちょっとー!?》

 

 

 

 

 そのままジョージはどこかへ行ってしまった。相変わらずの自由人である。時田トレーナーは前回のように頭を痛そうに抱えている。まぁ、日常茶飯事なのかすぐに対応していたが。

 トレーナーがボクに話しかけてくる。

 

 

「聞いてたか?今のインタビュー。やっぱりお前に向けての応援だったみたいだぜ、あの走り」

 

 

 ボクは頷く。やはりボクの走りを真似ていたのは激励のためだったらしい。そのことにボクは喜ぶ。

 だが、喜びよりもボクが思ったのは先程よりも強いジョージと走ってみたいという気持ち。競い合いたいという気持ちが先程よりも湧き上がってきた。思わず拳に力が入る。

 

 

「やな。おかげで、今燃え上がっとるわ。早う復帰して、ジョージと競い合いたいわ。ジョージだけやない、みんなとな」

 

 

「その気持ちを、次のリハビリの時に発揮しようぜ、テンポイント」

 

 

「もちや。あ~、はよ次のリハビリの日決まらんかな~?」

 

 

 そんなことを話しながら、今日も一日が終わる。そろそろ桜が開花する時期が近づいてきていた。




明日のアニメは見るものが多すぎる……!
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