ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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思わぬアクシデント


閑話17 アクシデント

 京都レース場のターフ。そこに私は今立っている。春の天皇賞出走を控え、身体をほぐすようにウォーミングアップをしていた。

 脚の状態を確認する。大丈夫、問題はない。いや、

 

 

(前2戦よりも全然調子がいい……。これならいけるね~)

 

 

不安視していた脚の状態は天皇賞前に行った公開練習の時から調子の良い状態で迎えることができた。これで後は、誰よりも早くゴールするだけだ。私はそう決意する。

 周りを見回す。今回注目されているのは私と同じ菊花賞ウマ娘であるプレスちゃん。プレスちゃんはウォーミングアップをしながら観客席に手を振っている。微笑ましさから笑みが零れそうになったが、すぐに気を引き締める。今回のレースで要警戒しておくべき相手の1人だ。マルゼンちゃんの影に隠れがちだが、プレスちゃんは菊花賞をレコード勝ちする実力を持っている。油断はしない方がいい。

 そう考えていると、後ろから声を掛けられる。

 

 

「ついにこの日が来ましたね、グラスさん!」

 

 

 声のした方へと振り向く。カシュウちゃんだった。

 今回のレースどちらかと言えば、警戒すべきなのはプレスちゃんよりもカシュウちゃんの方だ。戦績は私の1勝4敗、かなりの数負け越している。別に苦手意識があるというわけではない。ただ、不思議と勝てないでいた。だからこそ、今回のレースだけは絶対に勝つ。そう考えていると、思わず気合が入って睨むような目つきになる。

 カシュウちゃんは私の顔を見て一瞬たじろいだものの、すぐに言葉を続ける。

 

 

「……っふふ、やはり凄まじい圧です!流石はテン様やトウショウボーイさんと並ぶ3強の1人です!」

 

 

「3強……か」

 

 

 思わず自嘲気味に呟く。有マ記念以降そう呼ばれることもあったが、実際のところあまり嬉しくはなかった。

 というのも、世間一般的には前2人よりも下の位置にいる永遠の3番手。それが私の評価だ。だが、それも仕方がない。私は菊花賞以外で2人に先着したことは一度たりともない。前回の春の天皇賞はテンちゃんに負け、宝塚記念は2人から4バ身離されての3着、有マ記念は2人に肉迫したものの、結局は3着だ。永遠の3番手という評価は、あながち間違いではない。

 けど、今日でその評価を覆す。私は2人の下なんかではない、2人に並ぶだけの実力があることを証明してみせる!そして、

 

 

(勝って、テンちゃんに応援の気持ちを届ける!私なりの、応援の気持ちを!)

 

 

今も頑張っているテンちゃんを勇気づける。そのために、今日は絶対に勝つ!そう決意を新たにする。

 私はウォーミングアップを切り上げて、カシュウちゃんに宣言する。

 

 

「勝つのは私だよ」

 

 

 私の宣言を受けて、カシュウちゃんは不敵に笑って答える。

 

 

「そうはいきませんよ。勝つのは私です!勝って、春の盾をテン様に捧げます!」

 

 

 そう宣言した。その言葉を最後に私たちはそれぞれ自分の枠番のゲートに入る。

 

 

 

 

《さぁ、各ウマ娘のゲートインが完了しました。出走の瞬間を今か今かと待ちわびております。果たして春の盾は誰の手に渡るのか?グリーングラスか?プレストウコウか?カシュウチカラか?はたまた他のウマ娘か?天皇賞・春が今……》

 

 

 

 

 ゲートが開くその時を静かに待つ。

 

 

 

 

《スタートです!》

 

 

 

 

 ゲートが開いた。私はスタートを切る。絶対に勝つ、その思いを胸に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《さぁ16人のウマ娘がスタートを切りました!逃げウマ娘がいない今回の天皇賞一体誰がペースを握るのか非常に楽しみなところ。まず内枠から3番グリーングラスが先頭に立ちました。外からは5番のキングラナークと4番ビクトリアシチー加えて6番ロングイチーも行きますそれを見てグリーングラスは下がりました無理に先頭には立たない様子。5番のキングラナークも控えました4番ビクトリアシチーと6番ロングイチーが先頭に立ちました。第3コーナーに入りまして先頭はこの2人になりますビクトリアシチーとロングイチー》

 

 

《プレストウコウは中団、カシュウチカラは最後方いつもの位置につけていますね。この位置をキープしていきたいところ》

 

 

《レースは1周目の第3コーナーの下りに入りました。先頭を走るのは4番ビクトリアシチーそこから1バ身離れて2番手に6番ロングイチー。その後ろは3人のウマ娘が固まっております。3番手にキングラナーク4番手に7番トウカンタケシバ、そして5番手にグリーングラスがつけています。1番人気グリーングラスはこの位置だ。3番手から5番手にはほとんど差がありません》

 

 

《グリーングラスは内をついていますね。このまま内を通っていきたいところ。しかし他のウマ娘も内を走る彼女の怖さをよーく知っております》

 

 

 

 

 春の天皇賞が始まった。私達は今グラスさんのレースを見ている。

 グラスさんは最初こそ先頭に立ったものの、外から他の子が上がってくるのを見て即座に抑えた。今は5番手の位置にいる。好位置につけることができていた。

 ボーイさんが呟く。

 

 

「内側……枠番のおかげもあるだろうけど、内に入ることができたな」

 

 

「はい。ですがまだ序盤も序盤です」

 

 

「そうですね。ですが有利に運ぶことができるのは確かです。頑張ってください……グリーングラス様!」

 

 

 声こそ出していないが、テンポイントさんもジッとグラスさんのいる位置を見つめている。無言の応援だろう。私はそう感じた。

 そして先頭は第3コーナーから第4コーナーへと入る。ここで、思わぬ事態が発生した。プレストウコウさんの走りが突如として乱れ始めたのだ。そのことに京都レース場は騒然となる。そして、プレストウコウさんは第4コーナーの生垣を越えて直線に入ろうかというところで外へ外へと進路を取る。

 

 

 

 

《……さぁ先頭は4番ビクトリアシチーがペースを握ります。第4コーナーの生垣を越えて直線に入ろうかというところ。2番手は2バ身離れて6番ロングイチー、2番手から少し離れて3人のウマ娘が集団を形成しています3番手は真ん中キングラナーク4番手は外にトウカンタケシバ、5番手にグリーングラスはいつも通り内をついて走っています。グリーングラスの後ろに14番ハッコウオーが控えています。中団にはプレストウコウ2番人気プレストウコウはこの位置にいますが、あぁっと!どうしたことか!プレストウコウ突如として走りが乱れたぞ!プレストウコウ最早走りというよりは競歩に近くなっている!》

 

 

 

 

 私は思わず悲鳴を上げそうになった。もしかして、故障?そう思ってしまったから。しかし、テンポイントさんの呟きが聞こえる。

 

 

「……脚、っちゅうよりは靴」

 

 

「え?どういうことですか?」

 

 

 私の質問に、テンポイントさんはメモ帳を取り出して書き始める。そして、書き終わったメモを私に見せてきた。それをボーイさんとクインさんも覗き込む。

 

 

【靴、蹄鉄が取れかかってる。あれじゃ上手く走れない】

 

 

 靴。そう言われて私はプレストウコウさんの足元に注目した。

 ……本当だ。よく見ると蹄鉄が外れかけていた。何とか走れはするものの、あのまま走っていたら蹄鉄はいずれ外れるだろう。そうなったら大惨事に繋がる可能性がある。

 実際、プレストウコウさんもそれに気づいてか外の方に進路を取っている。万が一の事故を起こさないようにするためだろう。

 しかし、この大一番で蹄鉄が外れかけるとは……。メンテナンスはしっかり行っているだろうし、不幸な事故と言えばそれまでだ。でも……。

 

 

「なんというか、本当に不憫ですね……プレストウコウさん」

 

 

「何もこんな大一番で外れなくてもな……」

 

 

「な、なんとも言えませんね……」

 

 

 ボーイさんとクインさんも、憐れむような目で外へと進路を取るプレストウコウさんを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春の天皇賞が始まった。私は最初こそ先頭に立ったが、外から上がってくる2人のウマ娘の姿を確認するとすぐに抑えて走る。

 

 

(私はペースを握って走るのはあんまり得意じゃない……。だから誰かが行ってくれると助かったんだけど……)

 

 

 あの2人が先頭に立って争っている。今回のレースのペースメイカーになるだろう。ひとまず安心する。今回のバ場は稍重。重バ場程ではないとはいえ力がいるレースになるだろう。

 第3コーナーの下りに入る。私は先頭集団につけていた。しかも絶好の最内に。外に2人、トウカンタケシバちゃんとキングラナークちゃんがいる。後ろにも何人か控えているだろう。気配を感じた。

 そして第3コーナーから第4コーナーを回ろうかというところ。突如として後ろから悲鳴のような声が上がる。

 

 

「え!?嘘、なんでぇぇぇぇ!?」

 

 

 ……この声は、プレスちゃんだろうか?何かアクシデントでも起きたのか?ただ今はレース中、自分のことに集中する。

 この時点で私は5番手の位置。ただ2番手から5番手はほとんど差がない。先頭を走るビクトリアシチーちゃんが離れて走っているくらいだ。

 

 

(さて、このまま内を走れれば万々歳なんだけど……)

 

 

 そう上手くはいかないだろう。それがレースというものだ。そう考えながら私は内ラチ沿いを走る。

 そして第4コーナーの生垣を越えて直線へと入る。その時また後ろからプレスちゃんの悲鳴が聞こえた。

 

 

「何もこんな時に外れなくてもー!ちゃんとメンテはしたのに何で外れるの~!?」

 

 

 その悲鳴に気を取られて、というわけではないが後ろの状態を確認するために視線を向ける。プレスちゃんが外へ外へと進路を取っているのが少しだけ確認できた。

 ……というか、プレスちゃんは最早走りというより競歩に近い状態だ。一体何があったのだろうか?他人の心配をしている場合じゃないのだが、思わず気になってしまう。

 そして、またプレスちゃんの悲痛な叫びが聞こえてくる。

 

 

「もー!このレース終わったらトレーナーに文句言ってやるー!蹄鉄が外れかけるなんてー!」

 

 

 そんなことを言いながら、レースから脱落していった。あれじゃあ近いうちに競争中止になるだろう。

 ……この大一番で蹄鉄が外れかけるとは。しかもプレスちゃんの話を信じるならメンテナンスはちゃんとしていたらしい。それでも外れた。つまるところ不幸な事故というやつだろう。ただ……。

 

 

(同情したくなるくらい不憫な子だ……)

 

 

 そう思ったが、すぐにその考えを捨てる。同情するのはレースが終わってからでもいいだろう。今はただこのレース、天皇賞に意識を集中させなければ。私は考えを改める。

 今は直線に入ったところ。今は先頭を走っているビクトリアシチーちゃんも抑えたのかほぼ団子状態で密集している。私は完全に内に閉じ込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《……各ウマ娘が1周目の正面スタンド前に入ってきました!しかしアクシデントが発生したプレストウコウは外で他のウマ娘の進路を妨げないように大外を走っています!》

 

 

《よ~く見てみると、彼女の靴の蹄鉄が外れかかっていますね。あのまま走り続けると大惨事になるでしょう。それを受けての大外への進路取りですね》

 

 

《この大一番で不幸な事故が発生ですプレストウコウ!2番人気プレストウコウに大アクシデント!しかしレースは続いております先頭を走っているのはどのウマ娘か?先頭を走っているのは6番ロングイチー外から14番ハッコウオーが続いております間にキングラナークこの3人が先頭を走っております。その後ろには7番トウカンタケシバ4番ビクトリアシチーがおります。3番グリーングラスは内で抑えて走っている。彼女にとっての好位置につけているぞ!》

 

 

 

 

 アクシデントはあったものの、それでレースは止まらない。ひとまず大きな事故に繋がらなかったこと、プレストウコウさんが故障したわけじゃないということに私は安堵する。

 安心したところで、私はグラスさんの位置を見る。内ラチ沿い、彼女にとってのベストポジション。そこをキープしていた。

 

 

 

 

《さぁ先頭集団は第1コーナーへと入っていきます!先頭は5番キングラナークと14番ハッコウオーこの2人が先頭で入りました。そこから3バ身ほど離れた位置にロングイチーとトウカンタケシバが内から行きます。その後ろは中団から上がってきた11番カミノカチドキとビクトリアシチー、そしてグリーングラスと続きます!》

 

 

 

 

 春の天皇賞、勝負は第1コーナーへと入っていく。




なんでしょう……。史実を見るとプレストウコウって本当に不憫な子だなって(実際には鞍ズレで競争中止。鞍はないので今回は蹄鉄が外れかかっていることに)。
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