ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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春の天皇賞続き回


閑話18 ただ冷静に

《さぁ先頭集団は第1コーナーへと入っていきます!先頭は5番キングラナークと14番ハッコウオーこの2人が先頭で入りました。そこから3バ身ほど離れた位置にロングイチーとトウカンタケシバが内から行きます。その後ろは中団から上がってきた11番カミノカチドキとビクトリアシチー、そしてグリーングラスと続きます!》

 

 

《前から後ろまでほとんど差がなく団子状態となっていますが、最後方プレストウコウは大きく離されていますね。蹄鉄が外れかけるというアクシデントによりプレストウコウが最後方です》

 

 

《思わず同情しそうになりますが手を抜くわけにはいかないのが勝負の世界。グリーングラスに続くのは12番トウフクセダンここは1つのグループを形成しております16番カシュウチカラ2番ヒシノブルーム10番ジンクエイトが集団を形成している3番人気カシュウチカラはこの位置だ》

 

 

 

 

 京都レース場の第9レース春の天皇賞。2番人気だったプレストウコウさんの蹄鉄が外れそうになるというアクシデントこそあったものの、それ以外はつつがなく進んでいた。今は第1コーナーを越えて第2コーナーに入ろうかというところ、グラスさんは変わらず5番手ぐらいの位置にいる。

 私達はレースを見守る。

 

 

 

 

《先頭は早くも第2コーナーを抜けて向こう正面へと入ります。先頭はキングラナークとハッコウオーこの2人が競り合う形。そこから徐々に差を詰めていっておりますロングイチーとトウカンタケシバ。そこからさらにカミノカチドキ、ビクトリアシチーそしてグリーングラスと続いております》

 

 

《最後方プレストウコウは今完全に競争を中止しようとしていますね。さすがにこれ以上は無理だと判断したか》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第1コーナーを回り終わって、第2コーナーに差し掛かる場面。そこそこ密集していた状態から少しずつバラけ始める。私は今中団辺りの位置だろうか?なんにせよ、まだ焦るような時間じゃない。

 周りを確認していると、後ろからの圧を感じる。この圧、視線の主は、多分カシュウちゃんだ。おそらく、プレスちゃんが早々に離脱したことから私1人にターゲットを絞ったのだろう。此方を射抜くような視線を背中に感じていた。カシュウちゃんだけじゃない。レースが始まった時から、私をマークするかのように視線を向けられていた。

 私は笑みを零しそうになる。思えば、自分がマークされることなんてほとんどなかった。大レースではボーイちゃんかテンちゃんのどっちかが出走していたため、ほとんどの子たちはそっちをマークしていた。私も一応マークされていたが、2人のおまけ程度だ。こちらを射抜かんばかりのマークなどされたことはなかったし、これだけの大人数からマークされることもあまりなかった。

 

 

(これが注目されるってことか~あんまり悪い気分じゃないね~)

 

 

 私のレースの展開上、注目されない方が嬉しいのだがそれはそれ、これはこれだ。それだけ自分の実力が認められたような気がして、少し嬉しくなる。

 ただ、今は勝負の最中。気を抜くわけにはいかない。すぐに頭を切り替えてレースに集中する。前を走っている4人。先頭集団をどう抜くかを考える。

 

 

(……レースの展開的には少し早い。多分だけど、先頭を取った子たちは前で走ることに慣れていない、もしくは逃げの子たちがいないからペース配分が分からない、って感じかな?とにもかくにもそこまで驚異じゃない)

 

 

 私はそう判断する。ならば、今はまだこの位置で控えさせてもらおう。幸いなことに内側のバ場はそこまで荒れていなかった。

 有マ記念のように滅茶苦茶に荒れていたら勘弁だが、これぐらいだったら問題ない。私は内を走りながらこの後のことを考える。

 

 

(前で走る子たちは問題ない。なら後考えるべきは私と同じ差しや追い込みの子たち。特に、カシュウちゃんは要注意だね。多分だけど、私が仕掛けたら向こうも仕掛けてくる)

 

 

 他にも警戒すべき子はいるだろうが、要注意なのはカシュウちゃんだろう。後ろからの追い上げは脅威的だ。それに、

 

 

(4敗もしてるし)

 

 

言ってて悲しくなったが事実は事実なので受け止めるしかない。

 レースは向こう正面に入っている。前を走る子たちに大きな動きはない。ペースを維持して走っていた。

 ……そろそろ仕掛けるか。そう思い、私は少しだけペースを上げ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《各ウマ娘向こう正面へと入りました。先頭は5番キングラナークそこから半バ身離れまして14番ハッコウオーが2番手だ。そこから1バ身半ぐらい離れてロングイチーとトウカンタケシバこの2人が競り合っている。その後ろ5番手の位置にグリーングラスが追走しております1番人気グリーングラスはこの位置だ》

 

 

《グリーングラスは今日も内側を気持ちよさそうに走っていますね。好位置につけていますグリーングラス》

 

 

《そこから差はなくカミノカチドキ、ジンクエイト、カシュウチカラ、トウフクセダンこの4人が固まっております。グリーングラスも加えてこの5人が中団を形成する形。そこから2バ身、いや3バ身程離れた位置にビクトリアシチーはここまで下がりました序盤先頭を走っておりましたビクトリアシチーは現在この位置。ヒシノブルームとスリークルトと一緒に1つの集団を形成しています。しんがりは13番のベルと15番ハシコトブキとなっております》

 

 

《カシュウチカラはグリーングラスをマークする形を取っていますね。彼女の後方から機会を窺っております》

 

 

 

 

 実況を聞きながら私はレースを見守る。内の好位置につけているグラスさんは問題なさそうに走っている。順調そのものだ。後は……。

 

 

「京都の坂、だな」

 

 

「ですね。1周目でも登ったあの坂をもう一度上る。体力も削られますし、何より気持ち的にも辛いものがあるでしょう」

 

 

「ですが、グリーングラス様ならばスタミナは問題ないでしょう。あのお方が苦にしているところなど見たことがありませんので」

 

 

 クインさんの言葉を私は否定する。

 

 

「いえ、一度だけありましたよ。スタミナを苦にした時」

 

 

「え?どのレースのことでしょうか?」

 

 

「……あー、うん。アレだな」

 

 

 ボーイさんは心当たりがあるのか、というか当事者だからかバツが悪そうに頬を掻く。そして、ボーイさんの姿を見てクインさんも察しがついたのだろう。合点がいったような表情をしている。

 私は苦笑いをしながら続ける。

 

 

「まあ、あの時とは条件が全然違いますしスタミナ的な問題はないでしょう」

 

 

「だな。競り合ってもいないし、冷静にレースを見ている。あの時みてぇなことにはならねぇだろ」

 

 

 ふとテンポイントさんの方を見ると、なにやらメモを書いていた。そして、書いたメモを渡してくる。

 

 

【カシュウが不気味。ずっとグラスをマークしてる】

 

 

「……そうですね。プレストウコウさんがいない今、カシュウさんにとって警戒すべき相手はグラスさんただ1人でしょう」

 

 

「グリーングラス様が仕掛けた時が、カシュウチカラ様が動く時」

 

 

「普段とは立場が違うってことだな、グラス」

 

 

 レースを見ていると、グラスさんが仕掛けたようにペースを速める。向こう正面中ほど。少しずつペースを上げていき、第3コーナーに入ろうかというところ。先頭に立とうとしていた。

 

 

 

 

《……向こう正面も中ほどを過ぎましてもう少しで第3コーナーの坂へと差し掛かろうかというところ!1周目でも上ったこの坂をもう一度上ることになります!ウマ娘達は向こう正面に入ってからほとんど団子状態だ前から後ろまでほとんど差がありません、そんな中先頭を走っているのは5番のキングラナークだ。しかしトウカンタケシバとロングイチーもキングラナークを捉えているぞ!グリーングラスも内から上がってきている!》

 

 

《グリーングラスが仕掛けるように動きましたね。ロングスパートを仕掛けるか?》

 

 

《そして第3コーナーに入りました。第3コーナーの上りに入ってグリーングラスが内から上がって先頭に立ちました!先頭はグリーングラス内からスーッと上がっていきますグリーングラス!ロングイチーとトウカンタケシバも加えて3人の競り合いになるか?いや、キングラナークも粘っている4人の競り合いとなるか?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 向こう正面も半分を過ぎた。私は徐々にペースを上げていっている。

 

 

(この調子なら、第3コーナー入る頃には先頭に立てそうかな?)

 

 

 第3コーナーというと、前回の秋の天皇賞を思い出す。ムキになってボーイちゃんと競り合い、自滅してしまったあのレース。

 

 

(……変なこと思い出しちゃった)

 

 

 走っている状況じゃなければ、間違いなく溜息を零していた。

 まあ、あの時とは状況が何もかも違う。ムキになって競り合ってはいないし、何よりスタミナも脚も十分にある。このままロングスパートでそのまま行けるだろう。

 そして迎えた第3コーナー。1周目でも登った坂をもう一度上り始める。その時私は先頭に立った。

 

 

(やっぱり慣れるもんじゃないね、この坂!)

 

 

 前回の春の天皇賞、菊花賞でも上っているが、やはりキツい。そう思いながらも脚を動かして坂を上る。

 そんな時、背中から突き刺すように感じていた視線が不意に消えた。あの視線の主はカシュウちゃんのはずだ。

 

 

(集団に埋もれたか、もしくは……)

 

 

 外へと進路を取って、私と同じように仕掛け始めたか。おそらく後者だろう。カシュウちゃんの実力を鑑みたら、その方が確率が高い。個人的には集団に埋もれていて欲しいのだが。

 だが、関係ない。私はこのレース絶対に勝つとテンちゃんに、そして自分自身に誓った。だからこそ、誰がこようとも。

 

 

(絶対に私が勝つ!)

 

 

 そう決意を固める。もうすぐ、第3コーナーの坂を上り終えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《第3コーナーの坂に入ってグリーングラスが先頭に立ちました!2番手ロングイチーに半バ身程さをつけております先頭グリーングラス!もう二度、上ってそして下った京都のこの坂であります!これを克服してこそグリーングラス、栄光の盾が近づくでしょう!》

 

 

《カシュウチカラは外の方へ進路を取りましたね。外から先頭に立とうとしてます》

 

 

《さぁ京都の坂を下り始めます先頭はグリーングラス!2番手は1バ身差でロングイチーだ!残り800の標識を通過したところでそこからさらに1バ身離れること3人のウマ娘が一団となっている!ロングイチーの外を回りましてトウカンタケシバとキングラナーク!間を抜けるようにカシュウチカラだ!カシュウチカラも上がってきている!3番人気カシュウチカラはこの位置だ!》

 

 

 

 

 第3コーナーの坂で先頭に立ったグラスさんはそのままペースを上げ続ける。会場の熱気もどんどん上がってきているのを肌で感じている。

 ボーイさんが大声でグラスさんを応援している。

 

 

「いけー!グラスー!そのまま突っ切れー!」

 

 

 私とクインさんも同様に応援の声を飛ばしていた。声を出すわけにはいかないテンポイントさんは、ただジッとレースを見ている。神藤さんも同様だ。

 そして第3コーナーの下りに入る。先頭は依然としてグラスさん。しかし、その外から急襲するように1人のウマ娘が走ってきていた。

 カシュウさんだ。待ってましたと言わんばかりに、グラスさんの外から猛然と追い上げてきている。ボーイさんがやっぱりか、と言い続ける。

 

 

「やっぱそう簡単に勝たしてくれねぇよな!」

 

 

「カシュウチカラ様がどんどんグリーングラス様に迫ってきております……ッ!頑張ってください、グリーングラス様!」

 

 

 テンポイントさんは膝の上で手を握っていた。力を込めているのが分かる。応援の声が聞こえてきそうだった。

 

 

 

 

《第3コーナーから第4コーナーへ入ろうかというところ!先頭はグリーングラスそしてカシュウチカラだ!先頭はグリーングラスとカシュウチカラこの2人の競り合いとなっている!しかし後ろの子たちもほとんど差は開いておりません!十分に差し切れるチャンスはあります!果たしてグリーングラスは逃げ切ることができるか!?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 京都の坂を下り、第4コーナーへと向かっている途中。それは突然やってきた。

 

 

「えぇ!やはりこうなると思っていましたとも!レース前ぶりですね、グラスさん!」

 

 

 外から急襲するようにカシュウちゃんがやってきた。やはり、あの時不意に視線が消えたのは外に進路を取ったかららしい。読みが当たっていたことに内心舌打ちする。

 

 

「お喋りなんて随分余裕だね!」

 

 

「余裕はありませんよ!ただ、こうして宣戦布告だけはやっておこうかなと!」

 

 

 そのままカシュウちゃんは続ける。

 

 

「私は負けません!春の盾を賜るのは私です!」

 

 

 私とカシュウちゃんの競り合いは続く。カシュウちゃんの言葉に、私も言い返しそうになるが、すんでのところで思いとどまる。脳裏に浮かんだのは、秋の天皇賞で負けた時に沖野トレーナーから投げかけられた言葉。私の敵は自分自身、自制する心を身に着ければ、私は誰にも負けない。

 

 

(思わずカッとなっちゃうところだったね。無理に競り合うようなことだけはしない。向こうから競り合ってくる分には大丈夫だけど、あくまで自分のペースを崩さないようにしないと)

 

 

 ただ、これくらいなら言い返してもいいだろう。冷静になった頭で私はカシュウちゃんに宣戦布告をする。

 

 

「……上等だ。勝つのは私だ!」

 

 

 私は内からスピードを上げ続ける。第4コーナーへと入っていった。




次回、春の天皇賞決着。
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