ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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最強とは何かを探す回


第109話 最強の定義

 春の天皇賞が終わってから時間が経ち、今は5月の半ば。俺は今病院でテンポイントのリハビリを見ている。

 テンポイントの左足は今まで体重を少しだけかけるのが限界だった。しかし、グリーングラスの春の天皇賞が終わってからというものの、著しい進歩を見せた。俺は驚きと喜びを感じながら目の前の光景を見ている。

 

 

「……フーッ!ぐっ……!もう、ちょい……ッ!まだ……、まだ、行ける……ッ!」

 

 

「……ッ」

 

 

 医者の先生も俺と同じ気持ちなのか、ここ数日は驚きに満ちた表情でテンポイントのリハビリの様子を見ていた。

 今まで体重をかけるだけが限界だった左足。それが今では少しではあるものの歩行することが可能になった。しかも、その歩行できる距離は日増しに伸びてきている。これまでのリハビリは時折停滞していることもざらだったが、その停滞もなかった。順調そのものである。

 

 

(これなら……!)

 

 

 近いうちに完治する。俺はそう感じ、内心喜んでいた。

 リハビリ開始から2時間ほど。先生からストップがかけられる。

 

 

「そこまでです。今日はここまでにしましょうテンポイントさん」

 

 

 テンポイントは肩で息をしながら答える。

 

 

「ハァ、ハァ。分かりました。今日も、おおきにです、先生」

 

 

 俺はテンポイントを車椅子に乗せ、病室まで運んでいく。

 病室に戻った後、先生からの経過報告が入る。その声は心なしか弾んでいた。

 

 

「テンポイントさんの脚の状態ですが……著しい回復を見せております。それはこれまでのリハビリで分かっていると思いますが」

 

 

「そうですね。少し前までは体重をかけるだけでも精一杯だったのに、今では……」

 

 

「はい。歩行も可能になるほどに回復しています。加えて、その歩行の距離は日に日に伸びています。このスピードが続けば……。これはもう、疑いようもないでしょう」

 

 

「……っちゅうことはつまり!?」

 

 

 テンポイントが喜びを隠せないのか、興奮気味に先生に問い詰める。先生は笑みを浮かべて答えた。

 

 

「はい。後一月もあれば退院は可能かと」

 

 

「……~~ッ!やっっったぁ!」

 

 

 テンポイントは両手を上げて喜んでいた。それほどまでに嬉しいのだろう。俺も、表にこそ出していないが今すぐにでもテンポイントと同じように喜びを爆発させたかった。

 先生は微笑まし気にテンポイントを見ていたが、すぐに表情を引き締めて今後のことを話し始める。

 

 

「それでは、今後のことを話しましょう。最初に元のように走れる可能性は数パーセント……という話はしましたね?そしてその可能性も徐々に上がってきていると」

 

 

「はい。それは今回のリハビリでも上がってきていると?」

 

 

 俺の質問に先生は頷く。

 

 

「そうですね。そもそも元のように走れなくなる原因として骨折した時の記憶がフラッシュバックして走れなくなることが主な原因になります。いわば、心的外傷……トラウマというものですね。リハビリで徐々に可能性が上がってきているのは、テンポイントさんの気持ちがそれだけ強くなってきているということです」

 

 

「つまり、今までのリハビリも……?」

 

 

「はい。何割かはトラウマを乗り越えるためのものでした。普通のリハビリを行うよりも、辛いリハビリを乗り越えた方がトラウマを乗り越えるハードルは低くなりますので。それに医者としてこういうことを言うのは良くありませんが、病は気からとも言います。気持ちが前を向けば向くほど、それだけ治りは早くなります」

 

 

「まぁ、こんだけ頑張ったっちゅう体験があったら確かにハードルは低くなりますね」

 

 

「そうなります。まあほとんどの理由はそれだけ怪我の具合が酷かった……というのがありますが」

 

 

 先生は苦笑い気味に告げた。そのままこちらを元気づけるように続ける。

 

 

「テンポイントさん。あと少しです。共に頑張っていきましょう!」

 

 

「はい!最後までよろしゅうお願いします!」

 

 

 その言葉に満足げな表情を浮かべた後、先生は退室した。

 先生が退室した後、俺達はハイタッチをして喜びを表す。テンポイントの表情は笑顔だった。俺も同じような表情をしているだろう。

 

 

「やったな、テンポイント!ついにここまで来たぞ!」

 

 

「ホンマや!後もう少し、後もう少しで走れるようになる!年内復帰も夢やないで!」

 

 

 その後は2人してテンションを高くしながら今後のことを話し合った。

 

 

「まず退院したら何したろうかなぁ。アカン、やりたいことがたくさんありすぎて迷うわ」

 

 

「ま、好きなだけ考えとけ。できる限り俺も叶えてやるよ」

 

 

「ホンマか?まぁまずは前みたいに走るんが最優先事項やけどな」

 

 

「そうだな。退院は早くて1ヶ月後って言ってたし、夏合宿には間に合うだろ」

 

 

「また去年の場所でやるんか?」

 

 

「一応その予定だ。練習メニューも特に変えるつもりはない」

 

 

「またあの旅館に泊まれるんかぁ。部屋も広いし、温泉も最高やったし、今から楽しみやな!」

 

 

「一応合宿だからな?それは忘れるなよ?」

 

 

「大丈夫や。ちゃんと分かっとるって」

 

 

 テンポイントは笑顔でそう答える。気に入ってくれたようで何よりだ。

 その後は終始他愛もない世間話をしながら、テンポイントが眠くなるまで話していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リハビリから明けて次の日、俺はトレーナー連中と一緒にご飯を食べている。ただ、俺のテンションは昨日のリハビリ後同様高めだ。

 そんな俺の様子を見たトレーナーの1人が興味が出てきたのか尋ねてくる。

 

 

「どうしたんだよ?神藤。今日は随分機嫌良さそうじゃねぇか」

 

 

「うん?あぁ、まぁな。滅茶苦茶嬉しいことがあってさ」

 

 

「へぇ?何があったんですか?」

 

 

「坂口、こいつで嬉しいことと言えばテンポイント絡み以外ねぇだろ?」

 

 

「あ、そうですよね。ごめんなさい」

 

 

「確かに今回はテンポイントが絡んでいるのは確かだけど、それ以外でも普通に嬉しいことぐらいあるわ!」

 

 

 実際には間違ってないので、あまり強く否定できないのは確かなのだが。そんな冗談交じりの会話をしながら食事を取る。

 そんな時、ふと俺はあることを思い出す。それはハイセイコーとの会話で出てきた最強のウマ娘について。

 

 

(そういや、他のみんなはどうなんだろうな?)

 

 

 少し興味が出てきた俺は今この場で会話しているトレーナー達に話題として切り出すことにした。

 

 

「なぁお前ら、ちょっといいか?」

 

 

「どうした?」

 

 

「俺達に答えられる範囲なら構わねぇぞ」

 

 

「まあ他愛もないことだよ。お前らが思う最強のウマ娘ってどの子なんだ?」

 

 

 俺がそう尋ねると、トレーナーの1人は自信満々に答える。

 

 

「そりゃやっぱシンザンだろ!2人目の3冠ウマ娘に加えて19戦15勝の連帯率100%!特にトゥインクルシリーズのラストランである有マ記念は忘れられないね!」

 

 

 その言葉に別のトレーナーが異議を唱える。

 

 

「待て待て。3冠ウマ娘って括りだったら1人目の3冠ウマ娘であるセントライトだろ。やっぱ初代3冠ウマ娘は特別な格ってもんがあるよな。勝ちレースも印象深い勝ち方してるのが多いし」

 

 

「3冠って括りならダービー・オークス・菊花賞の変則3冠のクリフジだって負けてねぇぜ!特にダービーは圧巻だったからな!しかも負けなし!」

 

 

「俺はタニノムーティエかなぁ。3冠は逃したけど、体調が万全だったら3冠は確実だっただろ。レースにたられば語っても仕方ないけどさ」

 

 

「う~ん……僕はクラシック級で初めて海外に行ったタケシバオーでしょうか。あれほどタフなウマ娘はそうはいませんよ」

 

 

 何の気なしに尋ねてみたことだが、思いの外白熱した様子を見せていた。食事そっちのけで盛り上がっている。提案しといてあれだが、ここまで白熱するとは思わなかったので俺は少し苦笑い気味になる。

 だが、さすがに時間というものがあるので程々のところで終わった。意見はバラバラだったが、見なたのしそうに語っていたのでそれは良かったかもしれない。

 食事を取り終わり、仕事に戻ろうとしたところ廊下である人物とすれ違う。

 

 

「おや、神藤さん。暇そうにしてますね」

 

 

「こんにちは時田さん。別に暇じゃありませんよ。昼食取り終わって帰ってきただけです」

 

 

 時田さんだった。俺は挨拶をする。

 そうだ。時田さんにも聞いてみよう。教えてくれるとは思わないが、聞くだけタダだ。そう思い尋ねる。

 

 

「そうだ時田さん。時田さんが思う最強のウマ娘って誰ですか?」

 

 

「なんです?藪から棒に」

 

 

「別に。ただの質問ですよ。深い意図はありません」

 

 

 俺の言葉に、時田さんは溜息を吐いて答える。

 

 

「……まず言えることは、最強についても色々と定義があるでしょう。実績という点であれば3冠ウマ娘が最初に浮かびますし、負けなかったという点に限ればまた別の子が出てきます。レコードを出した数でも違う子が出ますし、一概に最強と言っても色々な形がありますよ」

 

 

「知ってますよそれは。それを踏まえた上で時田さんが思う最強のウマ娘は誰なんですか?」

 

 

「そうですね……」

 

 

 少し考える素振りを見せた後、時田さんは答える。

 

 

「……ポテンシャルという面で言えば、今私が担当しているエリモジョージですね。彼女の強さは底が見えません。特に前回の鳴尾記念は圧倒的な強さを見せました。今でも記憶に残っていますよ。もっとも」

 

 

「……あの気まぐれさえなければ……ですか?」

 

 

「その通りですよ……。次走の宝塚記念もどうなることやら……」

 

 

 時田さんは頭を痛そうに抱える。気持ちは分からんでもない。

 あまり引き留めるのも悪いので、それだけ聞いて俺は時田さんと別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、沖野さんやおハナさんにも聞いてみたが帰ってきた答えは先程とは違うウマ娘だった。やはり人によって思い描く最強のウマ娘は違うものらしい。俺は再認識した。

 となると、俺本人が思い描く最強のウマ娘。俺は何を思ってテンポイントを最強だと思っているのか?そう考える。

 

 

(う~ん……。実績……ではないし、レコードもそんなに出してるわけじゃない。レコードだったらトウショウボーイの方が出してるしな。悔しいけど)

 

 

 なんだか、考えれば考えるほどドツボにハマりそうだったので最初から思い出してみることにした。テンポイントを最初見た時に感じたこと。それを思い出す。

 ……今にして思えば、自分はトレーナーとしてあまりにも無知だったことを思い出す。最有力ウマ娘と言われていたテンポイントのことは勿論知らなかったし、後から聞いた話だとあの日の選抜レースにはグリーングラスも出走していたらしい。沖野さんの話である。

 あの日見たテンポイントの走り。太陽に照らされて輝く金色の髪を靡かせ、自分の身体以上に大きく見せる走り。それでいて、不格好には見えない完璧なフォーム。その姿に思わず見惚れてしまったことを思い出し苦笑いする。

 思えば、レースの世界に全然興味を持っていなかった俺が今こうしてトレーナーをやっていけてるのは、あの日テンポイントの走りを見たからだろう。もし見ていなかったら、こうして他のトレーナーと交流することもなかったかもしれないし、沖野さんやおハナさんともトレーナーとして親しくすることもなかったかもしれない。

 少し思考がズレたが、軌道を修正してテンポイントの今までのレースについて思い出していく。圧倒的強さを見せ、レコードタイムで駆け抜けたメイクデビュー。クラシックの大本命候補と言われた5連勝目のスプリングステークス。初めての敗北となった皐月賞。悔しい思いをさせてしまったクラシック級での有マ記念。今までの雪辱を晴らした春の天皇賞。俺の不甲斐なさが原因で一度折れてしまった宝塚記念。今までの戦法を変えて快勝した京都大賞典。トウショウボーイとの2500mのマッチレースを制した有マ記念。そのどれもが昨日のように思い出せる。それぐらい俺の記憶に残っていた。

 

 

(……あ、そうか)

 

 

 そこまで考えて、俺は気づく。どうしてテンポイントを最強だと思っているのか?何を思ってテンポイントを最強だと感じたのか?その答えに。

 思えば簡単なことだった。深く考える必要はない、答えは凄くシンプルだった。思わず苦笑いをしつつ呟く。

 

 

「マジで簡単なことだったな……。ま、答えは見つかったか」

 

 

 俺はそう呟いて仕事へと戻る。今日はテンポイントと何を話そうか?そんなことを考えながら足取り軽く仕事へと戻った。




声優さんはやっぱすごいですね(今日のウマゆるを見た感想)。
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